● 障害のある児童生徒の就学について 平成14年5月27日 14文科初291



                             14文科初第291号
                             平成14年5月27日
各都道府県教育委員会
各都道府県知事       殿
附属学校を置く各国立大学長
国立久里浜養護学校長
                      文部科学省初等中等教育局長
                               矢 野 重 典


          障害のある児童生徒の就学について(通知)


 社会のノーマライゼーションの進展や教育の地方分権の観点から就学指導の在り方の見直しを行うための学校教育法施行令の一部改正の趣旨及び内容については,「学校教育法施行令の一部改正について」(平成14年4月24日付け文科初第148号)をもってお知らせしました。この改正に伴い,障害のある児童生徒の就学する学校の決定及び特殊学級等における教育や指導について留意すべき事項は下記のとおりですので,十分に御了知の上,適切に対処下さるようお願いします。
 なお,「教育上特別な取扱いを要する児童・生徒の教育措置について」(昭和53年10月6日付け文初特第309号)及び「通級による指導の対象とすることが適当な児童生徒について」(平成5年1月28日付け文初特第278号)は廃止します。
 また,各都道府県教育委員会及び都道府県知事におかれては,域内の市町村教育委員会,所管又は所轄の学校及び学校法人等に対しても,この趣旨を徹底されるようお願いします。


                   記


第1 障害のある児童生徒の就学すべき学校の決定及び障害の判断に当たっての留意事項

 障害のある児童生徒の就学すべき学校の決定及びその障害の判断に当たっての留意事項は,次に掲げるところによることとし,特に,障害の判断に当たっては,障害のある児童生徒に最もふさわしい教育を行うという視点に立って,教育学,医学,心理学等の観点から専門家の意見を聴いた上で総合的かつ慎重に行うこと。

1 盲学校,聾学校及び養護学校への就学

(1)就学の決定
 盲者(強度の弱視者を含む。),聾者(強度の難聴者を含む。),知的障害者,肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で学校教育法施行令第22条の3に規定する盲学校,聾学校又は養護学校に就学させるべき障害の程度(以下「就学基準」という。)の児童生徒については,市町村の教育委員会が障害の状態に照らして,小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者(以下「認定就学者」という。)を除き,盲学校,聾学校及び養護学校において教育すること。
 なお,その障害の程度が就学基準に該当しない児童生徒については,特殊学級において教育するか又は通常の学級において留意して指導すること。

(2)障害の判断に当たっての留意事項
 ア 盲者(強度の弱視者を含む。)
 専門医による精密な診断に基づき総合的に判断を行うこと。なお,年少者,知的障害者等に対する視力及び視力以外の視機能の検査は困難な場合が多いことから,一人一人の状態に応じて,検査の手順や方法をわかりやすく説明するほか,検査時の反応をよく確認すること等により,その正確を期するように特に留意すること。
 イ 聾者(強度の難聴者を含む。)
 専門医による精密な診断結果に基づき,失聴の時期を含む生育歴及び言語の発達の状態を考慮して総合的に判断を行うこと。
 ウ 知的障害者
 知的機能及び適応機能の発達の状態の両面から判断すること。標準化された知能検査等の知的機能の発達の遅滞を判断するために必要な検査,コミュニケーション,日常生活,社会生活等に関する適応機能の状態についての調査,本人の発達に影響がある環境の分析等を行った上で総合的に判断を行うこと。
 エ 肢体不自由者
 専門医の精密な診断結果に基づき,上肢,下肢等の個々の部位ごとにとらえるのでなく,身体全体を総合的に見て障害の状態を判断すること。その際,障害の状態の改善,機能の回復に要する時間等を併せ考慮して判断を行うこと。
 オ 病弱者(身体虚弱者を含む。)
 医師の精密な診断結果に基づき,疾患の種類,程度及び医療又は生活規制に要する期間等を考慮して判断を行うこと。

(3)認定就学者の認定に当たっての留意事項
 今回改正された学校教育法施行令(以下「改正令」という。)により,市町村の教育委員会は,就学基準に該当する障害のある者を認定就学者として小学校又は中学校に就学させることができることとなるが,この者について小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情が認められるかどうかについては以下に留意して適切に判断する必要があること。
 障害に対応した学校の施設や設備が整備されていること,指導面で専門性の高い教員が配置されていること等就学のための環境が適切に整備されていることにより,小学校又は中学校に就学できる場合が考えられること。このため,認定就学者の認定に当たっては,障害に応じた適切な就学のための環境が整備されていることについて十分に考慮してその判断を行う必要があること。
 特に,二つ以上の障害を併せ有する場合,日常的に医療的ケアを必要とする場合のように,障害の種類,程度等によっては,安全上の配慮や障害に応じた適切な指導の必要があることに十分に留意し,慎重に判断する必要があること。
 上記の点を踏まえ,障害の種類,程度等に応じた適切な教育の内容及び方法について専門家の意見や保護者の意見を聴いて,児童生徒にとって最もふさわしい教育を行うという視点に立って適切に判断すること。

2 小学校又は中学校への就学

a 特殊学級
 学校教育法第75条第1項及び学校教育法施行規則第73条の18の規定に基づき特殊学級を置く場合には,以下の各号に掲げる障害の種類及び程度の児童生徒を対象として適切な教育が行われることが適当であること。
 障害の判断に当たっては,障害のある児童生徒の教育の経験のある教員等による観察・検査,専門医による診断等に基づき教育学,医学,心理学等の観点から総合的かつ慎重に行うこと。

(1)障害の種類及び、程度
 ア 知的障害者
 知的発達の遅滞があり,他人との意思疎通に軽度の困難があり日常生活を営むのに一部援助が必要で,社会生活への適応が困難である程度のもの
 イ 肢体不自由者
 補装具によっても歩行や筆記等日常生活における基本的な動作に軽度の困難がある程度のもの
 ウ 病弱者及び身体虚弱者
 一 慢性の呼吸器疾患その他疾患の状態が持続的又は間欠的に医療又は生活の管理を必要とする程度のもの
 二 身体虚弱の状態が持続的に生活の管理を必要とする程度のもの
 エ 弱視者
 拡大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が困難な程度のもの
 オ 難聴者
 補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度のもの
 カ 言語障害者
 口蓋裂,構音器官のまひ等器質的又は機能的な構音障害のある者,吃音等話し言葉におけるリズムの障害のある者,話す,聞く等言語機能の基礎的事項に発達の遅れがある者,その他これに準じる者(これらの障害が主として他の障害に起因するものではない者に限る。)で,その程度が著しいもの
 キ 情緒障害者
 一 自閉症又はそれに類するもので,他人との意思疎通及び対人関係の形成が困難である程度のもの
 二 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので,社会生活への適応が困難である程度のもの

(2)留意事項
 特殊学級の対象とすることが適当な児童生徒の判断に当たっての留意事項は,ア〜オについては1(2)と同様であり,また,カ及びキについては,その障害の状態によっては,医学的な診断の必要性も十分に検討した上で判断すること。

b 通級による指導
 学校教育法施行規則第73条の21第1項の規定に基づく通級による指導を行う場合には,以下の各号に掲げる障害の種類及び程度の児童生徒を対象として適切な指導が行われることが適当であること。
 障害の判断に当たっては,障害のある児童生徒に対する教育の経験のある教員等による観察・検査,専門医による診断等に基づき教育学,医学,心理学等の観点から総合的かつ慎重に行うこと。その際,通級による指導の特質に鑑み,個々の児童生徒について,通常の学級での適応性,通級による指導に要する適正な時間等を十分考慮すること。

(1)障害の種類及び程度
 ア 言語障害者
 口蓋裂,構音器官のまひ等器質的又は機能的な構音障害のある者,吃音等話し言葉におけるリズムの障害のある者,話す,聞く等言語機能の基礎的事項に発達の遅れがある者その他これに準じる者(これらの障害が主として他の障害に起因するものではない者に限る。)で,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とする程度のもの
 イ 情緒障害者
 一 自閉症又はそれに類するもので,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とする程度のもの
 二 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とする程度のもの
 ウ 弱視者
 拡大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が困難な程度の者で,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とするもの
 エ 難聴者
 補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度の者で,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とするもの
 オ 肢体不自由者,病弱者及び身体虚弱者
 肢体不自由,病弱又は身体虚弱の程度が,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とする程度のもの

(2)留意事項
 通級による指導の対象とすることが適当な児童生徒の指導に当たっての留意事項は以下のとおりであること。
 ア 学校教育法施行規則第73条の21第1項の規定に基づき,通級による指導における特別の教育課程の編成,授業時数については平成5年文部省告示第7号により別に定められていること。同項の規定により特別の教育課程を編成して指導を行う場合には,盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領を参考として実施すること。
 イ 通級による指導を受ける児童生徒の成長の状況を総合的にとらえるため,指導要録において,通級による指導を受ける学校名,通級による指導の授業時数,指導期間,指導内客や結果等を記入すること。他の学校の児童生徒に対し通級による指導を行う学校においては,適切な指導を行う上で必要な範囲で通級による指導の記録を作成すること。
 ウ 通級による指導の実施に当たっては,通級による指導の担当教員が,児童生徒の在籍学級(他の学校で通級による指導を受ける場合にあっては,在学している学校の在籍学級)の担任教員との間で定期的な情報交換を行ったり,助言を行ったりする等,両者の連携協力が図られるよう十分に配慮すること。

3 その他

(1)二つ以上の障害を併せ有する者について
 二つ以上の障害を併せ有する者については,その併せ有する障害の種類,程度の軽重等を考慮して最も適切な就学すべき学校の決定等(盲学校,聾学校若しくは養護学校に就学させ,又は,特殊学級において教育する等)を行うこと。

(2)就学義務の猶予又は免除について
 治療又は生命・健康の維持のため療養に専念することを必要とし,教育を受けることが困難又は不可能な者については,保護者の願い出により,就学義務の猶予又は免除の措置を慎重に行うこと。


第2 相談支援体制及び就学指導体制の整備

 都道府県及び市町村の教育委員会は,障害のある児童生徒に適切な教育を行うため,障害のある児童生徒の障害の判断及び就学先の決定のために以下のような取組を行うとともに,教職員が障害のある児童生徒に対する教育に関する理解と認識を深めるための施策及び盲学校,聾学校及び養護学校等における教育についての情報提供が重要であること。

1 相談支援体制の整備
 市町村の教育委員会は,福祉,医療等の関係機関と連携を図りながら,乳幼児期から学校卒業後まで一貫して障害のある幼児児童生徒及び保護者に対して相談や支援を行う体制を整備することが重要であること。また,都道府県教育委員会は,障害のある児童生徒の教育の専門家の巡回指導を行ったり,教育相談の担当者に対する研修を実施する等,市町村の教育委員会の相談支援体制や下記の就学指導体制の整備充実を支援することが適当であること。

2 就学指導体制の整備
(1)就学指導委員会
 改正令に基づき市町村の教育委員会は適切な就学指導を行うため専門家の意見を聴くことが必要となるが,障害の種類,程度等に応じて教育学,医学,心理学等の観点から総合的な判断を行うため,適切な就学指導のための調査・審議機関(以下「就学指導委員会」という。)を今後も設置することが重要であること。
 また,都道府県の教育委員会においても盲学校,聾学校及び養護学校における教育内容等について専門的な立場で調査・審議を行う就学指導委員会を設置することが適当であること。
 さらに,単に,就学基準に該当することの判断のみならず,認定就学者の認定の判断に当たっても就学指導委員会を設置する等により専門家の意見を聴くことが重要であること。
 教育委員会が就学指導委員会を設置する場合には,以下に掲げることに留意すること。
ア 障害のある児童生徒等の就学に当たって,特殊学級や通級による指導等について校長に助言を行う役割を担うことが求められること。
イ 就学指導委員会を単独で設置することが困難な場合には,共同設置や大規模自治体への事務委託等の方法も考えられること。
ウ 就学指導委員会の構成員は,例えば障害のある児童生徒に対する教育の経験のある教員,医師,児童福祉施設の職員等が考えられるが,教育学,医学,心理学等の観点から総合的な判断を的確に行うために必要な知見を有する者が含まれることが重要であること。
(2)就学指導に当たっての留意事項
 市町村の教育委員会は,障害のある児童生徒の就学に関して,学校の校長との連絡が重要であるとともにその障害に応じた教育内容等について保護者の意見を聴いた上で就学先について総合的な見地から判断することが大切であること。具体的には,就学指導委員会において保護者の意見表明の機会を設ける等の方法が考えられること。
 また,教育委員会は就学指導に当たり障害のある児童生徒の教育内容等について専門家の意見を聴く機会を提供する等,保護者に対し情報の提供に努めることが大切であること。
 さらに,児童生徒の就学後においても,障害の状態の変化等に応じて適切な教育が行われることが大切であり,学校内の就学指導委員会,教育委員会の就学指導委員会等により,就学指導のフォローアップが適切に行われることが重要であること。



Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会