■ 府立高校授業料減免制度のあり方について(提言) 平成17年2月18日 減免制度に関する有識者会議
府立高校授業料減免制度のあり方について(提言)
減免制度に関する有識者会議
平成17年2月18日
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「減免制度に関する有識者会議」の位置付け
府立高校の授業料減免制度については、向学心に富みながら経済的理由により学資支払いが困難な生徒に授業料の減額または免除を行い、教育の機会均等を図ることを目的とし、その内容は異なるものの、同趣旨の制度は全都道府県において実施されています。
在籍生徒数に占める減免を受けている生徒数の割合である減免率については、長引く不況の影響等により全国的にも増加しており、中でも大阪府においては、平成14年度から20%を越え、各学校では大きなばらつきがあるものの、府立高校全体として見ると、5人に1人ないし4人に1人が減免を受けている状況となっています。
これは、大阪府内の生活保護率や失業率、離婚率等が全国平均に比べて高い状況があるなど、種々の要因が絡み合っているものと考えられます。一方、減免率の増加に伴う生徒間の負担の不公平の問題を指摘する声もあります。
このため、現行制度の意義と、初心を忘れず学業に励むという教育的な観点から、修学を促すより効果的な制度のあり方について、有識者による検討の場を設け、その方向性を取りまとめていただくこととしたところです。
今後、大阪府教育委員会としては、その報告を踏まえ、広く府民のみなさまのご意見も伺いながら、新たな制度の検討を行ってまいりたいと考えております。
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平成17年2月18日
大阪府教育委員会
委員長友田泰正様
減免制度に関する有識者会議
座長 梶田 叡一
府立高校授業料減免制度のあり方について
本会議では、大阪府教育委員会から「減免制度の意義と教育的観点から、修学を促すより効果的な制度について」検討を付託され、平成16年4月27日以降、慎重な検討を行い、次のように取りまとめましたので報告します。
目次
1 府立高校授業料の位置付け‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
(1)「府立高校教育」にかかる費用負担のあり方
2 減免制度の意義・役割‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
(1)「セーフティーネット」としての意義・役割
(2)教育的意義
3 現行制度の検証と評価‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3
(1)基準面
(2)運用面
(3)制度としての持続可能性
4 検討の視点とこれからの方向性‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 7
(1)検討の視点
(2)これからの方向性
[1] 制度の存続・発展
[2] 生活保護に「準じる」基準
[3] 他制度との連携、相談・指導の強化
資料 (略)
1 府立高校(全日制課程)の教育にかかる経費と授業料‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 10
2 大阪府授業料減免制度の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 10
3 授業料に関する法的根拠等‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 12
4 経済的理由により修学が困難な方に対する主な支援制度‥‥‥‥‥‥‥‥ 12
5 進路選択支援事業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13
6 中途退学者の割合(全日制課程・平成15年度)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13
7 大阪府の減免率・金額の推移(全日制課程)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13
8 主要府県における減免率の推移(全日制課程)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 14
9 主要府県における生活保護率、失業率、離婚率‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 15
10 生活保護制度の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 15
11 減免申請理由別内訳(申請ベース)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 17
12 「生活保護基準を準用」する主要府県の制度運用の比較‥‥‥‥‥‥‥‥ 18
13 平成16年度減免認定基準と生活保護認定基準の所得ライン(年収ベース)21
14 「毎月勤労統計調査地方調査平成15年」抜 粋‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 22
15 減免認定者における年間家賃‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 22
16 生活保護基準によらない府県等の減免制度の概要とモデルケースによる
判定結果の比較(大阪市・福岡県・大阪市)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 23
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1 府立高校授業料の位置付け
(1)「府立高校教育」にかかる費用負担のあり方
大阪府では、府立高校全日制課程の授業料(以下、「授業料」という。)について、府立高校における教育条件の向上と特色づくりの施策を実施するための財源を確保できるよう、教育経費にかかる保護者負担率などをもとに、その水準を設定し、あわせて、授業料減免制度(以下、「減免制度」という。)を実施している。なお、定時制課程においては、授業料は異なるものの、この減免制度については、同一の基準により実施しているところである。
授業料は、教育経費のすべてを税で賄うのではなく、一定部分の負担を利用者に求めるものであり、いわゆる「応益負担」の原則のもと徴収されるものである。そして、その負担は学資負担者やその家庭の「自助」努力によって賄われるべきものである。
そのうえで、教育の機会均等と進路選択を保障する観点から、減免制度を実施しており、その水準設定及び運用においては、府民のコンセンサスが得られる公平性と公正さが求められる。
【資料1 府立高校(全日制課程)の教育にかかる経費と授業料】
【資料2 大阪府授業料減免制度の概要】
【資料3 授業料に関する法的根拠等】
2 減免制度の意義・役割
(1)「セーフティネット」としての意義・役割
家庭の経済的理由により進学を断念することなく、自らの能力や適性等にあった進路を選択できるよう、あるいは、入学後、学資負担者の不慮の事故や災害等による家計の急変などの事情変更により修学を断念することのないよう、経済的に支援していくことは、教育の機会均等を担保する重要な要素である。そのための制度として、減免制度と奨学金制度、さらには、福祉施策としての修学資金貸付制度などがある。
まず、減免制度は、向学心に富みながら、経済的困窮の中にあって、学資の支払ができないため学習の継続が困難な場合、申請に基づき、所得審査の上、授業料の全額あるいは半額を免除する支援制度である。
減免により生じる収入の減少分は、府民からの税金により補填されており、教育の機会均等を保障する府民共有のセーフティネットとなっている。本来、自助努力でまかなわれるべき授業料財源に税を投入することは、府立高校教育を受ける多くの生徒に還元されるべき教育経費への充当が抑制されるという側面を有しており、それゆえ、減免制度には、それにふさわしい持続可能性のもと、負担の公平性の確保と適正な制度運営が求められる。
また、奨学金制度は、大阪府育英会の場合、授業料に加えて、教科書や制服・体操服、さらには修学旅行の積立金など、使途を限定せず、入学時や学校生活に必要な他の経費に充当できるよう配慮し設定されており、生徒自身が自らの意思で必要な額を選択して借り入れを行い、学校を卒業した後に、自らが働いて得た収入によって返還するものである。
すなわち、学校卒業後に社会の一員となることを前提として貸付が行われていること、奨学金の財源が返還金で賄われており、一人ひとりが確実に返還することが後に続く後輩のためにも必要であることなどから、生徒一人ひとりの自覚と信頼のもとに運営されている互いに支えあう制度といえる。
以上のことから、本来、「自助」努力で賄われるべき授業料について、「共助」の仕組みである奨学金制度や他の貸付制度が設けられており、経済的により一層厳しい状況にある場合、教育の機会均等と進路選択を保障する「公助」の仕組みとして減免制度がある。
【資料4 経済的理由により修学が困難な方に対する主な支援制度】
(2)教育的意義
大阪府では、中学校在学中の生徒に対し、家庭事情や経済的理由により進学をあきらめることのないよう、「進路選択支援事業」を実施し、きめ細かな相談活動を行うとともに、奨学金や減免などの経済的支援制度の周知を図っている。
奨学金制度については、かつては、府立高校入学後、学校などで奨学金を貸与された生徒を集め、「経済的支援に感謝し、がんばってきちんと卒業しよう。」という趣旨で、修学を促す取り組みを行っていた。また、府立高校入学時には、すべての生徒に対して、修学促進の趣旨とあわせ、減免制度の説明を行い、周知が行われている。しかし、その後のきめ細かな相談については、減免を受ける生徒のプライバシーの問題もあり、十分に実施されているとはいえない現状もある。
こうしたことから、減免制度は、学資負担者の経済的負担を軽減するというセーフティネットとしての役割が大きく着目されるのに対し、学校現場における、教育活動の一環として、教員による生徒指導などを通じて、生徒一人ひとりの自覚を促し修学を支援するという、本来の教育的意義を踏まえた取り組みは、一定制限されざるをえない状況にある。
なお、ちなみに、近年、府立高校全日制課程の中途退学者の割合が2%台で推移する中で、減免制度対象の生徒の中退は4%台となっており、修学を促す観点からは、この減免制度のみではなく、他の教育的支援も併せて行う必要があることを示している。
【資料5 進路選択支援事業】
【資料6 中途退学者の割合(全日制課程・平成15年度)】
3 現行制度の検証と評価
在籍生徒数に占める全額免除者と半額免除者の合計数の割合である減免率は、平成10年度に10%を超え(全日制課程)、その後急速な伸びを見せ、平成14年度には20%を超えている。さらにその伸びは鈍化傾向を見せることなく、平成16年度には、24.4%と、4人に1人が減免を受けている状況である。
同一の基準ではないものの、全都道府県が減免制度を持つ中で、全国平均の約3倍(平成15年度、全国平均7.7%、大阪府22.4%)と高く、また大阪府に次いで全国2番目の高い率である鳥取県(同、12.5%)と比較しても倍近い開きがあり、大阪府の減免率は突出して高いと言わざるを得ない。
このような要因として、大阪府の生活保護率や失業率、離婚率等が全国平均に比べて高い状況にあることが考えられるが、いずれの指標も、減免率が全国平均の3倍にまで至っていることの理由を十分説明できるものではない。
なお、この制度運用の結果として、減免制度に対する税による負担額は、平成16年度において約40億円に上っている。
こうしたことを踏まえ、(1)基準面、(2)運用面、(3)制度としての持続可能性の3つの観点から、現行制度に対する検証と評価を行う。
【資料7 大阪府の減免率・金額の推移(全日制課程)】
【資料8 主要府県における減免率の推移(全日制課程)】
【資料9 主要府県における生活保護率、失業率、離婚率】
(1)基準面
生活保護制度は、憲法第25条の理念に基づき、国民の生存権を保障する制度であり、保障される生活水準は、健康で文化的な最低限度の生活を維持するためのもの(最低生活の原理)であり、要件に当てはまるときは平等に保護を受けることができ(無差別平等の原理)、また、その家庭で利用できる資産や年金・手当・給付金など他の制度による給付等、あらゆるものを活用しても、なお生活ができないときに適用される(補足性の原理)制度である。
減免制度では、その対象者として、現に生活保護を受けている世帯や、母のみの収入で児童扶養手当を全額受給している世帯、あるいは児童養護施設に入所している生徒に加え、「生活保護に「準じる」程度に困窮している世帯」が位置付けられている。その認定にあたっては、生活保護制度を準用し、世帯の収入と最低生活費を比較する方式で行われているが、資産保有の状況は斟酌されていない。
具体的には、当該世帯が生活に要する額としての「需要認定額」と世帯全員の「収入認定額」を比較して、「収入認定額」が「需要認定額」の1.0倍以下の場合は全額免除となり、1.2倍までの場合は半額免除としている。
まず、「収入認定額」については、世帯全員の収入を対象に、給与所得者は給与所得控除後の金額、確定申告者にあっては所得欄の合計額を合算することになるが、勤労者と自営業者の所得捕捉方法の差異や、複数の事業所に勤務している場合の捕捉の困難さなどが指摘される。また、給与所得や自営業者の収入、年金収入などの算入方法や、預貯金の取り崩し、借入金などの収入認定額への算入などについては、生活保護制度と比べると、より緩やかな取り扱いとなっている。
次に、「需要認定額」については、生活保護制度における需要項目を基本としているが、世帯分離の適用、居住地域による級地区分による基準額や住宅扶助の金額、母子・障害者・老齢者加算など、厳格に準用されているとはいえない。
その結果、標準世帯(4人家族(両親、本人、中学生)、父親のみの収入)のモデルケースで試算すると、生活保護に認定される収入基準額が325万円から398万円(居住地により異なる)であるのに対し、全額免除に認定される収入基準額(給与所得控除前の給与等の金額)は436万円と、金額で最大111万円、倍率で最大1.34倍の格差があることがわかる。(最小でも、38万円、1.10倍の格差)
特に、4人家族の標準世帯が半額免除を受けるための所得基準の目安は、世帯主の給与所得(給与所得控除前の年額)が505万円程度であり、大阪府内の事業所における平均年収(常用労働者5人以上の事業所で年額444万5千余円、同じく30人以上で年額508万7千余円(毎月勤労統計調査地方調査))とほぼ同水準となっている。
そして、減免制度の対象者の割合をみると、この「生活保護に「準じる」程度に困窮している世帯」は、全体の約65%を占め年々増加傾向にある。一方、「現に生活保護を受けている世帯」は、全体のわずか9%程度となっている。
このように、生活保護の認定基準に「準じる」というものの、あいまいな要素が含まれていることは否めず、家庭の資産状況が基準にないことと相まって、府民の不公平感につながり、例えば、「勤労者の平均所得以上の所得がありながら、生活保護に準じる困窮世帯といえるのか」、あるいは、「持家の家庭や、月々10万円を超える家賃を支払っている家庭などは、生活保護に準じる困窮世帯といえるのか」といった指摘もある。
また、減免認定における、当該世帯の生活に要する額の試算については、大阪府と同様に生活保護認定基準に準拠している府県がある一方、所得税あるいは住民税における控除額に準拠している府県等がある。
これらの減免制度のうち、所得階層分布(確定申告者)が大阪府と似通っている福岡県や、府民の子弟が進学する公立の高校である、大阪市立高校の減免制度と比較する限りにおいては、大阪府の減免制度の所得基準が最も緩いものとなっている。
特に、大阪市立高校については、通学区域(学区)を共有し授業料についても同額であることから、生徒の進路選択の上で、本来同じ条件であるべきとの見方もある。
【資料10 生活保護制度の概要】
【資料11 減免申請理由別内訳(申請ベース)】
【資料12 「生活保護基準を準用」する主要府県の制度運用の比較】
【資料13 平成16年度減免認定基準と生活保護認定基準の所得ライン(年収ベース)】
【資料14 「毎月勤労統計調査地方調査平成15年」抜粋】
【資料15 減免認定者における年間家賃】
【資料16 生活保護基準によらない府県等の減免制度の概要とモデルケースによる判定結果の比較(大阪府・福岡県・大阪市)】
(2)運用面
教育委員会、学校、教職員などによる減免制度のPRの成果として、減免率が上がってきているという側面がある。
学校現場における取組みについては、個々の生徒及び家庭が抱える課題に対する支援方策のひとつとして、減免制度の活用が図られているものであり、その教育的意義を十分評価する必要がある。
また、保護者向けに制度を説明するために、府教育委員会が作成する「授業料減免のしおり」の中で、所得基準の目安を明らかにし、学校を通じて周知が図られてきたところであるが、今や、学校以外の地域の組織・団体においても、この「しおり」を活用した制度利用の呼びかけが積極的に行われている状況にある。こうした取組みの中には、「当該家庭は、学資支払いが困難な状況にあるか」ということより、「当該家庭に、所得基準の目安が適用されるかどうか」ということのみが強調されているものもあり、対象者の量的拡大につながっているという指摘もある。
一方、府立高校の保護者を対象としたアンケート調査によると、所得基準がクリアされれば減免制度を申請するという意識が、中高所得層にまで広がりをみせており、減免制度は、向学心に富みながら経済的な理由により「学資支払いが困難な生徒」を対象としているという、制度本来の趣旨が十分に浸透しているとはいえない状況にある。
こうしたことから、結果として、およそ4人に1人が減免を受け、授業料を納めていないという状況を招き、教育的意義に対する意識の希薄化とあいまって、府民の負担の不公平感につながっているのではないかと考えられる。
このため、「生徒一人ひとりに対し、家庭環境など諸課題に対する十分な相談や他制度活用の指導等を経ることなく、所得基準のみを画一的にあてはめるだけで、生徒の修学意欲を支援する真に有効な手段として、本制度が選択されているといえるのか」といった指摘につながっていると考えられる。
【府立高校の修学支援制度についての保護者対象アンケート集計結果】
(3)制度としての持続可能性
現行の減免率がこのまま推移すると、授業料収入を主たる財源として府立高校の教育水準の維持・向上を図るという枠組みを維持することが、極めて困難な状況となる。減免制度の見直しは、大阪府の財政再建のための財源確保を目的としているものではなく、府立高校における教育条件の向上と特色づくりの施策を実施するという教育政策上の位置付けを基本に、適正な受益と負担はどうあるべきかとの観点から検討されるべきものである。
すなわち、府民の理解と支援のもと、負担の公平性の確保と適正な制度運営が求められているということを改めて認識することが必要である。
4 検討の視点とこれからの方向性
(1)検討の視点
以上の検証と評価を踏まえ、今後の減免制度については、
・府民、利用者からみてわかりやすく、公平感が担保されたものとなっているか
・特に、生活保護に「準じる」という要件については、認定基準そのものや運用の実態が、生活保護が想定する生活困窮世帯に「準じる」ものといえるか
・修学を促すという制度の本来の趣旨が生かされているか
などの視点から、検討を行い、「府民に対する公平性、公正感を担保しつつ、真に必要としているひとが、必要なときに利用できる制度」として、大阪府の極めて厳しい財政状況のもとにあっても、相談を通じた支援など他の施策の拡充も含め、次のような方向で、持続可能なものへと再構築する必要がある。
(2)これからの方向性
[1] 制度の存続・発展
減免制度は、「経済的困窮の中にあって、学習を継続することが困難な生徒に対し、適切な支援をする制度」として、その原点に立ち返り、存続・発展させる必要がある。
そのため、現に生活保護を受けている世帯や、母のみの収入で児童扶養手当を全額受給している世帯、あるいは児童養護施設等に入所している生徒を対象とすることについては、それぞれを証明する書類のみにより認定する現行の方式を継続する方向で検討すべきである。
また、疾病・失業や不慮の事故・災害などで、収入が前年所得よりも大幅に減少する見込みの場合も、引き続き制度の対象とし、個々のケース毎の試算により認定する現行の方式を継続する方向で検討すべきである。
なお、「収入認定額」については、これまで、同一世帯内の兄や姉、祖父母の所得をも合算して算出していたが、それらの収入を家計に拠出することが、実体としてほとんど考え難いという意見もあることなどから、親権者のみの収入により審査を行うことについて検討すべきである。
[2] 生活保護に「準じる」基準
生活保護に「準じる」基準については、他府県の実態や保護者の意識等を踏まえると、より公平・公正で透明性の高い基準として運用できるよう、見直しを行うべきである。
家計の収入額については、源泉徴収票や確定申告書の控えなどにより、把握しているところであるが、複数のところから収入を得ている場合や、配当所得や不動産所得など、その他の収入がある場合も想定される。
そこで、さらに正確さを期し、公平性を増す観点から、他の公的な機関が公平な基準により算定したものとして、住民税課税証明書を活用する方策が適切であると考えられる。
この場合、「非課税」、「所得割非課税(均等割のみ課税)」、「課税標準額」などをよりどころとする方式があるが、生活保護に「準じる」基準については、府民の平均所得や他府県制度等との比較から、「住民税所得割非課税(均等割のみ課税)ライン」とすることが適切であると考えられる。
また、全額免除と半額免除については、他団体の制度運用との比較も行いつつ、その意義や運用のあり方などについて、今後さらなる検討を行う必要がある。
[3] 他制度との連携、相談・指導の強化
減免制度と奨学金制度は、学資負担の必要な時期に、その時点の家庭の経済状況を考慮し、教育の機会均等を確保するとの趣旨は共通するものであるが、それぞれの趣旨・役割を踏まえ、生徒一人ひとりの状況に応じて互いに補完しあうことが重要である。
現行(平成14年度から)の府育英会奨学金制度は、納付すべき授業料に加え最大10万円を限度に貸与するものであり、その水準を維持するとともに、償還が滞る傾向にあることを踏まえ、利用者への啓発活動をさらに強化すべきである。
また、奨学金制度や福祉施策の修学資金貸付制度(生活福祉資金、母子寡婦福祉資金)などとの連携・役割分担のもと、減免制度が、「学資支払いが困難な生徒」の修学を促すよりよい制度として機能するよう、「進路選択支援事業」など、地域や学校で生徒一人ひとりの進路選択を支援する相談や指導体制の拡充を図り、関係部局、機関等との連携を一層強化する必要がある。
あわせて、学力向上や不登校、中退などの教育課題に対する、義務教育から高校教育までの諸施策の立案・推進にあたっては、厳しい生活上の課題をより多く抱える児童・生徒に対し、十分な配慮を行う必要がある。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会