● 教育公務員特例法の一部を改正する法律及び義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法の施行について(いわゆる教育二法) 昭和29年6月9日 文初地第325号



文初地第三二五号 昭和二九年六月九日
都道府県教育委員会各市(区)町村(組合)教育委員会・都道府県知事あて
文部事務次官通達


    教育公務員特例法の一部を改正する法律及び義務教育諸学校における
    教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法の施行について

 去る六月三日、教育公務員特例法の一部を改正する法律及び義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法が、それぞれ法律第一五六号、第一五七号をもつて公布され、六月一三日から施行されることとなつた。
 ついては、下記諸点に留意の上、慎重な配慮と格段の熱意をもつて、両法律の適正かつ有効な運営をはかるとともに、両法律制定の趣旨の実現に遺憾なきを期せられたい。

          記

1 両法律は、教育職員の行う教育活動を直接規制するものではないが、その制定の趣旨は、教育が教育基本法第八条の精神に則つて行われるべきこと、すなわち学校教育における政治的偏向を排除することを主眼とするものであるから、教育職員が自覚ある教育活動を行うよう不断の指導に努めるとともに、いやしくも政治的に偏向した教育の行われる場合にはこれを排除するため必要な措置を講じ、故意にかかる教育を行う教育職員に対しては厳正適切な処置を執るべきこと。

2 教育公務員特例法の一部を改正する法律は、教育公務員の職務と責任の特殊性にかんがみ、公立学校の教育公務員の政治的行為の制限の範囲を国立学校の教育公務員と同様とすることにより、教育公務員が妥当な限度をこえて政治に介入することを防止し、もつてその公務たる教育の公正な執行を保障しようとするものである。
 この制限の違反については、国立学校の教育公務員と異り刑罰を科せられることはないが、制限規定の遵守せられるべきことは、罰則の有無によつてなんらの影響を受けるものではない。
 この趣旨にかんがみ、管下学校の職員に対し、その禁止に触れることのないよう適切な指導に努めるとともに、悪質な違反者に対しては厳正な処置を執るべきこと。
 なお、この法律が教育職員の一切の政治的言動を禁止するものであるかの如く誤り伝えられ、ひいては教育職員に不安を与えている向もあるようであるが、法の趣旨を関係者に周知徹底せしめ、その勤務につき無用に萎縮し、ひいては教育の沈滞を来すことのないよう努められたきこと。

3 義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法は、義務教育に従事する教育職員に対し、特定の目的、手段をもつて党派的教育を行うよう教唆、せん動することを禁止し、その違反に対し刑罰を科することとしている。その意図するところは義務教育を党派的勢力の不当な影響又は支配から守り、もつて義務教育の政治的中立を確保するとともに、教育職員の自主性を擁護しようとするものであつて、もちろん思想言論に対して不当の抑圧を加えんとするものではない。よつてその趣旨を関係者に周知せしめるとともに、教育に対する政治的勢力の不当な介入に対し常に関心を払うべきこと。
 なお本法に規定する罪は、公立学校に関しては、これを所管する教育委員会等の、私立学校に関しては、これを所轄する都道府県知事の請求を待つて論ぜられることとなつているが、請求を行うに当つては、学校管理の見地からその必要の有無につき十分考慮を払うべきこと。これがため、都道府県知事にあつては、当該私立学校を設置する学校法人の理事長の意見をあらかじめ聞く等の措置を講ぜられたきこと。

4 以上のほか細部に関しては、別記「教育公務員特例法の一部を改正する法律及び義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法の内容の要点及び解釈等について」によること。


(別記)

教育公務員特例法の一部を改正する法律及び義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法の内容の要点及び解釈等について

1 教育公務員特例法の一部を改正する法律について

(一) 改正の要点

(イ) 公立学校の教育公務員の政治的行為の制限については、従来地方公務員法第三六条の規定によつていたのであるが、本法施行後は、同条によることなく、国立学校の教育公務員の例によることになり、国家公務員法第一〇二条及び同条に基く人事院規則一四―七により国家公務員に対して制限される政治的行為が、公立学校の教育公務員についても制限されることとなる。

(ロ) 国立学校の教育公務員で政治的行為の制限に違反した者は、国家公務員法第一一〇条の規定により三年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金に処せられることとなつているが、公立学校の教育公務員については、上記の罰則はその例によるものとされない。

(ハ) 本法の附則で、地方公務員法第二九条第一項第一号が改正されたことにより、教育公務員特例法の改正後の第二一条の三規定の違反は、職員に対する懲戒の事由となることが明らかにされた。

(二) 人事院規則一四―七中第八項は、各省各庁の人事院に対する通知等に関する規定であるので、公立学校の教育公務員については適用されるものではない。

(三) 教育公務員は、その身分を保有する限り、勤務時間外においても、また、休暇休職等により職務専念義務を免除されている場合であつても、政治的行為の制限を受けることはもちろんである。但し、人事院規則一四―七第六項第一六号の行為は、勤務時間中に限り禁止される。

(四) 人事院規則一四―七の解釈については、「人事院規則一四―七(政治的行為)の運用方針について」(昭和二四年一〇月二一日人事院事務総長発各省事務次官宛通牒)を参照されたい。

2 義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法について

(一) 本法により禁止される行為の内容

 本法の禁止する党派的教育の教唆・せん動は、第三条に規定する通り次の各要件に該当するものであつて、その要件の一つが欠けても、禁止される行為とはならない。

(イ) 教唆・せん動が、「教育を利用して特定の政党等の政治的勢力の伸長又は減退に資する目的」をもつて行われること。したがつて例えば学術的な意見の発表や研究成果の公表を本来の目的とする行為などが本法の禁止に該当することはない。

(ロ) 教唆・せん動が「学校教育法に規定する学校の職員を主たる構成員とする団体(その団体を主たる構成員とする団体を含む。)の組織又は活動を利用して」行われること。ここでいう「学校教育法に規定する学校」とは国立、公立、私立の別を問わず、学校教育法第一条及び第九八条に規定する学校をさし、各種学校を含まない。「学校の職員」とは教育公務員たると否とをとわず、上記の学校に勤務するすべての職員をさす。「職員を主たる構成員とする団体」とは構成員の過半数が職員である団体である。なお、そのような団体を主たる構成員とする連合体も含まれる。
 また、「団体」とは特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体であつて、法人格を有すると否とは問わない。

(ハ) 教唆・せん動の相手方は「義務教育諸学校に勤務する教育職員」であること。したがつて例えば高等学校・大学の教育職員に対して教唆・せん動した場合は罪とならないが、その職員が、小・中学校の教育職員の職を兼ねているときは、その職員は、「義務教育諸学校に勤務する教育職員」に該当する。なお「義務教育諸学校」及び「教育職員」の定義については、本法第二条に規定されているとおりである。

(ニ) 「義務教育諸学校の児童又は生徒に対して」、党派的教育を行うことを教唆・せん動すること。
 ここでいう義務教育諸学校の児童・生徒とは、当該職員の勤務する学校の児童・生徒に限るのではなく、従つて教育の対象を職員の勤務する学校の児童・生徒と特に指定した場合のみ本法の禁止するところとなるのではない。

(ホ) 「特定の政党等を支持させ、又はこれに反対させる教育」を行うことを教唆、せん動すること。この教育には児童・生徒を特定の政党等を支持し又はこれに反対する行動に駆り立てるような教育が含まれることはもちろんであるが、その程度にまで至らないでも、児童・生徒の意識を特定の政党等の支持又は反対に固まらせるような教育は、これに該当する。単に、特定の政党を支持、反対させる結果をもたらす可能性があるとか、それに役立つとかいう程度では該当しないが、必ずしも政党等の名称を明示して行う教育には限らず、暗黙のうちに児童・生徒に特定の政党等を推知させるという方法をとる場合にも、該当する場合がある。なお、特定の政治的な立場に偏し、教育基本法第八条第二項の趣旨に反する教育は、本法に規定する党派的教育に限られるものでないことは特に留意せらるべきである。また、「教育」は、義務教育諸学校における教育の一環として行われるもののすべてを含め、教課外活動・修学旅行等正規の授業時間外や、学校の施設外で行われる活動も、学校の教育としてなされるものは含まれる。

(二) 教唆・せん動の意味

 本法は、教唆・せん動を独立罪として処罰するものであり、教唆・せん動が相手方たる教職員に到達すれば足り、教職員がこれに応じて党派的教育を行つたか否かを問わない。なお、「教唆」とは、通常特定人に対して、実行の意思を生ぜしめるに足りる行為であり、「せん動」とは通常不特定の人に対し、実行の決意を生じさせ、又は既に生じている決意を助長するような勢のある刺載を与えることであるが、現実に実行の意思が生ぜしめられまたは助長されたことは必要としない。

(三) 処罰の請求

(イ) 第五条に規定する処罰の請求は、公訴提起の訴訟条件とされ、請求がなければ起訴することができない。したがつて、請求のない限り、捜査機関がこの罪について捜査を開始するようなことは、通常起り得ない。

(ロ) 第五条第一項第二号において、「地方公共団体の組合であつてこれに教育委員会が置かれていないもの」とあるのは、いわゆる学校組合の如く、教育事務の一部を共同処理する一部事務組合で、教育委員会法による教育委員会が置かれていないで、地方自治法の規定により、教育委員会に準ずる執行機関が置かれているものをさす。

(ハ) 処罰の請求は、訴訟行為の一つであり、刑事訴訟法上、処罰の請求の代理又は委任が認められていないので、教育委員会法第五二条の二又は地方自治法第一五三条等の規定により、これを他の者に委任して行わせ又はこれらに代理して行わせることはできない。

(ニ) 請求の手続については、「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法第五条の請求の手続を定める政令(昭和二九年政令第 号)」に定めるとおり書面で、検察官に対してしなければならない。
 なお、請求をなすに当つては少くとも犯罪が特定し得る程度の事実を具体的に明示する必要がある。

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