● 地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三八条の市町村教育委員会の内申がない場合の都道府県教育委員会の任命権の行使について 昭和49年10月4日 文初地第434号



文初地第四三四号 昭和四九年一〇月四日
各都道府県教育委員会教育長あて
文部省初等中等教育局長通達


    地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三八条の市町村教育委員会の
    内申がない場合の都道府県教育委員会の任命権の行使について


 最近、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三八条第一項の市町村教育委員会の内申がない場合の都道府県教育委員会の任命権の行使について一部の地域において問題を生じておりますが、このことについては下記のとおり解されますので、事務処理に遺憾のないようにしてください。

           記

(問) 県費負担教職員の任免その他の進退については、都道府県教育委員会は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三八条第一項に規定するとおり、市町村教育委員会の内申をまつて行うべきものであるが、都道府県教育委員会が市町村教育委員会に対し具体的な進退について一定の期限を定めて内申を求め、行政上取り得る最大限の努力をしたにもかかわらず、市町村教育委員会が内申をしないときには、都道府県教育委員会は、市町村教育委員会の内申がなくても任命権を行使することができると解してよいか。

(答) 都道府県教育委員会は、市町村教育委員会に対し内申を求め、最大限の努力を払つたにもかかわらず、市町村教育委員会が内申をしないというような異常な場合には、次の理由により、市町村教育委員会の内申がなくても任命権を行使することができると解する。

(理由) 県費負担教職員の任免その他の進退については、都道府県教育委員会は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)第三八条第一項の規定により、市町村教育委員会の内申をまつて行うものとされている。この内申制度の趣旨は、県費負担教職員は、市町村の職員として、市町村の設置する学校において、市町村教育委員会の監督の下に職務を行つている者であるから、都道府県教育委員会が市町村教育委員会との協働関係を維持しつつその任命権を行使することが県費負担教職員の人事行政の適正かつ円滑な実施のため必要であるとするものであつて、市町村教育委員会に都道府県教育委員会の任命権の行使を抑制させようという趣旨のものではないと解される。
 のみならず、市町村教育委員会は、県費負担教職員の人事行政についての責任の一部を法律上分担しているのであるから、内申をすべき客観的な必要がある場合には内申をしなければならない義務を行政機関として有するというべきであり、市町村教育委員会が行政機関としての義務に反して内申をしないことにより都道府県教育委員会の任命権の行使が不可能となり、県費負担教職員の任命権を都道府県教育委員会に属せしめた制度が正常に機能を果たし得なくなる事態を地教行法自体が合理的なものとして容認していることは考えられない。
 また、都道府県教育委員会は、もとより市町村教育委員会の内申の内容を十分に尊重すべきであるが、同時に、県費負担教職員の人事行政を統一的に処理するという見地から、もともと市町村の職員である県費負担教職員の任命権をあえて都道府県教育委員会に属せしめたという制度の趣旨からすれば、必ずしも市町村教育委員会の内申の内容に拘束されるものではなく、都道府県教育委員会は自らの判断と責任において任命権を行使することができると解されてきたにもかかわらず、市町村教育委員会が内申をしない場合には、都道府県教育委員会は任命権を行使することができないと解すると、市町村教育委員会は、その意思を一方的に任命権者である都道府県教育委員会に押し付けることができることとなる。
 したがつて、いかなる場合においても内申がない限り任命権を行使することができないと解することは、両教育委員会の協働関係を前提としつつ県費負担教職員の人事行政を行うという内申制度の趣旨と矛盾することとなる。
 以上のことから、市町村教育委員会が内申をすべきであるにもかかわらず、なお内申をしないという場合に、県費負担教職員の任命制度が機能しなくなる結果になることを地教行法がやむを得ないとして認めていると解するより、特定の場合には、内申がなくても任命権を行使することができると解することがより合理的であるということができる。
 どのような場合に都道府県教育委員会が市町村教育委員会の内申がなくても任命権を行使することができるかについては、次のように解される。すなわち、通常の場合には、市町村教育委員会の内申をまたずに県費負担教職員の任免その他の進退を行うことができないことは「地教行法等の全面的施行について」(昭和三一年九月一〇日初等中等教育局長通達)で明らかにしているとおりである。
 しかしながら、都道府県教育委員会が、県費負担教職員の進退について具体的な内容を示し、一定の期限を定めて市町村教育委員会に対して内申を求め、その期限経過後も内申がない場合において、内申がなされない要因を探求し、重ねて内申がなされるよう督促する等最大限の努力を払つたにもかかわらず、なお市町村教育委員会が内申しないという異常な事態が起こつたときには、都道府県教育委員会は、市町村教育委員会の内申がなくても、任命権を行使することができるものと解される。




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