● 学校保健法および同法施行令等の施行について 昭和33年6月16日 文体保第54号
文体保第五四号 昭和三三年六月一六日
各国公私立大学長・各都道府県教育委員会・各都道府県知事あて
文部事務次官通達
学校保健法および同法施行令等の施行について
学校保健法(昭和三三年法律第五六号。以下「法」という。)は、本年四月一〇日に公布され一部の規定を除いてさる六月一日から施行されました。
また学校保健法施行令(昭和三三年政令第一七四号。以下「令」という。)はさる六月一〇日に公布、学校保健法施行規則(昭和三三年文部省令第一八号。以下「規則」という。)も六月一三日に公布され、それぞれ一部の規定を除いて公布の日から施行されました。
従来学校における保健管理制度全般にわたる統一的立法はなかつたのでありますが、法は、制度の全般にわたり必要な基本的な事項を総合的に規定いたしたものであり、今後学校における保健管理に関しては、法、令および規則に基いて実施されることとなるものであります。
ついては、下記事項に御留意の上、法の適格な運営を図るようお願いします。
なお、都道府県の教育委員会においては管下各市町村当局に対して、都道府県知事においては所管の各私立学校に対してこの旨を周知徹底されるようお願いします。
記
一 法制定の趣旨
法は、児童、生徒、学生および幼児ならびに職員の健康の保持増進を図り、学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資するため、健康診断、健康相談、伝染病の予防その他学校における保健管理に関し必要な事項を定めたものであること(法第一条)。
なお、法において「学校」とは、学校教育法(昭和二二年法律第二六号)第一条に規定する学校をいうものであること。
二 学校保健計画
学校においては、児童、生徒、学生または幼児ならびに職員の健康診断その他その保健に関する事項について、法、令および規則の規定に従いながらその地域その学校の実情に応じた具体的な実施計画を立て、これを実施しなければならないものであること(法第二条)。
三 学校環境衛生
学校においては、換気、採光、照明および保温を適切に行い、清潔を保つ等日常学校内の環境衛生の維持に努め、必要に応じてその改善を図らなければならないものであること(法第三条)。
四 就学時の健康診断
市(特別区を含む。以下同じ。)町村の教育委員会は、学校教育法施行令(昭和二八年政令第三四〇号)第二条の規定により学齢簿が作成された後同令第五条第一項の規定により入学期日の通知が行われるまでの間に、当該市町村の区域内に住所を有する就学予定者について就学時の健康診断を行い、その結果に基き、入学までに必要な治療の勧告をし、保健上必要な助言を行い、および就学義務の猶予もしくは免除または盲学校、聾学校もしくは養護学校への就学に関し指導を行うなど適切な事後措置をとらなければならないものであること(法第四条および第五条、令第一条から第四条まで、規則第一条および第二条)。
五 児童、生徒、学生および幼児の健康診断
児童、生徒、学生および幼児の健康診断は、従前の学校身体検査に代るものであるが、従来の身体検査がやや形式に流れていたので、学校においては、毎学年、定期に健康診断を行わなければならないことおよび必要があるときは臨時に健康診断を行うものとし、検査の項目、健康診断の方法および技術的基準などを規則において整備することとし、また、学校においては、これらの健康診断の結果に基き、疾病の予防処置を行い、または治療を指示し、ならびに運動および作業を軽減するなど適切な事後措置をとらなければならないこととし、この事後措置についても規則においてその基準を整備したものであること(法第六条および第七条、規則第三条から第八条まで。)。
六 職員の健康診断
学校の職員の健康診断は、学校の設置者が行わなければならないたてまえとし、また市町村立の義務教育諸学校の校長および教員の結核に関する定期の健康診断については、特に都道府県の教育委員会において統一的に行わなければならないこととし、これらの健康診断の検査の項目、健康診断の方法および技術的基準ならびに健康診断の結果に基く事後措置の基準などを規則において整備したものであること(法第八条および第九条、規則第九条から第一八条まで)。
なお、法において「職員」とは、学校の校長、教員、事務職員、技術職員、助手およびその他の学校に置かれる職員をいうものであること。
また、法第八条第一項および第三項ならびに第九条第一項において「学校の設置者」とは、学校教育法第二条第一項および第一〇二条第一項の規定による学校の設置主体をいうが、具体的な事務の処理については、それぞれの管理機関が行うものである。したがつて法において学校の設置者が行うというときは、国立学校にあつては文部大臣、公立大学にあつては当該地方公共団体の長、大学以外の公立学校にあつては当該地方公共団体の教育委員会、私立学校にあつては当該学校法人の理事長(私立の盲学校、聾学校、養護学校または幼稚園で学校法人によつて設置されないものにあつては、当該学校の設置者たる財団法人の理事長または私人など)であること。このことは、法第一三条、第二〇条および第二一条において学校の設置者という場合も同様であること。
七 健康相談
学校においては、児童、生徒、学生または幼児の健康に関し、健康相談を行うものとされたこと。
健康相談は、健康診断とちがつて健康に異常があると思われる者等の個々の者について行われるものであること(法第一一条)。
八 伝染病の予防
法は、伝染病予防法(明治三〇年法律第三六号)その他伝染病の予防に関して規定する一般公衆衛生法規に規定のない事項について、学校における伝染病の予防に関し必要な事項を定めたものであり、伝染病による出席停止のこと、臨時休業のことおよび省令への委任のことを規定しているものであること。
伝染病による児童、生徒、学生または幼児の出席の停止については急施を要するので校長が行うこととし、伝染病予防上必要があるときの学校の臨時休業については単に個々の学校の臨時休業だけでは効果を期待できないことが多いことおよび学校の全部または一部の授業を休止することでもあるので、学校の設置者が行うこととしたものであること(法第一二条から第一四条まで、令第五条および第六条、規則第一九条から第二二条まで)。
九 学校保健技師
都道府県の教育委員会の事務局に、学校保健技師を置くものとしたこと。すなわち、学校における保健管理の問題は、専門的事項について学識経験がある者が必要であるので少くとも都道府県の教育委員会の事務局にこの種の専門職を置くものとしたものであること(法第一五条)。
学校保健技師は、医師、歯科医師または薬剤師の資格を有する者であることが適当であり、一人を置く場合は、医師の資格を有する者であることが望ましいこと。
十 学校医、学校歯科医および学校薬剤師
学校医、学校歯科医および学校薬剤師(以下「学校医等」という。)は従前省令(学校教育法施行規則第一二条の二)で規定されていたが、これらの学校医等の設置は法律で規定するのが適当であるので、法においてはそれらの設置のことを規定し、また学校医等の職務執行の準則を規則において明確にしたものであること(法第一六条、規則第二三条から第二五条まで)。
十一 地方公共団体の援助および国の補助
(一) 要保護および準要保護の児童生徒医療費についての地方公共団体の援助
地方公共団体は、その設置する義務教育諸学校の児童または生徒が、伝染性または学習に支障を生ずるおそれのある疾病で政令で定めるものにかかり、学校において治療の指示を受けたときは、当該児童または生徒の保護者で要保護者または準要保護者に該当するものに対して、その疾病の治療のための医療に要する費用について必要な援助を行うものとしたこと(法第一七条、令第七条および第八条)。
この疾病は、令第七条で定められているとおりであり、いわゆる学校病ともいわれるものであること。
(二) 要保護および準要保護の児童生徒医療費についての国の補助
国は、(一)の地方公共団体の援助に要する経費の一部を補助することができるものであること。この国の補助は、小学校および中学校または特殊教育諸学校(盲学校、聾学校および養護学校の小学部および中学部をいう。)の別ならびに要保護者または準要保護者の別により、文部大臣が毎年度定める児童および生徒の一人一疾病当りの医療費の平均額に、一定の算式により都道府県または市町村に配分した児童および生徒の被患者の延数をそれぞれ乗じて得た額の二分の一を限度として、地方公共団体の援助に要する経費の二分の一について行うものであること(法第一八条第一項および第三項、令第九条第一項から第三項まで、規則第二六条から第二八条まで、第二九条第一項および第三〇条第一項)。
(三) 教員結核健康診断費補助
国は、都道府県に対し、公立の義務教育諸学校の校長および教員の結核に関する定期の健康診断に要する経費の一部を補助することができるものであること(法第一八条第二項および第三項、令第九条第四項、規則第二九条第二項および第三〇条第二項)。
一二 雑則事項
(一) 保健室
学校には、法に規定された健康診断および健康相談、救急措置等を行うため、保健室を設けるものとしたこと(法第一九条)。
(二) 保健所との連絡
学校の設置者は、法の規定による健康診断を行おうとする場合および法の規定による出席停止が行われ、または臨時休業が行われたときにおいては、保健所と連絡するものとしたこと。これは、健康診断を行う場合結核の有無の検査についてはエックス線検査、ツベルクリン反応陰性者等に対する予防接種等に関し保健所の協力を必要とする場合が多く、また伝染病によつて出席停止や臨時休業を行つた場合も保健所における一般公衆衛生活動との連絡が必要であるからであること(法第二〇条、令第一〇条)。
(三) 学校の設置者の事務の委任
法においては、たてまえとして学校の設置者が行うとされた事務があるが、公立大学に関しては地方自治法(昭和二二年法律第六七号)に、大学以外の公立学校に関しては地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三一年法律第一六二号)にそれぞれ事務の委任の規定があるので、これらの学校に関してはそれらの法律の特別の定めによることとし、その他の国立または私立の学校については、校長に委任することができるとしたものであること(法第二一条)。
一三 附則関係事項
(一) 学校薬剤師の設置の特例
学校薬剤師は、法第一六条第二項の規定にかかわらず、昭和三六年三月三一日までの間は、置かないことができるものとされたこと(法附則第二項)。
しかし、法の本則において学校薬剤師を必置制とした趣旨にかんがみ、この約三年間の猶予期間をまたずに、できるだけすみやかに各学校に学校薬剤師を置くことが適当であること。
(二) 学校教育法第一二条の改正
学校教育法第一二条は、全文改正され、同法が基本法であり、法はいわば同法の特別法として別に定められたものであることを明らかにしたこと(法附則第三項)。
(三) 結核予防法第四条第四項の改正
従前の結核予防法(昭和二六年法律第九六号)第四条第四項では、結核予防法以外の法令による健康診断を結核予防法第四条第一項の規定により健康診断の実施義務を有する使用者、学校長又は施設の長が行つた場合においてのみその実施義務を免除していたのであるが、今回の改正により、その対象者に対して健康診断が行われれば、学校長等の実施義務者以外の者が行つた場合においても学校長等の実施義務者が行つたものとみなしてその実施義務を免除することとしたのであつて、都道府県の教育委員会が市町村立の義務教育諸学校の校長および教員に対して結核に関する定期の健康診断を行つた場合においても、健康診断の実施義務者が健康診断を行つたものとみなされ、結核予防法においてさらにかさねて健康診断を行う必要がないものとしたものであること(法附則第四項)。
(四) 保健主事
規則附則第五項において学校教育法施行規則(昭和二二年文部省令第一一号)の一部を改正し、大学および幼稚園以外の学校に、特別の事情がある場合を除き、保健主事を置くものとし、その職務内容等を規定したこと(改正後の学校教育法施行規則第二二条の三、第五六条、第六五条および第七三条の九)。
保健主事は、学校における保健管理運営上の観点から、校長の監督を受け、学校における保健に関する事項の管理に当るものとして、小規模の学校であるなどの特別の事情がある場合を除き、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校および養護学校に置くこととしたものであること。
この保健主事は、教頭、定時制課程の主事などと同様に、学校の内部組織として置かれるものであつて、教諭をもつてあてることになつていること。なお、公立学校の保健主事にあつては、当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会(特別区にあつては、都の教育委員会)が命ずるものであること。
(五) 関係法令の改廃
法令および規則の施行にともなつて、関係法令に所要の改行を行い、または従前の法令を廃止したこと。
一四 通達の廃止
次に掲げる通達は、廃止すること。
(1) 昭和二九年一月一九日付文初保第九四二号初等中等教育局長通達「保健室の設備並びに学校医及び学校歯科医の職務等について」
(2) 昭和二九年七月一四日付文初保第四一五号初等中等教育局長通達「学校教育法施行規則の一部を改正する省令の制定について」(学校薬剤師の設置関係)
(3) 昭和三一年四月一四日付文初保第二〇〇号初等中等教育局長通達「学校身体検査の実施の徹底について」
(4) 昭和三一年一〇月一九日付文初保第四七一号初等中等教育局長・大学学術局長通達「学校身体検査における結核の健康診断の事後指導について」
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