● いじめの問題の解決のために当面取るべき方策等について 平成7年3月13日 文初中第313号
文初中第三一三号 平成七年三月一三日
各都道府県教育委員会、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学長あて
文部省初等中等教育局長通知
いじめの問題の解決のために当面取るべき方策等について
児童生徒のいじめの問題については、既に平成六年一二月一六日付け文初中第三七一の一号をもって取組の徹底をお願いし、各関係機関、学校において特段の努力が払われているところであります。
文部省においては、昨年一二月「いじめ対策緊急会議」を開催し「緊急アピール」を出していただくとともに、その後、さらに、いじめの問題の解決のために必要な方策等について検討をいただいてきたところでありますが、このたび、同会議において、別添のとおり「いじめの問題の解決のために当面取るべき方策について」の報告がとりまとめられました。
この報告においては、いじめの問題に関して、「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識に立つべきことなどの五つの基本認識に基づき、学校、教育委員会、家庭、国、社会のそれぞれにおいて取り組むべきこと等が具体的に示されております。
ついては、貴機関におかれては、この報告の趣旨を十分御理解の上、いじめの問題の解決のための施策の一層の充実を図るとともに、あわせて、貴管下の関係機関においても所要の措置が講じられるよう周知徹底をお願いします。また、この報告が教員研修等様々な機会において活用され、関係者のいじめの問題への理解を深め、この問題の解決に向けた組織が強化されるよう御指導願います。さらに、今回の取組が一時的なものに終わらないよう、その取組について不断の見直しを行っていくようお願いします。
なお、平成六年一二月一六日付け文初中第三七一の二号をもって照会した、いじめの問題への取組について、このたび、別添のとおり調査結果を取りまとめましたので併せて通知します。今回の調査結果からは、いじめの問題の解決のため、教育委員会及び学校において既に各般の取組が行われていることがうかがえますが、一部に取組が十分でない例も見受けられるところであり、関係機関においては、このたびの報告及び調査結果を踏まえ、改めてその取組の体制等を見直し、いじめの問題の解決に向けた万全の取組が図られるようお願いします。また、今回の点検等によって明らかとなったいじめについては、既に十分な対応が行われていることと考えますが、未だ解決されていないいじめについては、早急に解決が図られるよう貴管下の関係機関に御指導願います。
いじめ対策緊急会議報告
―いじめの問題の解決のために当面取るべき方策について―
[はじめに]
本会議は、昨年一一月に愛知県の中学二年生がいじめを苦に自殺するという痛ましい事件を受け、こうした出来事が繰り返されてはならないとの観点から、いじめの問題に関する緊急の検討を行うために、文部省によって設けられたものである。
一二月九日の第一回会議における検討の結果、いじめの問題は、学校・家庭・社会が総合的に取り組むべき問題であるとの認識の下に、当面緊急に対応すべき点を取りまとめ、同日、「いじめ対策緊急会議」緊急アピールとして提言したところである。
本会議は、その後も引き続き、いじめの問題の解決のために関係者が当面取るべき方策等について、精力的に検討を重ねてきたところであるが、この度、その結果を取りまとめたのでここに報告を行うものである。
いじめの問題に関しては、昭和五〇年代の終わりから六〇年代にかけて多くの事件が発生し、極めて憂慮すべき状況にあったことから、「児童生徒の問題行動に関する検討会議緊急提言―いじめの問題の解決のためのアピールー」(昭和六〇年六月二八日)や各種の指導通知が発せられ、関係者による様々な取組がなされてきたところである。
しかしながら、今回、このような痛ましい事件が繰り返されたことは極めて残念であり、昨年一二月一六日付けの初等中等教育局長通知「いじめの問題について当面緊急に対応すべき点について(通知)」により、学校及び教育委員会によるいじめの問題に関する取組について総点検が行われたところであるが、その状況を見ると必ずしも十分ではないと思われる点も見受けられることから、関係者は、いま一度、いじめの問題に関する取組について見直してみる必要がある。また、今回のような取組が一時的なものに終わらないよう、その在り方について不断に見直しを行っていくことが不可欠である。
[1 いじめの問題への対応に当たっての基本的認識]
(一) 「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識に立つこと
いじめについては、従来、一部にいじめられる側にもそれなりの理由や原因があるとの意見が見受けられることがあったが、いじめられる側の責に帰すことは断じてあってはならない。いじめは、子どもの健全な成長にとって看過できない影響を及ぼす深刻な問題であるとともに、人権に関わる重大な問題である。いじめの問題については、まず誰よりもいじめる側が悪いのだという認識に立ち、毅然とした態度で臨むことが必要である。いじめは卑劣な行為であり、人間として絶対に許されないという自覚を促す指導を行い、その責任の所在を明確にすることが重要である。社会で許されない行為は子どもでも許されないものであり、児童生徒に、何をしても責任を問われないという感覚を持たせることは教育上も望ましくないと考えられる。
いじめをめぐっては、いじめる者といじめられる者の他に、それを傍観したり、はやしたてたりする者が存在するが、こういった行為も同様に許されないとの認識を持たせることが大切である。
(二) いじめられている子どもの立場に立った親身の指導を行うこと
いじめは、外からは見えにくい形で行われることが多く、いじめやその兆候を見逃してしまう危険性が高い。また、いじめられている子どもは、いじめを認めることを恥ずかしいと考えたり、仕返しを恐れるあまり、いじめの事実について尋ねても自ら否定するといったように、人に打ち明けられず悩みを抱え込んでいることも多い。
したがって、いじめの問題の対応に当たっては、子どもの苦しみや辛さを親身になって受け止め、子どもが発する危険信号を、あらゆる機会を通じて鋭敏に捉えるよう努めることが大切である。その際、いじめであるか否かの判断は、あくまでもいじめられている子どもの認識の問題であるということを銘記し、表面的・形式的な判断で済ませることなく、子どもの立場に立って細心の注意を払い、親身の指導を行うことが不可欠である。
(三) いじめの問題は、教師の児童生徒観や指導の在り方が問われる問題であること
一般に、いじめは、学校生活において、弱い者、集団とは異質な者を攻撃したり排除しようとする傾向に根ざして発生することが多い。このような傾向は、我が国の社会一般にも存在する問題ではあるが、特に学校をめぐっては、教師が単一の価値尺度により児童生徒を評価する指導姿勢や児童生徒に対する何気無い言動等に大きな関わりを有している場合があることに留意すべきである。
このため、学校においては、あくまで児童生徒一人一人を多様な個性を持つ、かけがえのない存在として受け止め、教師の役割は児童生徒の人格のより良き発達を支援することにあるという児童生徒観に立つ必要がある。
このような児童生徒観の下に、道徳教育、こころの教育等の推進を通じて、お互いを思いやり、尊重しあう態度等の涵養を行うことが重要である。
(四) 関係者がそれぞれの役割を果たし、一体となって真剣に取り組むことが必要であること
いじめの問題をめぐっては、ともすると親や教師等の関係者がそれぞれの立場から、学校の指導の在り方、家庭の養育態度、さらには社会の風潮の問題等に原因・背景があるとして、その責任を他に転嫁し合うという形で議論が拡散し、対応に実効性を欠くきらいが見られた。もとより、いじめの原因等について検討することは必要なことではあるが、最も大切なことは、子ども一人一人の豊かな成長への願いを共有しながら、関係者全てがそれぞれの立場から、いじめの問題に一体となって取り組み、その早急な解決を図ることである。
(五) いじめは家庭教育の在り方に大きな関わりを有していること
家庭は、子どもの人格形成に第一義的な責任を有しており、いじめの問題の解決のために極めて重要な役割を担っている。一方、近年、都市化、核家族化等家庭や家族を取り巻く社会環境の著しい変化の中で、家庭の教育機能の低下やしつけの不徹底といった状況が生まれており、これらがいじめの背景の一つとして指摘されている。いじめの問題を解決するためには、各家庭において、いじめの問題の持つ重さと家庭の教育的役割の重要性を再認識することが強く求められる。
[2 学校における取組]
(一) 実効性ある指導体制の確立
@ 学校を挙げた対応
いじめの問題への対応について、教師の対面等を気にするあまり、いたずらに学級内のみでの問題解決に固執し、適切な対応の機会を逸したり、逆に自分の学級以外の問題への対応に消極的であることは、決して許されるべきことではない。もとより、いじめの早期発見と解決に当たっては、まず、学級担任の自覚と責任を持った指導が重要である。しかしながら、いじめは外からは見えにくいなどといった特質があり、また、当該教員の知識や経験等によっては、いじめの問題の解決を困難なものとする場合もある。したがって、生徒指導主事や学年主任などがその役割を十分に果たすことはもとより、日頃から学校全体で児童生徒の生活実態のきめ細かな把握に努め、教職員相互間において緊密な情報交換による共通理解の下に連携協力を行うことが肝要であり、職員会議の積極的な活用を図るほか、各学校の実態に応じて、全校的な組織を設けて対応に当たるなど、校長のリーダーシップの下に、一致協力して責任を持って取り組むことが必要である。また、学校は、いじめがあるのではないかとの問題意識を持っていじめの実態や学校の取組の体制等について不断の点検を行っていくことが必要である。
A 実践的な校内研修の実施
いじめの問題を解決するためには、教師一人一人が児童生徒の発達段階について正しい理解を持つとともに、カウンセリングに関する知識・技法等児童生徒の心の問題に適切に対応できる能力を身に付けることが大切である。これらについては、教師の養成、採用、研修の各段階を通じて、総合的な配慮が必要であるが、当面の課題に対応するために、各学校においては、いじめの問題についての教職員の共通理解と指導力の向上を図るために、全教職員の参加により、事例研究やカウセリング演習など実践的な内容を持った校内研修を積極的に実施する必要がある。その際には、カウンセリング等に関し専門的な知識・経験を有する外部の講師を積極的に活用していくべきである。
B 養護教諭の積極的な位置付け
養護教諭は、悩みを持っている児童生徒の『心の居場所』としての役割を果たしているという実態がある。養護教諭は、保健室での児童生徒の様子からいじめの兆候に気付くことも多く、また、児童生徒の心身の健康に関する指導に当たる立場にあること等から、各学校の実情に応じ、養護教諭を生徒指導に関する校内組織に加えるなど校務分掌上より適切に位置付けるとともに、養護教諭が得た情報が学校全体で共有され、いじめの問題の解決に有効に活用されるような工夫と配慮が必要である。
C 保健主事の役割の重視
いじめの問題を解決する上では、学校において児童生徒の心の健康についての指導体制を充実することが極めて重要である。保健主事は、学校保健管理の要として、学校保健計画の策定等の保健に関する企画立案、連絡調整など学校保健において大きな役割を果たすものであり、いじめの問題への対応においても積極的な取組が期待される。このため、保健主事は、いじめの問題の解決に向けて、児童生徒の心の健康に関する校内研修を企画し、心の健康教育の重要性についての教員の認識を深め、実践力を高めるとともに、学校医、保健関係機関等との連携、協力を図るなど、その役割を十分に果たしていくことが必要である。また、各学校の実情に応じ、養護教諭がこれにふさわしい十分な資質・能力を有する場合にあっては、教諭のみでなく養護教諭を保健主事に充てるなどにより、保健主事により適切な人材を確保するよう努める必要がある。
D 関係機関等との連携の強化
いじめの問題への対応能力の一層の向上を図るために、各学校の実態に応じて、カウンセリング等に関し専門的な知識・経験を有する者や関係機関等との積極的な連携協力を行うことが必要であり、そのための一層の体制整備が望まれる。
(二) 事実関係の究明と、いじめる児童生徒に対する適切な教育的指導
@ 事実関係の究明
いじめの兆候を発見しても、往々にしていじめる側といじめられる側の主張に隔たりがあったり、いじめられる児童生徒からの訴えが弱いため、問題を軽視してしまうことがある。学校は、いじめを受けている児童生徒の心理的圧迫感をしっかりと受け止めるとともに、当事者だけではなく、その友人関係等からの情報収集等を通じた事実関係の把握を迅速かつ正確に行うことが必要である。
A 保護者とのきめ細かな連携
保護者からいじめについての訴えを受けた場合には、まず、親としての不安感や苦しみ等に謙虚に耳を傾け、学校への信頼関係の維持・回復に努めることが必要である。その上で、関係児童生徒の保護者の理解と協力も得ながら、きめ細かく適切な指導を行っていくことが必要である。
B いじめる側への指導
いじめを行った児童生徒に対しては、心理的な孤立感・疎外感を与えることなどがないように一定の教育的配慮の下に、いじめの非人間性に気付かせ、他人の痛みを理解できるよう教育的な指導が必要である。しかしながら、いじめの状況が一定の限度を超え、いじめられる側を守るために必要である場合には、いじめる側に対し出席停止の措置を講じたり、警察等適切な関係機関の協力を求め、厳しい対応を取ることも必要である。
また、児童生徒がいじめについて教師に相談あるいは通報したこと等によりかえってひどいいじめを受ける、あるいは新たないじめの対象となるというケースもしばしば見受けられ、こうした場合には、児童生徒は学校に対する信頼をなくし、孤立を深めるという結果につながることが多い。したがって、教師は、そういった児童生徒をきちんと守るといった姿勢を持つとともに、そのとき限りの指導に終わることなく、いじめが完全になくなるまで注意深く継続して徹底的に指導を行っていく必要がある。
C 児童生徒が自己存在感を持つことができる学級経営
いじめる側には、基本的な倫理観を身に付けていないといった問題のほかに、しばしば、学業不振等のはけ口として弱い者をいじめるといったことも指摘されるところである。このため、すべての児童生徒が自ら参加でき、分かりやすい授業を工夫するなど個に応じた指導に努めるとともに、学級の中で各自がそれぞれの役割を持ち、存在感を感じることができるようにするなど、学校における児童生徒の『心の居場所』作りに努める必要がある。
(三) 日々の触れ合いを通じた教育相談的活動の充実
@ 信頼関係の醸成
いじめられている児童生徒は、恥ずかしさ、いじめを訴えたことに対する仕返し、いじめている児童生徒への気遣い等から、いじめの事実を打ち明けることにためらいを覚えることが多い。教師が児童生徒の悩みを受け止めるためには、まず何よりも、全人格的な接し方を心掛け、日頃から児童生徒との温かな触れ合いをできる限り多く持つとともに、一人一人の児童生徒との心のチャンネルを形成するなど深い信頼関係を育むことが大前提となる。
また、その際、いじめを絶対に許さず、その排除に全力を挙げるとともに、いじめられている児童生徒を必ず守るといった姿勢を日頃から示すことが肝要である。
A 児童生徒や保護者と触れ合う時間の確保
いじめの早期発見のためには、児童生徒と接する機会を確保することが大切であるが、校務の多忙により、こうした機会を十分に持つことが困難であるとの声を聞くことがある。しかし、学校が子どもの教育の場であり、特にいじめは学校教育の根幹に関わる問題である以上、このような考え方は主客転倒と言わざるをえない。学校の運営はあくまでも、児童生徒を中心に考えるべきあり、会議や行事の見直し等校務運営の効率化を図りつつ、児童生徒や保護者と接する機会の確保と充実に努めることが大切である。
(四) 積極的な生徒指導の展開
@ 学校教育活動全体を通じた指導
生徒指導の本来的な意義は、積極的に全ての児童生徒の人格のより良き発達を目指すところにある。したがって、このような生徒指導の機能を、道徳の時間や各教科の指導の場はもちろん、学校生活の全ての場で十分作用させていくことが、ひいてはいじめの解決へとつながっていくことになる。
また、その際、お互いの個性や差異を認め合い、尊重する態度を育成するという観点に特に留意することが大切である。
A 集団活動や体験学習の推進
児童生徒が、明るくいきいきとした学校生活を送るためには、学級活動(ホームルーム活動)や児童会・生徒会活動など児童生徒の自主性・主体性を育む活動を通じて、児童や生徒の集団に内在する浄化機能を顕在化させるとともに、適切な集団生活を通じて良好な人間関係を育てることにより、連帯感を培うことが必要である。このような視点に配慮して学級活動を始めとする特別活動について年間の指導計画を見直すとともに、例えば、ロールプレイングなど教育相談に関する技法を取り入れた教育活動の工夫を行うなど、その内容の一層の充実を図ることが必要である。さらに、学校教育の中にボランティア活動や自然体験、異年齢集団での活動など人間関係や生活体験を豊かなものとする教育活動を取り入れ、児童生徒の社会性の涵養や情操を培うことが求められる。
B 生命尊重の教育
自らの命を絶つというような痛ましい事件が繰り返されることのないよう、児童生徒の発達段階に応じて、かけがえのない生命に対する畏敬の念を培い、生命を尊重する態度や生きる力を育む教育の充実を図る必要がある。
(五) 家庭・地域のより良きパートナーとしての努力
@ 開かれた学校
いじめの問題については、問題を学校のみで解決することに固執することなく、必要に応じ家庭や地域と共同して解決を図る姿勢が重要である。学校と家庭・地域との間には、児童生徒の豊かな成長発達を中核に据えて、真の連携協力関係が築かれることが大切である。したがって、学校においては、「開かれた学校」の観点に立ち、日頃から、学校の活動状況等について家庭や地域に対して理解を求める工夫を行うとともに、いじめの行為やこれに関連すると思われる児童生徒の学校外における行動等に関し学校に寄せられる情報に対し、誠意のある対応を行うことが必要である。
A 連携のための取組
学校においては、それぞれの実態に応じて、例えば、いじめの問題に関し学校と保護者や地域の代表者等との意見交換の機会を設けるほか、地域において広くいじめに関する情報を集める体制作りに心掛けるなど、校長のリーダーシップの下に意義のある連携協力関係の構築に向けた一層の取組が求められる。
[3 教育委員会における取組]
(一) いじめの問題の解決に向けた各学校の取組への支援
@ 恒常的支援
教育委員会においては、いじめの解決に向けた施策の一層の充実が求められるところであり、各学校の実態に応じて、校内研修への講師としての指導主事や教育相談の専門家の派遣、児童生徒や教員に対する相談事業の実施等きめ細かな支援を恒常的に行うことが大切である。
A 個別事件への支援
困難ないじめの問題を抱える学校に対しては、早急に担当指導主事等を派遣するなど、いじめの解決と正常な教育活動の確保に向けた指導・助言に当たることが必要である。
(二) 効果的な教員研修の実施
@ あらゆる機会を捉えた研修
これまでも、各教育委員会においては、生徒指導や教育相談に関する教員研修の充実に努めてきているところであるが、今後とも引き続き、初任者研修、中堅教員研修、管理職研修等あらゆる段階にわたり、できる限り多くの教員がいじめの問題に関する研修を受講できるよう取組の充実を図る必要がある。
A きめ細かな研修プログラム
その際には、学校において指導の中核となる生徒指導担当教員等に対し専門的・計画的な研修を受講させるなど、受講者の人選に配慮するとともに、管理職、養護教諭等受講対象者の区分に応じた効果的なプログラムを用意することが必要である。また、初任者研修における学級経営や生徒指導・教育相談に関する研修を一層充実させていくことも重要である。
B 研修内容・方法の工夫
研修内容・方法について、心理、医療等の様々な分野から講師を招いたり、講義形式のみに偏らない事例研究やカウンセリング演習を実施するなど、受講者が目的意識をもって実践的な知識・経験が得られるよう、さらに工夫することが必要である。
(三) 相談体制の充実
@ 相談体制の整備と周知
児童生徒や保護者、教師等が気軽に悩みを相談できるように、教育委員会や教育センターは相談体制の一層の整備・充実を図ることが必要である。特に、平成七年度地方財政措置が講じられることとなっており、これに伴う相談員の配置の促進が重要である。また、利用者のニーズを最大限に考慮した相談窓口の開設時間の工夫等を行うとともに、安心して相談できるよう活動内容などの周知広報に努めることが必要である。
A 相談機関と学校等との連携
単に相談活動だけでは悩みが解消されないような深刻ないじめの問題の場合には、相談機関から学校、教育委員会等への情報提供によって、適切に問題の解決が図られるよう、有機的な連携体制の構築に努める必要がある。
B 相談機関相互の連携
教育委員会においては、児童福祉、人権擁護、警察等の関係相談機関についても、その実情を把握するとともに、これらに関する情報を学校をはじめとする関係者に周知させることが必要である。また、これらと一層緊密な連携関係を強化するため、自らが中心となって、定期的な情報交換・研究協議の機会を設けるとともに、機関相互における人材の有効活用等の工夫を行うことなどが期待される。
C 相談担当者の資質向上
いじめなど児童生徒の心の問題に適切に対応するため、教育センターにおける相談担当職員のための高度で専門的な研修等を実施し、教育相談担当者の資質の向上を図ることが求められる。
(四) 関係団体との連携協力による多様な教育活動の充実
児童生徒が豊かな生活体験を積み、健全な人間関係を育てていくためには、青少年関係団体等とも協力しながら、学校外における多様な体験活動や集団活動の機会を積極的に提供していく必要がある。特に、地域における異年齢間の交流事業の実施や青少年教育施設等の利用の促進等は効果が大きいものと考えられ、これらへの参加や利用について学校や家庭に積極的に働きかけることが大切である。
(五) 家庭の教育力の活性化への支援
いじめの問題の解決に当たって、家庭の果たす役割は重要であり、その教育力の活性化を図るためには、保護者や地域の人々のための啓発活動や支援方策を工夫する必要がある。すなわち家庭教育の重要性、いじめの背景にある家庭、社会の問題、しつけの重要性、子育ての課題等について分かりやすく学ぶことのできるような、様々な学習機会や情報の提供、相談体制の整備、父親の家庭教育への参加支援等家庭の教育機能の充実を図る施策の推進が望まれる。
[4 家庭における取組]
(一) 家庭教育の重要性の再認識
いじめの問題の背景には、いじめる側や傍観者に思いやりや他者の痛みが分かる心、善悪の判断、弱い者を助ける勇気、正義感、遵法精神等が欠落している点があるものと考えられる。各家庭は、このような人間として備えるべき基本的な生活習慣・態度等を身に付けさせる第一義的な責任は、まず家庭にあるとの自覚を持つ必要があり、また、このような観点から、常に子どもの生活態度を見直してみることが大切である。
(二) 子どもにとって真の『心の居場所』となる家庭づくり
家庭は、何でも率直に語り合える深い信頼関係で結ばれた親子関係によって支えられた、子どもにとって真にやすらぐことのできる場所でなければならない。そのためには、子どもの日常生活に十分に目を配るとともに、子どもと一緒にいる時間や話す機会を持つなど子どもを理解しようと努めることがまず大切である。また、狭い尺度で子どもを評価せず、広く大きな視野から子どもの成長を温かく見守り、その子どもの持つ特性・個性を十分に伸長するよう、手を差しのべていくことが必要である。
(三) 地域活動への親子での積極的な参加
ボランティア活動や地域における行事等に親子で積極的に参加することによって、共通の体験を通じて親子の絆が強まり、信頼関係が深まるとともに、子ども自身の生活体験や人間関係がより豊かなものとなることが期待される。さらに、これらの行事への参加を通じて、地域における保護者同士の連携の強化や、子育てに関する情報交換等の効果も期待される。
[5 国における取組]
(一) 教育委員会や学校における指導体制を充実させるための支援
国においては、教育委員会や学校におけるいじめの問題への取組を支援する施策の一層の充実を図っていくことが期待されるところである。
各学校における指導体制の充実のためには、中・長期的には、教員養成段階における生徒指導・教育相談に関する指導の在り方、生徒指導に係る教員配置などの一層の改善・充実に努める必要がある。しかしながら、まず、今日におけるいじめの問題への当面の対応として、教育委員会における教育相談に関し専門家を活用すること等について積極的に指導、援助を行うことが必要である。
また、学校における指導体制の充実・強化を図る上で、学校保健管理の要である保健主事により適切な人材を確保できるようにすることは、いじめの対策においても重要な意義を持つものと考えられることから、学校の実情に応じ、教諭のみならず、養護教諭も保健主事に充てることができるような措置を講じることによって養護教諭が学校全体のいじめ対策においてより積極的な役割を果たせるようにする必要がある。また、養護教諭に対する研修の充実のための措置を講じることなども重要である。
さらに、いじめの問題に対する基本的な認識、効果的な指導方法等について分かりやすく解説した教師用の指導手引書の作成・配布について検討を行う必要がある。
(二) 教員研修の効果的実施
現在、文部省によって、生徒指導や教育相談を担当する者の指導力の向上を図るため、いじめに対する指導の在り方、カウンセリングの理論とその演習、事例研究等について研修講座が実施されている。
いじめの問題に関する教員研修の重要性については既に指摘したとおりであり、文部省においては、今後とも、各教育委員会が行う教員研修や学校における実際の指導に当たって中核的・指導的な役割を果たせるような人材を育成する観点から、国レベルの研修の内容、対象、実施方法等について一層の充実を図ることが必要である。
(三) 教育相談体制の充実
いじめの問題の解決に果たす教育相談機関の役割は重要であり、国においても、子どもや保護者はもちろん、教育相談関係者などからの相談に応じられる体制の整備を図るとともに、いじめの問題に関する事例や全国のいじめの問題に関する相談窓口などの情報をデータベース化し、これを積極的に関係機関等へ提供していくことなどが求められている。このような観点から、平成七年度から国立教育会館に設置される予定の「いじめ問題対策センター(仮称)」の果たす役割は極めて重要であり、その早急な整備が望まれる。また、学校におけるカウンセリング等の機能の充実を図るため実施することとしている「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」について、早期かつ効果的な実施が望まれる。
(四) 家庭教育関連施策の充実
いじめの問題の解決に当たっては、家庭における教育が極めて重要な役割を担っていることから、家庭の教育力の活性化のための取組を支援していくことは大切なことであり、国においても、親に対する学習機会の提供、家庭教育に関する情報提供や相談体制の整備などの施策を一層充実させていくことが望まれる。
[6 社会における取組]
いじめの問題は、物質的な豊かさの中で、他人を思いやることのない自己中心的な風潮、人間相互の連帯感の希薄化など今日の社会状況が一つの背景であると指摘されている。我々一人一人が、このことに対して十分な認識を持つとともに、それぞれの立場でその責務を自覚し、まず可能な取組から着手することが肝要である。
特に、情報化社会の進展の中で、諸メディアが子どもの成長発達に与える影響は極めて大きいものがあるが、その内容が子どもの豊かな人間性の涵養の観点から不適切なものとならないよう、関係者の理解と協力をお願いしたい。
また、身近で行われている子どものいじめ、非行などについて無関心な大人も多く見られるが、未来を担う子どもの健やかな成長を社会全体で支援することの重要性について、一層の自覚が求められるところである。
[おわりに]
いじめの問題への取組に関する本会議による検討は、この報告の取りまとめをもって終了するものであるが、もとより本報告は、いじめの発生の防止や問題の解決について全ての視点や方策を網羅したものではない。文部省の「児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議」においても、児童生徒、保護者、教師を対象としたアンケート調査や事例研究等を踏まえた検討が行われており、本報告も踏まえた総合的な検討がさらに進められることを期待する。
関係者においては、このような検討の結果を待つことなく、まず、この報告で示したような取組について、出来ることから直ちに着手するとともに、既に行っている取組についてはそのさらなる充実に努めることが強く求められるところである。
いじめの問題への取組についての調査結果について(略)
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