■ 今後の後期中等教育のあり方について(答申) 平成14年5月14日 大阪府学校教育審議会
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今後の後期中等教育のあり方について
生徒のニーズの変化等を踏まえた府立高等学校の全日
制の課程及び定時制の課程等の今後のあり方について
(答 申)
平成14年5月14日
大阪府学校教育審議会
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平成14年5月14日
大阪府教育委員会
委員長 熊 谷 信 昭 様
大阪府学校教育審議会
会長 友 田 正
今後の後期中等教育のあり方について(答申)
本審議会は、平成13年1月に大阪府教育委員会から「今後の後期中等教育のあり方について」諮問を受け、「生徒のニーズの変化等を踏まえた府立高等学校の全日制の課程及び定時制の課程等の今後のあり方について」を審議テーマとして審議を進め、平成13年7月に中間答申を行ったところです。その後、さらに、定時制課程専門部会を設けるなど、慎重な審議を重ねた結果、ここに答申を得たので報告します。
目 次
はじめに
第T章 府立高等学校の入学者の現状と課題
1 公立中学校卒業者の進路選択の現状と課題
2 公立高等学校の入学状況と課題
3 府立高等学校在籍者の現状と課題
第U章 後期中等教育機関としての高等学校に対する多様なニーズ
1 就学機会に対するニーズ
2 高等学校の教育内容についてのニーズ
3 高等学校卒業後の進路についてのニーズ
第V章 就学機会の確保のあり方について
1 就学機会の確保のあり方
2 多様な教育システム・教育内容の必要性
第W章 定時制の課程のあり方
1 定時制の課程の現状
2 今後の夜間定時制の課程のあり方
資料
は じ め に
府内公立中学校卒業者数は昭和62年に約14万8千人のピークに達した後、減少に転じ、平成13年にはピーク時の約54%に相当する約8万人となっている(資料1)。
これら公立中学校卒業者の主な進路先である高等学校全日制の課程への受け入れについては、生徒急増期を迎えた昭和53年に大阪府公私立高等学校連絡協議会を設置し、進学希望に応えられるよう公立と私立が協調して就学機会の確保に当たってきた。具体的には、公立中学校卒業者のうち全日制の高等学校(高等専門学校を含む)で受け入れる割合を定めた「計画進学率」を策定し、増加する生徒数に見合った受け入れ枠をできる限り確保してきた(資料2)。
また、昭和63年以降の急減期においても、ピーク時の実績を基に受け入れ枠の公私比率を設定し、公私が協調して就学機会の確保に取り組んできた。平成8年度には、全日制の課程への進学希望の高まりに対応して、計画進学率を90.3%から92.3%に引き上げた。
現在、高等学校に入学してくる生徒の中には、進路や将来の生き方について目的意識を持てないまま何となく進学した生徒や、興味・関心ではなく成績のみを基準にして「入れる学校」を選択した生徒、さらには、小中学校段階で基礎的な学力が十分定着していない生徒や、基本的な生活習慣を身につけていない生徒も少なからず見受けられる。
そういった生徒に対して、高等学校では様々な努力を重ねてきたが、いまなお「進路変更」や「学業不適応」などの理由による中途退学者も多く抜本的な解決方策が必要とされている。
また、定時制の課程は、元来、勤労青少年に対する後期中等教育の保障を目的に設置されたが、技術革新や産業構造の変化、経済水準の上昇、高学歴志向の高まりの中、生徒や保護者の全日制の課程への進学希望が上昇したことに伴い、働きながら学ぶ生徒が激減するなど、設置当時とは就学している生徒の実態が大きく変化してきている。
府教育委員会では、平成11年4月「教育改革プログラム」を作成し、生徒減少期を教育環境・教育条件などの教育の質的向上を図る好機と捉え、府立高等学校の特色づくりと合わせて適正な配置を推進する観点から全日制の課程の高等学校について、現在の計画進学率を前提として再編整備計画をスタートさせたところである。しかし、今後の府立高等学校の就学機会の確保のあり方を検討するに当たっては、全日制の課程だけではなく、定時制、通信制の課程をも含めた議論が必要である。さらに、受け入れ枠のあり方の議論に際しては、多様な生徒の実態に見合った授業形態や教育内容等をどのように提供するのかについても検討することが必要である。高等学校は中学校卒業者のほとんどが進学する国民的教育機関と化しており、子どもたちにとって、大切な学習の場であるとともに生活の場ともなっている。
このような実態を踏まえ、本審議会では、まず、社会の変化、生徒や保護者の意識の変化など様々な変化に対応した後期中等教育のあり方について、府立高等学校を中心に審議し、就学機会の確保のあり方及び多様な教育システム・教育内容の必要性について、平成13年7月に中間答申を行うとともに、教育委員会に対し、中間答申の趣旨を踏まえ、課題解決が急がれる事項について、早急に検討に着手することを要望した。併せて、柔軟なシステムを備えた昼間の高等学校の設置の検討に際しては、夜間の定時制の課程の今日的役割及びこれを踏まえた配置のあり方について、抜本的見直しをする必要があることから、その審議を定時制課程専門部会に付託することとした。
その後、専門部会において、平成13年9月以降、慎重な審議が重ねられ、本審議会に対し審議の報告があった。これを受け検討を加えた上で、中間答申の「第T章 府立高等学校の入学者の現状と課題」、「第U章 後期中等教育機関としての高等学校に対する多様なニーズ」、「第V章 就学機会の確保のあり方について」に「第W章 定時制の課程のあり方」を追補し、ここに答申をとりまとめた。
今後、教育委員会においては、提言した施策を着実に実施に移すことを望むものである。
第T章 府立高等学校の入学者の現状と課題
1 公立中学校卒業者の進路選択の現状と課題
公私合わせた全日制の課程への進学希望者は、ここ数年12月段階の調査では95%程度で推移しているが、計画進学率が92.3%に設定されていること、また、一部の高等学校で募集人員に満たないという状況があることから実際の進学者は92%弱となっている(資料3)。一方、定時制の課程や通信制の課程への入学者については、アンケート調査(平成13年3月末現在における公立中学校卒業者の約1割抽出による進路状況調査)によれば、定時制の課程では入学者の約60%、通信制の課程では入学者の約25%に相当する者が全日制の課程を受験している(資料4)。
2 公立高等学校の入学状況と課題
(1) 全日制の課程への受け入れ枠を定めた計画進学率は、平成8年度にそれまでの90.3%から92.3%に引き上げられたが、公立高等学校(府立高等学校と市立高等学校を含め公立高等学校としている。以下同様)全日制の課程への進学希望は一層強まり、普通科の場合の平均志願倍率は、平成3年度の1.07倍から平成13年度の1.18倍へと上昇してきている。しかし一方では、募集人員どおりに志願者が集まらない公立高等学校も毎年数校ではあるが存在する(資料5−1)。
(2) 公立高等学校の定時制の課程では、かつては1.5倍を超える状況にあった平均志願倍率はその後低下し続け、平成3年度には0.5倍を切るまでになった。それ以降は増加傾向にあり、平成13年度には0.88倍まで上昇した。しかし、その倍率は依然として1倍を切っており(資料5−2)、募集人員どおり志願者が集まらない高等学校は平成13年度でも38校49学科中24校35学科となっている。他方、単位制による昼間定時制の課程である高等学校への入学志願倍率は2倍を超え、全日制の課程と比べてもかなり高い状況となっている。
3 府立高等学校在籍者の現状と課題
(1) 高等学校には、生徒が目的意識をもって自ら選択した学校において努力し、充実した高校生活を送れるようにすることが求められる。しかし、現状では進学目的や卒業後の進路目標が定まらず漠然と高等学校へ進学した生徒が少なからずいる。また、「入りたい学校」を積極的に選択するのではなく、成績に見合った「入れる学校」を選択する傾向が依然として根強い。
さらに、高等学校には、基礎的な学力や基本的な生活習慣が身に付いていない生徒や、すべての生徒が定められた時間帯で同様の教育内容を学習するという従来の全日制の課程の枠組みになじめない生徒もおり、このことが学校を欠席したり、中途退学につながる一因となっていると考えられる。こういった生徒に対しては、教職員が生徒指導と学習指導の両面から学校への定着を図るための様々な努力を行っており、その結果、近年中途退学率は減少している。しかしながら、退学率が10%を超える府立高等学校が平成11年度で155校中10校ある(資料9)など、依然として課題は残されている。
(2) 全日制の課程へ進学した生徒が学校になじめなかったり、成績上の理由で他の公立高等学校への転学を希望する場合、現状では、同一学科間の転学先は定時制又は通信制の課程の学校に限られている。それに対して、入学後に別の学科に進路変更を希望する生徒に対しては、府立高等学校では全日制の課程の異なる学科間での転学に限りすでに制度化しているが、実際の転学者が毎年10人程度と少ないなど、この制度が必ずしも十分機能しているとは言えない(資料6)。
(3) 府立高等学校においては、現在教育改革プログラムに基づき、生徒一人ひとりの興味・関心、能力・適性、進路希望等に対応し、中学生が高等学校を幅広く選択することが可能となるよう、それぞれの学校で特色づくりの取組みが進められているが、その成果は未だ十分であるとは言い難い。
また、依然として知識注入に力点を置く指導や画一的な教育課程も多く見られる。それ故これからは、生徒の目的意識を引き出し、生徒が自分の適性や進路を見定めることができるよう、そのための教育を充実していくことが求められている。
(4) 夜間の定時制の課程においては、全日制の課程の高等学校を不合格になり定時制の課程に進学せざるを得なくなった生徒が多く、定時制の課程になじめないなどの理由により中途退学する生徒の割合が18%程度あり、全日制の課程の2.5%程度と比べて極めて高い状況にある(資料7,資料10)。
府立高等学校定時制の課程の生徒実態調査によれば、事業所にフルタイムで勤務しながら定時制の課程の高等学校に通う勤労青少年は、昭和60年4月末調査では51.3%であったが、平成11年10月末調査では15.6%にまで激減している(資料13)。さらに、定時制の課程の高等学校への入学者には、高等学校中途退学者も多い。また、新規中学校卒業者で中学校時代に不登校であった生徒や、全日制の課程の高等学校になじめず転学してきた生徒、その他、生涯学習の観点から再び高等学校教育を志す社会人もいるなど、定時制の課程の在籍状況は多様なものとなっており、当初、勤労青少年に対する後期中等教育の保障という観点から設置された定時制の課程の役割が変化してきている。
第U章 後期中等教育機関としての高等学校に対する多様なニーズ
1 就学機会に対するニーズ
多くの生徒の高等学校進学の目的は、自らの能力・適性を伸ばすため意欲をもって勉学に励もうとすることや、高等学校卒業後の進路について明確な目的を持ち、その実現を図るために必要な能力を身につけること、さらには、友人を作ったり部活動を行ったりして高校生活を楽しむことなど様々である。
また、各種の職業資格取得には高等学校卒業が前提となっているものが多く、中学校卒業というだけでは、自分の望む職に就ける機会が極めて限られているため、高卒資格がほしいというニーズがある。
一方、中学校卒業時までに明確な目的意識を持てないまま、当面の生活の場を求めて高等学校に進学してくる生徒も少なからずいるという現状もある。
2 高等学校の教育内容についてのニーズ
生徒や保護者には、「入りたい学校」を選択できるように各高等学校が特色を持つべきだという要望が強い。また、高校生一人ひとりの興味・関心に応じてそれぞれの個性を伸ばす教育への期待も強い。
高等学校に求められている教育内容には、豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる自覚を育成するなど、すべての生徒に共通して求められているもののほか、例えば、高等教育機関においてより高度な専門的知識を身につけるために必要な資質や能力を伸ばす教育を期待するもの、芸術や運動技能などの専門的な能力の伸長を期待するもの、スポーツ活動や文化活動などを含め充実した高校生活を過ごすことを期待するもの、基本的生活習慣を身につけながら社会生活を営む上での基礎を自分のペースに合わせてじっくりと学ぶ教育を期待するものなど多種多様である。
3 高等学校卒業後の進路についてのニーズ
高等学校卒業後の進路指導においては、生徒一人ひとりが自分の将来を見据えることができるようにすることも大切であるが、生徒たちを取り巻く社会全体がどのような人材を求めているのかという社会の要請を十分に踏まえることも必要である。
また、府民の中には、先端的な科学技術を支える人材や未来の大阪や日本を支えていくことができるリーダー層を育成してほしいというニーズもある。
第V章 就学機会の確保のあり方について
1 就学機会の確保のあり方
今後の後期中等教育の就学機会については、12月時点での公立中学校3年生の全日制の課程への進学希望率が95%程度あるにもかかわらず、中学校卒業者の全日制の課程への受け入れ枠である計画進学率が92.3%と設定されている結果、全日制の課程を不合格になり夜間の定時制の課程に進学してきた生徒が相当数いるという現状を改善することが必要である。
しかしながら、中途退学について見れば、府立高等学校の全日制の課程では退学率が平均2.5%程度であるが(資料7)、10%以上の高等学校も約10校あり(資料9)、他方、夜間の定時制の課程では退学率が平均18%程度である(資料10)。さらに、中途退学者全体の約3分の1が、退学の理由として「もともと熱意がなかった」などの学校生活・学業不適応をあげている(資料7,資料8,資料10)。これらの実態から、単に計画進学率を引き上げて、全日制の課程への受け入れ枠を拡大するだけでは、就学機会の確保のあり方としては不十分である。
また、定時制の課程に入学してくる生徒の中には、学校生活以外の時間を有効利用しながら自分のペースで勉強したいという生徒や、コミュニケーションが苦手で人間関係を上手に築けない場合でも、多様な生徒との緩やかな関係のもとで学ぶことができる学校生活が送りたいという生徒も見受けられる。
これらのことを踏まえると、就学機会の確保に当たっては、自ら学ぶ科目や時間帯を選択することにより目的意識を養うことが可能となるよう、次のような柔軟な教育システムを取り入れた新たな高等学校が求められる。
すなわち、
(1) 授業時間が一日6時間、朝8時30分から午後3時頃までの決められた時間帯で学習するという従来の全日制の課程ではなく、生徒自らが学ぶ時間帯を選択できる
(2) 学年、クラスという固定的な生徒集団ではなく、授業毎に生徒集団が異なるなど、緩やかな生徒集団で学校生活を送ることができる
(3) 自らの進路目標、学力、生活習慣等に応じて学ぶ科目を選択できる
などの教育システムを備えた高等学校が必要であり、現行制度のもとでは、単位制で昼間の定時制の課程という具体的な選択肢が考えられる。
今後は、多様なニーズを持った生徒が自ら「入りたい学校」を選択し、生徒一人ひとりの興味・関心や能力・適性に応じて、目的意識を持って高校生活を送れるようにするため、現在の普通科、普通科総合選択制、総合学科、専門学科、及び単位制という全日制の高等学校に、単位制で昼間の定時制の課程を活用した新たな高等学校を加え、昼間における質・量ともに充実した就学機会を提供することが必要である。
このため、今後は全日制の課程への受け入れに限定した従前の計画進学率という考え方を改め、単位制で昼間の定時制の課程を活用した高等学校を含めた「昼間の高等学校」という新たな枠組みに対応した進学率を設定すべきである。また、公立高等学校と私立高等学校を合わせた具体的な受け入れのあり方については、全日制・定時制・通信制の課程等の後期中等教育全体を視野に入れ、府民ニーズを踏まえた検討を行うことが必要である。
2 多様な教育システム・教育内容の必要性
(1) 現在、府立高等学校の特色づくりに合わせた再編整備計画においては、学力の実態や卒業後の進路希望が多様な生徒一人ひとりに応じた教育を重視することとしている。それ故、生徒自らの興味・関心に応じた学習を通じて自己実現を図るための教育をこれまで以上に提供するとともに、21世紀をリードする創造力溢れた人材や先端的な科学技術を支える人材などを育成することも必要である。
(2) 他方、基礎的な学力や基本的な生活習慣が身に付いていない生徒も少なからず見受けられ、こうした生徒に対しては高等学校を学びの場だけにとどまらず、生活の場でもあるという新たな視点で捉えることも必要である。高等学校では、このような視点に立ち、生徒自らが生活ペースに応じて、基本的生活習慣を少しずつ着実に身につけながら基礎的な学力の定着を図れるようにすることも求められる。
このような教育を推進するためには、将来の展望を持たせるよう、粘り強く指導することができる教職員の資質が一層求められる。
(3) これら多様な教育内容を提供するに際しては、中学生が積極的に高等学校を選択することが可能となるよう、各高等学校が自校の特色や取組みについて、中学生や保護者などに対し積極的に情報発信するとともに、体験入学を一層充実させることや、進路指導について中学校と高等学校の連携を一層密にすることなどが必要である。
(4) 一方、高等学校へ進学してきた生徒の中には、入学後に学びたい内容や高等学校卒業後の進路目標を変更したい生徒もいる。また、高等学校進学時には不明確であった目標が明確になり、他の学校に移りたいと考える生徒などもいる。このような生徒のために、進路変更により一層柔軟に対応できるような転学制度の再構築が必要である。
その際、異なる学科のみならず普通科から普通科へというように同じ学科間であっても転学が可能となるよう、現行制度の工夫・改善を行なうことも必要である。さらに、中途退学者が再度高等学校で学びたいと希望する場合についても編入学が容易にできるよう、入学条件等に柔軟性を持たせることも必要である。
第W章 定時制の課程のあり方
1 定時制の課程の現状
(1) 入学及び在籍状況
府内公立中学校の3年生に対する進路希望調査(平成11年12月実施)によると、定時制の課程を希望する生徒は、全体の0.8%であるが、実際に入学している生徒は2.4%となっている。(資料3)
これは、定時制の課程の入学者選抜が全日制の課程の合否が判明した後に実施されていることから、全日制の課程に入学できずに、やむを得ず定時制の課程に入学していることが主な原因と考えられる。このことは、平成13年3月に府内公立中学校を卒業した生徒を対象にしたアンケート調査において、定時制の課程に入学した者のうち約60%が全日制の課程を受験していたという結果からもわかる。(資料4)
また、定時制の課程の在籍生徒に実施したアンケート調査(平成13年5月実施)によると定時制の課程を選んだ理由では、「高校卒業資格が必要となった」、「成績上の理由」、「自分のペースで勉強できると思った」が多かった。さらに年代別にみると10代、20代、30代では「高校卒業資格が必要となった」が、40代以上では「有効な時間をすごしたかった」が一番多く、次いで多かったのは、10代では「成績上の理由」、20代では「年齢を考えた」、30代では「有効な時間をすごしたかった」、40代以上では「自分のペースで勉強できると思った」となっている。(資料15)
在籍生徒の状況をみると、勤労青少年の他に、前述したような全日制の課程に入学できなかった者、現行制度のもとでは全日制の課程における同一学科間の転入が不可能なために定時制の課程へ転学してきた者、高校中退後に編入してきた者、中学校卒業時に就職する必要等があり卒業後相当数の年限がたっている者など、多様な生徒が在籍している。
また、中学校時代に不登校を経験した者や全日制の課程になじめない生徒も在籍している。
年齢構成をみると、10代から70代まで幅広い年齢層が在籍しているが、平成13年度の調査では、第1学年でみると15歳が56%、16歳が22%、17・18歳が13%と18歳以下の生徒は全体の91%を占めている。(資料11)
また、欠員の範囲内で、特定の授業を受けている聴講生や、高校卒業後に資格取得や技能習得等の目的で専門科目だけを学習している高卒編入生も一部いる。(資料12)
(2) 就労状況
大阪府教育委員会が実施している「定時制の課程生徒実態調査」によると、求人数の減少、雇用形態や職業観の変化等により会社や工場等の事業所等で正規社員として働いている生徒は、平成11年度の1年生でみると15.6%(昭和60年度 51.3%)と以前に比べて著しく減少しているが、パート・アルバイトに就いている生徒は37.0%(昭和60年度 17.3%)と増加している。
また、就労していない生徒については、平成11年度では36.9%(昭和60年度 16.7%)と増加している。(資料13)
(3) 生徒の現状
夜間の定時制の課程では、昼間に働きながら学ぶという時間的な制約のある中で、自らの学習目標に向かって努力する生徒がいる。一方、中学校卒業後、すぐに定時制の課程に入学してきた生徒の中には、高校進学についての目的意識を持たないまま進学してきた者や、基礎的な学力や基本的な学習習慣が身についていない者も少なからず見受けられる。
高等学校としては、これらの生徒に対して、授業の工夫、始業前及び放課後の補習、家庭訪問など様々な努力を重ねてはきているが、学校生活・学業不適応、学業不振等の理由により留年や中退する者も多く、定時制の課程における留年率は平成11年度では18.3%(全日制の課程 2.5%)、中退率は18.7%(全日制の課程 2.5%)である。(資料7,資料10)
2 今後の夜間定時制の課程のあり方
(1) 夜間の定時制の課程が担うべき役割
第V章では、夜間の定時制の課程の入学者のうち約60%が全日制の課程を受験していたことから、全日制の課程と併せて昼間の定時制の課程を含めた「昼間の高等学校」という新たな枠組みで、これまでよりも昼間における質・量ともに充実した就学機会の拡大を図るとしている。このことを前提にすると、今後の夜間の定時制の課程は、昼間に働きながら高等学校に入学を希望する生徒の他、様々な目的や事情により夜間に就学することを希望する生徒など、夜間という条件の中で目的意識を持って学習し、卒業資格を取得しようとする生徒の就学の場となる。
なお、技能習得等のために入学を許可してきた高卒編入や生涯学習の側面を担ってきた聴講制度については、後期中等教育機関としての高等学校が担うべき本来の役割とは言いがたい。
現在、職業に関しての技能の習得や能力開発を目的とするものとして、国の「教育訓練給付制度」や府の「テクノ講座」などがあり、また自治体及び民間において様々な生涯学習の場が提供されている中で、高卒編入と聴講制度については、今後、検討する必要がある。
当面は、これらの生徒については学級定員に余裕がある中で受け入れていくとともに、技能習得等の生涯学習施策のさらなる充実に期待する。
(2) 望まれる教育内容、教育システム及び学校の形態
1) 教育内容
夜間の定時制の課程に学ぶ生徒に、継続して学習する意欲や態度を育成するためには、生徒の意欲・関心を引き出す指導内容・指導方法の工夫を通して学力の伸長を図るとともに、基礎的な学力が身についていない生徒に対しては、基礎学力の定着を図ることが大切である。
また、定時制の課程においても生徒のニーズに応えるために、普通科目と職業科目を幅広く選択できる総合学科の設置についても検討する必要がある。
さらに、学校生活への適応、教科・科目や進路の選択などの指導に当たっては、生徒へのカウンセリングやガイダンス機能の充実を図ることが望まれる。
2) 教育システム
ア 単位制と学年制
夜間に学ぶ生徒の時間的制約を考慮すると、学年毎に一定の単位を修得することで進級が認められる「学年制」よりも、決められた単位を習得すれば卒業できる「単位制」を導入することで、生徒自らが主体的に選択した学習計画に基づいて学ぶことが望まれる。また、通年で単位を認定する「3学期制」よりも、1年間を前期と後期に分けて半期ごとに単位を認定する「2学期制」の方が授業時間の確保やより多様な履修形態が可能となることから、その導入についても検討する必要がある。
単位制の導入に当たっては、生徒にとって学級集団は共に学び、共に育つという点で大きな意味を持っていることから、ホームルーム活動や学校行事などにおいて、学級集団の持つ機能を維持することに留意する必要がある。
イ 弾力的な単位の認定
定時制の課程においては、全日制の課程より週当たりの授業時数が少ないため、これまでも通信制との併修によって3年間でも卒業できる「定通併修制度」や、職業に関する科目に密接に関連する仕事に就いている場合、その科目を履修したとみなして単位を認定する「実務代替制度」、大学入学資格検定において合格した科目を単位認定する制度など、単位認定の弾力化を行ってきた。
今後は、大学の公開講座や社会教育機関など多様な場において学習した内容についても単位を認定するなど、より弾力的な取り扱いに努めることが必要である。(資料14)
ウ 授業時数の確保等
就労時間や就労形態の多様化に伴い、現在、概ね5時30分となっている授業開始時刻については、終業時刻を考慮しながら繰り下げることや、年間19単位の履修が可能となるように、長期休業日等の授業展開など、柔軟な授業日の設定について積極的に検討する必要がある。
3) 学校の形態(学校間のネットワーク)
夜間の定時制の課程に学ぶ生徒の就労状況を考慮すると、学びやすい環境を提供することが重要である。このため、例えば拠点校として、単位制で昼間の定時制の課程を活用した高等学校において3部制(朝の部、昼の部、夜の部)を設け、そこで修得した単位を、在籍校の単位として認めることや、教員が複数の学校で教えることなど、学校間のネットワークの形成を検討する必要がある。
(3) 夜間の定時制の課程の規模と配置の考え方
1) 学校規模
単位制の導入を視野に入れ、生徒の興味・関心に対応した科目展開を図りながら弾力的なクラス編成が可能となることや、学校行事・部活動の活性化など充実した教育活動を展開するためには、1学年複数の学級を維持することが望ましい。
なお、今後、学級定員の引き下げについても検討する必要があるという意見もあった。
2) 配置の考え方
夜間の定時制の課程が担うべき役割でも述べたとおり、第V章では、高等学校への就学機会の確保のあり方として、全日制の高等学校に、昼間の定時制の課程を活用した新たな高等学校を加え、昼間における質・量ともに充実した就学機会を提供することが必要であるとしている。このように、昼間の高等学校への受け入れの拡大を図れば、夜間の定時制の課程への入学者の減少が予測されることから、夜間の定時制の課程の配置については、学校としての一定規模を維持することを前提として考える必要がある。
その結果、現状よりも学校数が減少することが考えられるが、夜間の定時制の課程に学ぶ生徒への学習支援という観点から、前述したように授業開始時刻の繰り下げや、単位認定の柔軟化及び学校間のネットワークの活用などについて工夫しながら、府内にバランスのとれた学校配置を検討する必要がある。
資 料
1 府内公立中学校卒業者数、高校進学率、公立高等学校募集人員の推移
2 計画進学率と公私受入れ分担比率
3 平成12年度入学者選抜に係る進路希望調査結果と進学実績
4 平成13年3月公立中学校卒業者の進路状況
5−1 平成13年度公立高等学校入学者選抜志願倍率
5−2 定時制の課程志願状況
6 大阪府立高等学校の異なる学科間の転学について
7 府立高等学校(全日制の課程)の退学者数の推移 他
8 府立高等学校(全日制の課程)退学者の退学後の動向について
9 平成11年度府立高等学校(全日制の課程)中途退学率分布表
10 府立高等学校(定時制の課程)の退学者数の推移 他
11 平成13年度府立高等学校定時制の課程に在籍する生徒の年齢構成
12 平成13年度府立高等学校定時制の課程 在籍形態による生徒数
13 定時制の課程に学ぶ生徒の就労状況(第1学年)
14 単位取得にかかる学校運営上のシステム 他
15 平成13年度府立高等学校定時制の課程 生徒実態アンケートより
<参考>
「大阪府学校教育審議会への諮問事項について」
「大阪府学校教育審議会委員名簿」
「審議会開催の記録」
「定時制課程専門部会委員名簿」
「定時制課程専門部会開催の記録」
(注)
・資料3,4,5−2,10〜13,15は定時制の課程(夜間部)の他、桃谷高等学校(昼間部)を含む
・資料5−2,10〜13,15は貝塚高等学校の隔週定時制の課程を含む
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会