◆秋田県立高校ソフトボール部顧問わいせつ行為事件
【事件名】 準強制わいせつ被告事件
【裁判所】 秋田地裁判決
【事件番号】平成24年(わ)第40号・同第45号・同第59号
【年月日】 平成25年2月20日
【結 果】 有罪(懲役3年6月)(控訴)
【経 過】 二審仙台高裁秋田支部平成25年8月27日判決(棄却)、上告審最高裁第三小法廷平成26年7月28日決定(棄却)
【出 典】 TKCローライブラリー 新・判例解説Watch 刑法74
事実の概要:
県立高校の部活動の顧問兼監督であった被告人が、生徒4名に対して計7回のわいせつ行為を行ったとされた事案。
被告人Xは県立高校教諭としてソフトボール部の顧問兼監督を務めており、被害者A、B、C、Dは同部2年生女子部員であったが、同部はXの監督就任後3年目でインターハイに出場するまでに至り、部員全体はこれをXによる指導の結果と認識していた。被害者らには、Xの指示は徹底しなければならず、これに反すると指導を受けられず試合にも出場させてもらえないなどの意識が強かった。このような関係のもと、Xは、平成23年8月から翌年2月にかけて、いずれも部活動に係る遠征等の宿泊場所において、計7回、被害者ら4人に脱衣を命じる、胸を触るなど、あからさまなわいせつ行為をした。
判決の要旨:
本件各行為はいずれも部活動での宿泊時等に行われ、Xの被害者らへの影響力が及びうる状況下であった。さらに、恋愛感情等の性的行為を受け入れる積極的事情がないのに被害者らがXの行為を抵抗もなく甘受したのであれば、被害者らがXには逆らいえないとの心理状態にあったことを推認させるといいうる。本件各行為につき被害者らは心理的に抵抗することが著しく困難であり抗拒不能の状態にあったものであるから、準強制わいせつ罪の成立が認められる。
備考:
刑法の強制わいせつとは、暴行、脅迫をもってわいせつ行為を行うことであるが、本件のように暴行、脅迫が伴わない場合は強制わいせつ罪は成立しない(176条)。そこで、刑法は、抵抗できないような状態(抗拒不能)を利用して、わいせつ行為をなす場合も強制わいせつに準ずるとして、準強制わいせつという犯罪類型を設けている(178条)。
本件は、準強制わいせつ罪の成否が問われたものであるが、被害者の抵抗を受けずに行われたわいせつ行為が、任意の承諾に基づくものではなく、抗拒不能の状態で行われたものか否かが争点となった。
本件判決は、部員はXの指導力を高く評価し今後もその指導が不可欠と認識し、Xの指示は徹底すべきでこれに反することはできないという意識をもっていたこと、被害者らはレギュラーのポジションを争って激しく競い合う関係にあり、Xの機嫌を損ねたりすれば練習を外され、試合にも出場させてもらえなくなると考え、Xを怒らせたりすることがないよう振る舞わねばならず、その指示には反しえないとの意識を一層強くもっていたこと等から、被害者らがXには逆らいえないとの心理状態にあったことが推認されると判断した。