■ すべての児童生徒がかけがえのない存在として尊重される学校づくりのために−いじめ防止指針− 平成18年3月 大阪府教育委員会
大阪府教育委員会
平成18年3月
すべての児童生徒がかけがえのない存在として尊重される学校づくりのために
−いじめ防止指針−
いじめは、「学校の内外を問わず、多数が少数に対して、一方的に、精神的・肉体的苦痛を伴う身体的・心理的な攻撃を継続的に加える重大な人権侵害事象」であり、根絶すべき課題として未然防止に努めなければならない。また、不幸にして事象が生起した場合は、いじめられた児童生徒の立場に立って取組み、速やかに解決する必要がある。
府内公立小・中・高等学校及び盲聾養護学校におけるいじめの現状については、文部科学省の平成16 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査によると、いじめの発生件数は小学校336 件、中学校822 件、高等学校141 件、盲聾養護学校1 件、計1,300 件であり、ここ数年、わずかずつではあるが継続して増加している状況にある。また、学年別発生件数の特徴は、小学校から学年が進むにつれて多くなり、中学1年生が391 件で最も多く、生起した全ての件数の30.1%を占めており、内容については、「冷やかし・からかい」「言葉での脅し」「暴力を振るう」が多い。
いじめが生起した際の学校の主な対応としては、「職員会議等を通して共通理解を図った」「学校全体として児童・生徒会活動や学級活動などにおいて指導した」「教育相談の体制を整備した」などであり、それらの取組みにより、平成16 年度に生起したいじめについては、89.3%が年度内に解消しており、一定の効果を示している。
近年、府内公立小・中・高等学校において、障害のある児童生徒に対する極めて悪質ないじめ事象が生起している。それらの事象のほとんどが、子どもの異変に気付いた保護者からの指摘により学校がはじめて知るに至ったという状況である。障害のある児童生徒に対するいじめ事象は、いじめられている児童生徒が抵抗したり、周囲に助けを求めにくい状況があるため、隠匿性が高く発見が遅れ、より深刻な人権侵害事象となる場合が多いと考えられる。いじめる側もそのことを認識して行為に及んでいるという点できわめて悪質であり、また、被害者の苦痛を理解しないまま比較的安易な気持ちで行っている事例が多い。
いじめは一般的に、集団の中で離れがちであったり弱い立場にある人に対して攻撃又は排除しようとする傾向と関わって生起することが多く、加えて、鬱積した気持ちのはけ口として、あるいは、誰かを攻撃することで「自分の存在」を確かめようとしている傾向が見られる。その背景には、いじめる側の児童生徒自身が、家庭状況や学校生活の中で深刻な課題を抱えている場合が多い。そのため、いじめ防止や解決に向けての取組みにおいては、学校、家庭、地域社会及び関係機関の相互の連携がますます重要となっている。
このような状況を受け、大阪におけるいじめ問題解消に向け、その基本的な姿勢を示すこととした。
記
1.「いじめは絶対に許されない」との強い姿勢で指導を行うとともに、いじめは、教職員の児童生徒観や指導の在り方及び学校の教育活動全体が問われる問題であるとの認識をもつこと
いじめは、その子どもの将来にわたって内面を深く傷つけるものであり、子どもの健全な成長に影響を及ぼす、まさに人権に関わる重大な問題である。全教職員が、いじめはもちろん、いじめをはやし立てたり、傍観したりする行為も絶対に許さない姿勢で、どんな些細なことでも必ず親身になって相談に応じることが大切である。そのことが、いじめ事象の発生・深刻化を防ぎ、いじめを許さない児童生徒の意識を育成することになる。
そのためには、学校として教育活動の全てにおいて生命や人権を大切にする精神を貫くことや、教職員自身が、児童生徒を一人ひとり多様な個性を持つかけがえのない存在として尊重し、児童生徒の人格のすこやかな発達を支援するという児童生徒観、指導観に立ち指導を徹底することが重要となる。
2.すべての児童生徒の心の訴えに学ぶこと
いじめの特性として、いじめにあっている児童生徒がいじめを認めることを恥ずかしいと考えたり、いじめの拡大を恐れるあまり訴えることができないことが多い。また、自分の思いをうまく伝えたり、訴えることが難しいなどの状況にある児童生徒が、いじめにあっている場合は、隠匿性が高くなり、いじめが長期化、深刻化することがある。
それゆえ、何気ない言動の中に心の訴えを感じ取る鋭い感性、隠れているいじめの構図に気づく深い洞察力、よりよい集団にしていこうとする熱い行動力が求められる。その上にたった日常的な教育実践(理解教育)の推進が、いじめ問題の根本的な解決には不可欠である。
3.いじめ問題を教育の課題と捉え、いじめに関わった児童生徒同士の信頼関係の構築と人権を尊重する集団の高まりへとつなげること
いじめにあった児童生徒のケアが最も重要であるのは当然であるが、いじめ行為に及んだ児童生徒の原因・背景を把握し指導に当たることが、再発防止に大切なことである。近年の事象を見るとき、いじめた生徒自身が深刻な課題を有している場合が多く、相手の痛みを感じたり、行為の悪質さを自覚することが困難な状況にある場合がある。よって、当事者が自分の行為の重大さを認識し、心から悔い、相手に謝罪する気持ちに至るような継続的な指導が必要である。いじめを受けた当事者は、仲間からの励ましや教職員や保護者等の支援、そして何より相手の自己変革する姿に、人間的信頼回復のきっかけをつかむことができる。
そのような、事象に関係した児童生徒同士が、豊かな人間関係の再構築をする営みを通じて、事象の教訓化を行い教育課題へと高めることが大切である。
4.いじめの未然防止及びいじめ問題の解決のためには、人権尊重の教育の充実を図るとともに、いじめをなくす実践力を培うこと
いじめの未然防止にあたっては、教育・学習の場である学校・学級自体が、人権尊重が徹底し、人権尊重の精神がみなぎっている環境であることが求められる。そのことを基盤として、人権に関する知的理解及び人権感覚を育む学習活動を各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じ、総合的に推進する必要がある。
特に、児童生徒が、他者の痛みや感情を共感的に受容するための想像力や感受性を身につけ、対等で豊かな人間関係を築くための具体的なプログラムを作成する必要がある。そして、その取組みの中で、当事者同士の信頼ある人間関係づくりや人権を尊重した集団としての質を高めていくことが必要である。
5.家庭、学校、地域社会など全ての関係者がそれぞれの役割を果たし、一体となって真剣に取り組むことが必要であること
「いじめは人間として絶対に許されない」という基本的な考え方は、児童生徒の自尊感情の高まりと関係が深い。学校教育の課題、家庭や地域の教育力の課題が指摘される中、今大切なことは、いじめの解決に向けて関係者の全てがそれぞれの立場からその責務を果たすことであり、児童生徒に、自分も他者もかけがえのない存在として大切にできる感性を育むことである。
そのために、「すこやかネット」等地域協働の活動を充実させる中で、地域社会の中に、いじめを許さない環境(雰囲気)を生み出すことが急務である。
いじめの未然防止に向けた取組みの推進方向
1.いじめの認識
「いじめは絶対に許されない」との強い姿勢で指導を行うとともに、いじめは、教職員の児童生徒観や指導の在り方及び学校の教育活動全体が問われる問題であるとの認識をもつこと
@児童生徒の立場に立つ
子ども一人ひとりを人格のある人間として、その個性と向き合い、人権を守り尊重した教育活動を行わなければならない。そのために、教職員の人権感覚を研ぎ澄まし、子どもの立場に立ち、守りきるという姿勢を養う必要がある。
A児童生徒を深く理解する
厳しい課題を有している子どもを集団の中に位置づけ、子どもたちの表情のうらにある心の叫びを敏感に感じとる感性等、教職員自身の子どもを深く理解する人権感覚を高める。
Bいじめの未然防止につながる研修の充実
学校の子どもの現状や課題に即したテーマの設定や研修の形態を工夫し、子どもに対する肯定的理解を深め、子どもの自尊感情を高めるよう努める。
また、いじめの事象に関する事例研究を通して実際の対応方針の作成や、日々の子どもの言動や人間関係の把握など、教職員の指導力の向上に努める。
2.確かな現状認識
すべての児童生徒の心の訴えに学ぶこと
@早期発見のための体制づくり
隠匿性が高いといういじめの特性を考えたとき、いち早く子どもの変化に気付くための感性を持ち、早期発見できる生徒指導体制の充実を図るとともに、授業や学級経営等の日頃の教育実践の悩みを気軽に話し合える教職員間の環境を作る必要がある。
A児童生徒の願いや思いを受け止める
日頃から休み時間等に児童生徒の活動に積極的に加わったり声かけをするなど、様々な場面での子どもの様子を把握することで、教師が予断をもった判断をせず、児童生徒の願いや思いを受け止めることが大切である。その際、児童生徒の表面的な言動にとらわれず、その裏にある児童生徒の願いや思いを認識するような力が必要である。
3.事象の対応と教訓化
いじめ問題を教育の課題と捉え、いじめに関わった児童生徒同士の信頼関係の構築と人権を尊重する集団の高まりへとつなげること
@人権に配慮した継続した教育相談
受けた相談に対して、その解決に向けた学校の対応方針を伝え、児童生徒の思いを尊重し、プライバシーに十分配慮した対応をするとともに、必要に応じてスクールカウンセラーや相談員等の活用を図る等、関係機関等と連携し解決に向けた取組みをすすめる。
A組織としての機動的対応
いじめ事象が生起した場合、被害者のケアについては迅速な対応策を講じるとともに、当面の対応や中長期的に取組むことなどの方針を打ち出す必要がある。そのために、学校長のリーダーシップのもと、その対応や方針にもとづき、いじめ事象の当事者全てのケアができるよう情報の共有・きめ細かな連絡相談、関係機関との連携等、組織的な対応が必要である。
Bいじめられた児童生徒のケア
いじめられた児童生徒の心のケアはもとより、児童生徒の願いや思いに寄り添い共感的に受けとめるとともに、問題解決のための具体的方針を打ち出すこと。
Cいじめに関わった児童生徒への指導
指導に際しては、いじめに関わった児童生徒が、いじめられた児童生徒の思いに至り、人権尊重の立場に立った行動ができるようにすることが大切である。そのためには、いじめに至った直接的な要因に対する指導と併せてその子どもが持つ背景(生徒指導・学習指導等)をも十分に踏まえた組織的・継続的な指導が必要である。
4.日常の未然防止
いじめの未然防止及びいじめ問題の解決のためには、人権尊重の教育の充実を図るとともに、いじめをなくす実践力を培うこと
@人権が尊重された学校
いじめを未然に防止するためには、子どもたち自身がお互いを尊重し合い高め合い、いじめを許さない集団となることである。そのためには、日々の学校の教育活動全体において子どもの人権が尊重され、それぞれの子どもの自己実現につながる取組みとなるよう努める。
A人権教育の充実
友だちの願いや思いを共感的に受けとめることのできる豊かな感性や、仲間とともに問題を主体的に解決していこうとする実践的な態度の育成等、人権尊重の教育の充実を図り、いじめをなくす実践力を培う必要がある。
B人権課題に応じた理解教育の充実
障害者理解教育など人権課題に対応した教材による学習や体験活動を行う場合、学習者自らの生活との関わりや、身近な仲間との繋がりや人権課題を意識しながら実践することが大切である。
Cいじめ未然防止の観点を盛り込んだ人権教育
いじめは子どもの学習や成長に大きな影響を与える。いじめによって生じる人間関係のもつれから、学校での居場所を失い不登校状況に追い込まれることがある。したがって、学校における人権尊重の教育、他者を理解する教育等の実施にあたっては、いじめを未然に防止する観点を柱の一つに位置づけ、信頼ある人間関係の構築が図られるよう取り組む。
D具体的事象の教訓化
すべての学校にいじめ事象は存在するという認識のもと、具体的事例からいじめられた子どもの被害状況の把握とケア、また、いじめた子どもへの指導の在り方等、その解決に向けた方針について協議するとともに、教訓化した事項を教材の中に活かして日常の教育活動に活用することが必要である。
E互いに支え合う集団づくり
いじめの問題が、当事者間だけではなく、クラスや学校全体の課題であるとの認識を育むように努めること。また、信頼と協調に基づく人間関係の形成が集団の構成員一人ひとりにとってプラスであるとの認識を育むように努めること。同時に、それを実現していくために人間関係づくりの教材プログラム等を活用した実践力の向上が必要である。
5.連携及び環境の醸成
家庭、学校、地域社会など全ての関係者がそれぞれの役割を果たし、一体となって真剣に取り組むことが必要であること
@子どもの居場所づくり
子どもたちは社会の在り方や社会状況の変化の影響等を集約的に受けやすく、家庭や地域での居場所がない子どもが増えている。一人ひとりの課題に応じたきめ細かい対応により自尊感情を高める取組みが大切である。
A教育相談体制の確立
定期的に教育相談週間を設けて、児童生徒を対象とした教育相談を実施する等、児童生徒が相談しやすい体制を整備する。
B児童生徒や保護者に十分に理解された教育相談
学級での指導や学級通信等で教育相談の意義や方法等についての理解を図るとともに、様々な相談の場や機会があることを児童生徒や保護者へ知らせる。
C学校での出来事を積極的に伝える
学校と家庭・地域社会が一体となって、子どもの健やかな成長を育むため、学校の取組みや児童生徒の様子を積極的に発信することが重要である。
D保護者の思いに誠実に応える
学校として、保護者が学校に対する様々な意見や願いを持っているということをどれだけ感じ取れるかが大切であり、面談後、保護者が「相談してよかった」と感じるような誠実な対応を積み重ねていくことによって大きな信頼ができあがっていく。
E校外生活について情報収集
いじめを予防するためには、地域の特色を生かしながら、計画的に地域にある組織や団体との協力関係を築き上げていくことが大切である。そのためには、子どもたちの校外生活についての情報交換を行ったり、地域における子どもたちの活動の様子を把握し、学校と地域が協力して子どもたちの人間関係づくりに努める必要がある。
F学校教育活動への地域人材の活用
地域社会との連携充実のためには、日頃の学校の教育活動への理解を得ることが大切である。そのためには、地域の人材をゲストティーチャーとして学校に迎える等、教育活動への参画を通じて、学校との協力関係や子どもたちとの親密な関係を強めて、地域へ広めていくことが有効である。
(参考)いじめの未然防止に向けた取組みの推進方向イメージ[略]
(資料)
いじめを早期に発見するポイント
(1)学校で
□授業に意欲をなくし、集中力が無くなってきた子はいないか。
□休み時間や放課後、一人でいることが多い子はいないか。
□休み時間や放課後、用もなく職員室に頻繁に来たり、前をうろうろする子はいないか。
□教育相談、日記、班ノートなどに不安・悩みなどを抱えている子はいないか。
□保健室に出入りすることが多くなっている子はいないか。
□いつもおどおどしている子はいないか。
□理由無く欠席、遅刻、早退が増えてきた子はいないか。
□理由のはっきりしない打撲や傷跡のある子はいないか。
□衣服が乱れたり、汚れていたり、破れたりしていないか。
□元気がなく、気持ちの沈んでいる子はいないか。
□教員を避けるようになっている子はいないか。
□グループから急に離れたり、交友関係の変化した子はいないか。
□常に人の言いなりになっている子はいないか。
□一人離れて教室に入ってくる子はいないか。
□椅子や机を乱されている子はいないか。
□授業中発言したら、理由もなく笑われている子はいないか。
□みんながやりたがらない学級の仕事を押しつけられている子はいないか。
□忘れ物が多くなったり、成績が急に下がりだした子はいないか。
(2)家庭で
□衣服が破れたり、汚れたり、持ち物を失ったりすることが急に増えていないか。
□「ケンカ」をしたとか、「ころんだ」とかいって、「あざ」をつくったり、「けが」をしてきたりすることがないか。
□金遣いが急に荒くなったり、家庭の金品を持ち出したりすることはないか。
□急に口数が少なくなっていないか。
□独り言を言ったり、夜中にうなされたりすることはないか。
□友だちからの電話で、理由も言わずに家を飛び出すなど、友だちの言いなりになることが増えていないか
□友だちが急に遊びに来なくなったり、友だちの話をしなくなったりして、ひとりぼっちで家にいることが多くなっていないか。
□友だちや先生に対する不満を口にすることが、最近、多くなっていないか。
□「しんどい、病気や。」といって、学校を休みたがったり、遅刻早退が増えていないか。
□急に勉強しなくなったり、無気力になったり、食欲がなくなったりすることはないか。
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