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TITLE:  原級留置きに関する行政実例、統計調査等
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 坂本秀夫・中野進編著『生徒の学習権が危ない』第4章(1989年3月)ぎょうせい
WORDS:  全40字×525行

 

原級留置きに関する行政実例、統計調査等

 

羽 山 健 一

 

 1 資料解釈の留意点

 

  児童生徒の成績評定、進級・卒業に関する、文部省通知・行政実例・告示・統計調査等を紹介する。原級留置きについての理解の一助となれば幸いである。ここにあげた資料の中で、通知・行政実例を参考とする際には次の諸点について留意することが必要であろう。

  @ 文部省と教育委員会は本来、指揮監督の関係に立つものではなく、文部省設置法第五条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四八条は、文部省が指導・助言をなしうることを規定するにすぎない.この指導助言権に基づき、文部省は実際上、法令の解釈基準あるいは運用上の取り扱い準則などを内容とした通知を発している。この中には教育委員会からの質疑に対する回答として為される場合も多く、これは行政実例と呼ばれる。

  A ここにあげた通知は、法規としての性格を伴わず、学校や教育委員会に対し法的拘束力を有するものではない。したがって通知の性格は、法令解釈上あるいは運用上その示すところに従ってさしつかえない場合が多い、という意味において理解されるべきである。

  B 通知違反が、児童生徒との関係において、ただちに違法となるわけではないが、通知違反が平等原則や信義則に違反すると認められるときには、違法の問題を生じると考えられる。

 

 2 成績評定・単位修得の認定

 

  各教師は生徒に対し教育を行う権能を有し(学校教育法第二八条第六項)、これに基づき、生徒の成績を評定あるいは評価する権限を有している。そして各教師の為した成績評定を踏まえて、学校(教師集団)が生徒の履修した各教科・科目の単位を修得したことを認定することになっている(資料A、学習指導要領総則8款1)。

 【資料A】
 ○高等学校学習指導要領(昭五三、八、三〇 文部省告示一六三)

 第一章 総則
 第七款 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項
  6 以上のほか、次の事項について配慮するものとする。
  (七) 指導の成果を絶えず評価し、指導の改善に努めること。
 第八款 単位の修得及び卒業の認定
  1 学校においては、生徒が学校の定める指導計画に従って各教科・科目を履修し、その成果が教科及び科目の目標からみて満足できると認められる場合には、その各教科・科目について履修した単位を修得したことを認定しなければならない。この場合、一科目を二以上の学年にわたって分割履修したときは、学年ごとにその各教科・科目について履修した単位を修得したことを認定するものとする。なお、特に必要がある場合には、単位の修得の認定を学期の区分ごとに行うことができるものとする。
  2 学校においては、卒業までに履修させる各教科・科目及びその単位数並びに特別活動及びそれらの授業時数に関する事項を定めるものとする。この場合、各教科・科目の単位数の計は、第三款に掲げる各教科・科目の単位数を含めて八十単位以上とする。
 3 学校においては、卒業までに修得させる各教科・科目及びその単位数を定め、校長は、それらの各教科・科目及びその単位を修得した者で、特別活動の成果がその目標からみて満足できると認められるものについて、高等学校の全課程の修了を認定するものとする。この場合、各教科・科目について修得させる単位数の計は、八十単位以上とする。(以下略)

  これらの権限行使につき、文部省が指導助言するのが資料Bである。

 【資料B】
 ○高等学校生徒指導要録の改訂について
    (昭五六、一二、二四 文初高三〇三号各都道府県教育委員
     会教育長、各都道府県知事、附属高等学校を置く各国立大
     学長あて 文部省初等中等教育局長、文部省大学局長通知)
 別紙 高等学校(全日制の課程・定時制の課程)生徒指導要録
    U記入上の注意
 〔各教科・科目の学習の記録〕
  各教科・科目の学習の状況や結果について記入すること。
 1 各教科・科目の評定及び単位の修得の認定
  (1) 「評定」の欄には、各教科・科目の評定を記入すること。
  各教科・科目の評定は、各教科・科目の学習についてそれぞれ五段階で表し、五段階の表示は、5、4、3、2、1とすること。
  高等学校学習指導要領(昭和五三年文部省告示第一六三号)に定める各教科・科目の目標に基づき、学校が地域や生徒の実態に即して設定した当該教科・科目の目標や内容に照らし、特に高い程度に達成しているものを5とし、高い程度に達成しているものを4とし、おおむね達成しているものを3とし、達成が不十分なものを2とし、達成が著しく不十分なものを1とすること。
  評定に当たっては、後に掲げる各教科の観点を参考とし、一部の観点に偏して評定が行われることのないように十分留意するとともに、五段階の各段階の評定が個々の教師の主観に流れて客観性や信頼性を欠くことのないよう学校として十分留意すること。
  (2) 「欠席」の欄には、当該生徒についての年間の欠席総時数を記入すること。
  (3) 「修得単位数」の欄には、各教科・科目について修得を認定した単位数を記入すること。
  評定1のときは、単位の修得を認めない取扱いとし、「修得単位数」の欄に0と記入すること。
  (4) 「修得単位数の計」の欄には、各教科・科目について、修得を認定した単位数の計を記入すること。
  (5) 「合計」の欄には、修得単位数及び修得単位数の計の合計を記入すること。
 (6) 略

  この通知はもともと、生徒指導要録の様式・記入の方法・取り扱いについて、全国的に必要程度の統一性を保つために発せられたものであるが、その定める内容は、成績評定・単位修得の認定などの方法・留意点について詳細な指示をするものとなっている。これは、学習指導要領の趣旨が教育評価およびその記録においても徹底されることを意図したものである。

  従来の同通知では、評定を行うに際し、学習指導要領に定める教科・科目の目標を基準とすべきことを定めていたが、現在は、これに基づき、「学校」が地域や生徒の実態に即して、評定の基準となる「当該教科・科目の目標や内容」を設定することになった。当然のことながら学校は、高度すぎる目標や内容にこだわって不当な評定をすることのないよう留意し、適切な目標や内容を設定するよう努めなければならない。資料B1(1)に「評定に当たっては、・・・一部の観点に偏して評定が行われることのないように十分留意する」とあるのは、知識偏重などの弊害に陥ることなく、知識・理解・技能・関心・態度等の諸観点から総合的に判断すべきことを示したものである。この規定するところにそって、実際の評定においても、定期考査や実技テストの成績だけでなく、小テストの成績・提出物・出席状況・学習態度などの諸資料が用いられる傾向にある。しかしながら、これらの諸資料を用いることによって、教師の恣意が入り込み、評定結果の客観性が失われやすくなることは否定できない。とりわけ、学習態度の評価は客観化が困難である。そのため評定の基準・諸資料の評価の在り方について「学校として十分留意する」必要があり、具体的には、教科会議や成績会議においてよく協議し、意思統一をして、評定の公平性を保つよう努めなければならない。したがって諸資料の評価についての具体的な評価基準を持たないままに為された評定は、教師の恣意性が疑われ、手続上瑕疵のある違法な評定であるといえよう。

  単位の修得が認定されるためには、第一に各教科・科目を履修したこと、第二に、そのうえで、その成果が教科・科目の目標からみて満足できるものであること、が必要である(学習指導要領総則8款1)。履修の認定については、各学校において、例えば「当該教科・科目の欠課時数が年間総授業時数の三分の一を超えない」というような基準が定められているが、文部省は具体的な基準を示していない。これに対し、満足できる成果があったかどうかの認定について文部省は、「評定1のときは単位の修得を認めない」(資料B川)という基準を示している。つまり生徒の成績が五段階で1と評定されたときには、満足できる成果があったと認めることができず、したがって単位の修得を認定しない取り扱いとすべきことを指示しているのである。文部省がこのような通知によって、単位認定の核心に触れるような指示をすることが妥当であるかについて疑問の残るところであるが、ともかくこの文部省通知によって、学校が行うとされる単位修得の認否は、各担当教師の行う成績評定によって決定づけられることになった。

 

 3 進級(各学年の課程の修了)の認定

 

  進級の認定については、学校教育法施行規則第二七条(第六五条に準用規定)に、「各学年の課程の修了・・・を認めるに当たっては、児童の平素の成績を評価して、これを定めなければならない」とあるだけで、学習指導要領にも特に規定されていない。したがって進級認定の具体的な基準は、各学校が自主的に設定するところとなっており、これは各学校のいわゆる教務内規に定められている。生徒がこれらの基準を満たしていないときには、学校は進級を認定せず、原級留置きの措置をとることが可能である(資料C中の回答三)。

 【資料C】
 ○課程の修了又は卒業の認定等について
    (昭二八、三、一二委初二八 兵庫県教育委員
     会教育長あて 文部省初等中等教育局長回答)
 照 会
  一 学校教育法施行規則第五五条の規定により、同規則第二七条の規定を準用し、中学校において各学年の課程の修了又は卒業の認定を行う場合並びに同規則第二八条の規定を準用して卒業証書を授与する場合に、第三学年における一年間の総授業時数一二〇〇時間のうち五三六時間のみ授業を受けた生徒(この時間不足の生徒は、在学生徒の約半数にあたり、正規の組合立中学校に在籍しているも、事情によりその学校を所管する管理機関(規約による教育委員会は設置していない。)の設置に係らない建物を使用して当該管理機関の任命に係らない教師によって昨年九・一〇月ころより授業を受けていて、現在正規の組合立中学校へは通学していない。)については、当該中学校長はいかに取り扱うべきか。
  二 前記の時間不足の生徒の第二・三学期の成績の評価及びその記載はいかにすべきか。
  三 校長が当該生徒について認定の結果不可と認めた場合には原級留置は法的に可能か、もし原級留置となれば学校教育法第三九条に定める保護者の就学義務は延長されることとなるか。
  五 「市町村の教育委員会が所管する学校の設備授業等については都道府県の教育委員会は必要な規程を制定して一定水準の維持をはかりうる」との通知(昭和二七年一一月一八日文初地第九〇七号 文部次官より各都道府県教育委員会あて)を受けているが、県教育委員会が一年間の総授業時数を別に定めてその三分の二以上授業を受けた者について課程の修了が認められる旨の規則を定めることができるか。
 回 答
  一 学校教育法施行規則(以下「規則」という。)第二八条の規定により、卒業の認定は校長が行う。校長が学校の規定した総授業時数に満たない生徒についても適当な方法でその成績を評価することにより卒業を認定することは、あり得ることである。しかし、一般的にいって、第三学年の総授業時数の半分以上も欠席した生徒については、特別の事情のない限り、卒業の認定は与えられないのが普通であろう。照会文の当該中学校の場合は、照会文だけでは事情が明瞭でないが、その事情に即して処置されたい。
  二 第一項の御質問の内容に不明な点があるので、的確な回答をしかねるが、事情に即した判断により措置されたい。
  三 校長が当該生徒につき、認定の結果不可と認めた場合には、規則第二七条、第二八条により原級留置は可能である。
  学校教育法第三九条は、満一五歳までの就学義務を規定したものであるから、満一五歳をこえて原級に留まった場合には、保護者の就学義務は延長されることにはならない。
  五 県教育委員会が、県内の市町村教育委員会の所管する学校の授業について一定水準の維持をはかるため、例えば年間総授業時数の基準を設けるなどのことは考えられる。しかし、年間総授業時数の三分の二以上授業をうけた者について課程の修了を認めるということは、課程修了の認定が本来校長の権限に属することであるから、当該学校を所管する市町村教育委員会が管理事務の一部として定めるならばともかくとして、県教育委員会が市町村教育委員会の所管する学校の授業について、一定水準の維持をはかるために定める規程の内容としては適当でない。
  〔編注〕 五については現在では地教行法第四九条による都道府県教育委員会規則の限界の問題となる。なお地教行法第五条(措置要求の制度)参照。

  多くの学校に共通する一般的な進級認定の要件は、所定の単位の修得と、所定の日数の出席である。例えば、「不認定の科目・単位数が二科目かつ六単位以内」、「欠席日数が年間総授業日数の三分の一を超えない」などと定められている。いうまでもなくこの「二科目」「六単位」「三分の一」といった数字は何ら法規上の根拠を有するものではない。各学校が生徒の実情に即して定めているのである。この点につき資料Dは、「当該学年に修得すべき各教科科目単位数の三分の一程度(一二単位前後)が修得されない場合」に原級留置きの措置をとることが妥当であるとして、原級留置きとなる不認定単位数の基準を示している。

 【資料D】
 ○高校における分割履修科目の一部単位不認定と進級について
    (昭四二・三・二四文部省初等中等教育局中等教育課事務連絡)
 照 会
  本校では、「英語B」を、各学年六単位、計一八単位履修させているが、ある生徒が、第二学年の六単位の修得を認められなかった場合、この生徒を進級させてよいか、原級に留置させるべきか。
 同 答
  (1) 学年の課程の修了は各学校において規定するところであるが、通常、当該学年に修得すべき各教科科目単位数の1/3程度(一二単位前後)が修得されない場合、原級に留置する措置がとられているようである。本件も、この趣旨によって処理することが妥当であろう。但し、修得されない教科、科目単位数が1/3程度より少ない場合においても、爾後の学習成果が殆ど期待されないと判断される場合は、原級留置することも必要であると考えられる。
  なお、単位を修得できなかった科目については、追試験その他適切な方法によって、科目の単位の修得を認定することとなる。
  (2) なお、本件の照会は、学校の管理機関である東京都教育委員会に対して行なうべきである。

  また資料C回答一は、「総授業時数の半分以上も欠席した生徒については」特別の事情のない限り、進級・卒業の認定が与えられないのが普通であるとして、出席要件の最低基準を示している。

  各学校で、教務内規に定められた進級認定の基準を機械的に適用することは妥当ではない。例えば、わずかな出席日数の不足を理由に原級留置きの措置をとることは望ましくなく、個々の生徒の事情を配慮して弾力的に運用すべきである。とりわけ、怠学ではない特別の事情によって出席日数が不足する結果となった生徒については、他の生徒とは別に進級認定の判断を行う必要がある。資料Eは、同盟休校中の児童について、当然出席日数が不足しているにもかかわらず、正規の学校以外の施設における指導内容をも考慮して、進級・卒業認定をする可能性があることを示している。

 【資料E】
 ○同盟休校中の児童の進級等について
    (昭三二、一二、一六委初三九〇 大阪府教育委
     員会教育長あて 文部省初等中等教育局長回答)
 照 会
  一 後記の事情により、現在大木地区で勝手に建築した建物に収容して同盟休校を行なつている四年以上の児童の進級進学の取扱いはいかにしたらよろしいか。
  二 大木地区の中学生は、当市日根野地区にある市立中学校へ他の地区の生徒と合わせて、入学せしめることになっているが、来るべき新学期にこの場合の取扱いはどうしたらよろしいか。
  右につき、至急回答くださるようお願いします。
     記
 (中略)
 回 答
  標記のことについて、貴府泉佐野市教育委員会から、別紙のとおり照会があつたので、次のとおり回答しますから、貴職において、実情について御調査の上、よろしく御指導ください。
     記
一 現状のまま学年末にいたつたときは、当該児童については、進級または卒業の認定をすることはできない。
  ただし、当該児童が大土小学校に通学するにいたつた場合は、同校校長は、各児童がその欠席期間中大木地区の施設で事実上受けていた指導の内容をも考慮し、各児童の成績を評価して、進級または卒業の認定をすることも不可能ではないと解する。
二 照会の趣旨が明らかでないが、上記より卒業の認定を受けた児童については、当該市立中学校へ入学させるべきである。

  また資料Fは、七年間の長期欠席児童を特別に小学校第一学年から一挙に第六学年に進級させることを可能であるとしている。もちろんこれは例外的な措置であろうが、特別な事情があるときには、その実情に即した措置が求められるのである。

 【資料F】
 ○長期連欠児童の取扱上の疑義について
    (昭二九、七、一四委初二六一 滋賀県教育長あて
     文部省初等中等教育局長回答)
 照 会
 一 説 明(略)
 二 設 問
  (1) 保護者は、教育基本法第四条と学校教育法第二二条の規定により、A少年が満一五歳に達した日の属する学年の終りまでは、これを小学校に就学させる義務があると思料されるし、又、各学年の課程の修了又は卒業の認定は、本学校長の権限に属することであるが、本件の場合一躍六学年に編入させることができるか。
 (2) かりに第六学年に編入させることができるとしても、右のごとくわずかな出席日数をもつて、来春卒業証書の授与ができるか。(中略)
 回 答
  (1) 各学年の課程を修了して順次上級学年に進級するのが原則であるが、かかる場合は、本人はすでに相当の年齢に達しているので本人に対する教育効果、他の児童生徒に及ぼす影響等を考慮して適宜相当学年に編入せざるをえないと考えられる。
  (2) 小学校の全課程を修了したものと認めれば、卒業証書を授与すべきであるが、当該認定は教育的見地から慎重に行なわなければならない。

  ところで近年、心の病から登校できなくなるという、いわゆる不登校(登校拒否)や神経症の生徒が増加しているという。これは単なる怠学ではない。このような生徒の進級については、家庭・専門医との連携を密にして、本人の教育上の効果を中心に、個別に判断すべきであり、教務内規の機械的運用は厳に慎まなければならない。

  もっとも、教務内規の弾力的な運用は、進級認定における公平性・平等性を欠くことのないよう留意して行われるべきであり 教師の恣意性が疑われるようであってはならない。手続的にも成績会議等の決定に基づき、教師集団の共通理解のもとに、教育的見地から慎重に弾力化が計られなければならない。

 

 4 卒業(全課程の修了)の認定

 

  学習指導要領総則8款3によれば、卒業認定の要件は、第一に、所定の単位を修得していることである。所定の単位とは、各学校において定められた「卒業までに修得させる各教科・科目及びその単位数」のことであり、その「単位数の計は八〇単位以上」でなければならない。第二の要件は、「特別活動の成果がその目標からみて満足できると認められること」である。したがって卒業に必要な所定の単位を修得しても特別活動の成果が満足できるものでなければ、卒業が認定されない場合も起こりうる(このような措置の是非については本稿で扱わないが、例えば「エホバの証人」信者生徒の卒業保留事件がある。)。これらの要件の具体的な基準は、各学校が生徒の実情に即して設定することができる。例えば、各学校は特定の教科・科目を個別に指定し、その修得を卒業認定要件とすることが可能である。これは通常、「必修得科目」と呼ばれる。また、卒業認定に必要な単位数を、八〇単位以上の何単位に定めるかは、各学校の自主的判断に委ねられている。

  したがって、学校が八〇単位を超えて、生徒の修得すべき単位数を定めている場合には、生徒が学習指導要領に示した八〇単位を修得したときにおいても、校長はその生徒を卒業させないことができる(資料G)。しかし、この場合には、「生徒の負担が過重にならないよう注意する」ことはもちろん、これに加えて、すべての生徒が八〇単位を超える所定の単位数を修得できるような制度的保障、すなわち補習・追認考査などの制度の整備が特に要請される。

 【資料G】
 ○高等学校において修得した単位数と卒業認定について
    (昭二九、八、七委初二三一岐阜県教育長あて
     文部省初等中等教育局長回答)
 照 会
一 生徒が必要な単位を八五単位修得しているときは、必ず卒業させなければならないか。
二 各学校において八五単位以上例えば九〇単位をその学校の卒業必修単位として定めることは違法になるか。
三 学校の規定として卒業に必要な単位を八五単位以上例えば九〇単位と定めたときは八六単位より修得出来なかった生徒が卒業の権利を申し出たとき、学校の規定として卒業を認めないことは法的に成り立つか成り立たないか。
 回 答
  学習指導要領に規定する八五単位とは、一般的に卒業に必要な最低単位数を定めたものであって各学校は、八五単位をこえて生徒が履修すべき単位数を定めることができる。卒業の認定は、生徒が履修すべき課程を修了したと認められる場合に行われるものであるから、八五単位以上に生徒が履修すべき単位数が定められている場合には、生徒が学習指導要領に示した必要な八五単位を修得したときにおいても、校長はその生徒を卒業させないことができる。ただしこの場合においても諸般の事情を総合的に考察し、その生徒が高等学校の課程を修了したと認めうる場合は、卒業の認定を行ってよい。
 なお、生徒が履修すべき単位数を八五単位以上とする場合には、生徒の負担が過重にならないよう注意する必要がある。(以下略)
  〔編注〕 現行高等学校学習指導要領、および学校教育法施行規則六三条の二においては、卒業までに修得させる単位数は八〇単位以上と定めている。また現行の高等学校学習指導要領で必修科目を定めているのは、必履修科目の意味であり、その修得が卒業認定の要件とされていない。なお、この時期においては、履修と修得の用語が明確に区別して用いられているとはいえないので注意が必要である。

  各学校ごとに卒業認定の具体的基準が異なることから、転入学に際し重大な問題が生じることがある。例えば、ある高校で卒業認定の基準を満たさず、原級留置きとなった第三学年の生徒が転学しようとする際、その生徒が転学先の高校の卒業認定基準を満たしている場合には、転入学が認められないことになる。現在でも、生徒が履修した教科・科目のすべての単位を修得しなければ進級・卒業を認定しないという、いわゆる全科目修得型の基準を採用している学校も決して少なくない。先の転学時の問題は、特にこうした厳しい進級・卒業認定基準が原因となって起こりやすい。

  卒業の期日は、四年をこえる修業年限の定時制課程を除いて、三月末でなければならないとされている(資料HI)。その理由は、学年が四月一日に始まり翌年三月三一日に終わると定められ、かつ単位の認定が学年の中途では認められないと定められているからである。ところが現行の学習指導要領では、「特に必要がある場合には、単位の修得の認定を学期の区分ごとに行うことができる」(第8款1)ことになった。この規定によって学年途中に卒業を認定することができそうなものであるが、文部省は「この規定は最終学年で修得できなかった教科・科目の単位の認定を翌年度の一学期末に行い、その時点で卒業を認めるということまで許容するものではない」という解釈を示している(文部省『高等学校学習指導要領解説総則編』)。しかしながらこの解釈は、一年生・二年生について、単位の追認定を翌年度の一学期末に行うことができるとする、同じく文部省の解釈(前掲文部省解説)との整合佐を欠いている。卒業期日が学年末でなければならないとする解釈に固執する必要はなく、今後、学年途中の卒業認定を許容する方途を検討すべきであろう(資料H照会二、資料I照会の別紙案を参照)。

 【資料H】
 ○全日制高等学校の卒業期について
    (昭二八、一、二一 鳥取県教育委員会教育長あて
     文部省初等中等教育局長回答)
 照 会
  学校教育法第四六条及び同法施行規則第四四条の準用規定により全日制高等学校の卒業期は毎年三月とされていますが、次の事例につき御意見承わりたく御照会いたします。
一 三か年間に所要単位の履修不可能にして第四年度において未修単位を履修し所要の八五単位を履修した場合、施行規則第二八条の準用規定により、学年の中途において随時卒業せしめることはいかん。
二 右の生徒を第四年度において休学とし、通信教育において必要単位を修得した場合、これを復学せしめて前項により随時学年の中途において卒業せしめることはいかん。
三 万一学年の中途において随時卒業せしめることが不適当な場合、施行規則第六五条に規定する定時制の課程の卒業期を全日制課程に準用し、県教育委員会規則により三月、九月の二期を卒業期とすることはいかん。
 回 答
一 学校教育法施行規則第六五条但書の定時制の課程に関する学年の規定は、高等学校の通常の課程に準用することはできません。
二 三年間で卒業のための所要単位が履修できないで第四年度の年度途中においてこれを履修した生徒に対し、学年の中途において随時卒業させることはできません。
三 この場合に、第四年度を休学とし、通信教育において必要単位を履修させてから復学させるという方法については、通常の課程と通信教育との二重在簡は認められておりませんから、この場合にこの方法はとれないわけです。ただし不足単位が通信教育実施科目である場合には、通常の課程を退学し、必要な単位を通信教育によつて得て卒業することが可能ですが、その場合は、卒業認定は通信教育実施校の校長によつて行われます。
四 三年間で卒業に必要な単位をとれなかつた生徒に対しては、できうれば卒業するまで指導するよう学校に対し指導して下さい。


 【資料I】
 ○高等学校の卒業期日について
    (昭二八、三、一二 広島県教育委員会教育長あて 
    文部省初等中等教育局長回答)
 照 会
  単位不足のため高等学校を卒業し得ない生徒の取扱については別紙案を考慮中でありますが、これに関連して照会いたします。
一 通常の課程の卒業期日は三月でなければならないとする法的根拠
 学校教育法施行規則(以下「規則」という。)第二八条は、卒業に必要な単位を充足した期日をもつて卒業日とするようには解釈できないか(単位保留のため卒業し得ない生徒の場合。)
二 四年制の定時制の課程で単位保留のため四年以上を要する生徒の場合、規則第六五条を準用して九月卒業を認めることができるか。
  (別紙案)
 通常の課程
一 六月末までに単位追認により卒業に必要な単位を充足した場合は、前年度三月にさかのばり卒業させることができる。
  この場合、単位充足の月までの授業料は返却しないものとする。
二 七月以降において単位追認により卒業に必要な単位を充足した場合は、その月までの授業料を徴収し、翌年三月に卒業させるものとする。
  この場合、単位充足の日の翌日から休学の措置をとることができるものとする。
 定時制の課程
一∧八月末までに単位の追認を受けて卒業に必要な単位を充足した場合は、九月に卒業させることができる。
二 九月以降単位の追認を受けて卒業に必要な単位を充足した場合は、翌年三月に卒業させるものとする。
三 前二項においては、単位充足の月までの授業料を徴収し、単位充足の日の翌日から休学の措置をとることができるものとする。
 回 答
一 学校の教育計画は学年の区分にもとづいて構成され、学年は学校教育法施行規則第四四条(第六五条により高等学校の通常の課程に準用)により、四月一日に始まり翌年三月三一日に終る。よつて生徒が全課程を修了する時期は、学年末期でなければならないものと解する。同施行規則第二八条は卒業証書を授与すべきことを規定したものであつて、授与すべき時期について規定したものではない。
二 学校教育法施行規則第六五条但書で定時制の課程について九月末で終了学年が認められているが、これは、修業年限が四年をこえる定時制の課程についての規定であるから、修業年限四年の課程のみをおく場合には適用されない。
  高等学校においても小・中学校の場合と同じようにその教育課程は学習指導要領の基準によることとなつているが(施行規則第六五条による第二五条の準用)、学習指導要領一般編によれば科目合格の単位は、学年の始から終まで引続きその科目を履修した場合のみ与えられ、学年の中途では与えられないこととされている(参照学習指導要領一般編の「U教育課程」中「3高等学校の教科と時間配当および単位数」)。(未修了者が学年の終にその科目の単位の一部(例えば国語甲の三単位中の二単位)を得て、次の学年の中途でその残りの単位(三単位中の一単位)を得るというようなことは起らない。)。
  したがつて、卒業に必要な全単位の修得は学年の終にしかありえず、卒業ということも学年の終にしかありえない。そして一般には、学年は四月に始まり三月に終る(施行規則第六五条による第四四条の準用)ので、卒業期は三月末でなければ.ならないこととなる。ただし、四年をこえる修業年限の定時制課程で最後の学年が九月に終る場合(施行規則第六五条)には、卒業期は九月末ということになる。

  なお、留学について文部省は学校教育法施行規則の一部改正を行い、第六一条の二を追加した(一九八八年二月三日)。これによれば、留学生の留学期間中の単位について、「三〇単位を超えない範囲で単位の修得を認定することができる」ことになり、当該生徒に対しては、「学年の途中においても各学年の課程の修了又は卒業を認めることができる」ことになった。

 

 5 原級留置き者数

 

  資料J(文部省昭六三・三・二九 63初高二二号別紙一の表をもとに作り直した。)は、ここ数年の原級留置き者数の推移を表している。公私立、全定の統計において在籍者数に対する比率は〇・六パーセントと変化していないものの、実数は年々増加する傾向にあり、昭和六〇年度からは三万人を上回っている。この数値は、中途退学者数の二万人と同様に、原級留置きの問題が重大な問題となっていることを表している。この資料によれば、まず全日制に比べて定時制は各学年とも原級留置き率が極めて高いことがわかる。次に、全日制、定時制ともに、最終学年の原級留置き率が他の学年に比べ低いことがわかる。さらに注目すべきことは、公立高校と私立高校との較差である。公立は私立に比べ原級留置き率が常に高くなっていることがはっきり読みとれる。全日制で〇・一〜〇・二パーセント、定時制では五・五〜五・九パーセントもの差がある。それだけでなぐ、六一年度の私立高校の原級留置き者数は、その比率とともに、前年度に比べ大きく減少している。このことは、中退率が公立に比べ私立の方が高くなっているのと対照的である。


【資料J】
 @ 公立高等学校における原級留置き者数(全日制)
年度 学科 普  通  科 専門学科 合 計
区分   学年 1年 2年 3年 小 計 1年 2年 3年 小 計
59 原級留置き者数(a) 4,166 4,640 1,049 9,855 2,656 2,481 398 5,535 15,390
在籍者数(b) 879,149 836,110 688,056 2,403,315 345,334 336,800 296,024 978,158 3,381,473
a/b(%) 0.5 0.6 0.2 0.4 0.8 0.7 0.1 0.6 0.5
60 原級留置き者数(a) 4,196 4,973 1,287 10,456 2,656 2,577 462 5,695 16,151
在籍者数(b) 880,422 865,450 820,914 2,566,786 345,352 335,173 326,631 1,007,156 3,573,942
a/b(%) 0.5 0.6 0.2 0.4 0.8 0.8 0.1 0.6 0.5
61 原級留置き者数(a) 4,473 5,063 1,527 11,063 2,555 2,514 445 5,514 16,577
在籍者数(b) 910,570 868,223 849,753 2,628,546 348,305 333,635 324,356 1,006,296 3;634,842
a/b(%) 0.5 0.6 0.2 0.4 0.7 0.8 0.1 0.5 0.5

 A 私立高等学校における原級留置き者数(全日制)
年度 学科 普  通  科 専門学科 合 計
区分  学年 1年 2年 3年 小 計 1年 2年 3年 小 計
59 原級留置き者数(a) 1,870 1,714 460 4,044 542 466 84 1,092 5,136
在籍者数(b) 377,348 351,669 277,140 1,006,157 129,078 125,308 100,275 354,661 1,360,818
a/b(%) 0.5 0.5 0.2 0.4 0.4 0.4 0.1 0.3 0.4
60 原級留置き者数(a) 1,765 1,815 639 4,219 526 468 111 1,105 5,324
在籍者数(b) 376,222 363,196 340,748 1,080,166 127,292 121,081 120,001 368,374 1,448,540
a/b(%) 0.5 0.5 0.2 0.4 0.4 0.4 0.1 0.3 0.4
61 原級留置き者数(a) 1,715 .1,667 590 3,972 434 406 102 942 4,914
在籍者数(b) 389,872 361,583 351,570 1,103,025 128,039 119,954 115,944 363,937 1,466,962
a/b(%) 0.4 0.5 0.2 0.4 0.3 0.3 0.1 0.3 0.3

 B 公・私立高等学校における原級留置き者数(定時制)
年度 公・私 公立 私立 合 計
区分  学年 1年 2年 3年 4年 小 計 1年 2年 3年 4年 小 計
59 原級留置き者数(a) 4,364 2,430 1,502 575 8,871 26 19 11 3 59 8,930
在籍者数(b) 46,144 32,711 26,318 25,323 130,496 1,896 1,637 1,426 1,457 6,416 136,912
a/b(%) 9.5 7.4 5.7 2.3 6.8 1.4 1.2 0.8 0.2 0.9 0.7
60 原級留置き者数(a) 4,683 2,612 1,505 526 9,326 39 20 12 10 81 9,407
在籍者数(b) 48,553 33,273 28,233 22,514 132,573 2,049 1,546 1,474 1,304 6,373 138,946
a/b(%) 9.6 7.9 5.3 2.3 7.0 1.9 1.3 0.8 0.8 1.3 6.8
61 原級留置き者数(a) 4,683 2,455 1,537 509 9,184 21 23 16 7 67 9,251
在籍者数(b) 50,988 34,772 29,201 25,035 139,996 1,861 1,667 1,360 11,409 6,297 146,293
a/b(%) 9.2 7.1 5.3 2.0 6.6 1.1 1.4 1.2 0.5 1.1 6.3

 C 公・私立高等学校における原級留置き者数(総計)
年度 課程 全 日 制 定時制 合 計
区分  学年 1年 2年 3年 小 計 1年 2年 3年 4年 小 計
59 原級留置き者数(a) 9,234 9,301 1,991 20,526 4,390 2,449 1,513 578 8,930 29,456
在籍者数(b) 1,730,909 1,649,887 1,361,495 4,742,291 48,040I 34,348 27,744 26,780 136,912 4,879,203
a/b(%) 0.5 0.6 0.1 0.4 9.1 7.1 5.5 2.2 6.5 0.6
60 原級留置き者数(a) 9,143 9,833 2,499 21,475 4,722 2,632 1,517 536 9,407 30,882
在籍者数(b) 1,729,288 1,684,900 1,608,294 5,022,482 50,602 34,819 29,707 23,818 138,946 5,161,428
a/b(%) 0.5 0.6 0.2 0.4 9.3 7.6 5.1 2.3 6.8 0.6
61 原級留置き者数(a) 9,177 9,650 2,664 21,491 4,704 2,478 1,553 516 9,251 30,742
在籍者数(b) 1,776,776 1,683,395 1,641,673 5,101,806 52,849 36,439 30,561 26,444 146,293 5,248,099
a/b(%) 0.5 0.6 0.2 0.4 8.9 6.8 5.1 2.0 6.3 0.6

 


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