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TITLE:  大阪府立支援学校教員パワハラ適応障害事件 ――「触れただけでも体罰」?
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 2026年4月1日
WORDS:  5601文字
[注目の教育裁判例]

大阪府立支援学校教員パワハラ適応障害事件
――「触れただけでも体罰」?

羽 山 健 一


1.事案の概要

本件は、大阪府立支援学校の教諭である原告が、給食時の生徒指導に関し、同校の准校長らによるパワーハラスメント(パワハラ)やひどい嫌がらせ又はいじめを受けて適応障害を発症したとして、処分行政庁に対し、地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定請求をしたところ、処分行政庁から公務外認定処分を受けたため、被告を相手として、その取消しを求める事業である。

【対象事件】大阪地裁令和7年2月26日判決 【事件番号】令和5年(行ウ)第16号 【事件名】公務外認定処分取消請求事件 【結果】棄却 【出典】ウエストロー・ジャパン2025WLJPCA02266013


2.認定した事実

(1)給食時の原告の指導(令和元年10月16日)
本組の教室において、高等部1年の生徒H(16歳のダウン症児で発達年齢1歳5か月程度の男子)は、「いただきます」の挨拶をする前に給食を食べ始めた。これに気づいた原告は、「食べたらあかん」と大きな声を出したが、生徒Hが食事を止めなかったため、生徒Hの左後方から右手で生徒Hの給食帽又は後頭部を1回はたき(「本件行為」)、その給食帽が給食の上に落ちた(ただし、原告が生徒Hの給食帽をはたいたのか、後頭部をはたいたのかについては、争いがある。)。その後、生徒Hは、自席から降りて床に座り込んだ。原告は、生徒Hを自席に戻そうとして「立て」と言い、生徒Hを自席に座らせた。

(2)本件行為の発覚(10月16日)
生徒K(本組の生徒)は、5、6時間目の体育の授業中に泣き出し、授業終了後、授業担当のL講師に対し、原告が、給食時に生徒Hが給食を先に食べたことを怒って生徒Hを殴ったなどと述べて、教室に戻りたくないなどと相談した。

D教頭及びI部主事は、15時30分頃、応接室で原告から事情を聴取した。D教頭は、F教諭から、原告が生徒Hのおでこをたたき、生徒Hが椅子から吹っ飛んだとの報告を受けている旨を述べたが、原告は、おでこをたたいておらず、帽子をはたいただけであると反論した。これに対して、D教頭は「この頃は、触れても相手が体罰だと言えば、それは体罰になる」旨を述べたところ、原告は、「頭に少しも触れずに帽子だけはたくのは物理的に難しいと思う。触れても体罰なら体罰なんでしょう。認めます。」と述べた。

原告は、17時頃、D教頭から生徒Hへの謝罪の件で呼ばれ、C准校長らと話をし、改めて思い返すと、生徒Hの頭をたたいておらず、帽子をはたいただけである旨を述べた。これに対して、C准校長は、言い訳にしか聞こえず、自己保身である旨を述べた。

原告は、10月16日、C准校長らとともに生徒H宅を訪問し、その保護者に対し、本件行為について謝罪した(「本件謝罪1」)。

(3)本件配布、原告の職員室勤務(10月17日)
C准校長は、10月17日、原告に対し、ホームルーム、授業等生徒の前に出る業務に従事させず、本件行為の事実確認や振返り・反省等を行わせるために、同日から1週間の職員室勤務を指示した。また、学校は、同日、保護者宛の「体罰事案ついて(ママ)」と題する文書を作成し、生徒を通じて配布した(「本件配布」)。本件文書には、@10月16日の給食の時間に高等部男性教諭による生徒への体罰事案が発生したこと、A事案の内容は「当該の男性教員が給食指導中に、当該生徒の食事のマナーを注意する際に、頭をはたくという行為」であること、B現在、学校として、安心、安全な学校の回復、子ども、保護者からの信頼を取り戻すために全教員全力を尽くし、再発防止、事実関係、原因の究明、今後の対応などに向けて取り組んでおり、全体への保護者説明会の開催を検討しており、改めて連絡することが記載されていた。

(4)原告の本組の生徒への謝罪等
D教頭は、原告に対し、本組へ出向いて生徒に謝罪するよう指示し、原告は、10月21日、D教頭及びI部主事とともに本組へ行き、生徒に対し本件行為について謝罪した(「本件謝罪2」)。原告は、当初、10月23日から始まる現場実習を担当する予定であったが、同日以降も職員室勤務が継続し、現場実習を担当できなかった。

(5)原告の早退、受診
原告は、10月25日、D教頭に話がしたいと申し出、図書室で話をし、「もう無理です。家に帰りたい。僕にも人権があります。」と泣きながら訴えた。D教頭は、このまま勤務を続けるのは困難であると考え、早退するよう伝えたところ、原告は早退した。原告は、10月28日、七山病院を受診し、適応障害と診断され、12月末日まで自宅療養が必要で、令和2年1月1日から職場復帰が可能と診断された。

(6)本件行為の体罰認定、原告の職場復帰等
学校(C准校長)は、関係者からの事情聴取を踏まえて、本件行為が体罰に当たると認定し、12月3日、大阪府教育庁に対し、これを報告した。原告は、令和2年1月6日、職場復帰したが、個別指導が継続し、同年2月26日に個別指導が解除されたものの、本組の担任には復帰できなかった。原告は、同年7月20日付けで、本件行為について厳重注意を受けた。


3.判決のポイント
(原告の適応障害の発病に公務起因性があるかについて)

(1)本件行為の体罰該当性
学校教育法11条ただし書は教員が児童及び生徒に体罰を加えることを禁止しているところ、体罰に当たるか否かは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考慮して客観的に判断するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件行為は原告が生徒Hの給食帽及びその下の後頭部をはたくというものであり、有形力の行使に当たる。・・・しかしながら、本件行為は1回だけで、その程度も軽微であり、生徒Hの食事を制止するための指導としてされたもので、生徒Hの発達年齢が1歳5か月程度で、理解力が十分にあったとはいえないこと等を考慮すると、本件行為が客観的に体罰に当たると認定することは困難である。

もっとも、生徒Hの食事を制止するためには、・・・身体への危険が少ない方法も考えられるのであり、生徒Hの食事を制止する緊急性が高かったことがうかがわれないことからすると、本件行為は少なくとも不適切な指導に当たるというべきである。

(2)本件行為が体罰であると認めさせようとしたことについて
@「この頃は、触れても相手が体罰だと言えば、それは体罰になる」旨の発言
上記で述べたとおり、体罰に当たるか否かは、行為の相手方の主観ではなく、客観的に判断されるべきものであるから、主観に基づいて体罰の該当性をいうD教頭の発言は正確性を欠くものではあるが、D教頭は10月16日15時30分頃までに把握した情報に基づき、本件行為が体罰に当たるとの見解を示したものと認めることができる。このように、D教頭は、把握した情報に基づいて本件行為に関する自己の見解を示したものであって、原告に対して本件行為が体罰であることを認めるよう執拗に叱責したことは認められず、本件行為に関する原告とD教頭の見解に相違が生じたものにすぎないから、上記@が過重な負荷となる可能性のある業務ということはできない。

A「それは言い訳にしか聞こえず、自己保身である」旨の発言
本件行為は生徒Hの給食帽だけをはたいたものではない。C准校長は、10月16日17時頃までに把握した情報に基づき、給食帽をはたいただけとの原告の弁解には合理性がなく、原告の自己弁護にすぎない旨の見解を示したものであり、C准校長が原告に対して本件行為が体罰であることを認めるよう執拗に叱責したことは認められず、本件行為に関する原告とC准校長の見解の相違が生じたものにすぎないから、上記Aが過重な負荷となる可能性のある業務ということはできない。

(3)本件謝罪1について
@ 原告は、生徒H宅への訪問前に、謝罪を拒否したことはうかがわれないこと、A 原告が公務災害認定請求をした際、C准校長らから意に反する謝罪を強要された旨を申述していないことからすると、本件謝罪1は、C准校長らによる発案であったとしても、原告の意に反するものとは認められないから、原告がこれを強要されたということはできない。

(4)本件配布について
本件配布は、本件行為について誤った情報が拡散し、学校がこれを隠蔽したとの疑念が広がらないよう、今後の対応等について早急に情報発信するためにされたものである。・・・このように、本件配布は、学校として明らかに必要性がないものということができず、その内容も社会通念に照らして許容される範囲を超えたものということはできない。そうすると、本件配布は、原告に不快感を抱かせるものであったことが推認できるが、過重な負荷となる可能性のあるものということはできない。

(5)職員室勤務について
本組の生徒の心情に配慮し、原告を本組の生徒の前に出る業務に従事させず、職員室でそれ以外の業務に従事することとしたC准校長の指示は、業務指導の範囲内のものであり、社会通念に照らして許容される範囲を超えたものとはいえない。そうすると、上記職員室勤務が過重な負荷となる可能性のある業務ということはできない。

(6)本件謝罪2について
本件行為は少なくとも不適切な指導に当たるものであり、原告自身、本件行為を見たことやその後に事情聴取されたことにより、本組の生徒に迷惑をかけたと考えていたことからすると、本件謝罪2は、原告の意に反して強要されたものとはいえず、D教頭が本件謝罪2を指示したことは業務指導の範囲内のものというべきである。そうすると、本件謝罪2は、過重な負荷となる可能性のある業務ということはできない。

(7)現場実習を担当させなかったこと
本組の生徒間で本件行為に関する供述が食い違っており、その後に聴取をする必要があったことからすると、D教頭が、原告が本件謝罪2をしたとしても、生徒の心情に配慮して原告が現場実習に参加するのは好ましくないと判断して、原告に現場実習を担当させなかったことは業務指導の範囲内のものであり、社会通念に照らして許容される範囲を超えたものとはいえない。そうすると、D教頭の上記対応は、過重な負荷となる可能性のあるものということはできない。

(8)小括
上記具体的出来事は、強度の精神的負荷を与える事象を伴う業務等ということはできないから、原告の適応障害の発病は、公務に内在する危険が現実化したものとはいえず、公務起因性を認めることはできない。


4.コメント

本件は、特別支援学校の教員が、業務上のストレスにより適応障害を発病したとして公務災害認定を求めたところ、強度の精神的負荷を伴う業務は認められないとして請求が棄却された事案である。本件で問題となったストレスの主因は、生徒に対する体罰をめぐる対応であった。すなわち、管理職は当該教員に対し、生徒や保護者への謝罪を求めるとともに、生徒と接する業務から外すなどの措置を講じていた。

当時、大阪府の支援学校においては、教員による体罰や暴言が相次いで報道され社会問題化していた。このような状況のもとで、本件の管理職が、軽微とみられる事案であっても慎重な対応をとったことは、一定の合理性を有する。そして、その結果として、体罰を受けたとされる生徒側からの苦情は出ず、体罰事案が大きな問題に発展することはなかった。この点において、管理職は立派に、生徒の安全安心を確保するという職責を果たしたと評価することができる。(なお、判決は、教員の行為について、有形力の行使には当たるものの、体罰には該当しないと判断している。)

しかしながら、近年、精神疾患により休職する教員が増加傾向にあり、教員のメンタルヘルス対策は喫緊の課題となっている。この点、対策の中心的役割を担うのは学校の管理職である。管理職は、生徒に対する安全配慮義務を負うだけでなく、教員に対しても同様に安全配慮義務を負うことに留意する必要がある。たとえば、大阪府立高校教員事件(大阪地裁令和4年6月28日判決)は、「使用者は、その雇用する労働者を管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判示し、管理職等に安全配慮義務があることを明確にしている。

したがって、管理職には、教員のメンタルヘルス不調の兆候を把握し、適切な初期対応を行うことが求められる。しかし、本件の管理職については、判決文の記載を見る限り、そのような配慮や対応を尽くしていた形跡は見られない。もっとも、本件は公務災害認定を求める事案であるため、管理職の安全配慮義務違反は直接の争点とはならない。それでも、事実関係からは、本件の管理職が生徒対応を重視するあまり、教員のメンタルヘルスへの配慮を十分に行わず、その義務の履行を怠っていた可能性が示唆される。


注目の教育裁判例
この記事では,公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から,先例として教育活動の実務に参考になるものを選んでその概要を紹介しています。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照してください。なお、「認定した事実」や「判決のポイント」の項目は、判決文をもとに、そこから一部を抜粋し、さらに要約したものですので、判決文そのものの表現とは異なることをご了承願います。



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