■ 高等学校日本史教科書に関する訂正申請について(沖縄戦関係)2007年12月26日 文部科学大臣談話
平成19年12月26日
文部科学大臣 渡海紀三朗
高等学校日本史教科書に関する訂正申請について(沖縄戦関係)
1. 平成18年度に検定決定した高等学校日本史教科書の沖縄における集団自決に関する記述の訂正申請について、本日、教科用図書検定調査審議会から、訂正を承認することが適当との意見をいただいた。
2. 今回の対応に当たっては、申請された訂正文等の承認に際し、専門的・学術的な見地からの検討が必要と考え、同審議会の意見を聞くこととした。
これは、検定済教科書にかかる訂正申請の承認を行うに際して、必要に応じ教科用図書検定調査審議会が専門的な事項等について調査審議するという教科書検定制度に基づき、対応したものである。
3. 教科用図書検定調査審議会においては、次のような審議が行われたとの報告を受けている。
@ 審議会における審議では、客観的・専門的見地から詳細に調査審議を行うため、沖縄戦、沖縄史、軍事史等の専門家計9名から、文書意見の聴取を行った。
A また、審議の過程では、平成18年12月に付した検定意見の趣旨等を確認し、それを勘案しつつ、専門家から提出された文書意見等を踏まえ、「訂正文の内容等を調査審議するに当たっての沖縄戦及び集団自決に関する日本史小委員会としての基本的とらえ方」を整理した。
B 各発行者から申請がなされた各々の訂正文の内容等については、この「基本的とらえ方」に照らして調査審議を行い、その結果、訂正を承認すべきとの意見を文部科学大臣に提出した。
4. 私としては、このような慎重かつ丁寧な審議を経て出された審議会の意見を尊重し、今回の訂正申請に対して速やかに承認の決定をしたいと考える。
5. また、このような審議の経過や内容等については、審議の透明化が図られるよう、できる限り公表する必要があるとの教科用図書検定調査審議会の判断に基づき、同審議会第2部会日本史小委員会として「平成18年度検定決定高等学校日本史教科書の訂正申請に関する意見に係る調査審議について」の報告がなされ、これを公表することとした。
6. もとより歴史教科書の検定は、国が特定の歴史認識や歴史事実等を確定するという立場に立って行うものではなく、申請のあった教科書の具体の記述について、その時点における客観的な学問的成果や適切な資料等に照らして、欠陥を指摘することを基本として実施するものである。今回の訂正申請への対応についてもこの考え方に基づき実施されたものであると認識している。
7. 沖縄における集団自決に関する記述の教科書検定にかかる一連の過程においては、審議における透明性の向上や専門的見地からのきめ細やかな審議の必要性など様々な事項が指摘された。このことも踏まえ、検定手続きの改善方策について、今後、教科用図書検定調査審議会において検討を開始し、来年夏頃までを目途に一定の方向を示していただきたいと考えている。
8. 沖縄戦は、住民を巻き込んだ国内最大の地上戦である。多くの人々が犠牲になった悲惨な戦いであり、歴史の教訓を決して風化させることのないようにと願う沖縄県民の思いを重く受け止め、これからも子ども達にしっかりと教えていかなければならないと考える。文部科学省としては、沖縄戦に関する学習がより一層充実するよう努めてまいりたい。
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(参考資料)
朝日新聞2007年12月27日
「集団自決」に「軍の関与」復活 検定意見を実質修正
沖縄戦の「集団自決」をめぐり、来春から使われる高校日本史の教科書検定で「日本軍の強制」が削除された問題で、渡海文部科学相は26日、教科書会社6社から出されていた訂正申請を承認した。「日本軍が強制した」という直接的な記述は避けつつ、「軍の関与」や「戦中の軍の教育」などによって住民が自決に追い込まれたと記しており、「集団自決が起きたのは、日本軍の行為が主たる原因」と読める内容になった。
一度検定に合格した教科書の記述に沖縄側が激しく反発したことをきっかけに異例の再審議となった。6社中5社は文科省側とやりとりしながら、訂正申請を一度取り下げたうえで、修正して再申請し承認された。文科省は、「軍の強制」を認めなかった検定意見を撤回しなかったものの、内容を事実上修正する結果となった。
渡海氏はこの日の会見で「審議経過も明らかにしており、沖縄の理解をいただきたいと思っている」と語った。一方、9月末に開かれた沖縄県民大会の実行委員長を務めた仲里利信・県議会議長も会見し、「記述の回復がほぼなされ、これまでの検定意見は自動的に消滅したと考えている」と表明した。ただし、県民大会で決議した「検定意見の撤回」が実現しなかったことには不満の声も根強く、28日に実行委員会を開いて、正式な態度表明をするという。
渡海氏は県民大会の直後、「訂正申請があれば真摯(しんし)に対応する」と表明。11月に各社から申請が出されたことを受けて、諮問機関の教科用図書検定調査審議会(検定審)に検討を要請。検定審日本史小委員会は25日に訂正申請を承認する報告をまとめた。
今回の再審議では、「日本軍が強制した」と記した訂正を認めるかどうかが焦点だった。日本史小委は、沖縄戦や軍事史の専門家9人に意見を求めたうえで、(1)集団自決が起きた状況をつくった要因として、軍の関与は主要なもの (2)軍命令で行われたことを示す根拠は確認できていない (3)住民側から見れば、自決せざるを得ないような状況に追い込まれたとも考えられる――という「基本的とらえ方」をまとめた。この方針に沿って、教科書会社に訂正申請の根拠となる資料の提出や説明を求めた。
その結果、三省堂、実教出版、清水書院、第一学習社、東京書籍の5社は訂正申請にあった「自決を強要された」「集団自害と殺し合いを強制した」といった直接的な表現を取り下げ、「日本軍の関与」「米軍の捕虜となることを許さないなど指導」との表現に変えて再申請した。山川出版社は事実関係だけで、背景や要因には触れなかった。
「強制的な状況のもとで」「『強制集団死』とする見方が出されている」といった記述も承認された。文科省は「『強制』や『強要』があれば即不合格になるのではなく、全体の文脈の中で小委が判断した」と説明している。
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