■ これからの大阪の教育がめざす方向について(答申)〜「学校力」の向上をめざして〜 平成20年7月1日 大阪府学校教育審議会
これからの大阪の教育がめざす方向について
〜「学校力」の向上をめざして〜
平成20年7月1日
大阪府学校教育審議会
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目次
はじめに
1 今後10年間に予想される社会変化
(1) 人口動向とその構造
(2) 教員の年齢構成
(3) 社会情勢
(4) 雇用環境
(5) 教育をめぐる制度
2 大阪の子どもたちにはぐくみたい「力」
3 「大阪の教育力」を高めるための3つの観点
(1) 地域に根ざす教育
(2) 違いを認め合うとともに、子ども一人ひとりの力を伸ばす教育
(3) 前向きに生きる姿勢をはぐくむ教育
4 これからの大阪の教育がめざす方向(6つの重点事項)
(1) 子どもたちの「確かな学力」をはぐくむ学校づくり
(2) 「入れる学校」から「入りたい学校」「入ってよかった学校」と
なるための府立高校の充実
(3) 障がいのある子どもの自立を支援する教育の推進
(4) 教員の力を最大限に引き出す仕組みづくり
(5) 学校の組織力向上と学校への支援強化
(6) 子どもたちの志や夢をはぐくむ教育の推進
おわりに
用語解説(略)
答申の概念図(略)
答申の概要(略)
大阪の教育をめぐる状況(略)
参考資料(略)
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はじめに
平成19年4月に実施された「全国学力・学習状況調査」(注1)の結果が同年10月に発表された。大阪の子どもたちの正答率が全国に比して低いことに注目が集まったが、調査結果から、子どもたちの学ぶ意欲、生活や家庭学習の様子など、学力の根底にある重要な課題も明らかになった。学力面だけでなく生徒指導面でも、いじめ (注2)や高校の中途退学等の深刻化、様々な支援を要する子どもの増加、子どもたちの社会性や規範意識の希薄化など、大阪の教育をめぐる課題は多い。
一方で、家庭・地域における教育力の低下や情報化の進展、子どもの安全を脅かす事象の生起など、子どもを取り巻く社会環境は大きく変化している。
また、日本全体の子どもたちの学力低下が指摘され、「ゆとり教育」(注3)の功罪についての議論が高まる中、公立学校教育に対する信頼が揺らいでいることも見逃してはならない。
府教育委員会では、平成10年5月の本審議会の「大阪府の教育の基本的な課題を踏まえたこれからの教育の在り方について(答申及び中間答申)」を踏まえて「教育改革プログラム」(注4)を策定し、これに基づく様々な教育改革が進められており、その中には、国に先駆けて取り組まれたものも少なくない。
しかし、前述のとおり、依然として残された課題や新たに生起した課題もあることから、これらに的確に対応し、公立学校教育への信頼を確かなものとすることができるかが、今問われている。
そのために必要なのは、「教育の拠点は学校である」という基本に立ち返り、学校の持つ総合的な力、すなわち「学校力」(注5)を向上させていくことに他ならない。
本審議会では、11回に及ぶ審議を重ね、上記の認識のもと、今後10年間を見通して「大阪の子どもたちにはぐくみたい『力』」を示すとともに、「『大阪の教育力』を高めるための3つの観点」を踏まえた上で、「これからの大阪の教育がめざす方向」として6つの取り組むべき重点事項を明らかにした。
本審議会としては、これらの取組みを通じて、校長の強いリーダーシップのもと大阪のすべての学校が、家庭や地域と連携して「学校力」を向上させその存在感を高め、子どもたちが将来への展望を持って活き活きと学べる状況を創り出してもらいたい。そして、公立学校教育への信頼が確立されることを切に願うものである。
1 今後10年間に予想される社会変化
これからの大阪の教育がめざす方向について検討するにあたり、今後10年間に予想される社会変化について述べる。
(1) 人口動向とその構造
大阪府の人口は、平成17年度から22年度にかけてピークを迎えた後、減少傾向となり、平成17年度からの10年間で、約880万人から約860万人へと約20万人減少する見込みである。
公立中学校卒業者は、平成17年度以降10年間は多少増減しながらも約7万人程度でほぼ横ばいの見込みであるが、15歳未満の人口は、平成17年度以降10年間で約120万人から約100万人へと約20万人減少し、一層少子化が進行する見込みである。
(2) 教員の年齢構成
府内公立小学校の教員については、大量退職とそれに伴う大量採用により、今後10年間でおよそ半数が入れ替わり、年齢構成を推計すると、40歳以上と39歳以下の比率が現在の6:4から3:7に大きく変化することが予想される。中学校、高校、支援学校 (注6)の教員についても同様の傾向が見込まれる。
(3) 社会情勢
国際化が進み、経済のグローバル化が進展するとともに、知識が基盤となる社会が本格的に到来する。また、海外で外国人と交流する中で、改めて日本や大阪の持つ歴史・伝統についての知識や多文化と共生する姿勢が必要となることが予想される。
大阪の直面する環境問題は、身近な交通環境問題やリサイクル・廃棄物問題から地球温暖化の問題まで多様化・複雑化しており、今後も持続可能な循環型社会への要請が高まることが予想される。
この10年で、インターネットや携帯電話等が急速に普及したが、次の10年はこれらの通信手段を有効に活用することが求められる。同時に、昨今、安易に携帯メール等を介して相手に意思を伝達することが多く見受けられることから、改めて、人と人とが直接的な会話を通して意思を伝えることの重要性への認識が高まると思われる。
また、「団塊の世代」の大量退職に伴い、新たな生きがいづくりとしての社会参画の機運が一層高まることが予想される。
(4) 雇用環境
近年、高い失業率、求人と求職のミスマッチの増加など、雇用環境は大きく変化している。その中にあって、若年無業者や、いわゆる「フリーター」の増加など、若年層の雇用形態や就労意識が著しく変化してきた。
今後、産業構造において、サービス産業の増大など経済のサービス化が一層進展することが予想され、非正規雇用の増大など、雇用形態がさらに多様化すると思われる。
また、少子高齢社会の到来に加え、成果主義、能力給賃金の導入など、従来の日本型雇用システムの変動に伴い、雇用環境はさらに変化するとともに、個人主導でのキャリア形成が求められる時代が到来することが予想される。
(5) 教育をめぐる制度
国においては、平成18年12月に教育基本法が改正されたほか、中央教育審議会 (注7)からは平成17年10月に「新しい時代の義務教育を創造する」、平成19年3月には「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」の答申が出され、それらを踏まえた様々な制度改正が行われてきた。
平成20年3月には小学校・中学校の新学習指導要領が告示され、小学校では平成23年度から、中学校では平成24年度から完全実施されることとなっている。高校や支援学校においても、今後、学習指導要領の改訂が予定されている。
2 大阪の子どもたちにはぐくみたい「力」
かつて大阪では、時代を先取りする進取の精神に富み、豊かな文化がはぐくまれてきた。教育の分野においても、その時代感覚や心意気が大いに活かされ、適塾や懐徳堂のような私塾を生み、幾多の有為な人材を輩出してきた。
大阪の子どもたちが、こうした歴史や伝統を受け継ぐとともに、これからの変化の激しい社会を力強く生き抜き、次代を担い得る大人になるための「力」をしっかりとはぐくんでいけるよう、以下の点を重視した取組みを進めていくべきと考える。
○基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図るとともに、学ぶ姿勢や学習習慣を身に付けさせ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動する力をはぐくむ。
○社会の形成者としての自覚と責任感を養い、公共のルールやマナーを守るなど、規範意識を身に付けさせるとともに、互いに助け合い、よりよい社会を創っていく態度をはぐくむ。
○生涯にわたって心身の健康を保ち、たくましく生きるため、基本的な生活習慣を身に付けさせ、体力を養う。
○豊かな勤労観や職業観を身に付けさせるとともに、将来の夢や目標を持ち、進路を自ら選択・決定する力や、チャレンジ精神をはぐくむ。
○生命と人権を尊重し、自分の大切さと共に他の人の大切さを認める、豊かな人間性をはぐくむ。
○自然や美への感性を磨き、自然を尊重する精神や、環境を大切にする態度をはぐくむ。
○我が国と郷土への誇りを持ち、大阪がはぐくんできた伝統と文化を尊重するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度をはぐくむ。
3 「大阪の教育力」を高めるための3つの観点
公立学校教育に求められているのは、家庭状況など子どもたちが置かれている状況や子どもたちの個性にかかわらず、すべての子どもたちの「学び」と「はぐくみ」を保障し、それぞれの力を伸ばすことである。
ここ大阪では、学校現場において競争原理に偏重するのではなく、子ども一人ひとりの教育の機会均等を図ることを大切にして教育の質的向上を図ってきた。そして、「地域性」と「多様性」をキーワードに、地域で生きる子どもたちを、地域の学校で、地域の教育力を活用しながらはぐくむとともに、すべての子どもを大切にする取組みが進められてきた。
義務教育においては、昭和20年代後半の「長期欠席・不就学」(注8)の課題を克服する取組み以降、「子ども一人ひとりを大切にする」ことを基本に、それぞれの子どもの課題や生活背景を受け止めながら、様々な教育実践が進められてきた。その理念は現在にも引き継がれ、今日的な課題であるいじめや不登校 (注9)等に対しても、子どもの状況に応じたきめ細かな指導・支援が行われている。
高校教育においても、中途退学等の教育課題に対し、生徒の課題や生活背景を踏まえた指導が行われてきた。また、生徒の多様なニーズに応え、特色づくりが進められてきた。
支援教育では、障がいのある子どもたちと障がいのない子どもたちが地域の学校で「ともに学び、ともに育つ」取組みが推進されてきた。加えて、知的障がいのある生徒の高校への受け入れなど、子どもが互いの違いを認め合いながらともに成長することをめざした取組みも進められてきた。
この「地域性」と「多様性」という、これまでの大阪の教育が大切にしてきた理念については、これからも継承・発展させていく必要がある。
一方、全国の状況と比べ、自尊感情 (注10)や進取の精神が低い傾向にあるという大阪の子どもたちの課題を踏まえ、すべての子どもたちに、社会の担い手として自立して前向きに生きる姿勢をはぐくむことが不可欠である。
今後、「地域性」と「多様性」に加え、子どもたちに前向きに生きる姿勢をはぐくむことを重視した次の3つの観点から「大阪の教育力」を高めていかなければならない。
(1) 地域に根ざす教育
子どもは学校だけでなく、家庭や地域の中でも日々成長する。家族や同級生だけでなく、それ以外の大人や子どもと幅広く交流し、関わりを持つことを通じて様々な能力を身に付ける。また、学校が地域とのつながりを深めることによって相互の信頼が強化され、学校教育は充実する。
したがって、これまで以上に学校・家庭・地域が一体となって子どもをはぐくむ取組みを進めていく必要がある。
(2) 違いを認め合うとともに、子ども一人ひとりの力を伸ばす教育
障がいのある子どもをはじめ、一人ひとりの個性に応じてその力を最大限に伸ばすとともに、他の人を大切にする気持ちや社会性を培うことが重要である。あわせて、様々な立場の人々が、互いの存在や考えを認め合い、関わり合いながら、ともに生きていく態度を身に付けることが大切である。
そのためには、基礎的・基本的な知識・技能を大切にしつつ多様な学びを可能にする教育内容や指導体制を確立するとともに、互いの個性を認め合う学びの場づくりを進めていく必要がある。
(3) 前向きに生きる姿勢をはぐくむ教育
子どもが自立して自らの進路を切り拓き、社会の形成者として社会に貢献する力を育成することが重要である。
そのため、知・徳・体のバランスとともに、未来に向けた志や夢をはぐくむ教育を推進していくことが求められる。
4 これからの大阪の教育がめざす方向(6つの重点事項)
府教育委員会では、平成11年度以降、「教育改革プログラム」や「義務教育活性化推進方策」(注11)などに基づき、様々な教育改革の取組みが進められてきた。その中には、スクールカウンセラー (注12)やスクールソーシャルワーカー (注13)の配置など、いじめや不登校に対する取組みや新たな職の設置による学校運営の改善等、国に先駆けて取り組まれてきたものも多い。
一方で、再編整備の対象となっていない普通科 (注14)高校の教育条件の整備、支援学校の教育環境の充実などの残された課題や「全国学力・学習状況調査」から明らかになった学力問題、経験の少ない教員の大幅な増加など新たに生起した課題もある。
大阪の教育を発展させていくためには、これまでの取組みを踏まえつつ、子どもを取り巻く状況の変化や残された課題、新たに生起した課題に的確に対応し、子どもたちが日々学び育つ場である学校の持つ総合的な力、すなわち「学校力」を高めていかなければならない。
本答申では、これからの大阪の教育がめざす方向として、校種ごとの(1)〜(3)の事項、それらを支える人や組織に関する(4)(5)の事項、教育を受ける主体である子どもに焦点をあてた(6)の事項の6つを重点事項として示した。
これら6つの事項が互いに関わりあいながら、大阪の「学校力」を向上させていくものである。
(1)「子どもたちの『確かな学力』をはぐくむ学校づくり」
(2)「『入れる学校』から『入りたい学校』『入ってよかった学校』となるための府立高校の充実」
(3)「障がいのある子どもの自立を支援する教育の推進」
(4)「教員の力を最大限に引き出す仕組みづくり」
(5)「学校の組織力向上と学校への支援強化」
(6)「子どもたちの志や夢をはぐくむ教育の推進」
(1) 子どもたちの「確かな学力」をはぐくむ学校づくり
小・中学校の教育を通じ、子どもたち一人ひとりに自立して社会で生きていく力の基礎を育て、多くの人々とともにより良い社会を築いていくために必要な基本的資質を養うことは極めて重要である。とりわけ、学力を身に付けることは、「知識基盤社会」と言われる時代において、子どもたちが幸せになる礎となるものであり、その確実な定着を図ることが必要である。
平成19年度に実施された「全国学力・学習状況調査」等では、大阪の子どもたちが全国に比して正答率が低いこと、無回答率が高いこと等の課題が明らかになった。
学力については、点数で測れる学力はもちろんのこと、測れない学力も大切であり、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに、子どもたちの意欲・関心・態度などを育てることが重要である。
そのため、学力向上に向けては授業改善や学習習慣の定着等の取組みに加え、安心して学べる学習環境づくりや生徒指導など、学校としての総合的な取組みにより学力をはぐくむ「学校力」を高めることが必要である。
また、学校内の取組みに加えて、家庭や地域との連携、校種間の連携も欠かすことができない。さらに、学校教育活動の活性化のためには、学校規模の適正化も望まれるところである。
ア 子どもたちに身に付けさせたい学力
子どもたちは、変化する社会の中で学び、育ち、大人になっていく。
その中で必要な学力とは、応用できる力、活用できる力である。したがって、基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力とあわせて、自ら学ぶ意欲・態度が身に付くよう、総合的に取り組んでいくことが必要である。
また、共生社会の基盤となる豊かな人間性やコミュニケーション能力、たくましく生きていくための健康・体力も、総じて「生きる力」(注15)としてとらえて身に付けさせることや、情報社会に鑑み、ITを活用する能力を習得させることも必要である。
さらに、大阪ならではの視点として、ものづくりのまちという特徴を踏まえ、子どもたちの創造力や探究心をはぐくむ活動を重視することや、人権教育の蓄積を活かし、すべての子どもの能力を最大限に伸ばしていく取組みを充実させることが重要である。
イ 学力向上のための総合的な取組み
(ア) 組織的な取組み
学校が子どもの学力や生活の実態を把握し、学校の課題と目標を明確にした上で、組織的に学力向上に向けた取組みを進めていかなければならない。
(イ) 授業改善
各学校においては、日々の授業の中で、子どもの学ぶ意欲・関心・態度をはぐくんでいけるよう、少人数指導・習熟度別指導をはじめ、個に応じた指導方法の工夫・改善を図ることが重要である。
あわせて、授業評価(注16)を取り入れながら、学校全体で授業改善に計画的に取り組むことが必要である。
高校においては、小・中学校での学習成果を踏まえ、多様化する生徒の状況に対応した授業改善を行うことが求められる。
(ウ) 学ぶ意欲の育成
学ぶ意欲をはぐくむためには、子どもたちが互いに学びあい、高めあう「学級づくり」や「集団づくり」が不可欠である。
また、学ぶこと、働くこと、自分らしく生きることの大切さを理解し、自己肯定感 (注17)や勤労観・職業観をはぐくむことができるよう、小学校から子どもの発達段階に応じた系統的・継続的なキャリア教育 (注18)・進路指導を推進する必要がある。
(エ) 学ぶ態度を支える生徒指導
安心して学べる、落ち着いた学習環境を醸成するとともに、子どもが自ら規律やルールを守り、自律する力を伸ばす生徒指導に取り組む必要がある。特に、中学1年生で急激に増加する暴力行為 (注19)・いじめなどの問題行動や不登校等の課題に対応するためには、小学校・中学校の連携、外部人材の活用はもとより、子ども自身の問題解決能力の育成が不可欠である。
また、インターネット及び携帯電話の普及による新たな課題に対しても、子どもが被害者にも加害者にもならないよう、啓発や子ども自身が対処できる力の育成などに取り組んでいかなければならない。
(オ) 読書習慣の育成
平成19年度の「全国学力・学習状況調査」において、全国に比して大阪の子どもたちの読書量の少なさが明らかになり、そのことが読解力にも関連していると指摘されている。そのため、魅力ある学校図書館づくりを進めるとともに、「朝の読書」等の全校一斉の読書活動など、本に親しむ環境づくりを通して、子どもたちに読書習慣を身に付けさせる取組みを進めていくべきである。
(カ) 保・幼・小・中・高の連携
進学に際し、子どもたちが異なる校種間を円滑に移行できるよう、各校種における教育内容や生活指導などについて、十分に情報交換をするなど、様々な交流や連携を進めることが重要である。
ウ 家庭、地域と連携した取組み
「確かな学力」の基盤をなす基本的な生活習慣や規範意識を身に付けさせ、他人への思いやり等をはぐくむためには、学校・家庭・地域が協働して取組みを進めることが重要である。
また、家庭状況と子どもの学力は関連していることも踏まえ、行政の福祉部門からの働きかけも含めて、支援を要する家庭を支えていくことが大切である。
子どもたちが「なりたい大人像」を持つ機会を創出し、チャレンジ精神や真摯な態度をはぐくむためには、色々な人々と出会い、様々な場を経験することが必要である。そのため、保護者や学生、地域ボランティアなどの外部人材を積極的に活用することが求められる。
エ 学校の適正規模
平成10年度の本審議会答申において、「小学校は少なくとも1学年各2学級、中学校は同様に1学年各4学級程度の規模が望ましい」としたところであるが、学校教育活動の活性化や子どもたちの学習環境の整備といった観点から、改めて望ましい学校規模について確認する必要がある。
今後、大阪府では15歳未満の人口の減少が予測されるとともに、学校の耐震化に向けた相当額の投資が必要とされる状況を踏まえると、小規模の小学校や中学校の統廃合も含め、地域の実情に応じた学校の適正規模の確保に努めていく必要がある。
(2)「入れる学校」から「入りたい学校」「入ってよかった学校」となるための府立高校の充実
高校進学率が97%を上回り、生徒の実態や保護者のニーズが多様化する中、府立高校には、幅広いニーズに応え、就職や進学など多様な進路選択を実現するための機関として、ますます高い期待が寄せられている。
このような期待に応えるため、府立高校はすべての高校生に、将来、責任ある社会人として自立していくために必要な基礎的・基本的な知識・技能、規範意識等を確実に身に付けさせ、進路実現の力をはぐくむ必要がある。また、真に必要なもの(Need)と単なる欲求(Want)を峻別しつつ、生徒一人ひとりの個性を伸ばす多様な教育を展開していくことが求められている。
今後はさらに、「卓越性(Excellence)」つまり生徒のもつ能力を最大限に伸ばすことと、「公平性(Equity)」すなわち全体としての教育達成度の引き上げを高い水準で両立させることができるよう、すべての学校が個性化を図り、それぞれの学校が、「入りたい学校」から、さらに、入学した生徒にとって「入ってよかった学校」となるよう、府立高校全体の教育の質の向上を図っていくことが必要である。
ア 特色づくり・再編整備の成果と課題を踏まえた府立高校の充実
再編整備対象校については、改革の進捗状況を点検・評価し、改革の理念の実現をめざした取組みを進めていくことが求められる。
また、再編整備の対象となっていない学校については、地域性を活かした特色ある学校づくりを支援するなど、活性化方策を講じるとともに、平成19年度の通学区域の改正を踏まえ、一層幅広い学校選択を可能とする施策について検討することが求められる。
学校の適正規模については、スケールメリットを活かした部活動や学校行事の活性化、機動的な生徒指導体制の確立など、各学校の教育活動の充実・活性化の観点から、一定の弾力化が求められる。特に1学年8学級を基準としている普通科については、6〜10学級程度と弾力的に運用することを検討する必要がある。
一層幅広い学校選択を可能とする観点からは、各通学区域に特色ある専門学科や専門コース等をバランスよく整備することなどについて検討することが必要である。
入学者選抜制度については、全日制の課程の募集人員に対する前期選抜の比率が約37%となっており、中学3年生の教育活動や進路指導への影響といった観点からも、選抜制度のあり方について早急に検討を進めていくことが求められる。
イ 幅広いニーズに応える学校づくり
府立高校については、高校生としての基礎的な学力を保障することを前提として、多様な学習と幅広い進路選択を可能とする特色づくりを進めることが求められており、特にエル・ハイスクール (注20)事業等の成果を踏まえ、次代をリードする人材の育成を図ることが重要である。
再編整備の対象となっていない普通科や、中途退学、不登校等の課題が集中している学校に対しては、中途退学等の課題の解決を通して、責任ある社会人を育成するという本来の目的を達成できるよう、教育条件の整備や支援を積極的に進める必要がある。
今後、普通科を含め、すべての学校が自校の状況を踏まえた特色づくりの定着と充実を図るため、必要な取組みを企画・提案し、府教育委員会が評価・支援していくことが必要となってくる。
また、生徒の一部には、結果として自分の個性や学びのスタイルと学校の選択がミスマッチを起こしていたり、学ぶことに主体的に取り組めていない状況があることから、特色づくりの内容について、生徒や保護者へ分かりやすく情報提供することに留意しなければならない。
幅広いニーズに応える特色づくりにおいては、そのニーズの妥当性を見極めた上で、生徒の進路保障や豊かな職業観の育成という観点で特色づくりのメニューを設定する必要がある。あわせて、特色づくりの成功事例を広く発信するなど、府立高校全体の教育の質の向上につなげていくことが重要となる。
中高一貫教育 (注21)については、能勢地域における連携型の取組みが成果を上げていることから、今後、教育内容をさらに充実させ、他の地域においても展開を図っていくことが望ましい。
大学等高等教育機関との連携については、生徒の目的意識の高揚とともに、後期中等教育の深化と活性化を図り、高等教育との円滑な接続を進める観点から推進していくべきである。
ウ 生徒の「自立・自己実現」の支援
自己の生き方やあり方、社会人として自立していくために必要な基礎的・基本的な知識・技能、規範意識等を身に付けさせるため、すべての学校でキャリア教育を推進していくことが必要である。
高校は、知識・技能の習得を目的とする学びの場であるとともに、社会性や自尊感情、自己肯定感をはぐくむ場でもある。各学校においては、それぞれの生徒の状況に応じて、小・中学校や支援学校、福祉関係諸機関等との連携のもと、学校外の教育力の活用を図りながら、生徒を支援するための取組みを充実させていく必要がある。また、勤労観・職業観を育成することに重点を置いた専門コースの設置等についても工夫を図っていくことが大切である。
なお、通信制の課程 (注22)については、多様な学習機会を提供するという重要な役割があることから、今後ともその役割を果たすための工夫が求められる。
(3) 障がいのある子どもの自立を支援する教育の推進
近年、障がいのある幼児・児童・生徒数の増加や障がいの重度・重複化、多様化など、障がいのある子どもを取り巻く状況は大きく変化している。
その中で、障がいのある子どもが、地域の学校や支援学校など、多様な選択肢の中でのびのびと学習できる環境の充実が求められており、これまで進めてきた「ともに学び、ともに育つ」教育を推進する必要がある。
あわせて、障がいのある子どもが、将来、地域社会の中で自立し、活き活きと暮らしていくためには、一人ひとりのニーズに応じたきめ細かな指導や、生涯にわたって一貫した支援を行うことが求められており、個に応じ、将来を見すえた教育を推進していく必要がある。
さらに、支援教育の推進にあたっては、福祉や医療、労働等の関係機関と連携し、幼児期から卒業後までを見通した「個別の教育支援計画」(注23)、「個別の指導計画」(注24)を策定し、効果的に活用するなど、就労をはじめ、障がいのある子どもの社会的自立を支援する教育の充実が重要である。
ア 知的障がい支援学校等の教育環境の充実
平成4年度の本審議会の答申で、児童・生徒数150〜200人程度の規模で学校を整備していくことが妥当とした。ソフト面での充実などが行われており、この規模を超えれば直ちに対応が必要であるとは考えないが、150〜200人程度の規模を大きく上回っている学校については、教室不足による学習指導上の課題や、教員数の増による管理上の課題等を踏まえた教育環境の充実が求められていることから、速やかに対応をするべきである。その際には、現在の学校の施設規模をはじめ、学習指導や学校運営などの諸条件を勘案し、新たな学校の設置も視野に入れ、適切に対応する必要がある。
また、通学バスの運行に関しては、バス通学をしている児童・生徒の約1割が乗車時間の目標である60分を上回っているため、バスの増車や運行経路の見直し等、乗車時間の短縮のための対策が必要である。
あわせて、高等部を卒業した知的障がいのある生徒の就職状況は、全国と比して約10ポイント低いという状況にある。そのため、高等部生徒の卒業後における社会的自立に向け、生徒一人ひとりの生涯を見すえ、本人や保護者の就労に関するニーズを把握するとともに、社会のニーズや大阪の産業特性を踏まえ、地域や企業と連携したカリキュラム編成、職業コース・学科の設置等を進める必要がある。さらに、就職後においても、卒業生や企業が相談しやすい体制を整備することが求められる。
府立たまがわ高等支援学校のような就労を通じた社会的自立をめざす学校については、生徒や保護者のニーズが高く、進路選択肢の多様化という観点からも、今後、高校の通学区域を踏まえるなど地域バランスを考慮しながら、計画的に配置していくことが必要である。
イ 知的障がいのある生徒の高校における学習機会の充実
自立支援推進校 (注25)や共生推進モデル校 (注26)の取組みについては、社会性の向上や自立心の高まりなどの成果を上げているほか、志願倍率も高いことから、今後とも成果や課題を検証し、地域バランスを考慮するとともに、高校と支援学校との連携を図りながら、高校における学習機会の充実を図っていくべきである。
ウ 義務教育における「ともに学び、ともに育つ」教育の推進
すべての小・中学校で「ともに学び、ともに育つ」教育が推進されるよう、看護師や非常勤講師の配置などの充実が求められている。また、市町村教育委員会においては、小・中学校での支援教育の現状やニーズを集約・分析し、必要に応じて、支援学校が行う教育相談等に的確につないでいくことが重要となる。
さらに、すべての教員に対し、支援教育に関する研修の充実を図るとともに、学校全体として「ともに学び、ともに育つ」教育の推進に取り組む必要があることから、障がいのある子どもと障がいのない子どもがともに学ぶことができるよう、支援学級 (注27)の教室配置にも十分配慮し、子どもたちの交流を促進することが必要である。
エ 府立支援学校のセンター的機能の発揮
支援学校については、小・中学校、高校等からの要請に的確に応えられるよう、教員の専門性の向上や校内体制の整備・充実、地域支援にあたる教員が活動しやすい環境の充実が求められる。
オ 一人ひとりのニーズに応じた教育の充実
支援学校のみならず、小・中学校、高校等においても、必要とされるすべての子どもについて、幼児期から卒業後までを見通した「個別の教育支援計画」、「個別の指導計画」が策定され、効果的に活用されるべきである。
とりわけ「個別の教育支援計画」については、進学や転学に際しても一貫性のある教育が適切に行われる必要があることから、福祉や医療、労働等の関係機関と連携し、一人ひとりの子どものニーズに応じた必要な支援をその都度検討し、活用を図ることが重要である。
小・中学校については、「個別の教育支援計画」の策定・活用状況が30%台であることから、必要とされるすべての子どもについて、計画が早期に策定・活用されるよう支援が求められている。
(4) 教員の力を最大限に引き出す仕組みづくり
「学校力」を高めるためには、教員の力を向上させるとともに、その力が最大限に発揮されるような仕組みづくりが重要となってくる。
現在、大阪府では、かつて大量採用された教員の定年退職時期を迎えており、府内の公立学校の教員は50歳以上が半数を占める状況にある。今後10年間を見通すと、教員の半分は新たな人材となり、校長や教頭といった管理職もそのほとんどが入れ替わり、年齢構成が大きく若返ることが見込まれている。
来る10年間は大阪の公立学校が新たな人材を得て、新しい学校づくりが始まる変革の時代である。大量採用が続く中でどのようにして熱意ある優秀な人材を確保していくのか、その前提として教員をめざす者を増やすにはどうすればいいのか。また、ベテラン教員がこれまでの教育活動の中で培ってきた豊富な経験を、経験の少ない教員にどのように伝え指導・育成していくのか。さらに、学校運営の中核となるミドルリーダーをどのように育てていくのか、新しい時代の学校を支える管理職にどのような使命を与え、ビジョンを描かせるのか、そのためのキャリア形成をどうするのかなど、克服すべき課題は多い。
今後、大阪の教育がこの変革の時代を乗り切っていくためには、これまで大学が担っていた教員の養成段階に踏み込み、教員採用につなげ、その後の指導・育成、キャリア形成に至る一貫したシステムの構築が必要であり、府教育委員会としての果敢な取組みが求められている。
ア 経験の少ない教員への指導・育成
教員の大量退職・大量採用により、とりわけ経験の少ない教員に対する支援など、府教育センターの機能を強化することが必要である。また、必要に応じて民間の研修機関等と連携を図ることも効果的である。
学校においては、日常の教育活動におけるOJT (注28)や校内研修の体制づくりの充実を図るため、校長がリーダーシップを発揮し、首席 (注29)や指導教諭 (注30)の有効な活用などに組織的に取り組んでいくことが必要である。
人事異動については、異動による教員のキャリア形成や能力向上が計画的に図られるような人事システムの構築が必要であることから、教員の適性に配慮した適材適所の配置や、積極的な人事交流により多様な職場を経験することで教員の資質向上に結びつけるなどの取組みが進められるべきである。
イ 将来を担う管理職の養成
教員の年齢構成の変化により管理職候補者が大幅に減少するため、若い年齢層から管理職へ思い切った登用を図ることが必要となることから、早い時期から将来の管理職候補者として、管理職に必要な資質とスキルを育成していくことが重要である。
また、行政経験者を含む民間人の管理職登用についての仕組みは整備されているが、さらなる活用を図っていくことが望まれる。
今後、管理職に求められる資質とスキルを明確化し、「評価・育成システム」(注31)の有効活用や管理職研修などにより、その向上を図っていかなければならない。
ウ 熱意ある教員の確保
熱意ある教員を採用するためには、教員採用選考について工夫を積み重ねていくことが不可欠である。
大阪の教育の魅力をPRしたり、教員をめざす学生が実践的指導力を身に付けるとともに教員としてのやりがいを感じてもらえるような方策を講じる必要がある。教員をめざす学生を対象とした教員養成講座の開設など、大学教育への影響に配慮しつつも、意欲的な学生を採用試験の受験に結びつける取組みが進められるべきである。また、一旦教職を離れた人が再び教職に戻りやすいような工夫も必要である。
教員採用選考についても、従来から実施している社会人経験者や現職教諭を対象とした選考などのさらなる活用に努めるとともに、選考方法の工夫を行なうことにより、大阪府における教員の年齢構成の著しい不均衡の是正を図っていくことが求められている。
エ 授業力の向上
授業力は、子どもたちに「確かな学力」を身に付けさせるためにも、教員に求められる最も基幹的な資質・能力であり、この力を向上させるため、学校は子どもたちの実態を踏まえつつ、子どもにはぐくみたい力・身に付けさせたい力を学校の教育目標に明確に位置づけ、目標達成に向け組織的に取り組まなければならない。その際、日々の教育活動の中で教員が「同僚性」(注32)を高め、授業力の向上につなげていくことが大切である。
あわせて、指導教諭を活用して模範授業を行ったり、学校教育目標に沿った授業評価軸を学校単位で確立し、学校運営改善の一環として「授業評価システム」を構築していくことも必要となる。
また、府教育センターにおける「カリキュラムNAViプラザ」(注33)等を活用して、教員の自主的な研修を支援していくことが求められる。
オ 指導が不適切な教員への対応
指導が不適切な教員に対しては、まず、学校内での指導・研修が実施されることとなるが、その効果が見られないと判断される場合には、速やかに校外の指導改善研修に移行すべきである。その際には、校長が逡巡せず毅然と決断できるよう、校長に対する教育委員会としての支援方策を構築することが不可欠である。
また、当該教員が研修終了後においてもなお指導が不適切と認定される場合については、分限免職などの対応も可能となっていることから、教育委員会として厳格に対応していくべきである。
カ 「がんばっている」教員への応援
「評価・育成システム」の本来の目的は、教職員の資質・能力の向上と学校の活性化であるが、教育活動に意欲的に取り組み、他の教員の模範となるような、いわゆる「がんばっている」教員への応援にも資するものである。
教員が学校の組織目標を踏まえて自己目標を設定することは非常に重要であり、このシステムにおいてもそういったプロセスが明確に位置づけられていることからも、「評価・育成システム」等をさらに積極的かつ有効に活用しながら、「がんばっている」教員への応援方策を講じていくことが望まれる。
(5) 学校の組織力向上と学校への支援強化
学校が子どもたちにとって魅力あふれる場となり、保護者や地域、府民の信頼に応えるためには、教職員が子どもと向き合う時間を確保するとともに、学校の自主性、自律性を高めていくことが必要である。
そのためには、各学校において校長が自らの使命とビジョンを明確に掲げるとともに、校長の経営力とリーダーシップを向上させることが重要である。また、校長と志を共有した教職員が一丸となって教育活動に取り組み、互いに研鑽し、その力を最大限に発揮できるよう、学校の組織力を向上させなければならない。
その際には、学校運営の改善のために行う「学校評価」(注34)がより実効性のあるものとなるよう工夫・改善することが求められる。さらに、困難な課題の解決に向け、外部人材との連携や、課題に即応したチームによる支援方策が確立されるべきである。
あわせて、それを支える教育委員会の体制づくりを行うことが求められる。
ア 学校の組織的な運営と自立的取組みの支援
学校が組織的に機能していくためには、学校組織として教育目標を掲げ、その実現に努めることが必要であり、校長の適切なリーダーシップのもと、首席や指導教諭の活用、ミドルリーダーの育成、教員の学校組織運営への参画意欲を高めていくことが求められる。その具体的な方策としては、これまで全国に先駆けて、「学校教育自己診断」(注35)と「学校協議会」(注36)を関連させながら進めてきた「学校評価」を充実させるとともに、教育委員会が行う様々な支援と連動させながら、学校運営の改善と発展を図っていくことなどが考えられる。
その際、教職員としての「同僚性」を高め、「まとまりがあり、気持ちのそろった教職員集団」を形成することが重要である。
一方、校長が学校経営ビジョンを掲げ、リーダーシップを発揮しながら、教員とともに教育目標の実現に取り組めるよう、教育委員会は予算や人材を確保するなど自立的取組みを支援する方策を講じるべきである。
イ チームによる支援
学校が子どもたちの「学び」と「はぐくみ」を保障するためには、学校の組織力の向上とともに、学校外の専門家等との連携を強め、学校全体として子どもを支援する「学校力」を高めていくことが重要である。
学校経営に関する事項や、保護者対応等において学校のみでは解決が困難な事象及びいじめ・不登校・暴力行為等の諸課題に対しては、専門性を有する外部人材、関係諸機関等と教育委員会が連携したチームによる学校への支援が効果的であり、その充実が喫緊の課題となっている。
ウ 専門家等を活用した心のケアシステム
生徒指導上の課題に対応するため、教員が主体的に取り組むとともに、専門家等の外部人材を有効に活用した子ども及び保護者に対する支援が必要である。
そのため、未然防止の観点も踏まえ、臨床心理士 (注37)・社会福祉士 (注38)・弁護士・医師(精神科、心療内科、小児科)等の専門家及び関係諸機関と学校との円滑かつ有効な連携(ネットワーク)と協働(コラボレーション)による、心のケアのためのシステムと教育相談体制を充実させるべきである。
エ 校務の効率化
教職員が子どもと向き合う時間を確保するためには、早急に必要なIT機器を整備し、それらを活用して情報の共有化を進めるとともに、現在モデル的に実施している学校事務の共同実施の成果も踏まえ、校務のあり方の見直しと効率化を図っていく必要がある。
あわせて、教職員がIT機器を活用できるよう、大学等とも連携して、ITに関する知識・スキルの習得の機会を設けることが求められる。
オ 地域に開かれ、地域に根ざした学校づくり
学校は、保護者や地域に信頼され、地域の子どもの「学び」と「はぐくみ」を保障する場であることを期待されている。また、保護者や地域の人々が学校の教育活動について十分に理解を深めるとともに、その意見が学校運営に反映されることが大切である。
そのため、学校はビジョンや教育目標を明確に示して自己評価、外部評価を進め、学校運営の改善につなげるとともに、学校の情報を効果的に発信していくことが重要である。
また、学校は、保護者はもちろんのこと、教育委員会や行政機関、企業や地域の人々と教育活動を通じて連携することにより、学校を核として地域が結びつき活性化するような取組みを進める必要がある。その際、学校がこれらの機関や様々な立場の人々をコーディネートすることが求められる。
(6) 子どもたちの志や夢をはぐくむ教育の推進
都市化、少子化が進展する中で、家庭の教育力が低下し、地域のつながりも希薄化していることが指摘されている。また、公共のルールやマナーを守らない大人の増加や、モラルの低下を指摘する声があり、社会を構成する一人ひとりに、自ら果たすべき責任の自覚や正義感、志などが欠けるようになってきているのではないかと懸念する意見もある。
同様に、子どもたちの規範意識や他者とのコミュニケーション能力の低下、社会への関心の低さも指摘されている。
今後、社会の構成員一人ひとりが規範意識や公共の精神、高い倫理観を持ち、主体的に行動する社会を築いていくためには、次代を担う子どもたちがよりよい社会を創っていくという志を持ち、人として充実した人生を送るために必要な夢をはぐくむ教育を推進していくことが重要である。
ア 様々な機会を通した取組み
子どもたちの学ぶ意欲や自己肯定感の育成に向けて、授業や道徳、特別活動など様々な教育機会を通じ、自他の命を大切にする心や豊かな情操、規範意識、公共の精神などとともに、志や夢を持ち、理想の実現に向かって生きる力をはぐくむことが求められている。
子どもが将来自立した大人として生きていく力を身に付けるためには、キャリア教育と関連させながら、人間関係形成能力や情報活用能力、将来設計能力、意志決定能力などの力や、社会人・職業人としての基礎的な態度・資質の育成が必要となる。
体験活動についても、他者に対する思いやりや自然に対する畏敬の念、環境を大切にする態度をはぐくむという点で極めて重要であり、子どもたちが夢や憧れを持つ大人と出会い、今の自分の生き方を考え、人としての生き方を学ぶ取組みを進めていくべきである。
イ 子どもの成長過程に応じた取組み
小学校中学年までの幼児・児童については、体験活動等を通して、人として生きるための善悪の判断やルールを守ることの大切さを指導することが重要である。
小学校高学年や中学校においては、児童・生徒自らが学校や学級のルールを作り、そのルールを守るといった自主的・主体的な姿勢をはぐくむとともに、学校があいさつ、時間厳守など重点的な目標を定め、その指導の徹底を図ることが必要である。
高校においては、生徒が近い将来に社会人として自立していく段階であることを十分認識し、生徒が規範意識やマナーを身に付け、「確かな学力」を基盤として、社会の構成員としての義務を果たすとともに、自らより良い社会を創ろうとする態度を身に付けるなど、志や夢をはぐくむ教育を系統的に推進するべきである。
また、基本的な生活習慣を定着させ、豊かな情操をはぐくむためには、家庭の教育力の向上が不可欠である。近年、親に対する「親学」といった取組みが進められているが、将来の親となる児童・生徒に対する「親まなび」(注39)の機会を提供することは非常に有効である。
ウ 学校と地域の協働による社会全体での取組み
子どもたちは、学校だけでなく家庭や地域、さらには社会の風潮等からも大きな影響を受ける。
子どもたちに生命の大切さや他者を思いやる気持ち、感謝や努力など豊かな心をはぐくむとともに、社会の構成員として必要な規範意識を身に付けさせるためには、身近な大人が、自分自身を見つめなおし、子どもたちに関わっていくことが重要である。
近年、地域の大人や異年齢の子どもたちと交流する機会が減少しつつあることから、学校においては異なる校種間も含めた異年齢交流を推進するとともに、地域の人々とともに取り組める教育活動を進めるべきである。
一方、地域の側にも、学校と協働した取組みに積極的に参画し、「地域の子どもは地域が育てる」という意識改革につなげ、主体的に子どもに関わっていこうという気運を醸成していくことが望まれる。
エ 読書活動
子どもたちが読書を好きになるためには、小さい頃から、発達段階に応じて、心に響くような読書を推進していくことが重要であり、学校での一斉読書の取組みなど、読書の楽しさと出会う機会を設定していくべきである。
また、学校と地域や図書館等との連携を深めていくことが大切である。
おわりに
本審議会としてここまで、「学校力」を向上させ、公立学校教育への信頼を確かなものとするために取り組むべき重点事項について言及してきた。
教育は「国家百年の計」と言われる。同じく、将来の大阪を担う子どもたちの教育は「大阪創造百年の計」である。たとえ財政難の中にあっても、今の子どもたちへ必要な教育条件を整えることは、言わば未来への投資であり、必ず実を結び大阪の貴重な財産となる。逆に、今、それを怠ることは、大阪の未来に「負債」を残すことに他ならない。
世界を見ても、グローバル化の進展の中で、地球温暖化、エネルギー問題、食糧問題など、様々な課題が生起している。こうした中、日本が世界において果たすべき役割を担っていくためには、何よりも人材の育成が必要であり、そのためには教育の充実が不可欠である。世界で活躍しうる人材をここ大阪から輩出するという気概を持ち、思い切った取組みを進めるべきである。
本審議会として「これからの大阪の教育がめざす方向について」答申するにあたり、教育の重要性を改めてここに強く表明する。
今回、答申として取りまとめた内容を十分に踏まえ、今後、府教育委員会において、大阪における「学校力」を向上させ、公立学校教育への信頼を確かなものとするため、「大阪の教育ビジョン」(仮称)を策定し、全国のモデルとなるような新たな教育への取組みを進められることを切に望む。
また、この答申は、府教育委員会に対して行うものであるが、府民の方々にも是非読んでいただきたい。そして、大阪の公立学校教育がどうあるべきか、府民一人ひとりが大阪の教育に対してどのように関わるべきかについて、ともに考える契機としていただきたい。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会