◆200302KHK206A1L0280H
TITLE:  (資料)男女共同参画施策苦情処理申出に係る調査結果及び事案に対する意見(第14−1・2号事案 平成15年1月24日)
AUTHOR: 大阪府男女共同参画施策苦情処理委員
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第206号(2003年2月)
WORDS:  全40字×280行

 

 大阪府男女共同参画施策苦情処理委員 調査結果報告書 
 (大阪府知事宛 平成15年1月24日) 

 

男女共同参画施策苦情処理申出に係る調査結果及び事案に対する意見

 
 
 

第1 申出の趣旨

1 第14−1号事案

  大阪府教育委員会は、妊娠した期限付き講師について、妊娠を理由として、任用の更新を行わないこととしている。かかる取扱いは、男女共同参画の趣旨に反するものであり、妊娠中絶や妊娠を隠した上での勤務を誘発する懸念がある。
 

2 第14−2号事案

  大阪府教育委員会は、出産が予定されていることを理由として、妊娠中の女性期限付き講師については、任用の更新を行わないこととしている。このような取扱いは、府が積極的に推進しようとしている男女共同参画の理念に反する不適切な制度運用であり、次に掲げる憲法や法令等の規定、趣旨にも反している。出産予定があっても更新を行うよう、制度を改善する必要がある。

 @ 憲法第14条(法の下の平等)
 A 地方公務員法第13条(平等取扱いの原則)
 B 男女雇用機会均等法(労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない)
 C 大阪府男女共同参画推進条例(府の責務(男女共同参画に向けた施策の推進)性別による差別的取扱いの禁止)
 
 
 

第2 調査結果

1 調査の経緯

  本件調査結果報告を取りまとめるまでの経緯については以下のとおりである。
  なお、本件調査の対象となった第14−1号及び第14−2号苦情申出については、同一事例を契機とする同趣旨の申出であることから、両事案を統一的かつ効率的に処理するため、併合して調査することとした。

  平成14年 9月13日  第14−1号事案苦情申出受付
  平成14年 9月17日  第14−2号事案苦情申出受付
  平成14年 9月19日  知事からの調査依頼(担当苦情処理委員:池田辰夫委員)
  平成14年10月 3日  両事案の苦情申出人からの事情聴取
  平成14年11月11日  施策実施機関からの事情聴取
  平成14年11月14日  苦情処理委員3名による合議
  平成14年12月 5日  苦情処理委員3名による合議
  平成14年12月24日  苦情処理委員3名による合議
  平成15年 1月21日  苦情処理委員3名による合議
  平成15年 1月24日  調査結果報告取りまとめ
 

2 苦情申出人の説明

(1)申出の契機となった事実

  本年4月に府立高校定時制課程に任用された期限付き講師は、本年6月に妊娠したことを知り、出産予定が来年2月であることがわかったので、学校長にこの事実を告げ、12月(2学期未)までは勤務を継続したい旨申し入れたが、9月に校長から、次の理由により更新しない旨を通告された。
  出産後の8週間は、労働基準法第65条第2項により就業が禁止されており、更新(10月1日)後の任用期間中に「勤務できない相当の期間」が見込まれることが明らかであり、学校運営に支障が生じるため、教育委員会の方針として、任用の更新はできない。

(2)苦情申出人らの主張(両事案共通)

  ア 大阪府の公立学校で勤務する期限付き講師は、地方公務員法第3条第2項に定めのある一般職の地方公務員であり、同法第22条第2項の規定により、形式的には6ヶ月単位の任用(臨時的任用職員)である。しかし、通常は任用の更新が認められており、年度途中で任用の更新がなされないことはない。事実上は1年単位の任用であり、年度当初の任用の際にも、管理職からは、そのように説明を受けている。
  イ この申出を行う契機となった事例の講師は、苦情申出後の平成14年9月30日で任用期間が満了し、更新は認められなかった。しかし、当人の勤務実績に特段の問題はなく、妊娠がなければ更新されていたはずである。要するに当人が出産の予定があることを明らかにしたために更新が拒否された事例であり、女性に対する差別である。
  ウ この事例では、更新の拒否により10月で講師が変わることになった。本来は6ヶ月の更新を行い、産休を取らせるべきであるが、これが無理であるとしても、交替時期を学期の変わり目(2学期末)にする等の配慮は可能であったと思う。

(3)第14−1号事案苦情申出人の説明((2)記載以外のもの)

  ア 期限付き講師の制度自体は人事政策上やむを得ないとも思うが、学級数の減少が見込まれる中で、正規の教員は簡学に解雇できないため調節弁として使われている。
  イ 妊娠を理由に期限付き講師に任用の更新を認めない取扱いは、外から見ると、妊娠による解雇であり、認められるべきではない。
  ウ このような妊娠による差別は、男女共同参画の趣旨にもとるものであり、教育委員会による学校現場に対する男女共同参画についての指導や府の事業者に対する啓発も説得力を持たないものになる。
  エ 妊娠した期限付き講師について、教育委員会が財政上の問題でどうしても任用の更新ができないと主張するのであれば、本来は更新すべきものであることを対外的に表明すべきである。
  オ なお、妊娠した期限付き講師が、更新を受けるため、妊娠の事実を隠したり、管理職が気づかないふりをするといった対応により、事実上の解決となることも考えられるが、それでは本末転倒である。

(4)第14−2号事案苦情申出人の説明((2)記載以外のもの)

  ア 本来、正規の教師が配置されてしかるべき定数内の一般職として、期限付き講師が配置されているのであるから、それに見合った配慮をすべきである。
  イ 過去には、出産予定者が更新された例もあったが、平成12年の事例(10月の更新時点で既に産前休暇に入っていた期限付き講師について、更新しなかった。)を機に、更新が認められなくなった。
  ウ 男女共同参画推進条例の施行を契機にして取扱いを改めるべきである。
 

3 施策実施機関の説明

(1)府立学校における期限付き講師制度について

 ア 法的根拠
  期限付き講師は、地方公務員法上は一般職の公務員であり、同法第22条第2項の規定により、人事委員会の承認を得て、6ヶ月をこえない期間で任用することができるものである。また、その任用の更新については、同項の規定により、人事委員会の承認を得て、6ヶ月をこえない期間で更新することができるが、再度の更新はできないと規定されている。この「更新」は、法的には新たな任用と差異のない行為である。
 イ 勤務条件(勤務日及び勤務時間)
  高等学校定時制課程に勤務する期限付き講師の勤務条件は次のとおりである。
 1週間の勤務時間  40時間 
 1日の勤務時間    月〜金 午後0:30〜午後9:15(土、日は週休日)

 ウ 人数及び男女比(正規教員との比較)
                         (平成14年5月1日現在)
              総人数    うち女性(女性比率) 
 期限付き講師       415人    225人(54%) 
 正規教員       7,991人  2,173人(27%) 

 エ 期限付き講師任用の必要性
  府立学校の正規教員については、採用試験を行う段階では、翌年度の定数や退職者数が見込みにくいこと、将来の教育課程の変更も見込んだ、教科ごとの教員数を決めるのは困難であることなどから、教員定数すべてを正規教員で確保することは困難であり、こうした行政需要に弾力的に対応するため、毎年度ごとに生じる臨時の職として、地方公務員法に基づき、臨時的任用職員を任用している。
  なお、他の都道府県においても、概ね同様の状況であると聞いている。
 オ 職務内容
  府立高校においては、基本的には、学級担任は持たないが、そのほかの業務は正規教員と同様であり、教科担任及び校務分掌等を担当している。
 カ 更新に係る方針及び状況
  期限付き講師(欠員講師)は、正規教員と同様に、年間を通じた生徒の教育を担当しているため、年度当初に6ヶ月の期間で任用し、特段支障となる事由(職務遂行能力の欠如、問題行動の存在、更新後の任用期間内の勤務が不可能等)がない限り、10月時点で6ヶ月の期間で任用の更新を行っている。
  更新に当たっては、校長があらかじめ講師本人から、更新後の勤務が可能かどうかを確認することとしている。
  現実には殆どの場合に更新されており、更新されない例は年間数件程度である。
 キ 期限付き講師(欠員講師)が年度途中で交替することについての見解
  やむを得ず年度途中での交替を余儀なくされた場合には、後任の講師が担任した生徒の成績判定(進級も含む)を行わなければならず、そのため、後任の講師ができる限り長期間生徒に接することができるよう配慮する必要がある。
  よって、更新後引き続き一定期間(例:10月〜2学期末までの間)勤務可能である場合においても、かかる期間だけに限定した更新は行わない。

(2)妊娠した期限付き講師の取り扱いについて

 ア 産休制度の適用
  期限付き講師についても、正規教員と同様産休制度の適用があり、本人が請求した場合には産前8週間の休暇が認められ、産後8週間については労働基準法第65条の規定により、就業禁止となる。なお、期限付き講師が産休を取得した場合にも、その産休代替講師を任用することになり、双方に報酬を支払うことになる。
 イ 任用の更新に対する見解
  期限付き講師(欠員講師)の任用の更新に当たっては、発令期間内は就労可能であることが前提である。妊娠した期限付き講師で、更新後の任用期間中に出産予定日を迎える者については、更新後の任用期間に就業禁止期間が含まれ、一定期間勤務ができないことが明らかであるので、任用の更新を行わず、当初の任用期間の満了をもって任用を終了している。
  この取扱いは、一定期間勤務できないことによる学校運営への影響を踏まえたものであり、女性に対してのみ差別的取扱いを行うものではなく、男女共同参画の視点から見ても問題はない。
  なお、他の都道府県でも、府と同様の取扱いをしているところが多い。

(3)申出の契機となった事例の講師について

  当該講師は、期限付き講師の中でも、定数内の常勤講師であり、定数に欠員が生じたときに任用する欠員講師である。本年4月当初に府立高校定時制課程の英語担当の講師として任用した。学校では、クラス担任は受け持っておらず、校務は生活指導部を担当していた。
  任用の更新を行わなかった経緯等については、概ね苦情申出人の言うとおりであり、学校長からも妊娠の事実以外に任用の更新を妨げる問題があったという報告は受けていない。
 
 
 

第3 事案に対する意見

1 事実関係

  本事案は、府立高校定時制課程で任用された期限付き講師に関する事例を契機として苦情申出がなされたものである。当該事例で任用の更新が認められなかった経緯や事実関係等及び府立高校一般における任用制度の内容について、両苦情申出人と施策実施機関から説明を受けたが、事実関係そのものについては、それぞれの説明の間に概ね相違はなかった。
 

2 基本的な考え方

(1)本件調査の対象

  期限付き講師は、府立高校だけではなく、小・中学校でも任用されているが、高校と小・中学校では、生徒の発達段階も異なり、講師交替による影響等も同列に論じることはできないため、本件調査・判断の対象は府立高校に限定することとした。
  また、府教委以外においても、期限付き講師とは異なる職種で、地方公務員法第22条第2項の規定による臨時的任用が行われているが、職場の状況や勤務の条件など基礎となる事情が異なることから、これも本件調査・判断の対象外とする。

(2)期限付き講師の任用(更新)の法的性質

  本件の期限付き講師の任用(更新)は、地方公務員法第22条第2項の規定により6ヶ月以内の期間で行われる臨時的任用であり、1回に限り更新が認められるとされているが、最高裁判決(平成4年10月6日 平3(行ツ)第86号継続任用拒否処分取消等請求事件)は、臨時的任用職員が更新を求める権利について「…期間の満了により臨時的任用職員としての地位は当然に失われるものであって…更新もまた臨時的任用に他ならないから、臨時的任用を受けた職員の側から更新を求める権利はなく…従前の経緯等から更新がなされるものと期待していたとしても…それは法的に保護された権利又は利益とは認められない」との判断を示している。
  これを踏まえると、更新するかどうかの判断は、基本的には任命権者である教育委員会の裁量に委ねられており、憲法、地方公務員法、男女雇用機会均等法(なお、同法第2章「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の促進」全般は地方公務員には適用されない。)、大阪府男女共同参画推進条例との関係で違法性の問題が生じることはないと考えられる。

(3)留意事項

  本件は、教育現場にかかわる問題であるため、更新の適否を検討するに当たっては、生徒に与える影響や学校運営への支障の有無等の教育上の観点からの考察が必要となるが、これを含め、特に留意した事項は以下のとおりである。
  ア 本件のように講師が年度途中で交替せざるを得ない場合には、生徒に与える心理的な影響や成績評価等の教育活動への支障を考慮し、後任講師ができるだけ長く生徒と接する期間をとれるよう、後任講師を手当てすることとされ、従って、出産予定日前の就労可能な時期までの短期間の任用を回避することとされている。教育的な配慮としては、この取扱いにも一定の合理性がある。
  イ 任用予定期間中に産休を取得し、一定の期間勤務できないことが明らかである者をあえて任用し、代替講師確保に要する経費を二重に負担することについては、不適切な支出として、納税者の理解を得ることが難しいのではないかという懸念がある。
  ウ 現状を見ると、学校教育が年度単位に運営され、1年間の学校経営計画のもとに遂行されることが原則的なものであることから、期限付き講師(欠員講師)の任用及び更新についても、基本的には1年間(4月初〜翌年3月末)を通しての勤務が想定されており、職務分担も年間の計画の中に組み込まれている。また、講師本人に対しても当初の任用時にこれに沿った説明がなされており、期限付き講師(欠員講師)のほとんどが任用を更新され、更新されない例は年に数件程度となっている。
  エ 本件で任用の更新を行わない取扱いは、6ヶ月という短期間の任用を行うに当たって、任用予定期間中において、一定の期間、勤務できないことが明らかである者は、一律に任用を更新しないという趣旨によるものであり、女性であることを理由とするものではない。しかしながら、妊娠・出産は女性に特有のものであり、その点が何ら考慮されず、機械的に任用制度が運用されると専ら妊娠・出産を理由に女性だけが不利益(働く機会、教育に携わる機会を奪われる)を被るといった外形を呈することとなる。
  また、期限付き講師が、更新を認められなくなることを恐れて、妊娠することを避けようとしたり、妊娠の事実を秘匿して勤務し、母体に悪影響を及ぼす、といった事態を招くことも懸念され、男女共同参画の観点からみれば問題が無い訳ではない。
 

3 改善方向についての意見

  これまで述べてきたところを総合勘案し、以下のとおり意見を述べる。
  臨時的任用の法的性質に照らすと、第3・2・(2)「期限付き講師の任用(更新)の法的性質」で述べたとおり、更新も臨時的任用に他ならず、本件取扱いに違法、不当の問題か生じることはない。従って、直ちに本件取扱いを改め、妊娠中の期限付き講師について任用を更新すべきであると判断することはできない。
  しかしながら、正規教員と同様に年間を通じて生徒の教育を担当し、そのほとんどが更新されている期限付き講師の勤務実態からは、当初任用と更新とを区別することもできると考えられること、大阪府は「おおさか男女共同参画プラン」において、男女共同参画のモデル職場となることを宣言し、「大阪府男女共同参画推進条例」を施行するなど、率先垂範を示すべき立場にあるということも勘案すると、任用制度を運用するにあたり、画一的に任用の更新を行わないという取扱いは改めるべきであると考える。
  基本的に更新を認めるという立場をとることは困難であるが、妊娠・出産に伴う女性の負担を少しでも軽減する意味で、当事者の意向を十分に確認し、教育上の支障の有無、出産予定日など諸般の事情を斟酌したうえで、制度上、確実に勤務が可能な日までは、任用を更新していく方向が望ましいものと考える。
  なお、短期間の任用更新を認める場合には、後任講師の任期をできるだけ長くとるべきであるという教育上の要請との兼ね合いが問題となるが、代替講師の資質の確保や引継ぎのあり方に加え、管理職、同僚などが後任講師を適宜補助することによって教育上の支障を最小限に抑えることは可能であると考える。
  さらに、期限付き講師(欠員講師)が、正規教員と同様に、年間を通じた生徒の教育を担当しており、特段支障となる事由がない限り、任用の更新を行うことが通例になっているとしても、講師本人に対し、年度当初の任用時に、臨時的任用の法的性質や任用の更新が認められない場合についての考え方を十分に説明しておくべきである。また、講師本人が妊娠等に気づいた時点で、以降の勤務等について学校管理職とも十分な話し合いができるように、学校運営にあたり、日ごろから講師との意思疎通を十分に図っておくことも重要である。

  以上のとおり、妊娠中の期限付き講師の任用の更新については、制度の運用として、本人の希望に応じて勤務可能な期間での更新を行うことが望ましいこと、加えて期限付き講師の当初任用時に説明責任を果たすべきことなどを意見として述べたが、こうした形で、妊娠・出産に対する配慮が必要なことをもって、期限付き講師の当初任用に際し、事実上女性を避けるといった風潮が生まれることのないようくれぐれも留意されるとともに、今後とも府の教育行政全般にわたり男女共同参画の理念が浸透していくように積極的な取組をお願いしたい。

 
 
 
 
 
 大阪府知事 苦情処理結果通知書 
 (苦情申出人宛 男女共第249号平成15年2月13日 )
 

苦 情 処 理 方 針

 
  府立高校において、地方公務員法第22条第2項の規定に基づき任用されている臨時的任用職員いわゆる期限付き講師で、その任用の更新後の任用予定期間中に出産予定日を迎える者の任用更新については、このたびの男女共同参画施策苦情処理委員の意見を踏まえ、平成15年度以降、次のような取扱いとする。
 
1 任用の更新期間を産前休暇取得可能日の前日までとする。
   ただし、その更新期間が1月に満たない場合は更新を行わない。

2 期限付き講師を任用する際には、その法的性質や当該制度内容など、学校長を通じて講師本人に対し、十分説明することとする。

3 なお、当該制度運用にあたっては、後任講師への引継ぎや学校全体としての体制整備など、学校運営に支障が生じないように努める。


Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会