● 高等学校の入学者選抜の改善について 平成9年11月28日 文初高243
平九、一一、二八 文初高二四三
各都道府県教育委員会、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学長あて
文部省初等中等教育局長通知
高等学校の入学者選抜の改善について
標記の件については、平成五年二月二二日付け文初高第二四三号「高等学校の入学者選抜について」を踏まえ、各都道府県・高等学校等において、選抜方法の多様化と選抜尺度の多元化の観点から、改善のための様々な取組をいただいているところですが、平成八年七月一九日に、中央教育審議会から出された「二一世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」においては、完全学校週五日制の下で、子どもたちに〔ゆとり〕を与え、〔生きる力〕を育成するためには、過度の受験競争の緩和が必要であり、この観点から、高等学校入学者選抜について、今後一層改善が進められることが強く望まれると指摘されています。
そして、本年六月二六日には、中央教育審議会から、「二一世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第二次答申)」が出され、この中で、高等学校の入学者選抜の改善等について具体的な提言がなされました。
また、今月一七日には、教育課程審議会から、「教育課程の基準の改善の基本方向について」中間まとめが公表され、この中で、「教育課程の基準の改善のねらいの実現は、これに関連する教育条件の改善等に負うところが大きい」として、上級学校の入学者選抜の改善を図る必要があるとされております。
本年六月二六日の中央教育審議会第二次答申における高等学校の入学者選抜に関する部分は別添のとおりですが、入学者選抜の改善が極めて大きな意義をもつものであることを踏まえ、貴職におかれては、特に左記の点に留意いただき、一層の改善が図られるようお願いします。
なお、都道府県教育委員会にあっては管下の学校及び各市町村教育委員会に対して、都道府県知事にあっては所管の学校法人及び私立学校に対して、国立大学長にあっては管下の学校に対して、この趣旨の徹底を図るようお願いします。
記
一 高等学校の入学者選抜の現状について
(一) 高等学校入学者選抜については、第一四期中央教育審議会の答申(平成三年四月)や「高等学校教育の改革の推進に関する会議」の報告(平成五年一月)等を踏まえ、各都道府県・学校等において、改善のための努力が進められてきているが、いわゆる「影響力のある特定の高等学校をめぐる受験競争は依然として厳しく」、また、選抜方法は「狭い意味での学力の評価に重点が置かれるなど画一的な点が多い」などの状況にあると考えられること。
(二) このような状況を踏まえ、中学校以下の教育に与えている影響を直視し、いわゆる影響力のある特定の高等学校をはじめ、全体として、選抜方法の多様化、評価尺度の多元化の観点に立った入学者選抜の改善を一層進めていく必要があること。
また、その際は、各高等学校においては、「いかに自校にふさわしい者を選抜するか」という視点とともに、「多様な能力・適性や意欲・関心を持つ生徒が、いかに自分に合った進路を的確に選択できるようにするか」という視点を重視して、入学者選抜の一層の改善に向けた努力を傾注すべきであること。
二 高等学校の入学者選抜の改善等のための今後の取組について
(一) 入学者選抜の改善について
ア 第二次答申においては、学力検査について、「一点の差を争わせるのではなく、一定以上の点数が取れれば足りるという基本的な考え方に立って取り扱うことが望まれる」、「生徒の多様な能力・適性、意欲、努力の成果や活動経験などを様々な観点から評価していく場合、一点差刻みで合否を決することに意義を見出すことはできない」、「各高等学校において自校の教育を受けるのに適当と考える水準に達していれば、ある程度の幅を持って合格とする」などの指摘がなされている。これらの指摘を踏まえ、具体的には、学力検査において一定以上の点数を得ていれば、他の資料によって選抜を行っていくという方法等が広く進められるべきであること。
イ 学力検査の問題については、単に知識の量を問うような問題はできるだけ避け、思考力や分析力などを問う問題の出題を一層工夫すること。また、教科の枠にとらわれない総合問題についても研究を進めていくことが望まれること。
ウ また、入学者選抜の資料・方法について、調査書と学力検査の比重の置き方の弾力化、調査書の評価の工夫、小論文・面接・実技検査の実施、各種技能審査や学校内外における文化活動・スポーツ活動・ボランティア活動などの積極的な評価と、そのための地域の社会教育関係団体等からの報告の活用、生徒が進学動機や中学校時代に主体的に学んだ事柄等を自ら記述した書類の活用、推薦入学の積極的な活用と改善など、様々な提言が行われており、これらの提言を参考としつつ、一層の選抜方法の改善に努めること。
エ 登校拒否の生徒については、進学動機等を自ら記述した書類など調査書以外の選抜資料の活用を図るなど、より適切な評価に配慮すること。また、障害のある者については、障害の種類や程度等に応じて適切な評価が可能となるよう、学力検査の実施に際して一層の配慮を行うとともに、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を図ること。
オ 公立高等学校については、入学者選抜の改善が都道府県レベルの取組にとどまらないよう、各都道府県教育委員会が、一定の範囲で具体的な選抜方法について各高等学校の判断に委ねることも検討すること。
また、各高等学校において、入学者選抜の改善に具体的に取り組む際には、同一学科の入学定員を区分して、部分的に異なる選抜方法を導入するなどの取組についても工夫すること。
カ 一部の国私立の高等学校及び・中学校において、いわゆる難問奇問など、中学校及び小学校の学習指導要領の趣旨を逸脱した出題がなされていることが、受験のための知識を詰め込む傾向や学校教育と受験勉強の乖離を招くなど、中学校以下の教育に多大の影響を与えていることに鑑み、その是正を図ること。
(二) 進路指導の改善等について
ア 高等学校への進学に関する進路指導については、各高等学校の校風や教育内容の特色を踏まえて、生徒が自らの生き方を考え、目的意識を持って主体的に自己の進路を選択・決定するという方向に一層の改善を進めること。
イ 高等学校及び・中学校は、相互の連携協力を密にして、各高等学校の校風や教育内容、入学者選抜についての情報を、生徒や保護者に積極的に提供するとともに、高等学校等への体験入学を行うなど啓発的な体験を積極的に取り入れること。
また、各都道府県及び市町村教育委員会等においては、中学校や生徒・保護者に対する情報提供体制を整備していくこと。
特に、前記(一)を踏まえて各高等学校で進められる入学者選抜方法の改善内容については、中学校や生徒・保護者に正確な情報を提供するよう留意すること。
ウ 入学者選抜の改善を進めていくために、各都道府県において、行政の支援の下、国公私立の高等学校と中学校の関係者による連絡協議体制を整備し、入学者選抜の在り方に関する両者の相互理解と恒常的な連絡協議の場として積極的に活用していくこと。早期化の傾向が見られる入学者選抜の時期については、このような場を積極的に活用することなどにより、中学校教育への支障がないよう適正化に努めること。
三 高等学校教育の多様化と柔らかなシステムの実現について
ア 過度の受験競争の背景の一つである高等学校間の序列意識の問題については、各高等学校が、教育内容の個性化や多様化を進め、特色を発揮し、魅力ある校風を育んでいくことを通じて、その改革を促していくことが必要であること。
イ 過度の受験競争を緩和するためには、高等学校教育を受ける機会を広く確保していくことを可能とし、高等学校教育全体を柔らかなシステムとしていくことが重要であり、こうした観点から、生徒が積極的な進路変更を希望する場合の学校間あるいは学科間の移動や、保護者の転勤や帰国等に伴う転入学や編入学の受入れを一層積極的に認めること。また、高等学校の中途退学者の受入れや高等学校を休学して社会経験等を経た後の復学、中学校卒業後に社会経験等を経た者などの受入れについても柔軟に対応すること。
ウ 高等学校の個性化・多様化を進めるとともに、高等学校における生徒の柔軟な受入れを実現するため、単位制高等学校や総合学科の一層の整備を図っていくこと。
また、学校間の序列意識を解消していくためにも、他の高等学校等において学習する機会を拡充することは大きな意義をもつものであり、高等学校相互の学校間連携等を更に積極的に推進すること。
別添(略)
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