◆198802KHK069A2L0056M
TITLE:  都立高校「落第処分事件」(東京高裁昭和62年12月16日判決)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 大阪高法研ニュース 第069号(1988年2月)
WORDS:  全40字×56行

判例紹介

 

都立高校「落第処分事件」(東京高裁昭和62年12月16日判決)

 

羽 山 健 一

 

 1.概要

  M君は1985年4月東京都立Q高校に入学したが、1986年3月、数学と英語の二科目の単位が不認定となったため、進級拒否処分(落第処分)を受け、もう一度一年生をやり直すことになった。そこでこの処分を不当だとして、本人訴訟で当該行政処分の無効確認請求訴訟を提起したが、一審の東京地裁では1987年4月敗訴となった。本件はその控訴審である。

 

 2.判旨 (控訴棄却)

(1)単位認定について。都立高等学校では、法令により学校長に単位認定権が与えられ、その行使にあたっては「広範な教育的裁量権」が認められる。Q高校の教科に関する内規によれば「定期考査だけでなく出欠状況、臨時テスト、日常の学習状況等を考慮して総合的に評価」することになっており、事実認定によれば、前記二科目の単位不認定は内規にしたがって行なわれたものであり、「その裁量権の逸脱等・・・の違法は認められない」。

(2)原級留置き処分について。「控訴人は原級留置き処分が生徒に対する懲戒処分化し、生徒管理の便法とされている旨論難するが」、Q高校の「原級留置者数は若干平均を上回るが、学校側が・・・生徒を脅しあるいは生徒管理の便法としてことさら原級留置制度を利用している事実はない」ため、控訴人の主張には理由がない。また「他の公立高校では単位不認定三科目以上の場合に原級留置する取扱例の存在することが認められるが・・・それだからといって・・・本件処分が裁量権を逸脱した違法があるとはいえない」。さらに、Q高校で仮進級制度を適用するのは成績が比較的良好でありながら、病気のため出席日数が不足して進級ができない生徒に対してであり、M君に仮進級制度を適用しなかった故に裁量権の誤りがあるとはいい難い。

(3)本件処分の手続きについて。Q高校は入学式の際に「入学のしおり」を配布し、単位不認定の課目が一つでもあれば、進級・卒業できないことを説明している。さらにM君の母は、保護者会・体育祭・文化祭その他の折りに、面接あるいは電話で、M君の成績不振について知らされている。M君は追試の予告を受け、追試の機会を与えられている。「本件原級留置処分に当たりことさらに聴聞手続きを経ていないからといって、これがため本件処分を違法ならしめるものではない」。なお「成績会議が形式的で実質的審議を経ない違法があると・・・裏付けるような証拠は何もない」。

 

 3.解題

  これまで落第処分をめぐって争われた判例として、明訓高校(留年決定の効力停止仮処分申請)事件、虻田商業高校(債務不履行による損害賠償請求)事件があり、いずれも民事として争われている。本件は行政事件として提訴されたもので、棄却になったとはいえ(却下ではなく)、落第処分が「学校という部分社会」のできごとであっても、「市民法秩序における権利義務関係に影響を与えるものとして抗告訴訟の対象となる」として、落第処分が司法審査の対象となることを確認したといえよう。これまで退学処分については多くの判例の蓄積をみているが、落第処分についてはわずかである。今後落第処分についても訴訟となる事例が増えていくと考えられる。

  ところでM君は、日頃の授業態度がまじめで欠席日数も少なく(7日)、実力テストの成績もそれほど下位ではなかった(433名中、数学279位、英語337位)。このような生徒を入学許可した以上、進級させ卒業させるよう導いてくれるものと、親として期待するのは当然のことであろう。しかし現実はそうならなかった。M君は二度日の一年生の途中で登校拒否状態になった。いうまでもなく、落第処分は生徒の発達や将来に重大な影響を及ぼすのである。

  教師は自らの教育権・教育評価権について外部からとやかく干渉されることを嫌う。しかし、教師が生徒の学習権・「正当な教育評価を受ける権利」に対応する教育責務を適正に果たすよう努めない限り、このような干渉は強まってくるように思われる。


Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会