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TITLE:  ホームページ開設の留意点
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 『月刊生徒指導』1999年8月号(学事出版)
WORDS:  全40字×142行

 

ホームページ開設の留意点

 

羽 山 健 一

 

 一 はじめに

  文部省は第一五期中央教育審議会の第一次答申(一九九六年)をうけて、二〇〇三年までに国内のすべての学校をインターネットに接続することを表明している。国の補助金を梃子に各地方自治体の教育センターを拠点とした情報環境整備が進むにつれ、インターネットの教育利用は飛躍的に広がりつつある。それとともに、学校ホームページの開設数も著しい増加を示している[1]。

  ところが、その答申発表の時すでに、全国二百以上の自治体の公立学校で、インターネットなどの通信が事実上できなくなっていた[2]。その理由は、学校のホームページに掲載された児童生徒の氏名・写真などが、自治体の個人情報保護条例に違反するとして、教育委員会などが削除を求めたからである。

  このように、ホームページを開設しようとすると、各種の法律問題に関わりを持つことになる。このような問題をよく知らないままでホームページを開設すると、思わぬトラブルに巻き込まれるおそれもある。ここで、それらの問題を網羅的に扱うことはとうてい不可能であるので、その中でもプライバシーの権利と著作権に関して、留意すべき問題点をおおまかに述べることにする。

 二 個人情報の保護

(1)個人情報保護条例の理念

  各地の自治体にみる個人情報保護条例の趣旨はプライバシーの権利の保護にある。プライバシーの権利は、広義には、人格的利益の総体ないし「自己に関する情報の流れをコントロールする権利」として理解されている。個人情報保護条例はプライバシーの権利の重要性を認め、その権利の一環として、個人情報の収集・利用・提供についての本人同意権、自己情報の開示・訂正請求権、などの個人の権利を明らかにしたものである。

  ここでいう個人情報とは、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」のすべてを指している(たとえば大阪府個人情報保護条例二条)。そのため、学校のホームページの内容の多くが、生徒・教職員の個人情報に該当する。そして、ホームページへの掲載は個人情報の利用・提供に当たるから、こうした情報の掲載は、個人情報保護に関わる諸権利を侵害しない形で行われなければならない。

  ただし、個人に関する情報でも、たとえば個人の写真で、像が小さい、後ろ姿などの理由で、第三者が見て個人が識別できないものについては、もともと個人情報には当たらないと考えられる。

(2)個人情報発信の要件

  一般に、インターネットを用いて個人情報の提供を行う際には、次の要件を満たしていることが必要であるとされる[3]。

 a 公益上の必要があること

  インターネットを教育に利用するのは、多様な分野の人たちとの情報の交流を通して、教育の改善・充実を図ることを目的としており、こうした教育目的の範囲内で個人情報を提供するのであれば、この要件を満たしていると考えられる。

 b 情報の本人の同意を得ていること

  ホームページに生徒の個人情報を掲載するには、本人の同意が前提となる。その際、あらかじめ本人に掲載の意義、内容、それに伴う危険等を説明したうえで、事前の同意を得ておかなければならない。掲載する個人情報の内容によっては、生徒の同意に加えて保護者の同意も必要であろう[4]。たとえば、生徒の作文に家族の個人情報や家庭生活の状況が含まれる場合等には保護者の同意が必要となる。この同意は口頭でもかまわないが、同意の内容を明確にし、さらには、個人情報の保護や著作権についての生徒や保護者の認識を高めるためにも、文書で行うようにしたいものである。

 c 情報の管理体制が整備されていること

  不正アクセスの排除等、オンライン結合の特性に対応した情報保護の措置が採られていなければならない。また、本人から情報の取り扱いについて苦情があった場合には、これに応じるとともに、情報の最新性、正確性が担保されるための手段を講じておくべきであろう。

  インターネットには不特定多数の利用者が存在することを考えると、掲載された個人情報が悪用される可能性も予測して、掲載するかどうかを慎重に考慮しなければならない。掲載しようとする情報が以上の要件を満たし、個人情報が適正に保護されるかどうかを判断するために、学校内に専門の審査委員会を設けることが望ましい[5]。

(3)具体的留意点

  学校のホームページには、教育活動や研究活動の内容として、教科の学習、学校行事・生徒会などの特別活動、部活動、進路指導などに関係する、生徒や教職員の個人情報が掲載される可能性がある。いずれについても、掲載が許されるためには前述の要件を満たしていることが必要であるが、個別の事例の判断において次の点が考慮されるべきである。

  a 生徒の住所、電話番号、生年月日  悪用される可能性が高いため、これらの情報を掲載してはならない[4]。

  b センシティブ情報  これは思想・信仰・信条、心身に関する情報、社会的差別の原因となる情報などのことであり、これらは特に慎重な取り扱いを要する情報で、原則として収集が禁止されている(前記府条例七条四項)。したがって、特別な必要のない限りこれらの情報を収集ないし掲載してはならない。

  c 作品、作文  生徒の制作した美術、書道、音楽、文芸などの作品についても、後述する著作権が発生しており、これを掲載するにはその生徒の許諾が必要である。また、作品のなかに先のセンシティブ情報が含まれる場合は、慎重な対応が求められる。

  個人が識別されないようにするため、教員が勝手に生徒の氏名を仮名に変えたり、生徒の肖像を修正してしまうことは別の問題を引き起こす。氏名や肖像についてのプライバシーの権利は、氏名等をみだりに公開されない権利だけではなく、みだりに修正されない権利を含むと考えられるからである。氏名の表示については、後に述べるように、著作権法にも定めがある。

  学校のホームページに情報を掲載するということは、個人的な利用と異なり、学校として情報を発信することであるから、厳格に規律されるべきであるとする意見がある。これはもっともなことであるが、あまりに杓子定規な規制は学校のホームページを魅力のないものにしてしまい、ひいては、インターネットの教育効果を減じてしまう。生徒の自己責任を前提としながら、個人情報を適正に保護するためには、どこまで、そして、どのように個人情報を発信できるのか、個別的に見きわめていく必要があろう。

 三 著作権の保護

  著作権法は、著作物についての排他的権利を著作者に認めている。したがって、ホームページに第三者の著作物を使用する場合には、原則としてその著作者の許諾を得なければならない。もちろん、これには例外があるが、学校のホームページは教育用だからとか、営利を目的としていないから許諾はいらないという解釈は成り立たない。著作権の侵害がある時には、ホームページの掲載の差止請求や損害賠償請求、さらには刑事告訴がなされる可能性もある(著作権法一一二条一項、一一四条、一一九条、民法七〇九条)。

(1)他のホームページのデータの利用

  新しくホームページを作成しようというとき、他の優れたホームページの作成技術から学ぶのが一般的である。そして、そこから文書・画像・音声・映像等のデータをコピーして、自分のホームページに借用したくなるのが人情である。しかし、これらのほとんどすべてが第三者の著作物であり、著作権の保護が及ぶ。たとえ、アイコンやボタンなどの小さな画像であっても著作権が及ぶことが多い。

(2)購入した写真集などの利用

  市販の写真集やイラスト集などを購入して、その作品をスキャナーで取り込み、無断で自分のホームページに使うことも原則として禁止である。写真は多くの場合その撮影者に、イラストはその作者に著作権がある。たとえば、卒業アルバムから校舎の写真を取り込んで利用するときにも、撮影者の許諾を得る必要があろう。これらは自分の所有物であるといっても、著作権は別で、その著作物を勝手に利用できるわけではない。

  ホームページ作成用の素材集を付録にした、CD−ROMつきの書籍が市販されているが、これを利用する際にも注意するべきことがある。多くの場合、素材の作者は自分の著作権を放棄していないからである。なかには「著作権フリー」という表現がなされているものもあるが、これらの多くは、一定範囲の使用についてその許諾料が無料であることを意味するにすぎない。無料で使用できるものについても、制限事項・免責事項が設けられているので、付録の利用についての説明記事や説明ファイルをよく読んでおく必要がある。

(3)生徒の作品に関わる著作権

  生徒の制作した作品をホームページに掲載するときには、著作者たる生徒の許諾が必要となる(公表権・著作権法一八条一項)。また、生徒の氏名の表示について、生徒には著作者として実名を用いるか、仮名または匿名にするかを決める権利がある(氏名表示権・著作権法一九条一項)。そのため、無断で生徒の氏名をイニシャル等に変えることは許されない。さらに、生徒の作品といえども、無断でこれに手を加えて修正したり、その題名を変えることも許されない(同一性保持権・著作権法二〇条)。

  生徒の作品が第三者の著作権を侵害していないかについても審査しておく必要がある。他人の作品を無断で変形、脚色、合成し、またはパロディ化すると、著作権者の翻案権(著作権法二七条)や同一性保持権を侵害する場合があるので、こうした側面からの点検も求められるのである。

 

 

 【 注 】

[1]この全国的動向については、越桐國雄(大阪教育大学)「インターネットと教育」http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/educ/

[2]読売新聞 一九九六年七月二二日 夕刊

[3]大阪府個人情報保護審議会答申(一九九六年九月一七日)資料2「オンライン結合を用いた個人情報の提供についての基準」

[4]神奈川「県立学校におけるインターネット利用に係る個人情報保護のガイドライン」(一九九七年)

[5]たとえば、三重大学教育学部附属中学校「Webページ作成、公開の規定」http://www.fuzoku.edu.mie-u.ac.jp/naiki.html


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