◆小学生サッカーボール蹴り出しバイク転倒事件
【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】最高裁一小判決
【事件番号】平成24年(受)第1948号
【年月日】平成27年4月9日
【結 果】破棄自判
【経 過】一審大阪地裁平成23年6月27日判決、二審大阪高裁平成24年6月7日判決
【出 典】裁判所ウェブサイト、判例時報2261号145頁、判例タイムズ1415号69頁
事実の概要:
未成年者C(当時11歳)は、平成16年2月当時、愛媛県所在の小学校に通学していた児童である。本件小学校は、放課後、児童らに校庭を開放しており、本件校庭の南端近くには、ゴールネットが張られたサッカーゴールが設置されていた。本件ゴールの後方約10mの場所には南門があり、南門の左右にはネットフェンスが設置され、これらの高さは約1.2〜1.3mであった。また、本件校庭の南側には幅絢1.8mの側溝を隔てて道路があり、南門との間には橋が架けられていた。Cは、同月25日の放課後、校庭において、友人らと共にサッカーボールを用いてフリーキックの練習をし、本件ゴールに向かってボールを蹴ったところ、ボールは南門を超え、道路上に転がり出た。そして、折から自動二輪車を運転して本件道路を進行してきたB(当時85歳)がボールを避けようとして転倒して負傷し、平成17年7月、誤嚥性肺炎により死亡した。Cは、事故当時、責任を弁識する能力がなく、Cの親権者である被告Yらは、Cに対し、危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけを施してきた。
そこでBの相続人であるXらが、Yらに対して、民法709条及び民法714条に基づく損害賠償を求めた。一審、二審ともに、Yらの責任を認め、Xらの損害賠償請求を認めた。Yらが上告受理の申立てをしたところ、最高裁第一小法廷は本件を受理した。
判決の要旨:
判決は、本件における未成年者の行為態様、客観的な状況、監督義務者の対応等の諸事情を検討し、@未成年者Cは、放課後、児童らのために開放されていた小学校の校庭において、使用可能な状態で設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり、殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。A本件サッカーゴールに向けてボールを蹴ったとしても、ボールが道路上に出ることが常態であったものとはみられない。B未成年者Cの親権者であるYらは、危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけをしており、未成年者Cの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれないことから、このような事情の下においては、Yらは、民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきであるとした。
以上により、判決は、Xらの民法714条1項に基づく損害賠償請求は理由がないとして、Yの敗訴部分について、原判決を破棄し、一審判決を取り消した上で、Xらの請求を棄却した。
備考:
本件は、責任能力のない未成年者の行為について、親権者が負担すべき監督義務の内容及び履行の有無をどのように判断すべきかが検討された事例である。本件一審、二審はこの監督義務を厳格に解したのに対し、本判決は、「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別な事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきでない。」として、当該監督義務を緩和し、親権者の免責の余地を開いた。本判決は、民法714条1項の監督義務者等の責任に関して、同項ただし書きによる免責を最高裁が明示的に認めた判決として重要な意義を有する。
参照条文:
民法第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。