◆200609KHK227A2L0427M
TITLE: 注目の教育裁判例(2006年8月)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第227号(2006年9月)
WORDS: 全40字×427行
注目の教育裁判例(2006年8月)
羽 山 健 一
ここでは、公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から、先例として教育活動の実務に影響を及ぼすもの、ないし、児童生徒を指導する上での指針として参考になるものを選んでその概要を紹介する。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照されたい。
- 山梨県立日川高校校歌「天皇の勅」事件
東京高裁 2006年5月17日判決
- 土佐高校サッカー試合中落雷被災事件
最高裁第二小法廷 2006年3月13日判決
- 北海道公立高校ボート部大会中転覆溺死事件
札幌地裁 2005年11月25日判決
- 船橋市西図書館「新しい歴史教科書」等除籍事件
最高裁第一小法廷 2005年7月14日判決
- 私立高校対教師セクハラ退学処分事件
大阪地裁 2005年3月29日判決
- 大宮市立小学校児童PTSD罹患事件
さいたま地裁 2005年4月15日判決
- 信州大学白翁稲荷神社存置事件
東京高裁 2004年7月14日判決
- 大阪経済大学スポーツ推薦入試不合格事件
大阪高裁 2004年10月14日判決
- 大阪教育大学附属池田中学校長出願書類作成拒否事件
大阪地裁 2004年10月29日判決
- 早稲田大学江沢民主席講演会参加者名簿提出事件
最高裁第二小法廷 2003年9月12日判決
◆ 2006.05.17 山梨県立日川高校校歌「天皇の勅」事件
【事件名】 損害賠償請求控訴事件
【裁判所】 東京高裁
【事件番号】平成17年(行コ)第232号
【年月日】 平成18年5月17日判決
【結 果】 棄却
【経 過】 第一審甲府地裁平成17年8月9日判決(棄却)
【出 典】 最高裁ホームページ
事案の概要:
本件は、山梨県民である控訴人らが、「山梨県立日川高等学校の教職員が、平成14年度の教育活動として、同校の生徒に対し、『天皇(すめらみこと)の勅(みこと)もち勲(いさおし)立てむ時ぞ今』という一節を有する同校校歌を指導したことは、憲法及び教育基本法の教育理念に著しく反し、教育活動として違法であるから、校歌指導のために費やされた教職員の人件費及び学校運営費の支出も違法であり、同年度における同校の全教育課程(カリキュラム)の時間のうち本件校歌のために費やされた時間(117分)の割合である0.18パーセントに相当する同年度の教職員の人件費及び学校運営費の一部109万4715円の支出は違法な公金支出となる」などと主張して、山梨県知事である被控訴人に対し、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、同校校長、県教育長及び教育委員らに対して、前記違法な公金支出相当額の損害賠償を請求するよう求めた事案である。
判決の要旨:
確かに、本件歌詞における「天皇の勅」が教育勅語を指すのかどうかを措くとしても、本件歌詞が国民主権、象徴天皇制を基本原理の一つとする日本国憲法の精神に沿うものであるのかについては異論があり得るところであって、本件歌詞を含む本件校歌指導を教育課程に取り入れることの当否についても、十分な議論が必要であるということはできる。しかし、仮に、本件校歌を教育課程に取り入れることが違法であり、違法な校歌指導のために、教育課程の一部が費やされたとしても、その全教育時間に対する割合は、控訴人らも自認するように0.18パーセントに止まるのである。そうであれば、上記指導の違法を理由として、その教育課程に全体として重大かつ明白な違法があるということはできないことが明らかであって、原因行為の違法性が承継されて、公金の支出自体が違法となるとの前記議論を適用するための前提を欠くといわざるをえない。
また、本件運営費、本件人件費の支出については、その性質自体からみても、本件校歌指導に関わる部分を特定することは不可能であり、控訴人らもこれを直接的に特定することをしないで、専ら時間的な割合だけを根拠に、全支出の0.18パーセントが違法な公金支出となると主張しているのである。しかし、公金支出の前提となった原因行為のごく一部につき違法があることを理由に、一体としてなされた支出行為(財務会計行為)自体を違法であると評価することは、割合的に違法であると評価することを含めて、できないというべきである。
◆ 2006.03.13 土佐高校サッカー試合中落雷被災事件
【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 最高裁第二小法廷
【事件番号】平成17年(受)第76号
【年月日】 平成18年3月13日判決
【結 果】 破棄差戻し
【経 過】 第一審高知地裁平成15年6月30日判決、
第二審高松高裁平成16年10月29日判決
【出 典】 判例タイムズ1208号
【参 考】 伊藤進・季刊教育法149号50頁
要約:
高等学校の生徒が課外のクラブ活動としてのサッカーの試合中に落雷により負傷した事故について引率者兼監督の教諭に落雷事故発生の危険が迫っていることを予見すべき注意義務の違反があるとされた事例
事案の概要:
被上告人Y1の設置するA高校のサッカー部に所属していた上告人X1が、課外のクラブ活動の一環としてサッカー競技大会に参加していた際に落雷を受けた事故に関し、サッカー部の引率者兼監督であったB教諭及び大会の主催者であった被上告人Y2の担当者には落雷を予見して回避すべき安全配慮義務を怠った過失があるとして、被上告人らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案の上告審
判決の要旨:
A高校の第2試合の開始直前ころには、上空に黒く固まった暗雲が立ち込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのであるから、上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても、B教諭としては、上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったものというべきであるなどとして、原判決中被上告人らに関する部分を破棄し、原審に差し戻した。
補足:
落雷事故の予見義務について、原審は、「平均的なスポーツ指導者においても、落雷事故発生の危険性の認識は薄く、雨がやみ、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったと考えられるから、・・・B教諭においても、上記時点で落雷事故発生を予見することが可能であったとはいえず、また、これを予見すべきであったということもできない。」として義務違反はなかったとした。これに対し本判決では、このような平均的なスポーツ指導者の認識は、「当時の科学的知見に反するものであって、担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ない。」として教諭の予見義務懈怠を肯定した。
◆ 2005.11.25 北海道公立高校ボート部大会中転覆溺死事件
【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 札幌地裁
【事件番号】平成15年(ワ)第751号
【年月日】 平成17年11月25日判決
【結 果】 一部認容
【出 典】 最高裁ホームページ
要約:
高等学校ボート大会で生徒が溺死した事故につき、引率教師の過失を認定し、損害賠償請求の一部を認容した事案
事案の概要:
被告が設置する高等学校のボート部に所属していた当時15歳(1年生)の女子生徒Cが、平成13年9月21日から同月23日の日程で開催された高等学校ボート大会の新人戦に参加し、同月21日、ボート転覆によって溺死した事故につき、同人の両親である原告らが、ボート部の引率教師や被告が設置する高等学校の教諭である新人戦の競漕委員長に安全配慮義務違反があったとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、死亡により生じた損害及び原告ら固有の各損害の賠償金等の請求を行った。
判決の要旨:
ボート部顧問のEらには、亡Cらに対し、本件漕艇場の特徴、本件事故当時のように強風が吹く可能性がある場合には津軽海峡付近への進入を避けるべきこと等を周知徹底させるべき注意義務があったことが認められるが、Eらは、上記のような事情につき周知徹底した事実は認められないのであって、この注意義務を怠ったといえるとし、請求を一部認容した。
◆ 2005.07.14 船橋市西図書館「新しい歴史教科書」等除籍事件
【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 最高裁第一小法廷
【事件番号】平成16年(受)第930号
【年月日】 平成17年7月14日判決
【結 果】 破棄差戻し
【経 過】 第一審東京地裁平成15年9月9日判決、
第二審東京高裁平成16年3月3日判決、
差戻審東京高裁平成17年11月24日判決
【出 典】 判例時報1910号94頁、判例タイムズ1191号220頁
【参 考】 中川律・季刊教育法149号77頁
要約:
公立図書館の職員が閲覧に供されている図書の廃棄について不公正な取扱いをした行為が当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるとされた事例
事案の概要:
新しい歴史教科書の作成等を目的とする団体である上告人らが、被上告人が設置した船橋市西図書館に司書として勤務していた職員は、上告人やこれに賛同する者等及びその著書に対する否定的評価と反感から、その独断で、同図書館の蔵書のうち上告人らの執筆又は編集に係る書籍を含む合計107冊を、除籍基準に定められた「除籍対象資料」に該当しないにもかかわらず、廃棄し、上告人らの有する著作者としての人格的利益等を侵害したとして、被上告人に対し、国家賠償法等に基づき、損害の賠償を求めた。
判決の要旨:
公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは、当該著作者が著作物によってその思想、意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものといわなければならない。そして、著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると、公立図書館において、その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は、法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり、公立図書館の図書館職員である公務員が、図書の廃棄について、基本的な職務上の義務に反し、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは、当該図書の著作者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというべきである。
補足:
公立図書館を通じて公衆に思想を伝達する、著作者の利益について、原審は、「図書館に収蔵され閲覧に供されている書籍の著作者は、当該図書館に対し、その著作物が図書館に収蔵され閲覧に供されることにつき、何ら法的な権利利益を有するものではない。」として、この著作者の利益を「事実上の利益」、「反射的利益」と位置づけた。これに対して本判決は、著作者が有する利益は「法的保護に値する人格的利益である」と解している。
◆ 2005.03.29 私立高校対教師セクハラ退学処分事件
【事件名】 地位確認等請求事件
【裁判所】 大阪地裁
【事件番号】平成16年(ワ)第8648号
【年月日】 平成17年3月29日判決
【結 果】 棄却(確定)
【出 典】 判例時報1923号69頁
要約:
私立高校の生徒の同級生に対するいじめ行為や女性講師に対するセクハラ行為を理由とする退学処分について、裁量権を逸脱濫用したものといえず、適法であるとされた事例
事案の概要:
本件は、被告の設置する高等学校の生徒であった原告が、同級生に対するいじめ行為及び女性講師に対するセクハラ行為を理由として退学処分をうけたところ、裁原告の行為は退学処分の事由に該当するものではなく、また、手続き的にも弁解の機会や改善の機会が与えられなかったから、上記退学処分は無効であるなどとして、同校の生徒たる地位を有することの確認を求めている事案である。
判決の要旨:
証拠によれば以下の事実が認定できる。原告は、同級生Cにジュース等を買いに行かせ、Cの椅子に押しピンを置き、Cの携帯電話を勝手に使用し有料の出会い系サイトや成人向けサイトに接続し、Cに対しラグビーのタックルのように体当たりし小指を捻挫させるなどのいじめ行為ないし暴力行為を行った。また、授業中に若い女性であるD講師に対し、「チューしたろか」、「なめたろか」、「処女か」、「やらして」など、直接性的交渉を示す発言をして、D講師を羞恥・困惑させ、授業の進行をたびたび中断させた。同D講師の授業中、制服のシャツをズボンの中に入れることにかこつけて、わざわざ席を立って、パンツが見える状態までズボンを下げた。
本件高校は、原告他関係者から事情聴取をした上で、学年会議、生活指導部会、職員会議等の議論、議決等を経て本件退学処分を行っており、ある程度慎重な手続きに従って処分の妥当性を検討しているとみるべきである。
本件退学処分が、校長に認められた裁量権を逸脱濫用したものであるとは認められないから、本件退学処分は適法であるといえる。
◆ 2005.04.15 大宮市立小学校児童PTSD罹患事件
【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 さいたま地裁
【事件番号】平成12年(ワ)第2384号
【年月日】 平成17年4月15日判決
【結 果】 一部認容・一部棄却(確定)
【出 典】 判例時報1922号121頁
要約:
公立小学校の女性教師が児童に対して執拗ないじめを行ったとして、学校側の国家賠償責任が認められた事例
事案の概要:
児童Xは、平成4年5月から同年8月の間、大宮市立小学校5年に在籍していたが、当時の担任教師であったYから、ひどいことを言われたり、いじめられたことにより、精神的苦痛を受け、外傷性ストレス性障害(以下「PTSD」)の後遺障害を負ったと主張し、Yに対しては民法709条に基づき、大宮市(現さいたま市)に対しては国家賠償法1条に基づき1000万円の損害賠償を請求した。
判決の要旨:
認定事実によれば、YがXに対し、本件いじめ行為をしたこと、YのXに対する本件いじめ行為は、Yが5年3組の担任教師であり、Xが同組に在籍する10歳の児童であるという絶対的な力関係の下で、YからXに対し一方的かつ執拗に行われたものであり、しかも、Xに自らの落ち度や短所についての反省や改善の努力を求めるというという限度をはるかに超え、Xにとっては自己の人格や存在意義自体を否定されたものとしか受け取れないような内容のものであったことが認められ、それが初等教育の場で教師から児童に対し行われたことを考慮すれば、まさに人権に関わる重大なものであったといわざるを得ない。
平成8年12月前後にXが精神障害に罹患したことは認められるが、これが本件いじめ行為と因果関係を有するものと認めることができないから、本件いじめ行為によってXが被った損害としては、Yからこれを受けた当時味わった精神的苦痛のみが認められる。
補足:
本件の争点の一つは、担任教師の児童に対するいじめ行為が存在したかどうかであるが、判決は、次のような事実認定を行ってそれを肯定した。ただし、ここには、原告Xが母親に話した内容、Xの級友がその親に話した内容を多く含んでいるため、その細部の信憑性については疑問がないわけではないが、これは学校の日常的活動の中で起こる出来事を立証することの困難さを示すものであろう。
(1) Yは原告Xと同じクラスで仲の良かったAに対して、「○○さん(Xのこと)は末子でわがままだから、○○さんと仲良くすることは○○さんのためにならない、遊んではいけない、しゃべってはいけない、一緒に帰っては行けない、○○さんのような子と遊ぶのは人間のクズのすることだ。」と言った。
(2) 掃除の時間にXが廊下を拭いている際に、「あーあもう一度ふかなくっちゃ。」と言ったところ、Yは怒って、Xに対し、「そんなにやりたくなければ正座していなさい。」と言い、正座の仕方が悪いと言って直させ、さらに、「あんたの顔なんか見たくない。」「ぶすっとしているときの顔を鏡でみていらっしゃい。」と言った。
(3) Yは児童の席替えを行い、四隅はレベルが低い人、中心は華やかな人を置くと言った上、XとAはそれぞれ男子ばかりの班に入れ、Xの席を廊下側の最前列とした。
◆ 2004.07.14 信州大学白翁稲荷神社存置事件
【事件名】 損害賠償請求控訴事件
【裁判所】 東京高裁
【事件番号】平成16年(ネ)第1692号
【年月日】 平成16年7月14日判決
【結 果】 控訴棄却(上告、後上告取下)
【経 過】 第一審東京地判平成16年3月4日
【出 典】 判例タイムズ1179号190頁
【参 考】 季刊教育法146号98頁
要約:
国立大学の構内に神社を存置することは憲法89条の精神に反するが、私人の信教の自由を侵害するものではないなどとして、私人の大学に対する損害賠償請求が棄却された事例
事案の概要:
Y大学構内にある白翁稲荷神社は、京都伏見稲荷神社の分社で、戦前は旧帝国陸軍の守護神であったが、戦後、連合軍の指示で構外に移転したものの、昭和31年ころ、再び構内に戻され、現在に至っている。Xは松本市に居住する帝京大学教授であるが、大学の構内に神社を設置することは、明らかに憲法20条、23条、89条、教育基本法9条、10条に違反するものであり、そのことにより多大の精神的苦痛を受けたとし、Yに対して、95万円の慰謝料を請求するとともに、同神社の構外への移転を求めた。
判決の要旨:
本件神社を信州大学構内に存置させたままにしてきている国ないし同大学の姿勢は、憲法89条の精神に明らかに反する不相当な行為であるといわざるを得ないが、そのことによって、控訴人の信教の自由が直ちに侵害されたとみることはできないし、控訴人が国ないし被控訴人から本件神社の宗教行事への参加を強制されたなど、控訴人個人の信教の自由が現実に妨害されたと認めるに足りる証拠はないから、本件神社の存在により控訴人に具体的な精神的苦痛が生じているとまでは認めることができない。また、控訴人が国ないし被控訴人に対して本件神社を構外に移転させることを直接要求できる実態法上の権利を認めることもできない。
◆ 2004.10.14 大阪経済大学スポーツ推薦入試不合格事件
【事件名】 損害賠償請求控訴事件
【裁判所】 大阪高裁
【事件番号】平成14年(ネ)第3714号
【年月日】 平成16年10月14日判決
【結 果】 一部変更・一部控訴棄却(確定)
【経 過】 第一審大阪地判平成14年11月1日(判時同号)
【出 典】 判例時報1890号54号
【参 考】 季刊教育法146号98頁
要約:
大学が特技(スポーツ)推薦入学試験制度について受験者に対し適切な説明をしないばかりか誤った情報を提供し説明義務に違反したためその誤信によって生じた損害を受験者に賠償すべきであるとされた事例。
事案の概要:
Xは、島根県の高校に在籍しサッカー部に所属していた。Xは全国大会に出場したことがあるが、Yの経営する大学サッカー部監督Aのの勧めにより、スポーツ推薦入試を受験したが、過去の競技成績が低く評価され不合格となった。そこでXは、監督Aの強い勧誘により入学を応諾することによりXの大学入学が内定していたとして、Yに対して債務不履行による損害賠償を請求した。
判決の要旨:
Aは、Xに対して、本件推薦入試を受験するよう強く勧誘し、その結果、Xは本件推薦入試の受験を決意したというべきである。また、平成12年度本件推薦入試制度は、Aの評価が全く反映せず、Aが勧誘した受験生であっても、そうでない一般の推薦入試受験生と同等に扱う制度となっているにもかかわらず、A及びYがかかる制度についてXに対して説明した形跡はない。かえって、Xは、本件推薦入試に合格する可能性が低かったのであるから、Aの「99パーセント大丈夫だ。」との説明は、Xに対して誤った情報を提供したことになる。
したがって、AひいてはYは、Xに対し、本件推薦入試制度について適切な説明をせず、かえって誤った情報を提供し、説明義務に違反したというべきである。
◆ 2004.10.29 大阪教育大学附属池田中学校長出願書類作成拒否事件
【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 大阪地裁
【事件番号】平成15年(ワ)第11538号
【年月日】 平成16年10月29日判決
【結 果】 一部認容・一部棄却(確定)
【出 典】 判例時報1886号87頁
【参 考】 季刊教育法146号99頁
要約:
国立大学附属中学校校長が、同附属高校の一般入試を希望した同中学校生徒の出願書類の作成を拒否したため、生徒が受験できなかったとして、生徒及びその両親が求めた国家賠償請求が認容された事例。
事案の概要:
国立大学附属中学校の生徒X及びその両親は、同附属高校への内部進学が成績不振で進学者としての推薦が受けられない旨通知を受けたため、推薦選抜受験を断念し、同附属高校の一般受験のため必要な出願書類の作成を同附属中学に要望したが、同附属中学校長Aがこの作成を拒絶したため、同附属高校の一般入試を受験することができなかった。そこで、Xらは同附属高校への入学試験を受験する機会を不当に奪われ、精神的苦痛を被ったとして国立大学法人に対して、国家賠償を求めた。
判決の要旨:
進路指導は、あくまでも生徒本人が将来の進路を選択するための助言、援助活動としてなされるものなのであるから、その指導の方法及び程度にも自ずから限界があり、最終的にはその助言に基づいてする本人の自主的自律的決定に委ねられるべきものである。
そして、本件で、原告Xが、他校の入学試験の受験も念頭においていたとしても、なお附属高校への入学の余地を残すため、Aに対し、附属高校の一般入試の受験のため、その出願書類の作成を依頼していたというのであるから、かかる原告Xの意思を、Aとしては可及的に尊重すべきものである。
◆ 2003.09.12 早稲田大学江沢民主席講演会参加者名簿提出事件
【事件名】 損害賠償等請求事件
【裁判所】 最高裁第二小法廷
【事件番号】平成14年(受)第1656号
【年月日】 平成15年9月12日判決
【結 果】 破棄差戻
【経 過】 第一審東京地裁平成13年4月11日判決、
第二審東京高裁平成14年1月16日判決、
差戻審東京高裁平成16年3月23日判決
【出 典】 民集57巻8号973頁、判例時報1837号3頁、判例タイムズ1134号98頁
事案の概要:
大学主催の諸外国の要人の講演会に参加を申し込んだ学生の学籍番号、氏名、住所等を、大学が学生に無断で警備目的のため警察に開示した行為につき、これが学生らのプライバシーを侵害したものであるとして、学生らが損害賠償を求めた事案である。
判決の要旨:
大学が講演会参加希望者に対し開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ、それが困難であった特別の事情が窺われない本件においては、大学の行為はプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、上告人らのプライバシーを侵害し不法行為を構成するとして、原判決を破棄差戻しした事例(反対意見あり)。
補足:
本人の同意を得ない個人情報の開示について、原審は、「本件個人情報は、基本的には個人の識別などのための単純な情報にとどまるのであって、思想信条や結社の自由等とは無関係のものである上、他人に知られたくないと感ずる程度、度合いの低い性質のものであること、上告人らが本件個人情報の開示によって具体的な不利益を被ったとは認められないこと、早稲田大学は、本件講演会の主催者として、講演者である外国要人の警備、警護に万全を期し、不測の事態の発生を未然に防止するとともに、その身辺の安全を確保するという目的に資するため本件個人情報を開示する必要性があったこと、その他、開示の目的が正当であるほか、本件個人情報の収集の目的とその開示の目的との間に一応の関連性があること」等の諸事情を総合的に考慮した結果、本件個人情報の開示の違法性を否定した。これに対して本判決は、「原判決の説示する本件個人情報の秘匿性の程度、開示による具体的な不利益の不存在、開示の目的の正当性と必要性などの事情は、上記結論を左右するに足りない。」として、学生らのプライバシー侵害が不法行為を構成すると判断した。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会