● 学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について 令和2年9月 スポーツ庁

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    学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について


はじめに

 文部科学省では、生徒にとって望ましい部活動の環境を構築する観点から、部活動ガイドラインを策定し、部活動の適正化を推進している。他方、学校の働き方改革は喫緊の課題であり、中央教育審議会の答申や給特法改正の国会審議において、「部活動を学校単位から地域単位の取組とする」ことが指摘されている。
 これらの指摘も踏まえつつ、今回はその第一歩として、学校の働き方改革も考慮した更なる部活動改革の推進を目指し、部活動ガイドラインで示した「学校と地域が協働・融合」した部活動の具体的な実現方策とスケジュールを明示するものである。
 部活動をめぐる様々な関係者がそれぞれの立場で協力しながら、以下に示す方策について段階を踏んで着実に実施することにより、部活動における教師の負担軽減に加え、部活動の指導等に意欲を有する地域人材の協力を得て、生徒にとって望ましい部活動の実現を図るものである。

○学校の働き方改革も考慮した部活動改革の考え方
(部活動の意義と課題)
・部活動は、生徒の自主的、自発的な参加により行われるものであり、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、学習指導要領に位置付けられた活動である。
・部活動に参加する生徒にとっては、スポーツ、芸術文化等の幅広い活動機会を得られるとともに、体力や技能の向上に資するだけではなく、教科学習とは異なる集団での活動を通じた人間形成の機会でもある。部活動は多様な生徒が活躍できる場であり、豊かな学校生活を実現する役割を有する。
・一方で、部活動の設置・運営は、法令上の義務として求められるものではなく、必ずしも教師が担う必要のない業務と位置付けられている。
・教師の勤務を要しない日(休日)の活動を含めて、教師の献身的な勤務によって支えられており、長時間勤務の要因であることや、特に指導経験がない教師には多大な負担となっているとの声もある。

(改革の方向性)
・今回の部活動改革については、公立学校における働き方改革の視点も踏まえ、教師の負担軽減を実現できる内容とすることが必要である。このため、公立学校を対象とした部活動改革とするとともに、主として中学校を対象とし、高等学校についても同様の考え方を基に部活動改革を進める。なお、高等学校における部活動は、学校の特色ある活動として位置づけられている場合もあることに留意すべきである。このような学校については、別途、設置者の責任において、教師の負担軽減を考慮した適切な指導体制を構築すべきである。私立学校においても、公立学校における取組も参考にしながら、教師の負担軽減を考慮した適切な指導体制の構築に取り組むことが望ましい。
・これまでの部活動は教師による献身的な勤務の下で成り立っており、持続可能な部活動と学校の働き方改革の両方を実現するためには、特に休日の部活動における教師の負担軽減を図る必要がある。部活動は、学校教育の一環として行われる活動であるが、必ずしも教師が担う必要のないものであることを踏まえ、休日に教科指導を行わないことと同様に、休日に教師が部活動の指導に携わる必要がない環境を構築すべきである。
・一方で、休日の部活動に対する生徒の希望に応えるため、休日において部活動を地域の活動として実施できる環境を整えることが重要である。部活動に代わり、生徒が自主的にスポーツ・文化活動に取り組み、体力や技能の向上を目指す活動機会を保障する観点から、教師の勤務を要する日(平日)において学校の活動として行われる部活動(学校部活動)と教師の勤務を要しない日(休日)において地域の活動として行われる部活動(地域部活動)との連携を図りながら、地方自治体等において、地域部活動の実施のために必要な取組を行うことが求められる。

○具体的な方策
 これまで適正な部活動の実現に向けた部活動改革として、部活動指導員などの外部指導者の活用、活動時間や休養日の基準の設定、短時間で効果的な指導の推進などに取り組んできたところである。
 今回の部活動改革は、部活動の教育的意義を踏まえつつ、更なる学校の働き方改革を実現するため、部活動ガイドラインを踏まえた取組の一環として実施するものであり、具体的には以下の取組を進める。

1.休日の部活動の段階的な地域移行(学校部活動から地域部活動への転換)
 休日の部活動における生徒の指導や大会の引率については、学校の職務として教師が担うのではなく地域の活動として地域人材が担うこととし、地域部活動を推進するための実践研究を実施する。その成果を基に、令和5年度以降、休日の部活動の段階的な地域移行を図るとともに、休日の部活動の指導を望まない教師が休日の部活動に従事しないこととする。

(地域部活動の運営主体)
・地域部活動の運営主体は、退職教師、地域のスポーツ指導者、スポーツ推進委員、生徒の保護者等の参画や協力を得て、総合型地域スポーツクラブ、民間のスポーツクラブ、芸術文化団体等が担うことが考えられる。
・こうした地域団体において地域部活動の運営を担う人材や指導者を確保しつつ、当該団体の責任の下で、生徒の安全の確保や指導者への謝金の管理など、地域部活動の管理運営が行われることについて、生徒、保護者等の理解を得ることが望ましい。
・休日の大会・コンクールへの参加については、平日の学校部活動に参加する生徒のみで参加する場合で校長が認めるときは、地域部活動に参加する生徒が学校代表として参加することが考えられる。
・学校代表としての大会参加を含め、地域部活動の際に事故が発生した場合は、地域部活動の運営主体や大会の主催者が責任を負うことになるが、生徒が怪我をした場合の救護や保護者、学校、教育委員会等への連絡など、事故発生時の役割分担について、あらかじめ明確にするとともに、生徒、保護者等の理解を得ることが望ましい。
・なお、大会への引率については、指導のみを担う場合と比べて地域人材の確保が当面限定的になると考えられるため、やむを得ない場合に限り、教師が学校部活動として大会引率を行うことも考えられる。

(休日の指導等を担う地域人材の確保)
・休日の地域部活動については、教師ではなく地域人材が担うものであり、地方自治体は、教師に代わり生徒の指導や大会への引率を担う地域人材の確保に向けて、人材バンクを整備・活用し、関係団体と連携しながら、人材の育成からマッチングまでの民間人材の活用の仕組みを構築するなどの取組を行う。
・地域部活動の指導者は、部活動に参加する生徒の意向を踏まえ、指導方針や活動内容を決定する。その際、平日の学校部活動との関連性を考慮する必要がある。
・また、地域部活動の指導者が部活動の意義を理解した上で、生徒のスポーツ・文化への興味関心の向上や体力・技能の向上に資する指導を行うことができるよう、部活動ガイドラインを踏まえ、部活動指導員と同様の研修を行うことが望ましい。
・地域部活動において休日の指導を希望する教師は、教師としての立場で従事するのではなく、兼職兼業の許可を得た上で、地域部活動の運営主体の下で従事することとなる。令和3年度以降教育委員会において兼職兼業の許可の仕組みを適切に運用できるよう、今年度中に兼職兼業の考え方や労働時間管理、割増賃金の支払い等について整理を示すこととする。
・なお、兼職兼業の運用に当たっては、あくまで休日の指導を希望する教師の申請を教育委員会が許可する仕組みであることから、教師が希望しないにもかかわらず、休日の指導等に従事させることがないよう十分留意する。
・また、教師のライフステージに応じ、部活動への携わり方を主体的に選択できるよう弾力的な取り扱いが望ましい。
・部活動に対する教師の負担軽減に向けて大きな役割を果たしている学校部活動における部活動指導員の配置に対する国による支援については継続する必要があると考えられる。

(地方自治体や保護者による費用負担と国による支援)
・地域部活動の指導者(兼職兼業の許可を得た教師を含む。)の確保に当たっては、謝金を要する場合が発生すると考えられる。
・また、地域部活動の場所や用具の確保に当たっては、使用料を要する場合が発生すると考えられる。
・地域部活動の実施に当たっては、事故に備えるため、保険への加入が望ましい。
・地域部活動の費用負担については、生徒の活動機会の保障の観点や受益者負担の観点から、保護者が負担することや地方自治体が減免措置等を講ずることが適切であると考えられるが、これまで両者による負担等が行われていない実態や休日に教師が部活動に従事する場合における現行の特殊勤務手当を考慮しつつ、国による支援方策についても検討する。

(休日の地域部活動を推進する拠点校(地域)の整備)
・休日の地域部活動の実現に向けた取組を総合的に推進するため、各都道府県に拠点校(地域)を設け、国として拠点校(地域)における実践研究を実施する。併せて、その成果を他の学校に横展開することにより、全国のすべての学校において、休日の部活動における教師の負担軽減を計画的に実現する。なお、拠点校(地域)を含め、早期に地域移行が可能な学校(地域)においては、速やかに休日の地域部活動の実現に向けた取組を進める。

2.合理的で効率的な部活動の推進
(合同部活動の推進)
・地域の実情を踏まえ、特に少子化の影響が大きい過疎地域においては、地方自治体の判断に基づき、市町村を越えた他校との合同部活動を推進するとともに、都市部においては、市内の近隣校との「拠点校方式」による合同部活動を推進する事業を実施する。その際、地理的な課題が生じるが、ICTを活用することで、生徒が移動す
ることなく指導を受けたり、生徒・指導者間のコミュニケーションが可能となるよう実践研究を推進する。

(大会・コンクールの在り方の整理)
・全国大会に参加できるのは、一部の学校であり、大多数の学校が関係するのは地方大会である。このため、学校の働き方改革の観点も踏まえ、主に地方大会の在り方を整理する必要がある。
・従って、国は、関係団体による全国大会の見直しを促進するとともに、地方自治体が関係団体と連携・協力して、地方大会の開催の実態を把握し、大会の在り方について整理するよう要請する。
・また、大会が生徒の活動の成果発表の場であることを考慮しつつも、生徒の大会参加による負担が過度にならないように、参加する大会を精選する。・併せて、大会の参加資格については、学校以外のチームも参加できるよう弾力的な取扱いの検討を要請する。

おわりに

 以上の方策は、部活動改革のゴールではなくマイルストーンである。
 部活動は生徒にとって教育的意義の高い活動である一方で、教師の献身的な勤務に支えられており、もはや持続可能な状態にあるとは言えない。部活動は、すべてを学校の教師が担うのではなく、生徒への指導等に意欲を有する地域人材の協力の下で、生徒にとって望ましいスポーツ・文化活動を地域が支えていくことが求められる。
 このような部活動改革は、地域や活動内容によってそれぞれの部活動の状況が異なることを踏まえれば、各地域で実践研究を行いながら、段階的に着実な取組を進める必要がある。この改革には、関係者の意識変革が不可欠であり、その際、国、地方自治体、学校関係者がそれぞれの役割を果たすことにより、今回の部活動改革が結実するものと考える。
 その上で、今回の部活動改革の成果や課題も見極めながら、地域人材の協力を得て、生徒にとって望ましい部活動の実現や、学校の働き方改革を通じた学校教育の質の向上を図るため、部活動ガイドラインの改訂を含め、更なる取組を進めることが関係者の責務であり、休日の部活動の段階的な地域移行は、そのための第一歩である。






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