● 義務教育諸学校における不就学及び長期欠席児童対策について 昭和30年9月30日 文初中第371号・厚生省文児第188号・収婦第44号



文初中第三七一号・厚生省文児第一八八号・収婦第四四号 昭和三〇年九月三〇日
都道府県知事・都道府県教育委員会・都道府県労働基準局長・婦人少年室長あて
文部事務次官・厚生事務次官・労働事務次官通達


    義務教育諸学校における不就学及び長期欠席児童対策について


 このことについては、従来貴職(委員会)をはじめ関係諸機関において多大の配慮をせられてきたのであるが、該当児童生徒の数は、現在なお、三〇万人をこえる状態である。
 これが改善のためには、関係諸機関の密接な協力体制が必要であつて、その体制の下にじゆうぶんな指導、保護および監督が行われなければならない。
 関係諸機関においては、今後さらに、別紙対策要綱に基き周到かつ適切な措置を講じ、相協力して実効をあげるよう格段の努力を払われたい。


 義務教育諸学校における不就学および長期欠席児童生徒対策要綱

第一 趣旨

 義務教育の重要性が強調されるにもかかわらず、義務教育諸学校における不就学および長期欠席の状態にある学齢児童生徒の数は、現在なお三〇万人をこえている。
 これは、義務教育制度のたてまえから真に遺憾なことであり、また、児童生徒の不良化、不当雇用慣行(いわゆる人身売買)等とも関連している。このような事情から、その対策は、きわめて重要かつ緊急の問題となつている。
 よつて、義務教育の完全就学、児童福祉の増進、年少労働保護の徹底の見地から、この対策要綱によつて広く関係諸機関が、相提携して周到かつ適切な措置を講じ、広く関係団体および一般国民の理解と協力とを求め、不就学および長期欠席状態の改善を図ろうとするものである。

第二 不就学および長期欠席児童生徒の実態

一 この対策の対象となる不就学および長期欠席児童生徒

A 「不就学児童生徒」とは、学齢にある者のうち、学齢簿に記載されていない者および学齢簿に記載されている者で、小学校、中学校、盲学校、ろう学校または養護学校(以下「義務教育諸学校」という。)に入学していない者である(ただし、教護院、精神薄弱児童施設および、少年院に入院中のため義務教育諸学校に入学していない者を除く。)。
 この不就学児童生徒の中には、次のような者が含まれる。

a 保護者が就学させない児童生徒

b 保護者が学齢児童生徒の住所地の変更中途退学、区域外就学等の場合の手続を怠り、または誤つたため不就学となつている児童生徒

c 戸籍面からの脱落、または居所不明等により不就学となつている児童生徒

d 就学義務の猶予または免除を受けて就学していない児童生徒(養護学校に就学している者を除く。)

B 「長期欠席児童生徒」とは、学齢にある者のうち、学齢簿に記載され義務教育諸学校に在学していながら相当の期間、連続または断続して出席していない者である。

(なお、文部省の「公立小学校、中学校長期欠席児童生徒調査」では学年の初めから終りまでの間に、連続または断続して五〇日以上欠席した者を、長期欠席児童生徒としている。)

二 不就学および長期欠席児童生徒の現況

A 不就学児童生徒数

 前記一のA中dの就学猶予または免除を受けて就学していない者の数は文部省の学校基本調査によれば次表のとおりである。このほかに、前記一のA中a、bおよびcについては未調査であるが、相当数にのぼるものと予想される。(なお、参考IIの統計資料参照のこと。)

昭和二八年度就学猶予または免除者

学校種別    児童生徒数        就学猶予または免除者数(比率)

小学校   一一、二五二、六九五人    二七、五九八(〇・二五%)
中学校    五、一九二、五九八人     五、七五〇(〇・一一%)
計     一六、四四五、二九三人    三三、三四八(〇・二〇%)

B 長期欠席児童生徒数

 文部省の「公立小学校、中学校長期欠席児童生徒調査」によれば、昭和二八年度中に連続または断続して五〇日以上欠席した者は、次表のとおりである。

学校種別      欠席者数    欠席率
小学校   一三一、五五九人  一・一八%
中学校   一五七、八七六人  三・一七%
計     二八九、四三五人  一・七九%


第三 対策

一 基本的事項

a 関係諸機関は、保護者および一般に対し、義務教育の重要性ならびに児童生徒の不就学および長期欠席状態の解消のために必要な児童福祉、生活保護、年少労働保護の重要性について周知徹底させること。

b 関係諸機関は、義務教育の完全就学実現のため、就学義務、児童福祉生活保護等に関し、法令に規定する事務を遺憾なく履行すること。

c 関係諸機関は、児童生徒の校内および校外における生活について、指導、保護および監督をじゆうぶんに行い、不就学または長期欠席の防止を図るとともに、その早期発見につとめ、すみやかに適切な措置を講ずること。

関係諸機関は、いつそう相互の連絡を密にし、相協力して、この問題の解決を図ること。

このため、関係機関および関係団体の参加による就学奨励対策委員会(仮称)を設けるなどの方法によつて、協力体制を確立するよう努めること。

(これについては、参考一を参照のこと。)

二 関係諸機関における措置

(1) 教育関係機関

A 学校における措置

a 生活指導および健康管理の徹底

 学校は、児童生徒の身体障害、身体虚弱、精神遅滞、勉強ぎらい、不良化、友人間の不和、家庭環境の不良等が、不就学または長期欠席の原因となることにかんがみ、特に次の諸点に注意して、日ごろの生活指導を徹底すること。

(イ) 問題のある児童生徒に対しては、教科および教科外の指導を通じて、精神的にも身体的にも特に懇切な指導を行い学校生活に親しみを持たせるように努力すること。
 なお、必要ある場合は、特殊学級、補導教育等による指導を行うこと。

(ロ) 問題のある児童生徒に対しては、つとめて家庭訪問を励行して、本人および家庭の事情をは握し、また通学班、地区別子供会、地区別PTAなどを通じて、児童生徒のそれぞれの事情に即する校外生活の指導を強化して、不就学、長期欠席の防止を図ること。
 なお、すでに長期欠席の状態にある児童生徒については本人および保護者について、その原因を究明し、児童委員(民生委員)その他の関係機関とも連絡して、これに適合する措置を講じ、その解消につとめること。

(ハ) 長期欠席は、児童生徒の疾病異常に原因する場合が相当多いことにかんがみ、平素学校において健康診断、健康相談等を行つて児童生徒の健康状態をは握し、異常者に対する予防および治療に留意し、また、家庭訪問によつて家庭において健康にじゆうぶん注意するよう指導するなど、健康管理および健康指導を徹底すること。

b 早期発見および事前措置

(イ) 校長は、市町村教育委員会から通知を受けた入学すべき児童生徒について、その指導要録および出席簿をもれなく作成し、つねにその在籍および出席状況を明らかにしておくこと。(学校教育法施行令(以下「施行令」という。)第一九条および学校教育法施行規則(以下「施行規則」という。)第一二条の三、第一二条の四参照のこと。)

(ロ) 学校は、つねに児童生徒の出席状況に留意し、欠席の届出を励行させ、また、つとめて家庭訪問を行うなどによつて、不就学または長期欠席の状態になるおそれのある者の早期発見に努めるとともにその原因を明らかにして、個人別救済策をたて、事前に適当な措置を講ずること。

(ハ) 校長は、児童生徒が正当な理由なく、休業日を除き引き続き七日間出席せずその他の出席状況が良好でない場合においては、すみやかにその旨を市町村教育委員会に通知するとともに、その保護者に対して、児童生徒を出席させるよう督促し、不就学または長期欠席とならぬようにすること。(学校教育法(以下「法」という。)第九一条および施行令第二〇条、第二一条ならびに昭和二八年一一月七日文総審第一一八号文部事務次官通達「学校教育法施行令の制定について」参照のこと。」)

c 経済的援助

学校は、家庭の経済的困窮によつて、不就学または長期欠席の状態にある者およびそれらのおそれある者に対して、下記の必要な援助がなされるよう努めること。

(イ) 教育扶助および医療扶助

学校は、経済的困窮の理由で不就学または長期欠席の状態にある者およびそれらのおそれのある者については、その実情を調査し、生活保護法による保護(生活扶助、教育扶助、医療扶助等)を必要とする状態にあると思料される場合には保護者に進んで保護の申請をするように指導するとともに、保護の実施機関に対してはこれらの児童生徒に適切な保護がなされるよう連絡および協力をすること。
 また、校長が生活保護法に基く教育扶助のための保護金品を受けたときは、昭和二九年八月二四日社発第六五九号厚生省社会局長通知により児童生徒のため最も有効かつ適正に使用すること。
 なお、これらのことについては、昭和二九年一〇月七日文管学第五八二号文部省初等中等教育局長、同管理局長通達参照のこと。

(ロ) 教育費負担の軽減

 学校は、不就学または長期欠席の状態にある者のうち、経済的困窮による者に対しては、教育委員会その他の関係機関と連絡して、学校給食費学級費、PTA会費等の免除および学用品等の無料給付など教育費の負担軽減について措置すること。
 なお、篤志家、縁故者、PTA、児童委員、市町村社会福祉協議会その他の団体等による援助が見込まれる場合には、その実現に努力すること。

d 就労および福祉についての配慮

(イ) 学校は、労働基準法および学校教育法の精神にのつとり児童生徒が労働基準法に定める基準外の労働に従事したり労働によつて就学が妨げられたりすることのないように特に注意すること。
 なお、児童生徒が労働基準法に定める基準内で就労することがやむをえない場合においては、必ず校長の証明を得る手続をするように指導すること。(法第一六条、第九〇条および労働基準法第五六条、第五七条、第六〇条参照のこと。)

(ロ) 学校は、不就学または長期欠席児童生徒で不当雇用慣行の状態にあつたりまたはそのおそれある者を発見した場合は、すみやかに、これを婦人少年室、児童相談所、福祉事務所等に連絡し、適切な保護がなされるよう配慮すること。

(ハ) 学校は、保護者のいなくなつた児童生徒または保護者に監護させることが不適当であると認めた児童生徒を発見した場合は、これを福祉事務所または児童相談所に通告し、適切な保護がなされるように配慮すること。(児童福祉法第二五条参照のこと。)

e 児童委員等への協力要請

 学校は、以上の措置を講ずるにあたつては、当該学校を所管する教育委員会に連絡して必要な指導および援助を受けるとともに、つとめて関係機関特に児童委員、児童福祉司、婦人少年室協助員等に連絡して、その協力を得ること。

B 市町村教育委員会における措置

a 学校に対する指導、援助

 市町村教育委員会は、不就学および長期欠席の児童生徒に対し、学校の行う措置が有効適切に実施されるよう、じゆうぶん指導および援助を行うこと。

b 早期発見と救済措置

(イ) 市町村教育委員会は市町村長、学校、保護者その他の協力を得て、学齢簿の正確な編成、盲者、ろう者にかかる学齢簿の謄本の送付および必要な加条訂正など学齢簿に関する事務ならびに入学期日等の通知等、学校の指定、区域外就学、就学猶予および免除等についての手続を怠りなくかつ誤りなく処理し、入学もれのないようにすること。(法第二三条、施行令第一条から第一八条までおよび施行規則第三〇条、第三一条、第四二条、第四三条参照のこと。)

(ロ) 市町村教育委員会は、学校その他関係機関と連絡して適時必要な調査を行い、不就学および長期欠席児童生徒のおそれのある児童生徒の早期発見に努めるとともに、その状況および原因を明らかにして有効適切な救済対策をたて、その実施に努力すること。
 この場合、学齢簿に記載もれになつている者や地域的にまとまつて不就学や長期欠席の状態にある児童生徒について、特に留意すること。

(ハ) 市町村教育委員会は、出席が良好でない児童生徒について、校長から通知があつたときおよびその市町村に住所を有する児童生徒の保護者が、その子女を就学させる義務を怠つていると認められるときは、保護者に対して、子女出席を督促するとともに、その原因を明らかにし、そのつど救済のための具体的措置を講ずること。

c 経済的援助

(イ) 市町村教育委員会は、学校教育法第二五条の規定の趣旨によつて、積極的に就学奨励のための援助策をたて、これに必要な経費についての予算措置をし、その実施に努めること。(参考資料Iを参照のこと。)

(ロ) 市町村教育委員会は生活保護法にもとづく生活保護(生活扶助、教育扶助、医療扶助等)の制度について一般に周知させるとともに、これらの援助が適切に行われるよう関係機関や関係団体に対して連絡および協力すること。

C 都道府県教育委員会における措置(省略)

(2) 児童福祉関係機関

A 児童委員における措置

a 調査の励行

 児童委員は、担当区域内の学校と連絡を密にし、児童生徒の出欠席の実情をは握し、不就学および長期欠席児童生徒またはそのおそれのある児童生徒の早期発見につとめるとともに、家庭訪問による調査を行つて、その原因を明らかにすること。

b 通告の励行

 児童委員は、不就学および長期欠席児童のうち保護者のいない児童生徒または保護者に監護させることが不適当であると認める児童生徒については、これを福祉事務所、児童相談所に必ず通告し、適切な保護がなされるよう配慮すること。

c 保護指導

(イ) 児童委員は、不就学および長期欠席の原因が家庭の事情にある場合は、学校と密接な連絡をとるとともに、福祉事務所の協力または児童委員協議会における関係機関との協議によつて、家庭に対し適切な措置をとるとともに、その児童生徒の保護、指導の方法を講ずること。

(ロ) その原因が本人にある場合は、学校、児童相談所、福祉事務所、保健所と連絡し、これらの原因除去につとめ、積極的に教師、友人等の協力および子供会、母親クラブ等による育成、指導を活用すること。

(ハ) 不就学および長期欠席児童生徒のうち不当雇用慣行の状態にある者およびそのおそれのある者を発見した場合は、児童相談所、福祉事務所に労働保護を要するものについては労働基準監督署、婦人少年室に連絡し、適切な保護がなされるよう配慮すること。

B 児童相談所、福祉事務所における措置

児童相談所、福祉事務所は、常に児童委員と連絡を密にし、不就学および長期欠席児童生徒の早期発見につとめるとともに、要保護児童の保護指導に対し、すみやかに適切な措置を講ずること。

(3) 生活保護実施機関

 生活保護法による保護の実施機関は、学校との連絡を一段と密にし、不就学または長期欠席の児童生徒がある場合には、すみやかに昭和二五年六月二九日社乙発第一一三号「生活保護法による教育扶助の適用について」等の関係通知の示すところによつて適切な措置を講ずること。

(4) 労働関係機関

 義務教育を受ける年齢の児童生徒が、しばしば労働のために就学が妨げられている場合がみられるが、義務教育の重要性にかんがみ、労働基準監督機関および婦人少年室は、次の諸点に留意の上かかる事例の発生を防止し、保護の万全を期すること。

a 就労の許可

 児童、生徒が労働基準法に定める基準内で就労することがやむをえない場合には、必ず所定の手続をへた上で就労させ、いやしくも許可を受けないで就労させることのないよう指導すること。

b 監督

 労働基準監督機関が通常監督を行う場合は、もちろん教育関係機関から不就学または長期欠席児童生徒の使用関係について連絡をうけた場合は、その就業状況の実態を調査し、使用者に対してはすみやかに適法に使用すべきことを指導勧告すること。
 なお、この場合、注意をうけたことによつて解雇され、児童生徒の就学または生活が困難になる結果におちいらないようじゆうぶん配慮し、使用者の理解と納得を得て問題の解決を図ること。

c 関係諸機関への連絡

 監督の結果保護救済を必要とする児童生徒については、教育機関児童福祉機関等関係機関に連絡し情報を提供して保護救済に便宜をあたえる等その目的達成に協力すること。

d 年少労働保護の徹底

 労働基準監督機関および婦人少年室は、相互に緊密な連絡を保ちまた関係機関に協力して、労働基準法による年少労働保護特に使用許可の手続、労働条件、就労業務等の周知徹底を図るための措置を行うこと。



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