● 学校における業者テストの取扱い等について 昭和51年9月7日 文初職396
昭五一、九、七 文初職三九六
各都道府県教育委員会あて
文部省初等中等教育局長通達
学校における業者テストの取扱い等について
いわゆる業者テストの実情については、さきに貴委員会の協力を得て調査したところでありますが、それによると、その実施状況や指摘されている問題点は地域によって様々であるとみられます。貴委員会におかれては、今後更に管下の中学校における詳細な実態の把握に努めるとともに、下記の事項に留意の上、学校関係者の意見を十分聴取して、地域の実情に応じて適切な措置が講じられるよう御配慮願います。
なお、先般実施した業者テストに関する調査の結果を添付しましたので参考に供してください。
おって、学校における補助教材の取扱い等についても、昭和三九年三月七日付け文初初第一二七号初等中等教育局長通達の趣旨の徹底方併せて御配慮願います。
記
一 学習の評価は、学校の指導計画に基づき教師自らが適切に行うべきものであり、また、進路の選択に関する指導は、この評価とともに教師が行う観察、調査、相談等を通じて的確に把握した個々の生徒の能力・適性・進路希望等を基にして行うべきものであるので、安易に業者テストに依存することがあってはならないこと。
二 業者テストを授業時間中に行うことは、学校があらかじめ作成する指導計画に基づく教育活動に支障を来す等のおそれもあり、望ましくないものであること。
三 教師が金品等の報酬を得て業者テストの費用の徴収に携わる等の行為は、社会の疑惑を招くおそれがあるので自粛すること。
業者テストに関する調査結果
昭和五一年八月
職業教育課
〔はじめに〕
一 この調査は、中学校の教育活動に様々な問題を投げかけている業者テストについて、各都道府県ごとにその概況を把握するために行ったものである。
二 調査事項は、昭和五〇年度における業者テストへの各学校や生徒の参加状況やテストの結果得られる資料の利用状況及びこの問題についての各都道府県教育委員会のこれまでの指導や今後の対策等である。
三 設問は、アンケート方式とし、大まかな傾向を知るためのものにとどめた。また、調査の回答も都道府県によって精粗様々であった。したがって、四七都道府県の回答を集計して得た数値からは、大体の傾向をうかがい知るにとどまる。
四 なお、この調査における用語の定義は、次のとおりである。
ア 業者テスト 業者の作成に係る中学生向けのテストでその採点処理を業者が行い、その結果の諸資料を各中学校や生徒に送付しているものをいう。したがって、教員が学校内の日常の指導に利用するいわゆる「テストブック」や「ドリルブック」の類は含まれない。教員の研究団体等がこのようなテストを行っている場合には、それも業者テストの中に含まれる。ただし、都道府県又は市町村の教育委員会やその所管する教育センター等の公的機関の行うテストは除外される。また、通信によるものを除く。
イ 校内テスト 中学校の正規の授業時間中に行われる業者テストをいう。
ウ 自校会場テスト 各中学校を会場として当該学校の生徒のみが正規の授業時間外に受ける業者テストをいう。
エ 校外会場テスト 校内テスト及び自校会場テスト以外の業者テストをいう。
T 業者テストの実施状況
(業者)
一 各都道府県には一〜四の業者がある。業者の中には、一都道府県内にとどまらず、数都道府県にわたって事業を行っているものもある。業者の数は全国で八〇程度と見込まれる。
(テストの形態)
二 校内テスト、自校会場テスト及び校外会場テストのうちのいずれか、又は、二つ以上が各都道府県において行われており、いずれも行われていないという都道府県はない。とくに、校内テストについては、約六割の都道府県で県下の全域又は特定の地域で行われている。なお、校外会場テストのみ行われているというものが数県ある。
(参加回数)
三 第一学年及び第二学年の生徒については、年間平均一〜四回業者テストに参加しているが、全く参加していないとする都道府県もそれぞれ二〜三割ある。第三学年の生徒については、年間平均六〜一〇回参加しているとする都道府県が約半数を占め、一〜三回、四〜五回がこれについでいる。
(参加率)
四 業者テストに参加する時期は、第一学年及び第二学年については二月がとくに多く、第三学年については一一〜一月がとくに多い。このような時期には、第三学年についてみると、生徒の八割以上が参加しているとする都道府県が約八割を占める。第一学年及び第二学年については、第三学年に比べ参加率は低くなっている。
(受験教科)
五 生徒が受験する教科の数は、一般には殆どの都道府県において、各学年を通じ五教科(国語、社会、数学、理科、英語)であるが、三教科(国語、数学、英語)のところも若干あり、第三学年について九教科(前記五教科の外に、音楽、美術、保健体育、技術・家庭)のところもある。
(受験料)
六 業者テストを一回受けるのに要する費用は、五教科については全部で三〇〇円以上六〇〇円未満の業者が過半数を占め、六〇〇円以上九〇〇円未満、九〇〇円以上一二〇〇円未満がこれについでいる。
業者テストに要する費用は、テストの都度生徒から徴収されるとしている都道府県が多いが、校内テストや自校会場テストについては、毎月定期的に、又は、学期始めや学年始めにまとめて徴収されるとしているところもある。
(謝金等)
七 校内テスト、自校会場テスト及び校外会場テストについて、教職員がテストの監督を行った場合、教職員がテストの費用の徴収事務に当たった場合及び会場テストの会場に中学校を使用させた場合の三つの場合について、学校又は教職員に対して業者から謝金等(会場の使用料等を除く。)が支払われているかどうかについて、いずれの場合も「全く支払われていない模様である」とする都道府県が五〜七割程度あり、「一部で支払われている模様である」及び「多くの場合支払われている模様である」とする都道府県は三〜四割程度ある。
U 業者テストの結果得られる資料の利用状況
(偏差値)
一 テストの結果、作成する資料の一つとして偏差値を出している業者が県下にあるとする都道府県は七割を超えている。また、生徒個人に渡される資料にも偏差値を記入している業者のある都道府県は過半数を示している。なお、中学校へ送付する資料の一つとして、各高等学校別に偏差値による合否の水準の予想を行っている業者のある都道府県は約三割となっている。
(テスト結果の利用)
二 テストの結果得られる資料は、中学校において主に次のように利用されている。
(a) 高等学校進学の際志望校決定の資料とするなど進学指導の資料としている。
(b) 生徒の各教科についての習得状況の把握や教科指導の参考資料としている。
(c) 誤答率の多い問題の分析等により指導上の反省資料とし、教師の指導計画や指導法の改善に役立てている。
(d) 自校生徒と他校生徒の成績を比較する資料としている。
V 業者テストを利用していない学校の状況
一 業者テストを全く利用しない中学校が県下にあるとする都道府県は約三割である。しかし、このような県においても業者テストを全く利用しない中学校の数は極めて少ない。
二 周囲の殆どの中学校が業者テストを利用しているにもかかわらず、業者テストを利用していない主な理由は次のとおりである。
(a) 業者まかせの、偏差値で表わされた資料に基づく進学指導は教育的に問題がある。
(b) 学校の指導計画が業者テストによって左右されるおそれがある。
(c) 進学競争の一層の過熱化を招くおそれがある。
(d) 父母の経済的負担が大きい。
(e) 自校で作成するテストその他の資料の妥当性を高め、これらを累積すれば、業者テストに頼らなくても進学指導に支障をきたさない。
三 上記の学校においては、(a)必要に応じて自作の模擬テストを行い、過去の実績にも照らし合せて進学指導を行う(b)個別指導を徹底するとともに、父母との進学相談を充実する(c)進学先の高等学校との連携を密にするなど進学指導に工夫をこらしている。
W 業者テストに関する都道府県教育委員会等の指導等の概要
一 通達による指導を行った都道府県
東京都、大阪府及び埼玉県は次の通達を出している。(別添@AB 略)
(a) 東京都−昭和五一年五月一五日付け「学校における適正な進路指導について」
(b) 大阪府−昭和五一年六月二三日付け「学校における適正な進路指導について」
(c) 埼玉県−昭和五一年七月一四日付け「学校における進路指導の改善について」
二 都道府県教育委員会の通達以外の指導事項
都道府県教育委員会が、市町村の教育長会や校長会、進路指導担当教員の協議会等において、また指導主事の学校訪問等を通じて、指導してきた主なものは次のとおりである。(かっこ内の数字は都道府県の数である。以下同じ。)
(a) 平素の学習指導や評価を重視し、業者テストに依存しないよう進路指導の適正化について指導してきた。(二)
(b) 評価方法を改善するとともにその活用を図り、より適正な教育活動が行われるよう指導してきた。(三)
(c) 業者テストへの参加回数を減らし、生徒を強制的に参加させることのないよう指導してきた。(七)
(d) 正規の授業時間中に業者テストを実施しないよう指導してきた。(一)
(e) 業者テストに係る諸経費の使途を明確にし、教師が業者テストの問題作成に参加したり、採点等の事務に参加してリベートをもらわないよう指導してきた。(四)
(f) 保護者の経済的負担が過重にならないよう指導してきた。(三)
三 今後都道府県教育委員会が採ろうとする対策のうち主要なものは、次のとおりである。
(a) 学校における日常の観察、指導、評価を累積して、進学指導を適切に行い、業者テストにより正常な教育課程がみだされないよう指導を強化する。(八)
(b) 学校の進学指導の中に業者テストを組み入れない。(一)
(c) 業者テストへの参加回数を少なくするよう指導する。(五)
(d) 業者に対し、業者テストのための学校施設等の利用の許可や校内の進学指導の資料を提供する等の便宜供与をしないよう指導する。(二)
(e) 教師が受験料の徴収事務やテストの監督、テストの問題作成等に関与し、業者テストに係る諸経費について社会の疑惑を招くことのないよう指導する。(四)
(f) 保護者の経済的負担が過重にならないように指導する。(一)
四 各市町村教育委員会の指導や対策、校長会等の動向のうち主要なものは、次のとおりである。
(a) 大阪市教育委員会では、昭和五一年五月一三日に「進路指導について」の通達を出し、また、同年七月一日に「進路指導のあり方について」の通達を出し、指導の徹底を図った。(別添CD 略)
(b) 中学校長会で業者テストについて、回数や便宜供与等の自粛を申し合わせている。(八)
(c) 各市町村教育委員会において、生徒の学習負担、保護者の経費負担の軽減等の面から管下の学校を指導している。(一)
(d) 県中学校長会で、昭和五一年度から全県で業者テストを実質的に廃止することを申し合わせた。(一)
(e) 市中学校長会で業者テストを五〇年度は五回にとどめ、五一年度は全廃することを申し合わせた。(一)
X その他業者テストに係る問題について各都道府県から出された意見のうち主要なものは、次のとおりである。
(a) 高校に学校間格差がみられることから、進学指導について客観的な資料を得る必要があり、そのため業者テストを採用することはやむを得ないという意見もある。(二)
(b) 業者テストの実施により休日が費されることが多く、そのため生徒、父母、教師等の負担が増加し、特に生徒の望ましい人間形成が阻害されるおそれがある。(二)
(c) この種のテストは、教育関係機関(例えば、教育研修センター、校長会)で実施されることが望ましい。(一)
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会