● 高等学校中途退学問題への対応について 平成5年4月23日 文初高351
平五、四、二三 文初高三五一
各都道府県教育委員会教育長、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学長あて
文部省初等中等教育局長通知
高等学校中途退学問題への対応について
高等学校中途退学問題への対応については、かねてから御尽力を頂いているところですが、中途退学者は依然として多数に上っており、大きな課題となっております。
文部省においては、平成元年七月に有識者による「学校不適応対策調査研究協力者会議」を発足させ、高等学校中途退学問題への対応方策について広く総合的、専門的な観点から検討を願い、昨年一二月に「高等学校中途退学問題について」の報告(平成四年一二月一一日付け四初高第七八号にて送付)を取りまとめていただいたところであります。
ついては、貴職におかれては、同報告の内容を参考にし、特に下記の点に留意して、高等学校中途退学問題に対する取組に一層努められるようお願いします。
なお、高等学校中途退学問題に取り組むに当たり、多様な生徒の個性を伸長することを重視し、各高等学校における特色ある個性的な教育の展開を一層推進することが肝要であります。このことについては、高等学校教育の改革の推進に関する会議の四次にわたる報告を踏まえ、先般、総合学科、全日制課程の単位制高等学校、高等学校間の単位互換あるいは高等学校入学
者選抜などに係る法令の校正を行うとともに、貴職に関係通知を送付したところでありますので、その趣旨に十分留意し、総合的かつ積極的な取組をお願いします。
また、第五次公立高等学校学級編制及び教職員配置改善計画においては、平成五年度から高等学校中途退学問題への対応を含め、多様な高等学校教育の展開に必要な教員を措置しているところでありますので、この計画の趣旨、目的に沿って教員の配置、活用に努められるようお願いします。
おって、都道府県教育委員会にあってはその所管の学校及び管下の市町村教育委員会に対して、都道府県知事にあってはその所轄の学校法人及び私立学校に対して、国立大学長にあってはその管下の附属学校に対して、この趣旨の徹底を図るようお願いします。
記
T 高等学校中途退学問題への対応の基本的視点
高等学校中途退学問題に対応するに当たっては、次のような基本的視点を重視することが肝要であること。
(1) 中学校卒業者の九五%以上の生徒が高等学校に進学する状況にあり、高等学校生徒の能力・適性、興味・関心、進路等は多様なものとなっており、このような多様で個性的な生徒の実態を踏まえ、高等学校教育の多様化、柔軟化、個性化の推進を図ること。
(2) 中途退学の理由、原因等は個々の生徒により様々であるが、各学校における指導の充実や学校と家庭との連携によってある程度防止できる場合と、就職や他の学校への入学など積極的な進路変更により中途退学するケースなど新たな進路への適切な配慮が求められる場合があり、生徒の状況を的確に把握した指導が重要であること。
(3) 個に応じた指導を進めるに当たっては、生徒の能力・適性、興味・関心、進路等に応じて、理解でき興味のもてる授業を行うなど学習指導の改善・充実に努めるとともに、教育相談の充実、保護者との密接な連携を図ることなどが重要であり、その際、校長のリーダーシップの下に全教職員が協力して取り組む体制を整える必要があること。
(4) 学習指導の改善・充実に当たっては、生徒の主体的な学習意欲を促し、学校生活において様々な達成感や成就感を味わうことができるよう、「参加する授業」「分かる授業」を徹底するなど魅力ある教育活動を展開することが重要であること。
また、新学習指導要領が重視している生徒が自ら考え主体的に判断し行動できる資質や能力を育成していくことに十分配慮すること。
(5) 就職や他の学校への入学など積極的な進路変更により中途退学するケースなど新たな進路への適切な配慮が求められる場合には、生徒の意志を尊重しながら、その生徒の自己実現を援助する方向で手厚い指導を行うことが重要であること。
なお、このような場合には、生徒の積極的な進路変更を可能とするため開かれた学校の仕組みを整えることが必要であり、例えば転校・転科や編入学の円滑な受入れについての配慮が求められること。
また、生徒が進路変更により中途退学しようとしているからといって、十分な状況把握をすることなく安易な指導に流れないよう留意する必要があること。
U 高等学校中途退学問題への対応
上記Tの基本的視点を重視し、次のような取組を行う必要があること。
一 高等学校教育の多様化、柔軟化、個性化を推進すること
(1) 各高等学校における教育課程等の改善
@ 生徒の能力・適性、興味・関心、進路等に応じた生徒の幅広い選択が可能な教育課程の編成を行うこと。
このため、学年の区分によらない教育課程の編成・実施、高等学校間の連携による単位互換、専修学校における学習成果の単位認定、技能審査の成果の単位認定、多様な教科・科目の設置、学年をまたがって履修できるような科目の設置などに積極的に取り組むこと。
A 普通科においては、生徒の進路等を考慮し、適切な職業に関する教科・科目の履修の機会の確保について配慮すること。
B 勤労や奉仕にかかわる体験を重視し、勤労生産・奉仕的行事等を積極的に実施するとともに、生徒の勤労やボランティア活動などに対して教育的な視点から適切な指導を加え、望ましい勤労観・職業観の育成に努めること。
C 履修科目を全て修得しなければ進級や卒業を認めないという在り方を改善するとともに、卒業までの修得単位数については、生徒に過度の学習負担を課して逆に学習意欲を減退させることにならないよう、できる限り八〇単位に近づけるよう改善すること。
D 進級規定を大幅に見直し、例えばある学年において単位不認定の科目がある場合、一律に原級留置の扱いにするのではなく、修業年限内に卒業までに修得すべき単位数を修得できる見込みがあれば、できるだけ弾力的に取り扱うよう努めること。
E 地域や生徒の実態に応じて、多様なコースや科目の設置はもとより教育活動について創意工夫し、生徒が在籍する高等学校に対して帰属感を抱き、誇りを持てるような特色ある学校づくりを進め、生徒が明確な目的意識を持って入学してくることができるよう努めること。
また、その場合、高等学校の教育活動の内容や特色について積極的に中学生等に情報提供する必要があること。
(2) 中・高等学校における進路指導の改善・充実
@ 中学校にあっては、偏差値に依存した進路指導から生徒の能力・適性、興味・関心や将来の進路希望等に基づいた進路指導への転換を図るとともに、平素の指導を通して、生徒に進路を主体的に考え選択する能力や態度を育成し、それが進路決定に生かされるよう適切な進路指導を行う必要があること。
A 高等学校においても、入学後卒業までの時期に応じた計画的な進路指導を行うことが肝要であり、進路指導部(室)等の充実を図り、担任との密接な連携の下、一貫した進路指導を行うとともに、教科・科目の選択等について十分な指導を行うなどの取組が必要であること。
B 中学校及び高等学校は相互に十分な連携をとりながら進路指導を進める必要があり、地区別連絡協議会の開催や体験入学などを積極的に推進すること。
C 人間としての在り方生き方に関する教育は、生徒が自己の将来を見通し、目的意識を持って主体的に生きようとする意志と能力を育てるものであり、中途退学防止のためにも重要であることを十分認識し、各教科・科目や特別活動など学校教育活動全体を通じてその充実を図ること。
二 個に応じた手厚い指導を行うこと
(1) 高等学校における生徒指導の充実
@ 個々の生徒に対する理解の深化、個性の尊重に一層配慮すること。その際、特にホームルーム活動の内容の改善・充実を行い、教師と生徒、生徒相互間の好ましい人間関係の醸成に努めること。
A 生徒の様々な相談にいつでも適切に対応できる体制を整えること。特に、入学当初から学校生活に違和感や不満足感を持っているような生徒に対する入学時の適切な適応指導の充実が重要であり、例えば教育相談やオリエンテーションなどについて適切に配慮すること。
B 校則の内容及び運用の見直しを進め、校則及び校則指導がより一層適切なものとなるよう努めること。その際、特に、校則に違反した生徒に懲戒等の措置をとる場合には、生徒から事情をよく聞くなど生徒の個々の状況に十分留意し、その措置が単なる制裁にとどまることなく真に教育的効果を持つものとなるよう配慮する必要があること。
(2) 「参加する授業」「分かる授業」の徹底等個に応じた学習指導の改善・充実
@ 生徒が学習内容を十分理解し、達成感や成就感が味わえるような「参加する授業」「分かる授業」を徹底していくことが重要であること。
A このため、授業方法の改善・工夫、指導内容の精選・重点化、生徒の学習の実態に即した科目の編成や教科書・教材の使用等に積極的に取り組むこと。また、主体的学習態度の身に付いていない生徒に対する学び方の学習の実施、習熟の程度に応じた学習指導の充実等に積極的に取り組むこと。
B 生徒が自ら考え主体的に判断し行動できる資質や能力を育成するため、課題解決的な学習方法や体験的な学習方法を積極的に導入していく必要があること。
三 開かれた高等学校教育の仕組みを整えること
@ 中途退学した生徒の中には再度高等学校に戻りたいと希望する者も少なくない状況にかんがみ、できる限り本人の希望を尊重し、円滑に高等学校に戻れるよう、編入学の積極的な受入れを進めていくことに特に配慮すること。
A また、他の学校、学科での学習に興味を感じる等により、生徒が転校・転科を希望する場合には、可能な限り弾力的に認めていく必要があること。
B 転・編入学の受入れが円滑に行われるようにするため、学校間の教育課程の相違についての弾力的な取り扱いや、選択幅の広い教育課程の編制、学年を超えて履修できる科目の設置など教育課程編制上の工夫が望まれること。
また、転・編入学前の高等学校における学習成果について可能な限り弾力的に評価する必要があるとともに、教科・科目の履修等についても弾力的に取り扱う必要があること。
C 中途退学する場合の就職や他の学校への入学などについての進路指導の充実を図るとともに、中途退学者が中途退学後も進路等について相談することのできる窓口を学校に設置するなど、中途退学後の追指導を充実する必要があること。
なお、就職についての相談に当たる場合には、職業安定所との連携についても適切に配慮すること。
D 上記の措置に関連し、生徒や保護者などに対し、転・編入学の制度が存在すること及びその手続等について一層の周知を図る必要があること。
E 中途退学することなく籍を学校に置いたままで一定期間、職業に従事することを希望する生徒などに対して、休学の理由、期間等の弾力的な取扱いについて適切に配慮すること。
四 教育委員会における重点的取組
@ 各高等学校における特色ある個性的な教育を一層推進する観点から、特色ある高等学校づくり、個性豊かで多様な教育活動の充実、新学習指導要領の趣旨に即した選択幅の広い教育課程の編制、学科・コース等の多様化、新しいタイプの学校の設置、既存の学科改編などに積極的に取り組むこと。
A また、高等学校教育の改革の推進に関する会議の第四次報告並びに平成五年三月二二日付け文初高第二〇二号「学校教育法施行規則の一部を改正する省令等について」(通達)及び文初職第二〇三号「総合学科について」(通知)を踏まえ、普通教育及び専門教育を選択履修を旨として総合的に施す学科としての総合学科の創設について積極的に取り組む必要があること。
B 高等学校入学者選抜の在り方は高等学校中途退学問題と密接にかかわっており、高等学校教育の改革の推進に関する会議の第三次報告及び平成五年二月二二日付け文初高第二四三号「高等学校の入学者選抜について」(通知)を踏まえ、選抜方法の多様化、選抜尺度の多元化等を一層推進するなど、入学者選抜方法の改善に取り組む必要があること。
C 中途退学者が多数にのぼる学校に対しては、教員配置の充実による指導体制の強化を図っていくことが必要であり、生徒指導や日常の教育相談の中核となる指導力のある教員を重点的に配置するなど、学校全体としての指導体制を整備充実すること。
また、教育相談の専門的な知識・技術等に関する教員の研修に努め、このような教員が重点的に配置されるよう配慮すること。
D 中途退学問題を含め学校不適応や問題行動などに関する各学校の相談活動等の取組を支援するための教育センター等の活動の一層の充実を図ること。
E 転・編入学について学校、生徒、保護者の相談等に当たるため、また、学校における追指導を充実させるよう、教育委員会に相談窓口を設置し、必要な情報提供等を行う必要があること。また、この場合、国立教育会館に設置している「転入学情報ネットワークシステム」の活用についても留意すること。
F 転・編入学が円滑に行われるよう、転・編入学者のための特別定員枠の設定、随時の転・編入学の受入れの促進、単位制高等学校の設置の推進、定時制・通信制課程の充実など種々の措置を講じていく必要があること。
G 中途退学問題への対応に当たっては、不本意入学等をできるだけ少なくするための生徒の特性等に十分配慮した進路決定や高等学校入学後の学校不適応の兆候の把握及び対処などについて、家庭の理解と協力を得ることが重要であること。
他方、個性豊かで特色ある高等学校づくり、勤労体験学習やボランティア活動など多様な教育活動の展開、中途退学後の就職問題などについて、地域社会の理解と協力を得ることが重要であること。
このような観点から、中途退学問題について家庭や地域社会の理解の深化と協力が得られるよう、より一層努めること。
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