● 高等学校の入学者選抜について 平成5年2月22日 文初高243



平五、二、二二 文初高二四三 
各都道府県教育委員会、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学長あて 
文部事務次官通知

    高等学校の入学者選抜について

 このことについては、文部省において、これまでの高等学校入学者選抜の実施状況や今後の高等学校教育改革の動向等を踏まえ、関係者の協力を求めてその改善について検討を加えてきましたが、このたび、高等学校教育の改革の推進に関する会議第三次報告(別添−略)としてまとめを得たところであります。
 ついては、同報告の趣旨を踏まえ、今後、高等学校入学者選抜については、下記によることとしますので、貴職におかれては、高等学校における入学者選抜等の適切な実施が図られるようお願いします。
 なお、入学者選抜の改善を進めるに当たっては、同報告の内容に十分留意されるようお願いします。
 また、高等学校教育については、多様な生徒の個性を伸長することを重視し、各高等学校における特色ある個性的な教育の展開を一層推進することが肝要であります。この観点から、特色ある高等学校づくり、個性豊かで多様な教育活動の充実、新学習指導要領の趣旨に即した選択幅の広い教育課程の編成、学科・コース等の多様化、新しいタイプの学校の奨励などについて一層積極的な取組みを併せてお願いします。
 おって、都道府県教育委員会にあっては管下の各市町村教育委員会に対して、都道府県知事にあっては所管の学校法人及び私立学校に対して、国立大学長にあっては管下の学校に対して、この趣旨の徹底を図るようお願いします。
          記

一 公立高等学校の入学者選抜の改善について
(1) 多様な選抜方法の実施について
 ア 高等学校の入学者選抜は、各高等学校、学科等の特色に配慮しつつ、その教育を受けるに足る能力・適性等を判定して行うものとすること。
 イ 高等学校入学者選抜の在り方は、各学校・学科・コースごとの特色に応じて多様であることが望ましいこと。
 さらに、同一の学校・学科等の中でも入学定員を区分して複数の尺度に基づく異なる選抜方法を実施することにも配慮すること。
 このため、例えば、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、学力検査の実施教科や教科ごとの配点を変えたり、調査書と学力検査の成績の比重の置き方を変えたり、調査書の中の重視する部分を変えたりすることなどが考えられること。
(2) 多段階の入学者選抜の実施について
 ア 受験機会の複数化及び推薦入学の活用などにより、多段階にわたり入学者選抜が実施されるよう十分配慮すること。
 イ 推薦入学については、専門学科のみでなく、普通科においても教育上の特色づくりと並行して一層活用されるよう配慮すること。
 ウ 推薦入学の実施に当たっては、その意義にかんがみ、スポーツ活動、文化活動、社会活動、ボランティア活動などの諸活動の実績などの資料による選抜方法の工夫を行うこと。
 この観点から、調査書の学習成績の記録以外の記録の部分を重視した選抜を行うことはもとより、さらに、例えば、一定の定員枠を設けて、中学校長の推薦に基づき、長期間にわたる又は質の高い文化活動やボランティア活動の活動歴等により選考を行い、調査書の学習成績の記録の評定の成績を求めないこととする選抜を行うことが考えられること。
 エ 推薦入学の実施時期については、中学校教育に悪影響を及ぼさず、また、中学校における教育活動の成果を十分評価することができる時期とすること。このため、推薦入学があまり早い時期に行われないよう、地域の実情に即し、教育委員会、知事部局、公立・私立高等学校及び中学校関係者が十分協議し、一層の改善を図ること。
(3) 入学者選抜の資料について
 ア 合否の判定の際の調査書と学力検査の成績の比重の置き方については、生徒の選択の幅の拡大等のため、各学校・学科等、あるいは定員の一部ごとに異なる方式で合否の判定を行うことについての工夫がなされるよう配慮すること。
 さらに、生徒の個性に応じ選抜方法を多様化させるという観点から、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、学力検査を実施しない選抜、調査書の比重を大幅に軽減する選抜や調査書を用いない選抜などを行うことも考えられること。
 イ ただし、調査書を用いない選抜を実施する場合には、中学校教育に大きな影響を与えることから、例えばこの方式は例外的な方式であるとの位置付けのもとに定員の一部についてのみ適用する方法などが考えられること。
 また、学力検査の成績を主たる資料としつつ、面接や小論文・実技検査などを組み合わせて行うことも考えられること。
(4) 学力検査の在り方について
 ア 学力検査の問題作成については、中学校の教育課程の趣旨に即し、知識の量や程度を問う出題に偏ることなく、例えば論述式の解答を求める出題や思考力・分析力を問う出題を増やすなど、中学校の新しい教育課程で重視されるべき能力が適切に反映されるよう一層の工夫改善を図ること。
 イ 学力検査の実施教科については、生徒の個性に応じた学校選択や各学校・学科等の特色に応じた選抜を可能とし、さらに、中学校における選択履修の幅の拡大の趣旨を生かすため、各学校・学科等ごとに工夫を行うことが望ましいこと。
 このため、例えば、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、実施教科数を増減したり、教科によって配点の比重を変えたり、学校ごとに学力検査問題を一部作成して付加したり、教育委員会が多くの問題を作成し各学校がそこから選択して出題したり、生徒が教科を選択したりすることなどが考えられること。
(5) 調査書の在り方について
 ア 調査書については、高等学校入学者選抜の資料としての客観性・公平性を確保するよう留意しつつ、生徒の個性を多面的にとらえたり、生徒の優れている点や長所を積極的に評価し、これを活用していくこと。
 イ 調査書の学習成績の記録の評定については、中学校学習指導要領及び中学校生徒指導要録の改訂の趣旨に即した改善の努力を進めること。
 また、中学校の新しい教育課程における選択履修の幅の拡大の趣旨を生かすため、調査書の記載に当たり適切な工夫を行うとともに、選択教科の学習の成果の活用について工夫するよう配慮すること。
 ウ 調査書の学習成績の記録の活用については、生徒の個性に応じた学校選択や各学校・学科等の特色に応じた選抜を可能とし、さらに、中学校における選択履修の幅の拡大の趣旨を生かすため、各学校・学科等ごとに工夫を行うことが望ましいこと。
 このため、例えば、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、合否判定の資料として用いる教科を減らしたり、教科によって評定の比重を変えたり、選択教科を重視して用いたりすることなどが考えられること。
 エ 生徒の個性を多面的にとらえたり、生徒の優れている点や長所などを積極的に評価するため、調査書の学習成績の記録以外の記録を充実し、活用するよう十分配慮すること。
 その際、点数化が困難なスポーツ活動、文化活動、社会活動、ボランティア活動などについても適切に評価されるようにしていくことが望ましいこと。
 オ 調査書の記載事項については、高等学校入学者選抜の資料として、真に必要な事項に精選すること。
(6) 面接について
 面接については、積極的に活用することが望ましいこと。
(7) 通学区域について
 通学区域については、各都道府県で地域の実情を踏まえながら各高等学校に特色を持たせ、生徒の特性に応じた学校選択が可能となるような方向で検討する必要があること。また、生徒の居住地によって高等学校受験の機会が大きく異なることのないよう配慮する必要があること。

二 私立高等学校の入学者選抜の改善について
(1) 私立高等学校における入学者選抜については、各私立学校及び私学団体の自主的改善努力を促しつつ、一(1)〜(6)の趣旨に即し、選抜方法の多様化、選抜尺度の多元化を進めるなど一層の改善を図ること。
(2) 私立高等学校の入学者選抜及びその教育方針や教育活動などに関する的確な情報が、生徒や保護者に入手されやすいよう、私立高等学校、中学校、私学担当部局等それぞれが一層の工夫・努力を行うこと。
(3) 入学者選抜の学力検査の出題内容については、公立高等学校の学力検査問題の改善と並行して、より適切な出題がなされるよう、学校関係者による問題分析等の調査研究を推進すること。
 この調査研究に基づき、中学校教育に与える影響にかんがみ、不適切と認められる出題について、当該学校に対してその改善を促すとともに、望ましい出題についても公表するなど、一層の改善が図られるようにすること。
(4) 受験機会の複数化や多様な選抜方法の実施については、公立私立を通した観点からも要請されるので、募集方法や選抜の日程について、公立私立間で十分調整し、生徒にとって負担過重とならず、適切な受験機会が選択できるよう配慮すること。
(5) 推薦入学の実施に当たっては、特に、スポーツ活動、文化活動、社会活動、ボランティア活動などの諸活動の実績などの資料による選抜方法の工夫を行うとともに、その実施時期については、あまり早い時期に行われないよう、地域の実情に即し、教育委員会、知事部局、公立・私立高等学校及び中学校関係者が十分協議し、一層の改善を図ること。
(6)一部の地域で行われている、いわゆる単願推薦等についての事前相談等については、推薦入学と同様に、公教育としてふさわしい適切な資料に基づいて行うことはもとより、あまり早い時期に行われないよう関係者が十分協議し、一層の改善を図ること。
 また、選抜要項上、日程、募集人員、選抜方法などについて明示すること。

三 業者テストの偏差値を用いない入学者選抜の改善について
(1) 高等学校の入学者選抜は公教育としてふさわしい適切な資料に基づいて行われるべきものであり、業者テストの結果を資料として用いた入学者の選抜が行われることがあってはならないこと。
 また、中学校における進路指導は日ごろの学習成績や活動の状況等による生徒の能力・適性、興味・関心等に基づき総合的に行われるべきものであり、業者テストによる偏差値等に依存した進路指導は行わないこと。
(2) 入学者選抜に関し一切、中学校にあっては、業者テストの結果を高等学校に提供しないよう、また、高等学校にあっては、業者テストや学習塾の実施するテストの偏差値の提供を中学校に求めないよう、平成六年度入学者選抜から直ちに改善すること。
 さらに、高等学校は、業者テストの実施はもとより、学習塾に対しても資料の提供を求めたり、保護者や生徒から業者テストの偏差値等を求めたりするようなこともあってはならず、併せて直ちに改善すること。
(3) 中学校は業者テストの実施に関与することは厳に慎むべきであり、授業時間中及び教職員の勤務時間中に業者テストを実施してはならないし、また、教職員は業者テストの費用の徴収や監督、問題作成や採点に携わることがあってはならないこと。そのため、学校の管理運営及び教職員の服務の適正が図られるよう直ちに改善すること。
 また、業者テストの偏差値等に依存して、中学校において生徒の適性や希望などを無視して生徒が志望する高等学校を受験させないよう指導したりすることがないよう、直ちに改善すること。
(4) 公益法人や校長会の行うテストについては、学校が連携協力して問題作成や採点に携わるなどそれぞれの学校が教育活動として行う性質のものであれば、一つの方策であるが、このようなテストも進路指導の一参考資料を得るために行うものであり、選抜の資料として用いられるべきものではなく、高等学校に対しその結果の提供を行うものであってはならないこと。
 また、学校が連携協力して問題作成や採点に携わるなどそれぞれの学校が教育活動として行う性質のものでない限り、中学校が授業時間中や教職員の勤務時間中にテストを実施するなどその実施に関与することは厳に慎むべきであること。
 これらの点について、直ちに改善すること。

四 中学校における進路指導の充実について
(1) 生徒の進路の選択や学校の選択に関する指導は、偏差値に頼って行われるのではなく、学校の教育活動全体を通じて的確に把握した生徒の能力・適性、興味・関心や将来の進路希望等に基づき、また、進学しようとする高等学校や学科の特色や状況を生徒が十分理解した上でなされるべきであること。
(2) 中学校においては、平素から一人一人の生徒が自らの進路を主体的に考え選択する能力や態度を育成し、それが進路決定に生かされることが重要であり、進路指導に当たっては、教師の適切な指導のもとに、このような生徒の主体的な選択を生かしていくことが必要であること。
(3) 中学校においては、進路指導主事等が中心となって生徒や保護者に専門的な指導助言を行ったり、相談に応じられる体制を整備すること。
 なお、進路指導主事等の研修の充実等について一層の配慮を行うこと。
(4) 高等学校の教育上の特色や入学者選抜方法について、生徒や保護者が十分な認識をもって判断できるよう、中学校は情報の収集と提供に努めるとともに、高等学校は、広報活動や体験入学の実施などに積極的に取り組むこと。
(5) 推薦入学における生徒の推薦に当たっては、中学校においては、日ごろから生徒の優れた点や長所に関する把握に努めるとともに、例えば、学校外の活動についても、長期間にわたる又は質の高い文化活動やボランティア活動の活動歴等について関係者から報告を受け、その活動の実績を勘案して高等学校に推薦するなどの方法が考えられるので、一層の工夫を行うこと。

五 留意すべき事項について
(1) 高等学校入学者選抜については、各都道府県における国・公・私立を通じた改善が必要であり、そのため、国・公・私立の高等学校及び中学校の関係者が定期的に協議する場を設け、選抜日程、選抜方法や選抜に関する資料、出題内容の改善などについて、関係者は最善の努力をすること。
 なお、その際、必要に応じ中学校の入学者選抜に関して、小学校の関係者の参加も得て協議することも考慮すること。
(2) 高等学校入学者選抜は、あまり早い時期に行われないようにするとともに、中学校の教育活動の成果を十分評価することができる資料及び時期により行われることについて特に配慮すること。
(3) 海外から帰国した生徒、保護者の転勤に伴う生徒、高等学校を中途退学した生徒などの転・編入学等については、可能な限り弾力的に取り扱っていくこと。
(4) 身体に障害のある生徒については、単に障害のあることのみをもって高等学校入学者選抜において不合理な取扱いがなされることがないよう、選抜方法上の工夫など適切な配慮を行うこと。
(5) 高等学校入学者選抜の改善のために、高等学校入学者選抜の在り方について検討・協議する場を設けること、高等学校入学者選抜に関する情報を広く一般に提供すること、更に専門的な情報収集と調査研究を継続的に行うことなどに一層配慮すること。
(6) 国立の高等学校の入学者選抜に関し、選抜方法の多様化、選抜尺度の多元化については、一(1)〜(6)の趣旨に即し一層の改善を図ること。
 また、学力検査の出題内容については、より適切な出題がなされるよう改善を図ること。






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