● 「心のノート」について(依頼) 平成14年4月22日 14文科初第125号


14文科初第125号 平成14年4月22日
各都道府県教育委員会教育長 殿
文部科学省初等中等教育局長(矢野重典)


          「心のノート」について(依頼)


 このたび、文部科学省では、「心のノート」を作成し、全国の小・中学生に配付することとしました。「心のノート」は、児童生徒が身につける道徳の内容をわかりやすく表し、道徳的価値について自ら考えるきっかけとなるものであり、学校の教育活動全体において活用され、また学校と家庭等が連携して児童生徒の道徳性の育成に取り組むよう活用されることを通して、道徳教育の一層の充実を図ろうとするものです。
 つきましては、下記に示す「心のノート」の趣旨及びその活用の仕方等を参考にして、学校の教育活動全体及び家庭において、有効かつ適切な活用がされるよう、所管の学校に対する指導をお願いします。
 また、市区町村立学校において、下記の趣旨等を踏まえた有効かつ適切な活用がされるよう、市区町村教育委員会に対して指導をお願いします。
 なお、後日、教師用活用の手引きを送付しますので、併せて活用願います。

                    記

1 趣旨

 今日の我が国の教育において、「生きる力」の育成が重要な課題となっている。その「生きる力」の核となる豊かな人間性の育成を担う柱として、道徳教育の充実が、従来にも増して強く求められているところである。生命を大切にする心や他人を思いやる心、物事の是非・善悪といった規範意識などをしっかりと身につけさせるとともに、家庭や地域社会との連携を図りながら、豊かな体験を通して児童生徒の内面に根ざした道徳性を育成することが重要である。
 「心のノート」は、児童生徒が身につける道徳の内容を、児童生徒にとってわかりやすく表し、道徳的価値について自ら考えるきっかけとなるものであり、学校の教育活動全体において活用され、また、学校と家庭等が連携して児童生徒の道徳性の育成に取り組むよう活用されることを通して、道徳教育の一層の充実を図ろうとするものである。
 すなわち、「心のノート」は、児童生徒一人ひとりが、このノートを手に取り、様々な時間や場で、道徳的価値や人間としての生き方にかかわって気付いたことなどを、このノートや自らの心に記録したり、整理したりすることを通して、児童生徒が自ら道徳性をはぐくみ、人間としてよりよく生きることに資する教材である。

2 「心のノート」の趣旨を生かした活用

 「心のノート」は、学校での道徳の時間をはじめ、各教科、特別活動及び総合的な学習の時間や家庭での話し合いの場などで、広く活用できるものである。
 学校の教育活動や家庭における、「心のノート」の趣旨を生かした創意ある活用を通して、@児童生徒が身につける道徳の内容を知り、興味・関心をもって授業や、生活等に意欲的に取り組むことができる A児童生徒一人ひとりが継続的に活用することにより、自己の道徳的成長を実感したり、それを記録したりすることができる B様々な体験的活動を道徳教育の観点から捉え、体験活動及びこれらを通じた道徳教育を一層充実させることができる C児童生徒の道徳性を育成するための、教職員全体の共通理解による指導体制づくり及び学校と家庭の連携が促進できる、などが期待される。

(1)学校の教育活動全体を通じての活用

(a)道徳の時間における活用
 児童生徒が身につける道徳の内容をわかりやすく表すというこのノートの趣旨から、学習指導要領に定める道徳の内容(小学校低学年15項目、中学年18項目、高学年22項目、中学校23項目)について、児童生徒の発達段階や実際の道徳の授業の展開等をも考慮し、例えば道徳的価値についての理解を確実にすること、実践することを促したり実践した内容を自ら整理すること、自らの生き方を考えること、発達段階に応じて保護者が協力することなどに配慮した編集をしている。
 これらを生かした活用がなされることにより、@児童生徒が自主的に学習に臨むことにより、主題に対する興味・関心を高め学習への意欲を高めることができる A副読本などの内容や道徳的価値について、児童生徒の理解を深めたり、学習した内容をまとめたり、考えを整理したりすることを助けることができる B児童生徒が道徳の時間の学習を継続的に振り返ることができ、また自らの心の成長を記録することができる、などが期待される。

(b)各教科等における活用
 各教科等の学習活動の中には、道徳教育にかかわる内容や活動が含まれており、各教科等の指導の過程において、それぞれの特質に応じた道徳教育も併せ行われている。
 各教科等における道徳教育に「心のノート」をより生かすためには、自校の道徳教育の全体計画などについて、教職員の共通理解を深めるとともに、教科等の目標や内容について、道徳教育との関連を改めて明確にしておく必要がある。
 後日配付予定の教師用活用の手引きにおいても、教科等との関連を示す予定であり、それをも参考にしてこのノートが活用されることが期待される。

(2)学校と家庭との連携による活用
 「心のノート」は、学校と家庭が連携して児童生徒の道徳性を育成する上でも有効に活用できる、いわば学校と家庭との架け橋的な性格も有するものである。保護者が児童生徒の発達段階に配慮しながら、一緒にこのノートを開き、前向きな言葉かけや、書き込み、話し合いをすることなどを通して、家庭においても児童生徒の道徳性の育成に取り組まれるとともに、学校における道徳教育について保護者の理解を得ることが期待される。

3 「心のノート」の活用に当たっての留意事項等

(1)「心のノート」は、教科書ではなく、道徳の時間に活用される副読本や指導資料等に代わるものでもなく、これらの教材と相まって活用されることにより、道徳教育の充実に資する補助教材である。「心のノート」のみをもって道徳教育を行うというものではないことに留意し、今後とも、児童生徒の心に響く効果的な教材の活用に努めることが必要である。
(2)「心のノート」は、児童生徒の発達段階に応じ、継続的に道徳の学習が発展できるように工夫しており、自分のノートを自分で作っているという意識が生まれ、このノートを介して心の成長が実感できるようにしていくことが大切である。例えば、記入する部分については、「心のノート」に直接記入してもよいし、別途記入するノートを持つといった工夫も考えられる。
 いずれにせよ、児童生徒が主体的に学習し、自ら道徳性をはぐくんでいくことができるよう、指導に当たっては十分に配慮することが大切である。
(3)「心のノート」の活用に当たっての教師や保護者等のかかわり方については、児童生徒の発達段階等を十分に考慮する必要がある。



------------------------------------------------------------

<配付資料>

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官
国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官
(柴原弘志)


           「心のノート」の活用に当たって


1 「心のノート」作成の背景
 「人格の完成」を目指して取り組まれている我が国の教育において、今日求められているのは、「生きる力」の育成である。その「生きる力」の核となる豊かな人間性の育成を担う柱して、道徳教育の重要性は、従来にも増して広く意識され、その充実が強く求められているところである。そこでは、生命の大切さや他人を思いやる心、物事の是非・善悪といった規範意識などをしっかりと身に付けさせるとともに、家庭や地域社会との連携を図りながら、豊かな体験を通して児童生徒の内面に根ざした道徳性の育成が求められている。
 言うまでもなく、道徳教育の目標は、児童生徒の道徳性の育成である。人間らしいよさであり、道徳的諸価値が一人一人の内面において統合されたものといえる道徳性の育成を目指して、道徳の時間をかなめとしつつ、教育活動全体を通じて、道徳性の諸様相である道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度などを養うことである。そこでは、児童生徒が、自らの体験を基盤に、自己を見つめ、自己と他者あるいは自然などとのかかわりについて深く考えることを通して、人間として生きていくうえで大切にすべきこと、すなわち道徳的価値の自覚を深め、その道徳的価値に裏打ちされた人間としての生き方についての自覚を深めることによって、自ら道徳性をはぐくめるようにすることが求められている。
 そこで、児童生徒が、自ら道徳性をはぐくむためのものとして、学習指導要領には、それぞれの発達段階や道徳的課題を考えた基本的な内容が示されており、児童生徒自らが、成長を実感でき、これからの課題や目標を見つけられるような工夫のもとに、道徳の時間をはじめ、各教科、特別活動及び総合的な学習の時間などにおいて、それぞれの特質に応じた学習が展開されているのである。
 道徳にかかわる学習においては、教えられてわかることもあるが、一人一人が自ら求めてわかること、自覚的に身に付けていくことがその中心である。そこでは、当然のことながら、学習者自身に自らの学習のねらいや学習の内容が意識されなければならない。しかし、学習主体である児童生徒にとって、「自分たちが学習する課題が何であるか。」「何について考え、理解し、自覚し、身に付けようとするのか。」ということが、今日どれほど事前に、あるいは全体として理解されているのであろうか。これでは、学習指導要領に児童生徒が人間として生きていくうえで主体的に学ぶべき内容として、その基本的なものが示されているにもかかわらず、指導者によっては、計画的・発展的学習とはならず、児童生徒の受身的な学習あるいは偶然的な学習に待つしかないといった状況も生まれかねないのである。
 また、道徳教育は、その特質から学校、家庭、地域社会三者の連携が特に強く求められるものである。したがって、保護者や地域の人々においても、児童生徒が道徳教育において学習する内容がどういうものであるか、十分に理解しておくことが必要である。道徳教育の全体計画や道徳の時間の年間指導計画等の内容が、学校便りなどを通して、保護者や地域の人々のものにもなっている学校は別として、そうした取組のされていない学校においては、児童生徒の道徳の学習内容について、どれほど共通理解が図られているのであろうか。
 今日、大人社会全体のモラルの低下を背景に、児童生徒の規範意識の低下が叫ばれ、少子化、核家族化さらには地域社会との関係の希薄化などの影響による家庭・地域社会における教育力の低下が指摘されている。子どもの心豊かな人間への成長を願いながらも、社会の急激な変化、価値観の多様化が進む中で、子どもに伝えるべき価値に確信がもてず、しつけや教育に対する自信を喪失している保護者が増えているとも言われている。こうした状況を考えても、人間として生きていくうえで、児童生徒が自覚的に学習すべき基礎・基本としての道徳教育の内容について、保護者や地域の人々と共に十分な共通理解を図ることは、極めて重要なことである。
 ところで、各教科においては、教科書があり、その学習内容全体について、児童生徒はもとより保護者や地域の人々も事前に知ることができる。したがって、そこでは、学習者たる児童生徒に、学習のめあてやその学習内容についての意識も生まれ、保護者等における学習内容についての共通理解も図りやすくなっている。もちろん、道徳は教科ではない。しかし、これまで述べてきたように、道徳教育をすすめるうえで、少なくともその学習内容の概要を、指導者のみならず、学習主体である児童生徒をはじめ保護者等がとらえておくことは、極めて大切なことである。
 以上のような背景を踏まえ、このたび「心のノート」を作成し、全ての児童生徒に配布することによって、道徳教育のより一層の充実を図ろうとしているのである。

2 「心のノート」の概要
(1) 趣 旨
 「心のノート」は、児童生徒が身に付ける道徳の内容を、児童生徒にとってわかりやすく書き表し、道徳的価値について自ら考えるきっかけとなるものであり、学校における教育活動全体において活用され、さらには学校と家庭等が連携して児童生徒の道徳性の育成に取り組めるものとして活用されることを通して、道徳教育のより一層の充実を図ろうとするものである。

(2) 性 格
 「心のノート」の性格については、次のような複数の性格を有するものとして整理することができる。
@ 「心のノート」は、児童生徒が道徳的価値について自ら考えるきっかけとなり、自ら学習する時に用いることができる自学自習用の冊子としての性格を有する。
A 「心のノート」は、児童生徒が自己の生活や体験を振り返り、自らの心に記録することのできる「生活ノート」的な冊子としての性格も有する。
B 「心のノート」は、保護者が見たり、記入したり、話題としたりすることで、学校と家庭が連携して、児童生徒の道徳性を育成するうえでも有効に活用される、いわば学校と家庭との「架け橋」的な冊子としての性格も有する。
 ただし、教師や保護者等における「心のノート」へのかかわり方は、児童生徒の発達段階を十分に考慮したものとなる必要がある。

(3) 各教科等との関連
 学校における道徳教育は、道徳の時間をかなめとし、各教科、特別活動及び総合的な学習の時間などあらゆる教育活動を通じて、児童生徒一人ひとりの道徳性の育成を図るものである。
 各教科等の目標や内容及び教材や学習活動の中には、道徳教育にかかわる内容や活動が含まれており、各教科等の目標に基づいて、それぞれ固有の指導を充実させる過程で、各教科等の特質に応じた道徳教育が併せて行われている。そして、道徳の時間において、各教科等における道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的・発展的な指導によってこれを補充、深化、統合し、道徳的価値及び人間としての生き方についての自覚を深め、道徳的実践力を育成しているのである。
 「心のノート」は、学校の教育活動全体を通じて行われる道徳教育に資する冊子として作成されたものである。道徳の時間をはじめ各教科、特別活動及び総合的な学習の時間など、あらゆる時間や場で活用されることによって、その特質に応じて展開される道徳教育をより充実させることができるのである。
 各教科等における道徳教育に、「心のノート」をより生かすには、道徳教育の全体計画や道徳の時間の年間指導計画等について、全教職員で共通確認をするとともに、それぞれの教科等の目標や内容について、道徳教育にかかわる側面や道徳の内容との関連を改めて明確にしておく必要がある。各教科等の内容及び教材には、直接、道徳性の育成に関係の深い事柄が含まれていることも少なくない。これらのことを十分踏まえ、「心のノート」を活用することが大切である。

(4) 活用場面
 「心のノート」が、学校での道徳の時間をはじめ、各教科、特別活動及び総合的な学習の時間や家庭での話し合いの場などで、広く活用できる冊子である。それぞれの時間や場で、道徳的価値や人間としての生き方にかかわって気付いたことや考えたことなどを、このノートや自らの心に記録したり、整理したりすることを通して、児童生徒が自ら道徳性をはぐくみ、人間としてよりよく生きることに資する冊子である。

(5) 「心のノート」に期待する役割 
@ 日常生活や学校の教育活動全体を通じての役割
 ◇ 児童生徒が、身に付ける道徳の内容を知り、興味・関心をもち、成長への意識の高まりから、生活や授業等に意欲的に取り組むことが期待できる。
 ◇ 日常生活や学校の教育活動等における様々な体験を、道徳教育の視点からとらえ、体験活動及びこれらを通じた道徳教育を一層充実させることができる。
 ◇ 児童生徒の道徳性の育成における、教職員全体の共通理解による指導体制づくりや学校と家庭等との連携が促進される。

A 道徳の時間における役割
 ◇ 児童生徒が、自らの問いをもって学習に取り組むことにより、主題に対する興味・関心を高め、学習への意欲を喚起することができる。
 ◇ 児童生徒が、自己の生活の実体や授業のねらいにかかわる日常生活や教科等での学習における体験を想起させることがでさる。
 ◇ 児童生徒が、中心的な資料としての副読本などの内容や道徳的価値についての理解を深めることを助ける。
 ◇ 児童生徒が、学習した内容についてまとめたり、考えを整理したりするととができる。
 ◇ 児童生徒が、道徳の時間の学習を継続的に振り返ることができる。
 ◇ 指導者が、ねらいにかかわる児童生徒の実態把握や評価に生かすことができる。

(6) 「心のノート」と教科書・副読本との相違
 「心のノート」は、その作成意図、内容、活用方法等から考えて、当然のことながら、児童生徒用の主たる教材としての教科書ではない。また、道徳の時間においては、副読本として読み物資料が中心的な資料として用いられることが多いが、「心のノート」は、この種の副読本などに代わるものでもない。つまり、道徳の時間における「心のノート」は、道徳の時間に、「心のノート」のみを使用して授業を展開するということではなく、むしろ、指導過程の中で補助的に活用したり、授業の事前・事後に関連付けて活用したりすることによって、ねらいとする道徳的価値や中心的な資料としての副読本などの内容についての理解を助けることができる冊子となるのである。
 「心のノート」は、教科書でもなく、中心的な資料として活用される副読本などに代わるものでもないわけであるから、各学校においては、今後とも道徳の時間において、児童生徒が充実感をもち、生き生きとした学習ができるように、児童生徒の心に響く教材を活用したり、選択したりして、効果的な教材活用に努めることが必要である。

3 「心のノート」活用における主な留意事項
(1)  一人一人の児童生徒が、日常的に、かつできるだけ容易に、道徳的価値(学習指導要領の道徳の内容)について、自らを見つめ、考え、理解を深めたり、その大切さを感じ取ったり、確認したり、実践への意欲を高めたりしながら、自己の生き方を考えていける媒介として機能するようにする。
(2) 道徳の時間に中心的資料として使用されている副読本などとは異なるものであり、教育活動全体を通じて行う道徳教育に資する冊子として、その活用を図る。したがって、道徳の時間をはじめ各教科、特別活動及び総合的な学習の時間などにおいても、補助的に活用するとともに、家庭においても活用できるようにする。
(3) 児童生徒が、教職員や友達、保護者等との交流にも活用できるようにする。その際プライバシーの保護については、十分な配慮が必要である。
(4) 児童生徒が、何度も見たり、読み返したりできるようにする。そのためには、学年段階の発達特性を踏まえて、継続的に道徳学習が発展させられるように工夫し、自分の「心のノート」を自分自身で作っていくという実感、あるいは「心のノート」を介して自らの心の成長が実感できるようにしていくことが大切である。
 「心のノート」の内容や効果的な活用方法については、今後の実践研究による検討に待つ部分も多いが、このノートが、すべての児童生徒にとって、人間として生きていく上での大いなるプレゼントになり、生かされるものとなるようにしていきたいものである。





Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会