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TITLE:  大阪(高槻)における評価・育成システム
AUTHOR: 編集部
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第228号(2006年12月)
WORDS:  全40字×184行


大阪(高槻)における評価・育成システム



  標記のテーマについて、10月14日、元中学校教員の松岡勲氏と小学校教員の長谷川洋子氏に報告をいただいた。当日の報告を事務局のほうでレジュメに従って要約した。もし、内容の誤りや表現の不適切なところがあれば、それはひとえに事務局の責任であることをおことわりしておく。


1.矛盾だらけのシステム

  高槻市の評価・育成システムは2002年度に試験実施され、翌2003年度に試行、そして、2004年度より本格実施された。これまでは教員の職能向上が制度実施の中心的な目的であると説明されてきたが、2007年度からは夏のボーナスに反映され、2008年の1月からは給与に反映されることが決まっており、人事考課としての性格が明確になった。これまで、労組「学校労働者ネットワーク・高槻」では組合交渉を通じて、管理職による評価が主観的・恣意的で信頼性を欠いていること、思想・良心の侵害などシステムが悪用されていること、評価結果への苦情対応が不備で苦情処理機関の中立性が確保されていないことなど、システムの不備や矛盾を追及してきた。


2.情報公開条例、個人情報保護条例、苦情申立制度の活用

  同システムが本格的に導入されるのに対して、大阪府や高槻市の情報公開条例や個人情報保護条例を用いて反対や抵抗の運動を展開してきた。
@ 前哨戦として、大阪府教委の指導力不足教員数400という調査結果の報道について、その数の裏付けとなる資料の開示請求を行ったが、不存在決定が下されたので、審査会への異議申し立てを行った。その結果、その人数の基礎となる元データは存在しないことが明らかになった。
A2002年度、校長の自己申告票を高槻市に開示請求し、審査会へ異議申し立てを行った。
B2002年度、校長が各教員について記入する「評価・育成シート」を、高槻市の個人情報保護条例に基づいて開示請求した(開示)。2003年に出された別の非開示決定に対しては異議申立を行った。この間、大阪府が2005年度より同種文書を開示することが計画されるようになると、高槻市も先の非開示決定を取り消し、開示をおこなった。これ以降、同文書は開示されるようになっている。以上のように高槻市では「評価・育成シート」は2002年度からすべて開示を勝ち取ってきた。
C2002年度、「評価・育成シート」の訂正請求を行い、これが認められず審査会に異議申立をした結果、一部訂正が認められた。
D2003年度より、校長による評価に対して苦情申立を行った。こうした追求が影響したのか、2005年度の評価結果分布では、前年度に比べ「B」評価が減り「A」評価の増加が目立っている。

  「評価・育成シート」の開示により、校長の評価がきわめて杜撰なものであることが判明した。たとえば、「次年度に向けた課題」として、土曜日、日曜日の週休日に、校長の期待する業務に協力することを求める記述がされていた事例があった。また、別の例では、「能力評価」の「学校運営」の項目において、卒業式で国歌斉唱中に座っていたことが理由で評価が下げられていたことが分かったが、この「評価・育成シート」を詳しく見ると、校長は卒業式を実施する以前にこの評価を行っていることが判明した。こうした事実をもとに組合交渉をすることにより、一部では、「C」の能力評価を「A」に変更させることに成功した。追求のたびに、市教委や校長らはあわてて混乱を繰り返した。総じて、評価・育成システムを形骸化させる効果があったように思われる。


3.ついに賃金への反映段階に入る

(1) 賃金構造改悪
  大阪府では総人件費を7%削減するという給与制度の構造的改悪が行われ、2006年3月31日時点の給与額が保障されるというものの、47歳以上の教員は退職まで現給補償額を上回ることがなくなる。つまり、いくら頑張っても、評価で「S」を取っても、賃金は現在の水準以上に上がらないということである。一時金や退職金の額も、大幅賃下げ後の新賃金表の号給に基づき算定される。

(2) 評価・育成システムの賃金反映
  前述のように、2006年度の評価は、2007年夏のボーナスや2008年1月1日からの昇給に反映される。これにより、確実に不利益を被るのは「自己申告票」の未提出者である。未提出者は評価結果のない職員という扱いとなり、1年目は「C」評価者、2年目は「D」評価者と同じ査定となる。つまり、昇給については、55歳未満の場合、1年目は昇給3号給、2年目以降は昇給なしとなる。55歳以上の場合は、1年目昇給1号給、2年目以降は昇給がなくなる。この昇給の差は生涯賃金への影響がとくに大きい。また、未提出者の夏のボーナス(勤勉手当)について、その成績率は1年目0.66月、2年目以降0.61月となる。なお、標準の「B」評価者は0.71月である。また、評価結果の反映のない2006年度の成績率は全員が一律0.725月である。

  自己申告未提出者の評価は、その実際の業績や能力に関わらず、未提出という外形をもって評価が決定するため、訴訟で評価結果について争うことが難しい。大阪電通合同労組の成績主義裁判についての大阪地裁判決では、評価制度に違反しない限り使用者は幅広い「裁量権」を持つと判示されているので、未提出者が提訴して成績評価の不当性を争っても勝てる見込みが薄い。ただ、この点は自己申告票を提出した者についても同じことがいえるのであって、たとえば「B」あるいは「A」という評価が違法であるということを認めさせるのはきわめて困難であろう。

  昇給停止という事態は避けざるを得ないので、今後、評価・育成システムに抵抗する運動として自己申告票の未提出という手段は採りにくくなる。そのため、これまでの手段に加えて、本年4月に発足した労働審判制度を活用できないか、また、教員評価の賃金への反映を差し止める予防訴訟を提起できないか、などについて検討をする必要がある。その際、この問題に真剣に取り組むいくつかの労組がコラボレートして対応することも考えなければならない。





(意見交換)







(資料)

平成17年度の評価結果分布等

大阪府教育委員会

(1) 自己申告票の提出率(大阪市を除く)   (%)
        市町村立学校府立学校
平成17年7月末時点94.792.4
平成17年度末時点96.094.6

    (参考) 平成16年度   (%)
        市町村立学校府立学校
平成16年7月末時点90.590.0
平成16年度末時点94.292.2


(2) 全職員の平成17年度の評価結果分布(大阪市を除く)   (%)
          
市町村立学校業績評価1.129.867.71.30.0*
能力評価1.436.660.21.80.1
総合評価1.033.863.81.40.0*
府立学校業績評価3.131.863.81.20.0*
能力評価3.838.356.31.50.0**
総合評価2.935.260.61.20.0*
     * は「0.03」を四捨五入して「0.0」と表記。  ** は「0.04」を四捨五入して「0.0」と表記。

    (参考) 平成16年度   (%)
          
市町村立学校業績評価1.025.571.42.00.1
能力評価1.134.162.02.60.1
総合評価1.032.064.92.10.0*
府立学校業績評価2.424.870.82.00.1
能力評価3.534.559.42.50.1
総合評価3.131.763.21.90.1
     * は「0.04」を四捨五入して「0.0」と表記。


(3) 平成17年度の評価結果に対する苦情(府立学校分のみ)
申出件数44件







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