■ 国家神道についての指令 昭和20年12月15日 連合国軍最高司令官総司令部



昭和二十年十二月十五日

国家神道についての指令


1 国家が定めた宗教と祭りを、直接間接に強いられて、信仰させられたり信仰していると言わされたりすることから、日本国民を解放するために、
 戦争のつみと敗戦と苦しみと貧しさとひどい現状をもたらした考えに対して、強いられて金を出し助けてきた財政上の負担を、日本国民から取り除くために、
日本国民をだまして侵略戦争を起させた軍国主義と極端な国家主義をひろめるのに、神道の教えと信仰をゆがめて利用することが、再び起らないようにするために、
日本国民がその国民生活を一新して、永久の平和と民主主義との理想にもとづく新しい日本を打ち建てるのを助けてやるために、
次のように指令する。
a 日本政府・府県・市町村と官公吏・雇傭員が、公の資格で、神道を護ってやり助けてやり保ってやり取りしまりひろめてはならない。また、そうした行いは今すぐやめよ。
b 神道と神社に対して、公の金で助けたり、公と特別の関係を持たせてはならない。また、そうした行いは今すぐやめよ。
(1)公地や公園にある神社に対して、公の金で助けてはならないが、神社の立っている土地に対して日本政府が助けを続けてはならないという意味ではない。
(2)今まで少しでも公の金で助けられてきたすべての神社に対しては、自発的で、強いられたり気のすすまない寄付でないかぎり、個人的に財政を助けてもよろしい。
c 神道の教え、慣習・祭り・式・礼式ばかりでなく、他の宗教・信仰・宗派・信条・哲学の教え・慣習・祭り・式・礼式においても、軍国主義の考えと極端な国家主義の考えをひろめてはならない。また、そうした行いは今すぐやめよ。
d 伊勢神宮・国立の神社・その他の神社の祭りについての命令は廃止する。
e 内務省の神祇院を廃止して、その働き・務め・行政上の責任は、他のどんな政府機関も公の機関も、受けついではならない。
f 神道のことを調べたりひろめたり、神官をつくることを第一の役目とする、すべての公の教育機関は廃止し、その不動産は他に用いよ。それらの働き・務め・行政上の責任は、他のどんな政府機関も公の機関も、受けついではならない。
g 神道のことを調べたりひろめたり、神官をつくるための私立の教育機関は認める。そして政府と特別の関係のない教育機関と同じ特権を与え、同じように取りしまる。けれども、どんなことがあっても、公の金で助けられてはならないし、軍国主義の考えと極端な国家主義の考えをひろめてはならない。
h 少しでも公の金によって保たれているすべての教育機関においては、どんな形式であろうと、どんな方法であろうと、神道の教えをひろめてはならない。また、そうした行いは今すぐやめよ。
(1)少しでも公の金によって保たれているすべての教育機関において、現在用いている教師用参考書と教科書は、取り調べた上で、神道の教えはすべて取り除く。今後このような教育機関において用いるために出されるすべての教師用参考書と教科書には、神道の考えを入れてはならない。
(2)少しでも公の金によって保たれている教育機関において、神社に参拝したり、神道と関係のある祭り・慣習・式を行ったり助けたりしてはならない。
i 政府は「国体の本義」・「臣民の道」や神道についての公の書物・論評・解説・訓令を出してはならない。
j 公の文書において、「大東亜戦争」・「八紘一宇」その他日本語として国家神道・軍国主義・極端な国家主義と深い関係のある言葉を用いてはならない。また、そうした行いは今すぐやめよ。
k 少しでも公の金で保たれている役所・学校・機関・国体・建物の中に、神棚やその他国家神道を表す物を設けてはならない。また、そうした物は今すぐ取り払わなければならない。
l 官吏・雇傭員・学生・一般の人・日本居住者が、神道であろうと他の宗教であろうと、これを信仰しなかったり信仰していると言わなかったり、その慣習・祭り・式・礼式に加わらなかったために、区別して扱ってはならない。
m 政府・府県・市町村の官公吏が、公の資格で、新任の報告をするため、政治の現状を報告するため、役所の代表として式や礼式に加わるために、神社に参拝してはならない。

2 a この指令は、宗教を国家から引き離し、宗教を政治のために利用させないようにし、すべての宗教・信仰・信条に同じような機会と保護を与えて法律上完く同等に扱うことを目的としている。それとともに、神道ばかりでなくすべての宗教・信仰・宗派・信条・哲学を信ずる者に対して、政府と特別の関係を持ったり、軍国主義の考えと極端な国家主義の考えをひろめさせない。
b この指令の規定は、神道に関係のあるすべての祭り・慣習・式・礼式・信仰・教え・神話・伝説・哲学・神社・神道を表す物に当てはまるものである。
c この指令の中で用いた神道という言葉は、日本政府が法令によって、宗派神道(教派神道)と区別し、一般に国家神道・国民神道・神社神道として知られている、宗教というよりは国家的な祭りとされている国家神道(神社神道)という一派を指すものである。
d 宗派神道(教派神道)という言葉は、一般の民間においても、法律上の解説によっても、日本政府の法令によっても宗教として認められてきた(十三の公認された宗派より成る)神道の一派を指すものである。
e 日本国民に宗教上の完全な自由を与えた昭和二十年十月四日にマッカーサー司令部の出した「政治上の自由・公民としての自由・宗教上の自由に対する制限を取り除く指令」の第一条の規定にもとづいて、
(1)宗派神道は他の宗教と同じように保護する。
(2)神社神道は、国家から引き離し、軍国主義の要素と極端な国家主義の要素を取り除いたあとで、それを信ずる者が望むときは、宗教として認める。そしてそれが事実上日本人個人の哲学か宗教であるならば、他の宗教と同じように保護する。
f この指令の中で用いた「軍国主義の考えと極端な国家主義の考え」とは、次の理由によって、日本が他の国民や民族までも支配してゆこうとする日本の使命を、弁護したり正しいこととする教え・信仰・理論を指すのである。
(1)日本の天皇が、その家系・血統・特別の起源によって、他国の元首よりも優れているとする考え。
(2)日本国民が、その家系・血統・特別の起源によって、他国の国民よりも優れているとする考え。
(3)日本の島々が、神に起源するか特別の起源を持っているので、他の国よりも優れているとする考え。
(4)日本国民をだまして侵略戦争を起させたり、他の国民との争いを武力によって解決する方法をよいこととする考え。

3 日本政府は昭和二十一年三月十五日までに、この指令のそれぞれの条項にもとづいてとったすべての処置のくわしい報告書を、マッカーサー司令部に出さなければならない。

4 日本の政府・府県・市町村の官公吏・雇傭員・教員・職員・一般の人・日本居住者のすべては、この指令の字句も精神も、一人一人責任をもって守らなければならない。




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