● 児童の権利に関する条約の説明書 平成5年11月 外務省
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児童の権利に関する条約の説明書
平成五年十一月 外務省
一 概説
1 条約の成立経緯
人権の尊重は、国際連合(以下「国連」という。)が最も大きな関心を払ってきた事項の一つである。児童の権利については、昭和三十四年の第十四回国連総会において「児童の権利に関する宣言」が採択された後、昭和五十三年にこの条約の草案が提出され、同年の第三十三回国連総会以来、十年間にわたる検討が行われてきた。その結果、「児童の権利に関する宣言」三十周年及び国際児童年十周年に当たる平成元年三月に案文が完成し、同年の第四十四回国連総会において、この条約案が無投票で採択された。
なお、この条約は、平成二年九月二日に効力を生じ、平成五年十一月十日現在、百五十三箇国が締約国となっている。
2 条約締結の意義
この条約は、我が国が締約国となっている「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」において定められている権利を児童について広範に規定するとともに、更に、児童の人権の尊重及び確保の観点から必要となる詳細かつ具体的な事項をも規定したものであり、その目的とするところは基本的人権の尊重の理念に基づいている我が国の憲法とも軌を一にするものである。我が国がこの条約を締結することは、かかる我が国の人権尊重への取組の一層の強化及び人権尊重についての国際協力の一層の推進の見地から有意義である。
3 条約の締結により我が国が負うこととなる義務
この条約の締結により我が国が負うこととなる主要な義務の概要は、次のとおりである。
なお、この条約では、十八歳未満のすべての者を「児童」と定義している。
(1)児童に対し、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し及び確保すること。
(2)この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずること。ただし、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で、これらの措置を講ずること。
(3)この条約の原則及び規定を成人及び児童のいずれにも広く知らせること。
(4)この条約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を、(a)我が国についてこの条約が効力を生ずる時から二年以内に、(b)その後は五年ごとに、国連事務総長を通じて児童の権利に関する委員会に提出すること。
4 早期国会承認が求められる理由
この条約は、平成五年十一月十日現在、既に、英国、フランス、イタリア及びカナダを含む百五十三箇国が締結しており、また、我が国は、この条約に著名している(平成二年九月)。特に、最近においては、児童の権利の尊重及び保護の重要性に関する認識が世界的に高まり、この条約については、「子供のための世界サミット」(平成二年九月開催)、国連総会、国連人権委員会等において、世界各国に対し、この条約の早期締結が勧奨されるに至っている。児童の人権の尊重というこの条約の目的は、基本的人権の尊重を理念とする我が国の憲法と軌を一にするものであり、我が国としても、この条約を早期に締結し、児童の権利の尊重及び保護についての国際協力を一層推進していくことが重要である。
5 我が国の留保等
我が国が、この条約の締結に当たり行う解釈宣言((1)及び(2))及び留保((3))は次のとおりである。
(1)児童の父母からの分離
第九条1は、権限のある当局が必要と決定する場合を除くほか児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する旨規定している。我が国は、この規定は、出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解する旨の宣言を行う。
(2)家族の再統合のための出入国について
第十条1は、家族の再統合のための児童又はその父母による締約国への入国又は締約国からの出国の申請について、締約国が「積極的、人道的かつ迅速な方法」で取り扱う旨規定している。我が国は、この規定にいう「積極的、人道的かつ迅速な方法」で出入国の申請を取り扱うとの義務はそのような申請の結果に影響を与えるものではないと解する旨の宣言を行う。
(3)自由を奪われた児童の成人からの分離について
第三十七条(c)は、自由を奪われたすべての児童(十八歳末満の者)が成人(十八歳以上の者)から分離されなければならない旨規定している。我が国においては、国内の関係法令により、自由を奪われた者は基本的に二十歳で分離することとされていること等にかんがみ、右規定に拘束されない権利を留保することとする。
6 他の国際約束との関係
児童を含む個人の人権について広範に定める条約としては、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(昭和四十一年十二月採択。昭和五十一年一月効力発生。我が国は、昭和五十四年六月に締結)及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和四十一年十二月採択。昭和五十一年三月効力発生。我が国は、昭和五十四年六月に締結)がある。
二 条約の内容
この条約は、前文、本文五十四箇条及び末文から成り、その概要は、次のとおりである。
1 児童の定義
児童とは、十八歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く(第一条)。
2 締約国の義務
(1)一般的義務
(イ)締約国は、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する(第二条)。
(ロ)児童に関するすべての措置をとるに当たり、児童の最善の利益が主として考慮される(第三条)。
(ハ)締約国は、この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずる(第四条)。
(ニ)締約国は、父母、法定保護者等が児童の発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示及び指導を与える責任、権利及び義務を尊重する(第五条)。
(2)生命に対する権利
締約国は、生命に対する児童の固有の権利を認めるものとし、児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する(第六条)。
(3)登録、氏名、国籍等についての権利
(イ)締約国は、児童が出生後直ちに登録され、氏名を有し及び国籍を取得する権利の実現を確保する(第七条)。
(ロ)締約国は、児童が国籍、氏名及び家族関係を含むその身元関係事項を保持する権利を尊重し、その身元関係事項が不法に奪われる場合には、これを回復するため、適当な援助及び保護を与える(第八条)。
(4)家族から分離されない権利
(イ)締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保し、また、父母の一方又は双方から分離されている児童が父母との接触を維持する権利を尊重する(第九条)。
(ロ)家族の再統合のための児童又はその父母による締約国への入国又は締約国からの出国の申請については、締約国が積極的、人道的かつ迅速な方法で取り扱う(第十条)。
(ハ)締約国は、児童が不法に国外へ移送されることを防止し及び国外から帰還することができない事態を除去するための措置を講ずる(第十一条)。
(5)意見を表明する権利
締約国は、児童が自由に自己の意見を表明する権利を確保する。児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される(第十二条)。
(6)表現の自由についての権利
児童は、表現の自由についての権利を有する(第十三条)。
(7)思想、良心及び宗教の自由についての権利
締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する(第十四条)。
(8)結社及び集会の自由についての権利
締約国は、結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める(第十五条)。
(9)干渉又は攻撃に対する保護
いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない(第十六条)。
(10)情報及び資料の利用
締約国は、大衆媒体(マス・メディア)の果たす重要な機能を認め、児童が多様な情報源からの情報及び資料を利用し得ることを確保する(第十七条)。
(11)家庭環境における児童の保護
(イ)締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するとの原則の認識を確保するために最善の努力を払う(第十八条)。
(ロ)締約国は、虐待、放置、搾取(性的虐待を含む。)等から児童を保護するためのすべての適当な措置をとる(第十九条)。
(ハ)家庭環境を奪われた児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する(第二十条)。
(ニ)締約国は、児童の養子縁組に当たり、児童の最善の利益について最大の考慮が払われること、また、権限のある当局によってのみこれが認められることを確保する(第二十一条)。
(12)難民の児童に対する保護及び援助
締約国は、難民の地位を求めている児童又は難民と認められている児童が適当な保護及び人道的な援助を受けることを確保するための適当な措置をとる(第二十二条)。
(13)医療及び福祉の分野における児童の権利
(イ)締約国は、精神的又は身体的な障害を有する児童が、その尊厳を確保し、自立を促進し及び社会への積極的な参加を容易にする条件の下で十分かつ相応な生活を享受すべきであることを認める(第二十三条)。
(ロ)締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める(第二十四条)。
(ハ)締約国は、養護、保護又は治療を目的として収容された児童に対する処遇等に関する定期的な審査が行われることについての児童の権利を認める(第二十五条)。
(ニ)締約国は、すべての児童が社会保障からの給付を受ける権利を認めるものとし、このための必要な措置をとる(第二十六条)。
(ホ)締約国は、相当な生活水準についての児童の権利を認める(第二十七条)。
(14)教育及び文化の分野における児童の権利
(イ)締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するための措置をとる。また、締約国は、学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる(第二十八条)。
(ロ)締約国は、児童の教育が、児童の人格、才能等を最大限度まで発達させること、人権及び基本的自由並びに国連憲章にうたう原則の尊重を育成すること、児童の父母、児童の文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること等を指向すべきことに同意する(第二十九条)。
(ハ)少数民族に属し又は原住民である児童は、自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない(第三十条)。
(ニ)締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童が遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に参加する権利を認める(第三十一条)。
(15)搾取等からの児童の保護
(イ)締約国は、児童が経済的な搾取から保護され及び危険となり若しくは教育の妨げとなり又は健康若しくは発達に有害となるおそれのある労働への従事から保護される権利を認める(第三十二条)。
(ロ)締約国は、麻薬及び向精神薬の不正な使用からの児童の保護等のためのすべての適当な措置をとる(第三十三条)。
(ハ)締約国は、あらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から児童を保護することを約束する(第三十四条)。
(ニ)締約国は、児童の誘拐、売買又は取引を防止するためのすべての適当な措置をとる(第三十五条)。
(ホ)締約国は、いずれかの面において児童の福祉を害する他のすべての形態の搾取から児童を保護する(第三十六条)。
(16)自由を奪われた児童、刑法を犯したと申し立てられた児童等の取扱い及び武力紛争における児童の保護
(イ)締約国は、いかなる児童も、拷問又は他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと、不法に又は恣意的にその自由を奪われないこと等を確保する。締約国は、また、自由を奪われた児童が、人道的に、人間の固有の尊厳を尊重して、かつ、その年齢の者の必要を考慮した方法で取り扱われること、特に、成人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない限り成人とは分離されること等を確保する(第三十七条)。
(ロ)締約国は、武力紛争の影響を受ける児童の保護及び養護を確保するためのすべての実行可能な措置をとる(第三十八条)。
(ハ)締約国は、放置、搾取若しくは虐待、拷問若しくは他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰又は武力紛争による被害者である児童の回復及び社会復帰を促進するためのすべての適当な措置をとる(第三十九条)。
(ニ)締約国は、刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定されたすべての児童が尊厳及び価値についての意識を促進させるような方法等で取り扱われる権利を認める(第四十条)。
3 条約と国内法及び他の国際法との関係
この条約のいかなる規定も、締約国の法律及び締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって、児童の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない(第四十一条)。
4 条約の広報義務
締約国は、この条約の原則及び規定を成人及び児童のいずれにも広く知らせることを約束する(第四十二条)。
5 委員会の設置等
(1)この条約において負う義務の履行の達成に関する締約国による進捗の状況を審査するため、児童の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する(第四十三条)。
(2)締約国は、この条約において認められる権利の実現のためにとった措置等に関する報告を国連事務総長を通じて委員会に提出することを約束する(第四十四条)。
(3)委員会は、専門機関及び国連児童基金その他の国連の機関からこの条約の実施についての報告を提出するよう要請することができる。また、委員会は、提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができる。(第四十五条)
6 最終条項
署名、批准、加入、効力発生、改正、留保等について規定している(第四十六条から第五十四条まで)。
三 条約の実施のための国内措置
1 この条約の締結により我が国が負うこととなる義務は、既存の国内法令で実施可能であり、この条約の実施のためには、新たな国内立法措置を必要としない。
2 この条約を実施するためには、新たな予算措置は不要である。
(参考)略
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