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TITLE:  高校教育における私費問題
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 『月刊ホームルーム』1986年11増刊号84頁(学事出版)
WORDS:  全40字×397行

 

高校教育における私費問題

 

羽 山 健 一

 

 はじめに

  高校の教師は、直接会計に携わることが少なく、およそ金銭に関することは事務職員の仕事であると考えがちであるため、学校での会計についての意識が一般的に低いように思われる。そのためつぎのようなことがおこる。

@父母が授業料やそれ以外の私費をいくら負担しているか知らない。
A自分に各種手当が支払われ、自分の教育活動にとれほどの予算が獲得されるかには強い関心があっても、それらの経費が、公費から支出されているのか私費から支出されているのか知らない。
B私費・公費の意義を認識していないので、本来公費から支出すべき経費についても、PTA会計等の私費から安易に支出しようとする。

  ただ、教師が私費の実態に疑問をいだいても、学校の教育活動が大きく私費に依存している現状では、意見を言い出しにくい。たとえば、私費から手当を受けている場合には、その額が少ないと感じても、それを問題にすれば手当が支給されなくなる心配があれば、疑問を感じつつも黙ってしまう。

  しかし、教師が父母の教育費負担に関心が薄く、公費・私費の区別もつけないで、父母の私費負担を増大させることがあってはならない。いうまでもなく、それは生徒が教育を受けることから遠ざけ、憲法第二六条・教育基本法第三条で保障された教育の機会均等の原則、学習権を侵害することになるからである。

  ここでは、公立高校における私費を対象として、その意義や問題点をできるだけ実態に即してみていくことにする。

 

 一 私費の概念

  「私費」という言葉には決まった定義はなく、さまざまなレベルで異なった意味に用いられている。大まかに表1のように整理することができよう。

@教育財政の観点から、父母が支出したいっさいの教育費。これは学校教育だけでなく家庭教育に要する費用を含む(表1のa・b・c・d・e)(注1)。
A学校財政または学校予算の観点から、法定の予算に計上された経費(公費)以外で、学校が学校教育に必要と認めた経費(表1のc・d)(注2)。
B本来公費で負担すべきであるが、父母負担に依存している経費。いわゆる学校運営費標準(注3)で「私費負担の解消」という場合には、この意味で用いられていることが多い(表1のd)。

  表1 私費概念の整理

家庭教育費 学校教育費
父母の裁量
による経費
学校が支出を義務
づけている経費
法令上義務づ
けられた経費
個人的負担 公費の補充
  a:けいこごと学習費など
  b:通学費、文具、参考書、寄付金など
  c:教科書費、制服費、修学旅行費など
  d:生徒会費、保健費、諸手当など
  e:入学金、授業料、学校健康会掛け金

  ここではAの意味で「私費」という言葉を用いていくことにする。したがって、つぎのような費用または用語は、私費とは区別して考える。

  第一に、授業料・入学金・学校健康会掛金など法令上の根拠をもち、学校設置者が徴収する費用(図1のe)。

  第二に、学校教育にかかわる費用でも、その支出が父母の自由な裁量(判断)に委ねられているもの (図1のb)。これは家庭教育費に近いものとして、ここでは私費の範囲から除いて考える。

  第三に、PTA会費などの団体会費。本来PTAは社会教育団体として独自の活動を行うべきもので、学校教育に必要な経費を集めるための団体ではない。したがって、PTA会費を私費として学校が徴収すべきではない。ところが、現実にはPTA会計から学校教育に必要な経費が支出されており、私費がPTAという団体をとおして、または私費がPTA会費という名称で徴収されているにすぎない。本稿ではこういった現実面に着目して、団体会費も私費に準じて検討していくことにする。

  第四に、実際に学校が徴収しているいわゆる学校徴収金(学校納付金など名称は多様)。私費の大部分は、学校徴収金の名のもとに存在し、その金銭の出納を私費会計(注5)として扱っていることから、私費と学校徴収金を混同していることがあるが、厳密には区別すべきものである。私費かどうかは、学校が徴収しているかどうかではなく、学校が物品の指定をしてその購入を事実上義務づけ、その物品が生徒個人の所有になる場合、その経費は私費に含まれると考える。

  私費とは、「公費以外で学校が学校教育に必要と認めた経費」と考えてきたが、「公費以外で」というのは、国や地方公共団体の予算でまかなわれる経費以外で、という意味である。これには、第一に、経費の性質上公費で負担するよりも生徒の父母が個人的に負担するのがふさわしいと考えられる経費(表1のc)と、第二に、経費の性質からすると本来公費で負担すべきであるが、公費不足のため事実上公費から支出されていない経費がある。それは公費の充実化によって消滅する私費であるが、第一の場合は公費を充実化しても私費として残ると考えられる。ただし、私費のこの二つの部分は、明確に区分できないだけでなく、個人的負担が相当とされる経費についても、公費による助成・補助が望まれるところである。

 

 二 父母負担の増大

  文部省の「父兄が支出した教育費」調査によると、公立高校の生徒一人当たりに父母が支出した学校教育費は、一九六〇年度に三万一一五九円であったが、一九八一年度には一八万九七〇〇円と約六倍にもはねあがっている。このような学校教育費の上昇が、家庭教育費の上昇とあわせて各家庭の家計を圧迫していることはいうまでもないが、学校教育費がなぜこのように急上昇したのだろうか。

  学校教育費のなかで、授業科の値上げは議会の議決を必要とする条例事項だから政治的にチェックされる。また寄付金等の父母の裁量による経費は、父母がそれを節約することもできよう。ところが私費については、学校が金額を定め、事実上その支出を義務づけるために、私費の値上げに父母が歯止めをかけることは困難である。すなわち、学校教育費のうち私費の値上げは社会的に野放しの状態にあり、これが父母負担を大きくしてきたと考えられる。

  このような傾向は、昭和四六年の中央教育審議会答申による「受益者負担原則」を中心とした教育費政策が原因しているが(注6)、ここでは、父母の私費負担が増大する原因を、教育財政レベルではなく、学校予算のレベルから検討し、学校現場における問題点を中心に考えていくことにする。

 (1) 私費予算の編成について

  私費のなかでも学校徴収金については、学校内でその徴収計画(予算)が立てられ、職員会議で決定されるのが通常である。表2は、府立高校一〇校(京都の学校一校を含む)の学校徴収金の状況をまとめたものである。

  表2 学校徴収金(1人あたり年額、単位:円)
PTA会費     2000〜3000
生徒会費      1200〜1600
教科外活動費    400〜600
(部活動後援費)
学校安全互助会費  1年300、2・3年100
同窓会費      2000〜5000(総額)
修学旅行積立金   50000〜73000(総額)
学年諸費      (学年により異なる、下段参照)

学年諸費内訳
宿泊学習費6000〜17800
遠足費1500〜2000
見学費・鑑賞費670〜1000
高体連分担金300
学級費250〜350
副読本・補助教材費
生徒指導費 生徒手帳120〜170、学校新聞200、
名札・校章180〜770、性格テスト310、
「高校生活」購読料70、学級写真450、
個人写真800、高校生活の手引350〜500
事務費 住所録・名簿費250〜320、生徒氏名印150、
ロッカー代3271−3600、成績通知費230
保健費 健康診断謝礼50〜170、保健カード70、
検尿250〜330、心電図525、血圧測定256
進路指導費 進路のしおり210〜900、適性検査700、
模試印刷1800、調査書請求用紙300
卒業関係費 卒業記念品費 1000〜1200、
卒業アルバム代 10000〜12000

  学校徴収金に関する大阪府教委通達および同説明要旨(注7)によると、「予算の編成および徴収金額の決定については、じゅうぶん検討」し、「保護者の負担を少なくするよう配慮すること」とあるが、実際には、父母負担を軽減する配慮が充分なされているとはいいがたい。職員会議でもほとんど審議されることなく、前年度の予算がほとんどそのまま踏襲されたり、各分掌から出された予算要求がそのまま承認されたりして、予算の再検討が充分に行われていない。わずかにこれまでとは大きく変更していたり、値上げする場合のみ審議されるにすぎない。

  また、職員会議や校内の予算委員会(財務委員会とも呼ばれる)が公費のみを対象とし、令達された公費の配分討議に終わっていることも多く、ひどい場合には、私費予算が管理職や少数の関係者だけで決定され、全教職員に公開されないこともある。そうした場合には、私費として不適切なものを排除したり、父母の私費負担を軽減しようとする視点が欠けていることが多い。私費について何がどれだけ必要かを、学校ぐるみで民主的に明らかにしていくことが重要である。

 (2) 「学校の必要経費−公費=私費」の意識

  教師の私費に対する意識は一般的に低い。学校の教育活動に必要な経費に公費が出ないのなら、私費でまかなえばよいといった傾向が強い。しかし、こうtた安易に私費に依存する傾向は早急に改めなければならない。そのためには、まず公費と私費の目的、性格を明確に区別して認識することが必要である。公費で支出すべき経費は公費で支出し、それが実際には公費から支出されていないときには、その経費がどうしても教育活動に必要なものであるならば、安易に父母負担に転嫁しないで、その教育的必要性を明らかにし、多くの父母とともに公費の問題点を考え、公費化する努力が必要であろう。

 (3) 教育行政の対応

  大阪府教委は、前述の通達説明要旨のなかで、PTA会費、生徒会費、クラブ(部活動)後援費、学校安全互助会費について徴収限度額を設けている(注8)。しかしこの限度額は、多種類ある私費のうち、わずか四項目についてのみ定められているにすぎない。また、生徒会活動や部活動に対して公費を予算化しないで私費の徴収限度額を設けるのは、形式的な規制にすぎず、実質的に父母の負担を軽減していくことにはならない。

 さらに、公費から支出される費目(諸手当・旅費・報償費など)についても、その支出される条件が厳しすぎたり、金額が少なすぎるために私費から不足分が補充されることがある。したがって、私費を規制するとともに公費を充実化することが急務である。自治体によっては、学校運営費標準が実施されて、父母負担の軽減がはかられている。この学校運営費標準の問題点は重要な論点であるが、これまで多くの論者が述べているところでもあるので、ここでは省略する。(注9)

 

 三 私費徴収権の根拠

  私費は、学校名または学校長名で徴収されており、学校は独自に私費予算を編成し、その費目、金額は、学校によって異なっている。したがって、私費徴収の徴収者は学校を代表する学校長であると考えられる。では、学校長が私費を徴収する権限はどこに根拠があるのであろうか。私費の意義からすると、各経費について明示的な法令上の根拠は存在しない。それゆえ私費と定義している。

  教育法学上、徴収権の根拠を考えた場合、それは学校と生徒・父母との間の在学契約に求めることができると考える。一般の在学契約説は、学校設置者と生徒・父母との間を契約関係と考えるものであるが、私費をめぐる学校と生徒・父母との間の契約関係は、その特約とも考えられる。なぜなら、学校設置者と生徒・父母との契約によって、学校に私費の徴収権が生じるとは考えられないからである。

  契約の内容は、学校が学校教育の範囲内で、父母の個人的負担を必要とする教育を行おうとするときに、契約を結んで父母に必要な経費を負担させ、その教育を行うことを約するというものである。

  契約関係であることから、つぎのような特徴が生じる。

  第一に、学校は私費の徴収権をもつけれども、学校が一方的に私費を決定し徴収することはできない。

  第二に、このような契約関係に位置づけることのできない使途のあいまいな金銭を、私費として徴収することはできない。

  第三に、契約にあたって、学校は父母に対し、その行おうとする教育の必要性や、そのためになぜ父母負担が必要であるかについて説明しなければならない。

  第四に、どのような教育を行うかは学校の自主的判断にまかせられるが、その判断に応じるかとうかは父母が決めるものである。したがって、父母は、個人的負担が必要とされる教育については、契約を結ばないという形で拒否権をもつと考えられる。

 

 四 公費負担とすべき経費

  設置者負担主義について学校教育法第五条は、「学校の設置者は、その設置する学校を管理し、・・・・その学校の経費を負担する」ことを規定している。すなわち、国立学校については国庫、公立学校については地方公共団体、私立学校については当該学校法人が、それぞれ経費を負担するのが原則とされる。設置者が負担する「学校の経費」には、つぎのようなものが含まれる(注10)。第一に、学校の設備・施設の管理に必要な経費、たとえば電気、水道、ガス料金、また建物等の維持補修費。第二に、教職員の人件費(給与)。第三に、学習指導要領に基づく教育を行うための基本的な教材設備に必要な経費。すなわち、国公立学校の教育活動に必要な経費は、すべて公費でまかなわれるのが原則である。したがって、公費の裏づけのない教育は、学校教育とはいえないであろう。

  設置者負担の原則から当然公費で負担すべきものを、父母の負担に転嫁することはできない。地方財政法は、住民に対する負担の転嫁をつぎの経費について禁止している。@高等学校の施設の建設事業費(同法第二七条の三)、A市町村の職員の給与に要する経費(同法第二七条の四、および同法施行令第一六条の三)、B小・中学校の建物の維持およぴ修繕に要する経費(Aと同様)。高校の場合、A、Bの経費は禁止の対象とされていない。しかしこのことは、負担を父母に転嫁することを積極的に認めているのではなく、小・中学校に準じて考えるべきである。また、この負担の転嫁は「直接であると間接であるとを問わず」禁止されており、PTAや後援会等の団体をつうじて間接的に負担させることも認められない。

  以上のような学校教育法、地方財政法の規定にもかかわらず、私費のなかには本来公費で負担されるべき経費が含まれており、公費で負担すべき経費を父母が負担している。その具体的な経費をつぎにあげることにする。

 (1) 生徒会活動費

  生徒会活動は高等学校学習指導要領で特別活動の一環として学校教育の内容に含められている。したがって、当然この経費はすべて公費でまかなわれるべきであろう。ところが、現状では公費はほとんど計上されておらず、生徒会活動に必要な経費は、すべて私費(生徒会費やPTA会費の一部)に依存しているといっても過言ではない。私費なくして学習指導要領で定められている生徒会活動は成立しないというのは、驚くべきことである。公費の裏づけのない教育活動が、学校教育の一環といえるであろうか。

  このように公費が欠如しているにもかかわらず、文部省は生徒会活動に統制を加えて生徒会の自治権を抑圧してきた。これは「補助なしで強く支配する(no support and high control)」ともいうべき欺瞞的な政策である。

  生徒会活動費の一部を公費化している例として、東京都の場合をあげることができる。都立高等学校運営費標準によれば、生徒会活動による経費は、原則として生徒の個人負担として生徒会費をもって支弁するが、指導関係経費等最小限のものは公費で負担することになっている。そして、公費で負担するものとして、教科等で共用できない備品のうち、高価な必需品であり、かつ長期にわたり使用できるもの、となっている(注11)。このような基準で支出される公費の額は、不充分かもしれないが、会費化への一段階として評価できる制度であり、他府県においても今後検討されるべきである。

 (2) 部活動費

  部活動に要する経費は、生徒会費、PTA会費、教科外活動費の一部、および各部ごとに徴収する部費によってまかなわれている。部活動とは、任意参加のクラブ活動のことで、学習指導要領で学校教育活動の内容として明記されておらず、このため教育課程外の教育活動、課外クラブとも呼ばれる。とはいうものの、昭和五一年一二月一六日の教育課程審議会の答申に「部活動についてもその充実に努めるように配慮する」と述べられ、これを受けて、学習指導要領にも「学校においては、特別活動との関連を十分考慮して文化部や運動部などの活動が活発に実施されるようにするものとすること」とされている。

  このような部活動の特質から、現在もほとんどの学校で事実上学校教育活動の一環として取り扱われ、教師も当然のこととしてその指導にあたっている。そこで、その基本的な必要経費について、公費化または公費補助を行い、積極的に部活動の「充実に努める」べきである。東京都では、昭和五八年度から部活動の振興を目的として、部活動の公費補助予算を新設している(注12)。

 (3) 遠足・鑑賞費、文化祭・体育祭費、入学式・卒業式費

  これらは、学習指導要領に定められた特別活動の学校行事に相当する諸活動であり、これらに要する経費は、当然公費によってまかなわれるべきである。

  表2によると、遠足費、鑑賞費は「学年諸費」という形で徴収されている。生徒の交通費、入場料についでは、個人が負担すべき経費とも考えられるが、私費のなかから付添い教員の旅費、入場料が支出されていることも多く、この点は改善されるべきである。

  文化祭費、体育祭費は、表2のなかには見られないが、私費である生徒会費、PTA会費によってまかなわれている。それだけでなく、経費不足のために、表2の学校徴収金とは別に、文化祭・体育祭の運営費をそのつど徴収しており、この「見えざる私費」の存在も問題である。

  入学式、卒業式は公費だけでなく、PTA会費、同窓会費などによって運営されている。公費でまかなわれるのは、証書用紙、奉書など必要最小限のもので、証書用筒、花束、生花、来賓徽章などは私費から支出され、必要経費の約六割から八割が私費となっている。私費に頼らず、公費だけで式を行おうとした場合、「深い感銘を与える」どころか、まことに味けないものになってしまいかねない。

 (4) 家庭訪問手当、補習手当などの諸手当、旅費

  教職員の本来の職務の遂行に対しては、法令および予算に基づき相当の給与が公費から支給されるべきものである。したがって、PTA会計等の私費から、清掃手当、居残り手当、休業中の出校手当等を受けることは適当でない(注13)。前出の地方財政法の理念からも、給与に要する経費を住民の負担に転嫁してはならないはずである。

  なお、当然に手当が支給されるべきであるにもかかわらず、公費から相当の手当が支給されていない場合は、公費による支給を求める努力が必要である。とくに旅費については、公費の支出条件が厳しすぎたり、旅費予算が不足していることから、私費に依存する傾向があるが(注14)、これは、公費の充実化なくして私費負担の解消はありえないという好例である。

 (5) 保健費(とくに健康診断に要する経費)

  学校保健法第六条には「学校においては、毎学年定期に、・・・・健康診断を行わなければならない」と定められており、これに要する経費は、当然公費で負担されるべき義務的経費である。ところが表2にもあるように、健康診断に要する経費が徴収されている(とくに尿検査は、同法施行規則第四条で検査項目としてあげられているにもかかわらず)。これらの私費は、健康診断の公費による予算的な裏づけが充分でないために存在していると考えられるが(注15)、早急に全廃されてしかるべきである。

 (6) 各種教育研究団体・協議会の負担金・会費

  各教科研究会、教務研究会、教頭会、校長会などの負担金、会費が、PTA会計等の私費によってまかなわれていることが多い。しかし、学校が構成単位となっている研究団体の負担金は、公費で負担されるべきであり(注16)、校長会等の職能団体や特定個人で構成される研究団体は、個人が負担すべきであると考えられる。ただし、教師の研修権(教特法第一九条)の観点から、公費補助の途が検討されるべきである。

 

 五 寄付としての卒業記念品の問題

  学校内に「第○期卒業生寄贈」と書かれた造園、大時計、石碑、ピアノ、パイプ椅子などを見出すことはまれではない。卒業記念品は、卒業生が学校に対する報恩として学校に贈るものであるが、それは教育財産の寄付に他ならない。地方財政法第四条の五は、「寄付金(これに相当する物品等を含む)を割り当てて強制的に徴収するようなことをしてはならない」と定めている。ところが、私費のなかには、卒業記念品に相当する金額が含まれており、父母に寄付するかどうかの選択の余地を与えないまま(多くの場合授業料とともに)、一括して全父母から徴収している。これは、寄付金の割り当てにあたる違法な行為である。卒業記念品は、あくまで父母の自発性、任意性に基づいているものでなくてはならない。なお東京都では、卒業記念品を「母校の設備、備品の不足を補う」もので「私費負担解消の原則からみて好ましくない」としている(注17)。

  学校が、私費のなかにどっぷり漬かって、私費なくしては学校の教育活動が一日たりとも成立しないといっても過言ではない現状では、ただちに私費をなくすことは困難であるが、多くの教職員が、この問題について認識を深め、学校内において、また行政に対して、とのような努力が必要であるかを意識していくことが大切であろう。



 < 注 >

(1)小川正人「私費による教育費負担と政策的背景」(牧・神田編『学校からみた教育政策』有斐閣)二一四ページ
(2)兼子・神田編著『教育法規事典』北樹出版森谷宏『教育法規解釈の視点』ぎょうせい 三〇八ページ三輪定宣「学校財政入門」(牧他監修『子ども・地域にせまる学校事務実践』エイデル研究所)は、授業料を私費に含めている。
(3)学校運営費標準(標準運営経費など名称は多様)とは、自治体(教育委員会)が父母負担の軽減や教育水準の維持向上等の目的のために、日常の教育活動と密接な関係にある学校運営費について、公費と私費の負担区分を明確にして、公費で負担すべき学校運営費の標準を明らかにしたもの。
(4)内沢達「教育財政と地方自治」(『講座教育法』第六巻エイデル研究所)は、「減った私費負担と減らない父母負担」の問題を説明している。
(5)『学校予算ハンドブック』学事出版
(6)三輪定宣「教育財政と教育管理−受益者負担の批判を中心に」(『ジュリスト増刊総合特集10』有斐閣)
(7)「学校徴収金等の会計経理の適正化について」府立校長あて教育長通達 昭和四二年五月一〇日、および「同通達説明要旨」昭和四二年五月二五日
(8)PTA会費三〇〇〇円(年額以下同様)、生徒会費とクラブ後援費あわせて一六〇〇円(生徒会費は二〇〇円の増額幅を認める)となっている。社会教育団体であるPTAの会費に限度額を設けることには、PTAの自主的運営への介入であり、教育委員会が決めるのは筋違いである。
(9)内沢前掲論文、五四ページ以下。三輪他「自治体の教育財務基準の研究」(日本教育法学会『教育条件法制研究』第四号)三一ページ以下。柳原富雄『教育としての学校事務』六八ページ以下。ここでは「父母負担禁止条例制定運動」についてもふれられている。
(10)下村・角替編『改訂学校運営事務の法規相談』文教書院
(11)前掲『学校予算ハンドブック』一七三ページ、「学校行事・クラブ活動の実務」(『学校事務』一九八四年七月臨増 学事出版)一九六ページ。運営費標準に算入されたものは、生徒会本部用備品として、輪転印刷機、電動加算機、液体複写機、行事予定黒板の品目がある。
(12)「昭和五八年度都立高等学校部活動の振興に関する予算について」都立高校長あて教育長通達(昭和五八年三月三一日)。具体的な支出内容はつぎのとおり。報償費(外部指導者に対する謝礼金)、一般需用費(八〇〇〇円未満の消耗品費)、使用料および賃借科、備品購入費、負担金補助および交付金(各種連盟等の分担金および公式試合の参加費)。
(13)「私費負担の解消と学校運営の適正化」都立学校長あて教育長通達(昭和五六年三月二〇日)。
(14)とくに部活動に伴う合宿、試合等における経費は私費に依存する傾向が強い。
(15)藤田和也「学校保健と子どもの健康」(『法学セミナー増刊総合特集シリーズ=12』日本評論社)
(16)全国都道府県教育長協議会の考え方。土屋基規「学校教育に関する条件整備」(『日本教育法学会年報』第八号 有斐閣)
(17)「卒業記念品の取り扱いについて」昭和四七年一一月一五日、四七教学高発第三〇六号。諏訪伸夫「卒業記念としての寄付の取り扱い」(『教職研修』臨増第五号「学校経営読本」教育開発研究所〕

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