◆200708KHK230A2L0411M
TITLE: 注目の教育裁判例(2007年8月)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第230号(2007年8月)
WORDS: 全40字×411行
注目の教育裁判例(2007年8月)
羽 山 健 一
ここでは、公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から、先例として教育活動の実務に参考になるものを選んでその概要を紹介する。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照されたい。
- 私立大学講師スポーツ推薦入学者成績公表事件
広島地裁福山支部 2005年7月20日判決
- 横浜市立中学校教諭不適切言動事件
東京高裁 2005年12月22日判決
- 大学入試合格者入学不許可事件
東京地裁 2006年2月20日判決
- 産経新聞足立区立中学校教員名誉毀損事件
東京地裁 2006年5月29日判決
- 枚方市立中学校学力テスト学校別成績公開請求事件
大阪地裁 2006年8月3日判決
- 江戸川学園取手中学・高校道徳教育事件
東京地裁 2006年9月26日判決
- 兵庫県体罰情報公開請求事件
大阪高裁 2006年12月22日判決
- 東京都立大泉養護学校入学式絵付きブラウス事件
東京高裁 2006年12月26日判決
- 私立女子高校出席日数不足留年事件
東京地裁 2007年3月26日判決
- 鴻巣市教育委員会学齢登載通知書不開示事件
さいたま地裁 2007年4月25日判決
- 工業技術専門学校教員私用メール解雇事件
福岡高裁 2005年9月14日判決
◆ 私立大学講師スポーツ推薦入学者成績公表事件
【事件名】 解雇無効確認及び賃金支払請求訴訟
【裁判所】 広島地裁福山支部
【事件番号】平成14年(ワ)第83号
【年月日】 平成17年7月20日判決
【結 果】 一部認容
【経 過】
【出 典】 最高裁HP
事案の概要:
被告の設置する大学では、経済学部教授会において、スポーツ推薦入学者の成績評価に関し、「スポーツ推薦入学者の置かれている特別の事情を考慮して、彼等の履修科目の成績評価および進級・卒業に際して特別措置をすることができるものとする。」という申し合わせをおこなっていたところ、被告大学において講師を務めていた原告は、記者会見において、組合委員長として、氏名、学生番号をすべて墨塗りして学生が特定されないようにしたスポーツ推薦学生についての成績原簿変更指示書のコピーを示し、被告大学経済学部では、担当教官に知らされることなく、@不合格である者を合格点まで嵩上げする、A当該教科を受験していない者に合格点を与える、Bある教科を別の教科に読み替える、という内容の指示が学部長名でなされていることを公表した。
原告は当該公表行為が、「D大学及びF大学教職員の人事及び勤務等に関する規程(就業規則)」所定の解雇事由である「勤務成績不良」ないしは「職務の適格性を欠く」場合に該当するとして普通解雇されたことについて、上記行為は解雇事由に該当せず、本件解雇は無効であると主張して、被告に対し、その地位の確認と賃金の支払を求めた。
判決の要旨:
本件公表行為が容易に矯正しがたい原告の素質,能力,性格等に基因するものであるとは認められず,原告に教員としての職務の適格性が欠けているとまでいうことはできない。また、本件公表行為は,懲戒事由には該当するけれども,大学における懲戒には免職のほか停職,減給及び戒告があるところ,原告には処分歴がなく,原告の問題意識も一応理由があるものと認められること等の諸事情に照らせば,本件公表行為を行ったことを理由として懲戒免職することは懲戒権の濫用にあたるというべきである
補足:
判決は、原告が本件事実を公表したことについて、「内部告発を行う方法としては、基本的には、まず教授会や団体交渉の場において質問し、十分に趣旨説明を求めた上で、大学内部で是正を要求すべきであり、外部に公表するという行為は、問題にしている内容が一見して違法あるいは不適切であることが明確な場合や大学内部での是正が期待できないような緊急性が認められる場合などの例外的場合を除いて、最終的な手段と考えるべきである。」 と述べ、原告のとった方法は、まず尽くすべき他の手段を講じていないものであると非難した。
◆ 横浜市立中学校教諭不適切言動事件
【事件名】 損害賠償請求控訴事件
【裁判所】 東京高裁
【事件番号】平成17年(ネ)670号・671号
【年月日】 平成17年12月22日判決
【結 果】 原判決変更(確定
【経 過】 原審横浜地裁平成16年12月24日判決
【出 典】 判タ1237号285頁
事案の概要:
本件は、Yが設置する市立中学校の生徒であったX1、X2及びその父親X3が、Yに対し国家賠償法に基づき損害賠償を請求するものであり、X1が同級生から暴行を受け受傷したことにつき、Yが安全配慮義務を怠ったと主張し(670号事件)、X2が@所属していた剣道部の活動において、顧問である教諭に腰部を蹴られて受傷し、A授業中に国語教師から書き初めにコメントされた際に「やくざ」と言われるなどし、B頬に切り傷のある似顔絵が掲載された卒業文集を全校生徒に配布されたことが、侮辱や不適切な対応で違法な行為に当たり精神的苦痛を受けたと主張したもの(671号事件)である。
判決の要旨:
原審は670号事件について、本件暴行はX1に対するいじめとしてなされたものではなく、学校外において発生したもので、Yに危険を予見することが可能であったとはいえないと判断し、請求を棄却した。671号事件について原審は、@ABともに違法性を認め請求の一部を認容した。これに対し、本判決は、@事件では違法な行為に当たると判断したが、A事件については、教育上の配慮を欠く不適切なものであるが、悪意のない失言であり、生徒に与える悪影響がそれほど大きなものではないとして国家賠償法上違法な行為とまでは認められないとし、B事件についても、不適切であったが、その経緯等の具体的事情を判断し、国家賠償法上違法な行為とは認めなかった。
◆ 大学入試合格者入学不許可事件
【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 東京地裁
【事件番号】平成16年(ワ)第13871号
【年月日】 平成18年2月20日判決
【結 果】 一部認容(確定)
【経 過】
【出 典】 判タ1236号268頁
事案の概要:
被告の設置するY大学の入学試験を受験した原告は、合格通知の送付を受けたが、その後、Y大学が原告の入学を許可しなかったことにつき、そのような措置が違法であるとして損害賠償を請求した。被告は原告の提出した入学手続書類によって、原告がA教団の主催者の3女であることを知り、A教団と原告との関係が継続しているものと考え、入学を許可すると、原告や他の学生の勉学環境が守れないことなどを指摘し、入学不許可が社会通念上許容される措置であって違法ではないと主張した。
判決の要旨:
Y大学は入学前の段階において、慎重に調査するという態度を欠き、容易に、原告が危険を誘発するほど教団と深い関係にあると判断し、その誤った判断を前提に、自ら抽象的に予想する危険性が仮に現実化した場合を想定し、その想定を前提とした判断を行ったものである。したがって被告の入学不許可の措置は違法であり不法行為責任を免れない。
◆ 産経新聞足立区立中学校教員名誉毀損事件
【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 東京地裁
【事件番号】平成17年(ワ)第1546号
【年月日】 平成18年5月29日判決
【結 果】 棄却(控訴)
【経 過】 二審東京高裁平成19年1月16日判決(棄却、確定)(判時1959号30頁)
【出 典】 判例タイムズ1213号189頁
事案の概要:
被告が発行する産経新聞の社説において「問題教師 すみやかに教壇から外せ」との標題の下に、「社会科の授業で反日的な教育を行っていた東京都足立区の女性中学校教師は、授業に疑問をもつ母親を中傷するプリントを配り、生徒が転校を余儀なくされたことから、教育委員会が動き、研修を命じられた」との記事を掲載したところ、本件記事によって原告はその名誉を毀損されたと主張して、原告が、被告に対して不法行為に基づき、慰謝料と弁護士費用を請求した。
被告は、本件記事中、事実を摘示した部分については、いわゆる真実性の抗弁を、意見論評を行った部分については、真実または真実と信じるについて相当な理由がある事実を前提とした意見論評であるとの抗弁を主張した。
判決の要旨:
本判決は、記事の表現による原告の特定可能性やその名誉毀損該当性についてはこれを肯定した上、記事中、「授業に疑問をもつ母親を中傷するプリントを配り、生徒が転校を余儀なくされたことから、教育委員会が動き、研修を命じられた」との点について、この事実は真実であると認めた。そして、「反日的な教育を行っていた」との部分及び「問題教師 すみやかに教壇から外せ」との記事の標題については、論評の基礎事実を踏まえるならば、これについて、論評の域を逸脱しているとまで解することは困難であるとして、名誉毀損の成立を否定した。
本判決は、原告の教育方法につき、「ことさらに日本の歴史の負の部分を強調する教育を行い、また、これを批判する生徒の意見については辛辣な批判を加え、授業に疑問を呈した生徒の親に対してもこれを中傷するなどして前記のような自己の教育を批判を許さないものとして強行しようとするもの」と解し、被告の主張を容れているが、「反日的な教育を行っていた」という表現は、「原告の教育方法や一連の行動に対する論評としては舌足らずであってその趣旨がわかりにくく、その意味で、一般日刊新聞の社説の表現としてはいささか正確性と客観性を欠く印象を与えるものである」として、論評の適切性について疑問を呈しながらも、法的な観点からは違法と解することができないとした。
◆ 枚方市立中学校学力テスト学校別成績公開請求事件
【事件名】 公文書部分公開処分取消請求事件
【裁判所】 大阪地裁
【事件番号】平成17年(行ウ)第221号
【年月日】 平成18年8月3日判決
【結 果】 認容(控訴)
【経 過】 二審大阪高裁平成19年1月31日判決(棄却、確定)
【出 典】 判タ1235号183頁
事案の概要:
本件は、枚方市教育委員会が枚方市立小中学校の生徒を対象にして行った平成15年度及び平成16年度の各枚方市立小中学校学力診断テストのうち、中学校実施部分に関し、原告が枚方市情報公開条例に基づいて本件条例所定の実施機関の1つである枚方市教育委員会の委任を受けた枚方市教育委員会教育長に対し、各年度の学力診断テストの学校別一覧に係る文書に記録された情報の公開を請求したところ、教育長が本件各文書に記録された情報のうち、各中学校別の平均得点及び到達評価に係る情報を非公開とする旨の部分公開決定処分をしたため、原告が、本件各処分のうち本件各文書に記録された情報の一部を非公開とした部分は違法であるとして、それらの取消しを求めた事案である。
判決の要旨:
非公開とされた情報について、これを公開することにより、当該事務事業の目的を著しく失わせ、又はこれらの事務事業の適正若しくは公正な執行を著しく妨げるとは認められないとして、教育長のした非公開処分が違法であるとした。
◆ 江戸川学園取手中学・高校道徳教育事件
【事件名】 教育債務履行等請求事件
【裁判所】 東京地裁
【事件番号】平成17年(ワ)第4299号
【年月日】 平成18年9月26日判決
【結 果】 棄却(控訴)
【経 過】
【出 典】 判例時報1952号105頁
事案の概要:
Xらは江戸川学園取手中学校又は江戸川学園高等学校(以下両校を併せて「江戸取」)の生徒の親である。Yは江戸取を設置する学校法人である。江戸取は、論語に依拠した独自の道徳教育を中心としたユニークな教育を実践し進学実績をあげていた。本件は、Xらが、右独自の道徳教育等がなされるものとして、その子どもを江戸取に入学させたにもかかわらず、Yが、校長の交代に伴い、教育内容を変更し、右独自の道徳教育等を廃止したことから、Yに対し、在学契約に基づく右独自の道徳教育等を内容とする教育の履行を求めるとともに、右変更が債務不履行又は不法行為に当たるとして、精神的苦痛等による損害賠償を求めたものである。
判決の要旨:
親に学校選択の自由があるとしても、私立中学校及び私立高等学校を経営する学校法人は、親等の保護者との契約に基づいて教育に関する給付を提供するものではなく、教育に関する給付を受ける主体である生徒との間における在学契約に基づいて右給付を行うものというべきであり、Yとの間の在学契約の当事者は生徒であるということができる。
教育の具体的な内容及び方法については、学習指導要領の変更、生徒の実情、時代の推移等の実情に照らして検討する必要があることから、Y及びその教師に広範囲にゆだねられているものと解するべきであり、生徒の募集に当たり、学校案内等の書面、学校説明会等で教育の具体的な内容及び方法について説明し、宣伝したとしても、そのとおりの教育をしなかった場合に直ちに、生徒の保護者の学校選択の自由を侵害するものとして違法性を帯びるものということはできない。前校長退任後の道徳教育の内容も、学習指導要領に沿ったものであり、客観的には質的に劣ったものであるということができない以上、Xらの学校選択の自由が違法に侵害されたとまでいうことはできない。
◆ 兵庫県体罰情報公開請求事件
【事件名】 公文書非公開決定取消請求控訴事件、同附帯控訴事件
【裁判所】 大阪高裁
【事件番号】平成18年(行コ)第26号・68号
【年月日】 平成18年12月22日判決
【結 果】 一部認容・一部棄却
【経 過】 原審神戸地方裁判所平成16年(行ウ)第3号
【出 典】 最高裁HP
事案の概要:
X(被控訴人)は、兵庫県教育委員会Y(控訴人)に対し、平成14年4月19日、兵庫県情報公開条例に基づき、学校体罰に関する公文書の公開請求をしたところ、Yは、Xに対し、同年6月17日、各公文書について、本件各文書に記録された情報は、本件条例6条1号前段、同号後段の非公開事由に該当することなどを理由として、学校や校長、教職員、生徒の名前などを非公開とし、その余を公開とする旨の一部公開決定をした。
本件各文書は、@Yが文部科学省に報告した文書(懲戒処分等一覧等)、A兵庫県内の公立学校の学校長がY又は各市町村の教育委員会に報告した文書(体罰発生報告書等)、B東播磨教育事務所長が、兵庫県教育長あてに作成した文書で、加害教員及び学校長に対し、懲戒処分通知書を交付した旨の報告書(懲戒処分通知書交付報告書)である。
原審は、今回の非公開部分が同条例の非公開の規定に該当するか検討し、体罰発生報告書などで記された加害教諭の氏名や学校名などについて「教職員の職務の遂行に関する情報であって、個人の私事に関する情報は含まれていない」と判断した。一方、懲戒処分に関する文書については「公務員としての立場を離れた個人としての評価をも低下させる」として、学校や教員の名前は非公開に当たるとした。
判決の要旨:
体罰発生報告書等のうち、Yが非公開を主張する診断書、顛末書(冒頭部分を除く)等について、同条例の非公開事由に該当することを認め、また、Xが公開を主張する報告書の生徒の被害の状況等について、非公開事由に該当しないことを認めた上、非公開事由に該当する情報が記録されている記載部分を除く部分公開を認めた。
◆ 東京都立大泉養護学校入学式絵付きブラウス事件
【事件名】 戒告処分取消請求控訴事件
【裁判所】 東京高裁
【事件番号】平成18年(行コ)第117号
【年月日】 平成18年12月26日判決
【結 果】 棄却(上告
【経 過】 一審東京地裁平成18年3月22日判決
【出 典】 判時1964号155頁
事案の概要:
Xは、東京都立大泉養護学校の教諭であるが、2002年4月9日に行われた同学校の入学式において、右胸に黒枠内に赤く塗りつぶした丸を描き、それに斜線を入れた図柄と、背中にハートに鎖を描いた図柄とが入った本件ブラウスを着用したまま出席しようとしたところ、同校長から本件ブラウスの上に上着を着用するように命じられたのに、これに従わないで、本件ブラウスを着用したままの姿で入学式に出席した。、また、同年8月7日、同校長から本件ブラウス着用に関する事実確認のために校長室に来るように命じられたのに、これに従わなかった。
そこで東京都教育委員会Yは、2002年11月6日、Xの右行為は地方公務員法32条及び33条に違反するとしてXを戒告とする旨の本件懲戒処分を行ったところ、Xは、本件懲戒処分は懲戒権の逸脱、濫用に当たり違法であるなどと主張し、本件懲戒処分の取り消しを求めた。
一審は、本件懲戒処分は適法であるとして、Xの本件請求を棄却したので、Xが一審判決を不服として控訴した。
判決の要旨:
Xの着用する本件ブラウスに描かれた本件図柄が外形的にも国旗掲揚・国歌斉唱の実施に抗議する意思を積極的に表明する趣旨が読み取れる以上、校長がXに対して上着の着用を求めたことは、正当な裁量権の行使というべきであり、裁量権の逸脱、濫用はない。
Xの本件ブラウスの着用は、入学式の円滑な進行を妨げ混乱を招くおそれのある行為であり、学校における統一的な運営に対する保護者や住民の信頼・信用を害するものと評さざるを得ず、職員としての信用を傷つけ、職員全体の不名誉となるような行為に該当する。
Xの本件ブラウスの着用行為は、地方公務員法32条、33条に違反し、同法29条1項1号ないし3号の懲戒事由に該当することが明らかであり、本件懲戒処分に裁量権の逸脱、濫用は認められない、と判断し、一審判決を支持して、本件控訴を棄却した。
◆ 私立女子高校出席日数不足留年事件
【事件名】 原級留置処分無効確認等請求事件
【裁判所】 東京地裁
【事件番号】平成18年(ワ)第16577号
【年月日】 平成19年3月26日判決
【結 果】 棄却(確定)
【経 過】
【出 典】 判時1968号148頁
事案の概要:
本件は、私立女子高校に通う高校生である原告が、第2学年に進級できずに留年させられたことが在学契約上の債務不履行であるとして、学校設置者を被告として、第2学年の教育課程の教育を受ける権利(地位)を有することの確認と、慰謝料の支払いを求めた事案である。原告は、定期試験は全科目受験して落第点はなかったが、各科目の欠課時数は3分の1以上に達している科目がほとんどであって、出席日数は決定的に不足していた。
判決の要旨:
出席時数不足を理由に単位不認定とするのは、通常はやむを得ないところである。そして、4教科をはるかに上回る多くの教科で出席時数不足が原因で単位不認定になったことに伴い留年させることも、通常はやむを得ないところである。例え定期試験の成績が単位認定に必要な水準に達している場合であっても、出席時数が十分にあることを単位認定や進級の要件とすることは、全日制高等学校の教育運営の基本的な事項であると考えられるからである。
出席日数不足の原因となるべき学校設置者側の落ち度があり、これが出席時数不足の主要な原因となっている場合には、条理に照らして、出席時数不足を理由とする単位不認定の又は留年の措置が在学契約上許されないこともあり得るところではある。しかしながら、当裁判所は、学校設置者である被告には、原告の出席時数不足の原因となるべき落ち度があるとまではいえないものと判断する。
原告の不登校の主要な原因は、原告自身の集団生活への対応力・適応力の弱さにあるとみられる。原告が学級担任の教諭を嫌っていることを同教諭が気づかなかったとしても、格別の事情がない限り、そのことを法的非難の対象とすることはできない。禁止されている忘れ物の貸借を行って教員の叱責を免れる生徒がいる一方で、正直に教員の叱責を受ける生徒(原告)があったことも、原告にとって不快な出来事ではあったであろうが、これを被告の落ち度とまでいうことはできない。
原告は、単位認定基準が事前に開示されていないと主張するが、被告は、単位認定基準を、4月の新入生に対するオリエンテーションや保護者会で開示している。被告は、原告の不登校の事態を受けて、欠課時数がまだ多くない時点で、欠課時数が増えていくと単位不認定の危険があることを告知した。
したがって、被告が原告を第2学年に進級させず、第1学年在籍の扱いをしていることは、在学契約上の債務不履行に当たらない。
◆ 鴻巣市教育委員会学齢登載通知書不開示事件
【事件名】 個人情報不開示処分取消請求事件
【裁判所】 さいたま地裁
【事件番号】平成18年(行ウ)第27号
【年月日】 平成19年4月25日判決
【結 果】 棄却
【経 過】
【出 典】 最高裁HP
事案の概要:
離婚し、子と別居している親が、個人情報保護条例の基づき、その子に代わって、教育委員会に対し、学齢登載通知書の開示を請求したところ、同通知書の存否も明らかにせず、不開示とする決定がされたため、その取消を求めた事例。
判決の要旨:
本判決は、親同士で子供の取り合いとなったり、子に対する暴力が主張されているケースでは、子供とともに生活していない親である申立人が、探索的な情報開示請求をすることにより、子の居住地を探索したり、それを把握した上で、子を連れ去ったり、関係者に自己の主張を通すために一定の働きかけをしたり等の行動を起こすことも稀ではないとし、学齢登載通知書の存否を明らかにすると、申立人が子の居所を探知できる可能性が生じるから、同通知書の存否自体が、条例上不開示とされている本人の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報にあたると判断し、同通知書の存否を明らかにしないで、申立人の個人情報開示請求を拒否した決定は適法であるとした。
◆ 工業技術専門学校教員私用メール解雇事件
【事件名】 雇用関係確認等請求控訴、同附帯控訴
【裁判所】 福岡高裁
【事件番号】平成17年(ネ)76号・390号・577号
【年月日】 平成17年9月14日判決
【結 果】 取消自判、控訴認容・附帯控訴棄却(上告)
【経 過】 一審福岡地裁久留米支部平成16年12月17日判決(労判888号57頁)
【出 典】 労判903号68頁、判タ1223号188頁
事案の概要:
専門学校の教職員が、勤務先から貸与された業務用パソコンを使用して、インターネットのいわゆる出会い系サイトに登録し、勤務中に大量の私用メールのやり取りを行ったことを理由に懲戒解雇とされたことにつき、その無効を主張して雇用上の地位確認と未払賃金の支払いを求めた。
判決の要旨:
本判決は、懲戒解雇をもって臨むのはいささか過酷に過ぎるとして、本件懲戒解雇を解雇権の濫用として無効とした一審判決を取り消し、本件懲戒解雇を適法とした。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会