● 義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律等の施行について 昭和39年2月14日 文初教第95号
文初教第九五号 昭和三九年二月一四日
各都道府県知事・各都道府県教育委員会・義務教育諸学校を附置する各国立大学長あて
文部事務次官通達
義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律等の施行について
このたび義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(以下「法」という。)、同法施行令(以下「令」という。)および同法施行規則が制定され、義務教育諸学校の教科用図書の無償制度が、ここに恒久的な制度として実施されることとなりました。
義務教育諸学校の教科用図書の無償措置については、さきに制定された「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和三七年法律第六〇号)により、憲法の義務教育無償の原則に即応しその理想をより広く実現するため、義務教育諸学校の教科用図書は無償とするとの方針を宣明するとともに、すでに昭和三八年度は、政令により小学校等の第一学年の児童に対し教科用図書の無償給与を行なつたところであります。
今回制定された法律等は、教科用図書の無償給付、給与等この無償措置の恒久的実施に必要な事項を定めるとともに、この措置を円滑に実施するため、義務教育教科書の採択について広地域の共同採択の方式を明確にして採択制度の整備を行なうとともに、義務教育教科書の発行者について指定制度を設け、発行制度の整備を行ない、もつて義務教育の充実をはかろうとするものであります。
この法律等の概要および留意すべき事項は下記のとおりでありますが、関係者においては、教科用図書無償制度の円滑な実施について遺憾のないよう格段の努力をお願いします。
なお、管下の市町村教育委員会、学校法人の理事長等に対し、この趣旨の徹底につき格別の御配慮を願います。
記
I 総則に関する事項
この法律は、義務教育諸学校(学校教育法に規定する小学校、中学校ならびに盲学校、聾学校および養護学校の小学部および中学部をいう。以下同じ。)の教科用図書を無償とする措置について必要な事項を定めるとともに、この措置の円滑な実施に資するため、義務教育諸学校の教科用図書の採択および発行の制度を整備したものであること。
II 無償給付および給与に関する事項
1 教科用図書の無償措置
義務教育諸学校の教科用図書の無償措置は、国が全額国庫負担で教科用図書を購入し、設置者に無償で給付し、給付を受けた設置者が児童生徒に給与することとし、国と設置者とが協力して無償措置を円滑に実施しようとするものであること。
2 教科用図書の無償給付
(1) 国は毎年度、義務教育諸学校の児童および生徒が各学年の課程において使用する教科用図書で法第一三条から第一六条までの規定により採択されたものを一括購入し、公立および私立の義務教育諸学校の設置者に無償で給付すること。(法第三条)
(2) 無償に要する経費は、国が負担し、義務教育無償の趣旨を実現するとともに、国が購入する教科用図書は、この法律の規定による採択の方式により採択されたものに限ることとし、無償措置とその円滑な実施のため整備された採択制度との関連をこれによつて明らかにしていること。
3 教科用図書の給与
(1) 公立および私立の義務教育諸学校の児童生徒に対する給与
公立および私立の義務教育諸学校の設置者は、国から無償で給付された教科用図書を、当該学校の校長を通じて児童または生徒に給与するものとすること。(法第五条第一項)
(2) 国立の義務教育諸学校の児童生徒に対する給与
国立の義務教育諸学校の児童または生徒に係る教科用図書は、国が一括購入し、当該学校の校長を通じて児童または生徒に給与するものとすること。(法第三条、法第五条第二項)
(3) 転学児童生徒に対する給与
学校の中途において転学した児童または生徒については、転学後において使用する教科用図書は、文部省令で定める場合を除き給与しないものであること。(法第五条第三項)
文部省令で定める場合は二月末日までの間に転学した児童・生徒について種目ごとに転学後において使用する教科用図書が転学前に給与を受けた教科用図書と異なる場合とすること。(規則第一条)
(4) 給与は、この制度の趣旨にかんがみ、これをじゆうぶん徹底させるよう、入学式または始業式の当日等において、校長がこの趣旨を説明して直接支給することが適切であること。
4 給与の対象となる児童生徒および教科用図書
(1) 給与の対象となる児童生徒の範囲
給与の対象となる児童および生徒の範囲は、国立・公立および私立の義務教育諸学校の全児童生徒とすること。(法第三条)ただし、その範囲は当分の間政令で定めることとし、昭和三九年度は小学校(盲学校、聾学校および養護学校の小学部を含む。以下同じ。)第三学年までの児童であること。(法附則第四項、令附則第四項)
(2) 給与の対象となる教科用図書
給与の対象となる教科用図書は、学校教育法第二一条第一項(同法第四〇条および第七六条において準用する場合を含む。)に規定する文部大臣の検定を経た教科用図書もしくは文部大臣が著作権を有する教科用図書または学校教育法第一〇七条に規定する教科用図書で法第一三条から第一六条までの規定により採択されたものとすること。
5 購入契約
(1) 契約の締結
文部大臣は、教科用図書の発行者と法第三条の規定により購入すべき教科用図書を購入する旨の契約を締結すること。(法第四条)
(2) 契約に係る給付の完了の確認の時期の特例
前項の契約に係る発行者の給付の完了の確認の時期について政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和二四年法律第二五六号)の特例を設けたこと。(法第七条)
6 無償給付給与の事務処理
(1) 実施機関の事務
(イ) 契約に係る教科用図書の受領および給付の事務は、公立の義務教育諸学校については所管の教育委員会、私立の義務教育諸学校については学校法人の理事長、国立の義務教育諸学校についてはその学校を付置する大学の学長(以下「実施機関」という。)をして行なわせること。(令第一条第一項)
(ロ) 実施機関は、発行者から教科用図書を受領したときは、受領報告書、受領証明書等の書類を作成し、受領報告書は都道府県の教育委員会に、受領証明書は発行者にそれぞれ提出又は交付しなければならないこと。(令第二条)
(ハ) 実施機関は、受領した教科用図書を直ちに設置者に給付すること。(令第一条第二項)
(2) 都道府県教育委員会の事務
都道府県の教育委員会は、実施機関より提出のあつた受領報告書の集計を行なうとともに、発行者の作成した納入冊数集計表との照合確認ならびに受領冊数集計報告書の作成、給与児童生徒数の文部大臣への報告等の事務を行なうこと。(法第六条、令第四条、令第五条第二項)
(3) 義務教育諸学校の設置者等の事務
公立および私立の義務教育諸学校の設置者および国立の義務教育諸学校を付置する大学の学長は、実施機関から給付を受けた教科用図書を校長を通じて児童生徒に給与するとともに、給与が完了したときは、給与を受けた児童生徒の名簿を作成し、その総数を都道府県の教育委員会に報告すること。(法第五条第一項、令第五条)
7 都に関する特例
無償給付、給与に関する規定の適用については、特別区の設置する義務教育諸学校については、都が設置者としての事務を行なうとともに、都の教育委員会が実施機関としての事務を処理すること。(法第八条、令第七条)
8 調査および報告
文部大臣は、教科用図書の無償給付、給与に関しその実施の状況を調査し、および公立又は私立の義務教育諸学校の設置者に対し必要な報告を求めることができるとともに、都道府県の教育委員会に対し、これらの調査を行なわせ、又は設置者から必要な報告を求めさせることができること。(法第六条、令第六条)
III 採択に関する事項
1 採択制度の整備
義務教育諸学校で使用される教科用図書の採択については、無償措置を円滑に実施するため、従来実施してきた方式を基礎として、採択の方式、採択の期間等について新たに規定を設け、採択制度の整備を行なつたものであること。
2 都道府県の教育委員会の任務
都道府県の教育委員会は、当該都道府県の義務教育諸学校において使用する教科用図書の採択の適正な実施を図るため、教科用図書の研究について計画し、実施するとともに市町村の教育委員会ならびに国立および私立の義務教育諸学校の校長の行なう採択に関する事務について適切な指導、助言または援助を行なうべき任務を有すること。(法第一〇条)
3 教科用図書選定審議会
(1) 性格および設置
選定審議会は、都道府県の教育委員会の諮問機関として、毎年度四月一日から八月一五日までの間、都道府県に置くものであること。(法第一一条第二項、令第八条)
(2) 所掌事務
選定審議会は、都道府県の教育委員会の諮問に応じ採択基準の作成、選定に必要な資料の作成等都道府県教育委員会の行なう指導、助言、援助に関する重要事項および都道府県立の義務教育諸学校の教科用図書の採択に関する事項を調査審議し、ならびにこれらについて建議すること。(法第一一条第一項、第一三条第二項、令第九条)
(3) 委員
(イ) 委員の数は、二〇人以内で条例で定めること。(法第一一条第三項)
(ロ) 委員は、教育職員、教育行政機関の職員および学識経験者のうちから都道府県の教育委員会が任命すること。ただし、教育職員の数は定数の三分の一程度とすること。(令第一〇条第一項)
(ハ) 審議の公正を期するため、採択に直接の利害関係を有する者は委員となることができないこと。(令第一〇条第二項)
(4) 調査員
選定審議会には、その任務が十分に果たされるようにするため、教科用図書の専門的な調査研究を行なわせるに必要な調査員を置くものとすること。
(5) 教育委員会規則への委任
調査員の設置その他選定審議会の組織および運営について必要な事項は、都道府県の教育委員会規則で定めること。(令第一一条)
4 採択地区
(1) 都道府県の教育委員会は、当該都道府県の区域について、市、郡またはこれらをあわせた地域に採択地区を設定すること。(法第一二条第一項)
(2) 採択地区は、その地域の教育水準、自然的、経済的、文化的諸条件等を考慮して設定するものとし、当該地域内の市町村立の小・中学校においては同一の教科用図書を使用するのが適当と認められる地域であること。
(3) 採択地区の設定、変更にあたつては、関係市町村の教育委員会の意見をきかなければならないこと。(法第一二条第二項)
(4) 採択地区の設定、変更をしたときはすみやかに告示するとともに文部大臣にその旨報告すること。(法第一二条第三項)
5 教科用図書の採択に関する事項
(1) 義務教育諸学校において使用する教科用図書について、それぞれの採択権者が行なう採択は、都道府県の教育委員会の指導、助言または援助により(都道府県立の義務教育諸学校の教科用図書については選定審議会の意見をきいて)教科用図書の種目ごとに一種について行なうものとすること。したがつて、市町村の教育委員会等は都道府県の教育委員会の指導、助言、援助をまつて採択を行なわなければならないものであること。(法第一三条第一項)
(2) 採択地区内に二以上の市町村が存する場合は、その地区内の市町村立の小学校および中学校において使用する教科用図書については、構成市町村の教育委員会は協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならないこと。(法第一三条第三項)
(3) 採択は、学校教育法第一〇七条に規定する教科用図書を除き、教科書目録に登載されたもののうちから行なわなければならないこと。(法第一三条第四項)
6 同一教科用図書を採択する期間
(1) 義務教育諸学校において使用する教科用図書については、学校教育法第一〇七条に規定する教科用図書を除き、三年間は種目ごとに同一の教科用図書を採択するものとすること。(法第一四条、令第一四条第一項)
(2) (1)の三年の期間内において教科用図書の発行が行なわれなくなつた場合その他文部省令で定める特別な場合における新たな教科用図書の採択期間は、三年から文部省令で定める期間を控除した期間とし、すべての教科用図書についての採択換えの時期は、一律に三年ごとに行なわれるよう措置すること。(令第一四条第二項、規則第六条)
7 教科用図書の採択の時期
翌年度使用する教科用図書の採択は、原則として前年度の八月一五日までに行なうこと。(令第一三条第一項)
8 特別区および指定都市に関する特例
特別区および指定都市については、その特殊性にかんがみ、特別区の区域またはこれらの区域をあわせた地域に、指定都市の区の区域またはこれらの区域をあわせた地域にそれぞれ採択地区を設定すること。(法第一五条第一項、第一六条第一項)
IV 発行に関する事項
1 発行者の指定
(1) 教科用図書の無償措置を円滑に実施するため、義務教育諸学校において使用する教科用図書を発行する者について指定制度を設けることとしたこと。
(2) 指定制度の内容は、破産者であることなど一定の欠格条件に該当しないこと、事業能力、信用状態について政令で定める要件を備えたものであることなどの一定の基準に該当するものを、教科用図書発行者として文部大臣が指定することとし、指定の基準に適合しなくなつたとき等は指定を取り消さなければならないこと。指定基準に適合しているかどうか調査するため文部大臣は発行者に対し、報告を求め、または資料の提出を求めることができることとし、この違反には罰則の適用があること。(法第一八条から第二〇条まで、第二三条、第二四条)
2 発行者の指定と教科書の発行に関する臨時措置法との関係
指定を取り消した発行者については、教科書の発行に関する臨時措置法の規定による発行の指示を取り消すこととするとともに、指定を受けた発行者の届け出に基づく教科用図書のみが同法に規定する教科書目録に登載されることとなる等発行者の指定と上記法律との関係を明らかにしたこと。(法第二一条、第二二条、附則第五項、第六項)
V 施行期日
この法律は、公布の日から施行するが、採択に関する規定は、小学校で使用される教科用図書については昭和三九年三月三一日まで、中学校において使用される教科用図書については昭和四〇年三月三一日までは適用しないものであること。(法附則第一項)
VI 関係法令の整備
1 教科書の発行に関する臨時措置法の一部改正
教科用図書の発行者に指定制度を設けたことに伴い、文部大臣の作成する目録のうち義務教育諸学校の教科用図書にかかるものについては、法第一八条第一項に規定する教科用図書発行者の指定を受けたものの届け出に基づくものに限り登載できることとし、発行と採択との関係を明らかにしたほか、関係規定の改正を行なつたこと。(法附則第五項、第六項)
2 盲学校、聾学校及び養護学校への就学奨励に関する法律および就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律の一部改正
義務教育諸学校の児童および生徒に対する教科用図書の給与は、今後この法律の規定によって行なわれることとなるので、上記法律等による教科用図書の給与は行なわないこととするとともに、この法律による無償措置が義務教育諸学校の全児童および生徒に及ぶまでの間の経過措置を定める等関係規定を整備したこと。(法附則第九項から第一二項まで)
VII 財政措置
無償とする教科用図書の購入費については全額国庫負担において措置しているが、無償措置の実施に必要な事務費については、各都道府県等において所要の予算措置を講ぜられたいこと。
なお、都道府県および市町村の事務費については地方交付税のうちに必要な経費が見込まれるものであること。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会