● 教員採用等の改善について 平成8年4月25日 文教地170



平八、四、二五 文教地一七〇 
各都道府県・指定都市教育委員会教育長あて 
文部省教育助成局長通知

     教員採用等の改善について

 教員採用等については、かねてから各教育委員会において、その改善に努めておられるところですが、近年の教員採用の状況や学校教育上の課題の変化に適切に対応するため、教員採用等の改善を更に進めることが求められております。
 このことにかんがみ、文部省においては、関係者の協力を得て、教員採用等に関する調査研究を行ってきましたが、このたび、別添のとおり(略)、「審議のまとめ」がなされたところであります。
 同まとめにおいては、人物評価を重視する方向に採用選考の在り方をより一層移行させ、選考方法の多様化、選考尺度の多元化を図ることを求めており、その観点に立った具体的改善方策を提言しているところであります。
 ついては、貴職におかれては、同まとめの趣旨を参考に、下記の事項に留意の上、教員採用等の改善を一層積極的に進められるようお願いします。

          記

一 教員採用等の改善の基本方向について
 ア 学校教育における指導の在り方の質的変化や生徒指導上の諸問題に適切に対応するため、学校には様々な資質能力や体験を持つ人材が求められており、必ずしも知識の量のみにとらわれず、個性豊かで多様な人材を幅広く教員として確保していくことが必要であること。
 イ このため、筆記試験の成績を重視するよりも人物評価重視の方向に採用選考の在り方を一層移行させ、選考方法の多様化、選考尺度の多元化の観点から、教員採用等について積極的な改善を図っていくことが必要であること。

二 採用選考方法の改善について
(1) 選考における評価の在り方
 選考における評価については、知識の量の多い者や記憶力の良い者のみが合格しやすいものとならないよう配慮し、教育者としての使命感、豊かな体験に裏打ちされた指導力など受験者の資質能力を多面的に評価するよう人物評価重視の観点に立ち、その在り方を一層改善すること。
 その際、スポーツ活動、文化活動、ボランティア活動や大学等における諸活動の実績などを評価する選考方法の改善を一層進めるとともに、その有効な評価の在り方について検討すること。
 また、民間企業経験者や教職経験者について、その社会経験を適切に評価する選考方法を検討すること。
 なお、選考における評価の在り方の改善を行う場合、次の事項にも配慮すること。
 ア 筆記試験の比重の置き方
 筆記試験とその他の選考方法の比重の置き方の見直しについては、学校種別ごとの特性を十分に踏まえ、例えば、二次試験の選考において一次試験の筆記試験の結果を考慮に入れないこと、筆記試験で一定程度の成績を修めた者の中から、面接・論文試験の成績上位者、スポーツ活動等の諸活動の実績や社会経験を評価して採用することなどの方法が考えられること。
 イ 教員実習の評価
 人柄や意欲、教員としての実践的指導力を見極めるため、教育実習校における評価を含めた教育実習の評価を採用選考に活用することが有効であると考えられること。
 このため、大学等教員養成機関や教育実習校との連携を密にして、教育実習の実施時期をできるだけ早くすることやその評価をできるだけ客観的なものとするよう工夫するなど、条件を整備するとともに、その条件整備の状況を勘案しつつ、教育実習の評価を選考における判断の資料として活用するよう努めること。
 ウ 大学等からの推薦
 人物評価を多面的に行うため、受験者の出身大学から人物等に関し推薦状を受けたり、あるいは、社会活動の実績がある者について当該関係機関から活動の期間、内容等に関し推薦状を受けるなど、受験者の人柄や能力をよく知る者からの推薦を選考の一つの判断資料とする方法も考えられること。
 エ 受験年齢制限の緩和
 教員に豊かな体験を有する多様な人材を確保するため、教員の年齢構成の現状などの実情を踏まえつつ、受験年齢制限の緩和を図るよう努めること。
(2) 定員を区分した選考の実施
 選考における尺度の多元化を図り、受験者の資質能力を様々な側面から評価していくための方法として、(1)で示した事項に加え、採用選考合格者の枠を区分して複数の尺度に基づく異なる選考方法を実施することを検討すること。
 このため、例えば、合格定員の一部ごとに筆記試験や面接試験等の比重の置き方を変えたり、論文試験・実技試験等各種選考方法のうち特に重視する部分を設けたりすることや諸活動の実績や社会経験等を評価した選考について定員を区分した選考を実施することが考えられること。
 また、スポーツ、文化の分野において特に秀でた技能・実績を有する者など特定の者に対する特別選考の導入も検討すること。
(3) 試験問題、面接方法の改善等
 試験問題、面接方法等については、次の事項に留意して、更にその改善に努めること。
 ア 試験問題
 筆記試験の試験問題については、知識の量、記憶力を問うものや、過度に高度な専門的知識を問うものに偏らず、広く教員として求められる資質能力を見極めることが可能な良問を継続的に作成するよう努めること。
 イ 面接試験
 面接試験については、面接機会の複数化や面接時間の十分な確保を図るほか、特定の課題に対する意見発表、集団討論の実施等一層の工夫改善に努めること。
 また、面接に当たっては、多様な構成により、幅広い視点から面接を行える者を確保するとともに、面接者に対しては、面接の手法や技術についての研修を実施するなど、人物評価に関する能力を高めるよう努めること。
 ウ 実技試験等
 実技試験については、例えば、英語に関するコミュニケーション能力や理科の実験指導、職業に関する教科の実習指導など指導力を適切に評価するための試験の導入も進めること。
 また、教員としての実践的指導力を適切に評価するため、模擬授業や指導案の作成などを、多様な選考方法の一つとして導入するよう配慮すること。

三 教員採用を実施する上での体制等の整備
(1) 採用スケジュールの早期化
 募集・選考・内定の時期等、採用スケジュール全体の早期化に一層努めること。
 特に、採用内定時期については、就職協定等企業と大学等との間の取り決めの趣旨に留意しつつ、できる限り早い時期とするよう努めるとともに、段階的に内定通知を行うなど、早期に内定を行う者の比率を高めるための内定方法の工夫について配慮すること。
(2) 採用者数平準化のための計画的教員採用・人事
 教員に優秀な人材を確保し、年齢構成に配慮していくためには、できるだけ採用者数の平準化を図ることが必要であり、このため、中長期的視野から退職者数や児童生徒数の推移等を的確に分析・把握した計画的な教員採用・人事を行うよう努めること。
 その際、学校種別ごとの採用区分の弾力化、学校種間や他の都道府県等との人事交流の促進などにも配慮すること。
(3) 広報活動の充実、選考方法等についての情報提供
 ア 教員の具体的職務内容や教員に採用された者の体験談などを知る機会を提供するなど、教員へ優秀な人材を確保するための広報活動をより一層充実していくこと。
 イ 選考方法、日程等採用選考試験に関する情報については、募集パンフレットや大学での説明会等において、詳細かつ早期に教職志願者に提供するよう配慮すること。
(4) 教員採用等の改善についての調査検討体制の整備
 ア 試験問題作成の継続的な取組、面接担当者の確保と資質の向上等を含め、採用選考方法の改善方策については、継続的に調査、検討を行っていくことが必要であること。
 改善に当たっては、それぞれの選考方法に関し、その判定と採用後の勤務実績等の関係などの実証的な分析を行い、その結果をもとに更に選考方法の改善を行っていくことが望ましいこと。
 特に適性検査については、そのより効果的な活用に資するため、判定結果の有効性について研究していくことが必要であること。
 イ 教員採用等の改善に関する情報収集、分析や調査検討を組織的・継続的に行うための体制整備に一層努めること。

四 その他留意すべき事項
(1) 教員養成機関と教育委員会の連携
 ア 教員養成機関で培われた資質能力を教育委員会が採用選考で適切に評価し、一方、教員養成機関が学校運営の実情を一層理解していくためには、教員養成機関と教育委員会の定期的な協議の場を充実させ、両者が十分連携することが必要であること。
 このため、既に実施されている教員の資質向上連絡協議会の場を積極的に活用するなどの方法が考えられること。
 その際、採用選考試験の方法、教育実習の在り方、教員採用に係る中長期的な需要動向等について、意見交換・協議を継続的に行うよう配慮すること。
 イ 教員養成機関と教育委員会が連携協力を深めるための方策として、教育研修センターの講師としての大学教員の活用、大学の講師としての公立学校教員の派遣協力、教員養成に関係する大学院の講座等を教育委員会の主催する各種研修の計画に組み入れることなども考えられること。
 また、教員養成機関と教育委員会との連携協力により、学生と児童生徒が直接触れ合う機会や、学校運営の実情を学生に体験させる機会を設けることにも配慮すること。
(2) 身体に障害のある者への配慮
 身体に障害のある者について、単に障害があることのみをもって教員採用選考において不合理な取扱いがなされることのないよう、選考方法上の工夫など適切な配慮を行うとともに、その工夫の内容等について広く教職を目指す者が了知しうるよう広報周知に努めること。





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