● 学校と警察との連携の強化による非行防止対策の推進について 平成14年5月27日 14初児生第6号



14初児生第六号 平成一四年五月二七日
各都道府県教育委員会指導事務主管課長・各知事部局私立学校主管課長・附属学校を置く各国立大学事務局長あて
文部科学省初等中等教育局児童生徒課長通知


    学校と警察との連携の強化による非行防止対策の推進について


 標記のことについては、これまでも「児童生徒の健全育成に向けた学校等と警察との連携の強化について」(平成九年一二月四日付け文部省初等中等教育局中学校課長通知)等を通じてその一層の推進を促してきたところであり、各学校及び教育委員会(私立学校においては知事部局、国立学校においては附属学校を置く国立大学)(以下、「学校等」という。)において、学校警察連絡協議会や補導連絡会等の組織(以下「学警連等」という。)を通じ、積極的に取り組んでいただいているところです。
 しかしながら、最近においても、児童生徒の問題行動が深刻化するとともに、少年非行が凶悪化・広域化するなど、児童生徒を取り巻く状況は憂慮すべき情勢にあり、こうした問題に対し、状況に応じて学校・教育委員会と地域の関係機関が連携して取り組むことが一層重要となっています。中でも、学校と警察との連携が極めて重要ですが、一方で、最近の学警連等の活動が単なる情報交換に終始するなど形骸化し、実効的な連携体制が十分に構築されていないとの指摘もあるところです。
 こうした観点から、このたび警察庁において、各都道府県警察本部長等に対し、別添のとおり「学校と警察との連携の強化による非行防止対策の推進について」(執務資料)が示されました。本資料は、従来の学警連等の機能を強化し実質的な連携の場として活用する観点から、その運営方法等について、具体的な見直しのポイントを示すとともに、学校と警察との連携についての好事例を紹介するなど、これまでの通知等より具体的なものとなっています。
 ついては、貴職におかれては、本資料について、域内の教育委員会、学校に対し周知を図るとともに、その中で示されている個々の事項につき、例えば、

・学校と警察が相互のシステムについての共通理解を図る
・学校と警察だけではなく地域の代表を連携の場に加え、地域として子どもの健全育成を図る
・警察を含めた関係機関との連携を円滑に行うための担当窓口を明らかにする

等、学校等においても改善を図るべき事項に留意しつつ、学校と警察との連携の一層の強化が図られるよう御配慮願います。


(別添)

[原義保存期間五年
平成一九年一二月三一日まで保存]
警察庁丁少発第八六号
平成一四年五月二七日
/各管区警察局広域調整部長/警視庁生活安全部長/各道府県警察本部長/各方面本部長/殿
警察庁生活安全局少年課長

    学校と警察との連携の強化による非行防止対策の推進について

 少年の非行防止における警察と学校との連携については、「少年の健全な育成に向けた学校及び教育委員会との連携の強化について」(平成九年一二月四日付け警察庁丁少発第八八号)により、学校警察連絡協議会や補導連絡会等の組織(以下「学警連等」という。)を通じて、各都道府県警察において積極的に取り組んでいるところであるが、最近においても、少年非行の凶悪・粗暴化がうかがわれるほか、犯罪やいじめによる被害少年が増加するなど、少年を取り巻く状況は憂慮すべき情勢にあり、このような問題に対し、警察と地域の関係機関等が連携して取り組むことが一層重要となっている。中でも、警察と学校との連携が極めて重要であるが、一方で、最近の学警連等の活動が単なる情報交換に終始するなど形骸化し、実効的な連携体制が十分に構築されていないとの指摘もみられるところである。
 こうした観点から、当庁においては、文部科学省との間で、学校と警察との連携の強化に向けた協議を行い、学警連等を実質的な連携の場として活用するための見直しのポイントや、学校との連携についての好事例の紹介等を内容とする執務資料を別添のとおり作成したので、各都道府県警察においては、学警連等の活動の実態を的確に把握した上で、地域の実情に応じて学校と警察との連携体制の再構築を図るなど、本執務資料の効果的な活用に努められたい。
 なお、本件については、文部科学省初等中等教育局児童生徒課からも、各都道府県教育委員会指導事務主管課長、各知事部局私立学校主管課長及び附属学校を置く各国立大学事務局長宛に別添のとおり通知されているので申し添える。

担当 企画係
警電 八〇〇―三〇七三



[執務資料]

    学校と警察との連携の強化による非行防止対策の推進について

1 基本的な考え方

 最近の少年非行情勢については、凶悪・粗暴な少年非行が深刻化しているなど極めて憂慮すべき状況にあり、このような情勢の原因・背景としては、少年自身の規範意識の低下、家庭のしつけや学校の在り方、地域社会の問題、少年を取り巻く環境の悪化等の要因が複雑に絡み合っているものと考えられる。
 このような少年非行の問題については、社会が一体となって取り組むことが不可欠であり、中でも、学校と警察とが緊密に連携して取り組んでいくことが極めて重要である。このような趣旨から、昭和38年に警察庁保安局長と文部省初等中等教育局長からそれぞれ発出された通達(知)に基づき、全国の警察署や市町村その他の区域ごとに、学校警察連絡協議会や補導連絡会等の組織(以下「学警連等」という。)が設けられており、平成9年には、改めて学校と警察との連携の強化について警察庁生活安全局少年課長と文部省初等中等教育局中学校課長からそれぞれ通達(知)が発出され、少年の非行防止に加え、被害防止をも念頭に置いた具体的措置に係る協議及びその実施等を推進しているところである。
 その後も、児童生徒の問題行動に対して、学校と警察を始めとする関係機関との間で単なる情報の交換(「情報連携」)だけでなく、自らの役割を果たしつつ一体となって対応を行うこと(「行動連携」)が必要であること等について指導がなされてきたところである。
 しかしながら、学警連等の場が、形だけのものとして具体的な非行防止対策に役立っていないケースも見られることから、少年の非行・被害をより効果的に防止し健全な育成を目指すとともに、少年の再非行防止や被害回復に向けた事後の継続的な指導・支援をよりきめ細かに行うためには、学校と警察、とりわけ学校の教職員と警察署の少年担当官が相互に信頼関係を構築した上で、学警連等を始めとする協議の場を、一般的な情報交換の場にとどめず、より実質的な連携の場として、具体的な事案対応や街頭補導等の活動を協力して推進していくことが重要である。
 また、少年の問題行動が多様化・深刻化している現状を踏まえ、問題行動を起こす個々の少年に着目して権限を有する関係機関がチーム(少年サポートチーム)を組んで対応することが効果的であるが、こうした少年サポートチームの円滑な組織化のためには、青少年の健全育成や学校内の問題行動等について、日頃から地域レベルで緊密な情報交換が図られるなど、地域のネットワークを充実させることが不可欠である。折しも、平成14年度からは、完全学校週5日制が実施されており、問題行動が誘発されることのないよう、健全育成に向けた関係各機関の一層の努力が求められている。

2 現状を踏まえた見直しの方向性

 学校と警察の連携については、前述のとおり、昭和38年の通達(知)に基づき、全国の警察署や市町村、その他の区域ごとに、学警連等が設置されているところであるが、その実態については、平素から、緊密な連携の下、具体的な対策が適時適切になされているところもあれば、単なる一般的な情報の交換に終わっているところもあるなど様々である。
 学警連等の具体的運営方法については、各地域の実情に応じたものであることが求められているが、今後の学校と警察が連携した非行防止対策の推進のためには、学警連等の機能の一層の充実を目指し、その運営方法を見直すことが重要である。
 そこで、以下の事項を参考に、学校や教育委員会等と警察との間で十分協議の上、学警連等の運営方法等を見直し、各地域の実態に応じた運営に努められたい。

(1) 構成員・開催頻度

【現状と問題点】

 学警連等の構成員については、学校側が校長、生徒指導担当教員等、警察側が警察署長、警察署の生活安全課長等である場合が多い。特に、警察署長と校長が主たる構成員である場合には、いわゆる実務担当者の会合ではないために、具体的な情報の交換や議論の場となりにくく、地域の非行情勢等に関する一般的な情報提供の場となってしまっているとの声も聞かれる。また、開催頻度については、年4回程度の定期的開催が平均的であるが、開催頻度と連携の効果は、必ずしも比例しているわけではない。

【見直しのポイント1】

○ 実務担当者レベルによる会合の設置

 地域の非行や被害の実態に関する情報を共有し、地域全体での取組みを進める観点から、現在主流である校長・警察署長レベルの会合を従来どおり開催する一方、より具体的な情報交換を進めるとともに、状況に応じて円滑に少年サポートチームを組織するためには、実務担当者レベルによる会合も並行して開催することが重要であり、例えば、警察側を生活安全課長及び少年担当係長、学校側を生徒指導担当教員として構成する学警連等の開催が考えられる。
 なお、開催頻度については、定期的な会合は、双方の負担とならない範囲で開催するほか、必要性に応じて、柔軟に不定期の会合を開催することが効果的と考えられる。

【見直しのポイント2】

○ 児童相談所・保健所等の関係機関及びPTA等の会合への参加

 児童相談所、保健所や精神科医等の医療機関、その他の関係機関や、PTAを始めとする地域の団体等に対し、会合への参加を呼びかけ、関係機関が有する情報を共有したり、相互に連携した対応や活動等について検討することが有効である。


(2) 規模

【現状と問題点】

 学警連等は、警察署単位で構成している場合が多いため、規模(人数)については、1警察署からの2〜5名の出席者に対し、管轄区域内にある複数の学校からの20名以上の出席者による会合となることが多い。その場合には、具体的な個々の情報を提供することに躊躇するなどにより、実効的な協議がなされにくい状況も少なくない。
 他方、近年、複数の警察署の管轄区域内に渡って不良行為少年グループが形成されている例もみられるが、その場合には、現在のような警察署単位で構成される比較的小規模な学警連では、その対応が困難である。

【見直しのポイント1】

○ 小規模学警連等の開催

1警察署の管轄区域内の学校数が多い場合には、地域的・背景的に関連性の強い学校(2〜3校)ごと、又は各学校ごとに会合の機会を設けるなど、より小規模のものとすることが考えられる。

【見直しのポイント2】

○ 広域学警連等の開催

1警察署の管轄区域内に止まらず、広域に渡る不良行為グループが形成されている場合等においては、関係する複数の警察署の担当者及び関係する学校の生徒指導担当教員により構成される広域学警連等を開催することが考えられる。

【事例】 千葉県・茨城県における広域学警連の開催

 千葉県及び茨城県においては、両県にまたがる少年による凶悪事件が発生したことから、県境における隣接地区の学校と警察が、定期的に中学生及び高校生に関する情報交換会を開催し、相互の連携を強化するとともに、行政の枠にとらわれずに生徒の実態把握に努め、適切な健全育成施策の推進を図っている。


(3) 協議項目

【現状と問題点】

 現行の学警連等においては、地域における少年非行情勢の概要や生徒指導上の諸問題等、一般的・概括的な事項を協議項目として設定する場合が多いが、少年の非行防止及び健全育成を効果的に図るためには、より具体的な事項を協議項目として設定することが望ましい。


【見直しのポイント1】

○ 警察・学校相互のシステムに対する理解の促進に向けた協議項目の設定

<例>
・警察の少年相談システムや少年サポートセンターの活動状況の紹介
・警察における少年補導等に係る手続の流れ
・学校における生徒指導の組織や在り方
・スクールカウンセラーの役割や活動内容

【見直しのポイント2】

○ 具体的なケースを踏まえ(又は想定し)、個々の非行事案、問題行動処理時等における相互の連絡方法及び相互に連携した対応方法等に係る協議項目の設定

<例>
・前兆的な問題行動が繰り返されている場合等における相談の方法及び対処方法
・学校内等において犯罪が発生した場合等における連携方法
・再非行防止に向けた継続的指導における連携方法
・深刻な問題行動を起こす児童生徒に対する少年サポートチームの編成
・運営の在り方

【事例】 滋賀県における学校問題行動対策会議(SPAC)の開催

 滋賀県における学警連は、非行の現状や対策等について、一般的な情報交換はしていたものの、個々の問題のある児童等に対して各関係機関がどのように連携し、対応するのかなどの具体的な対策を検討する場とはなっていなかったことから、学校と警察及び関係機関との連携を一層強化し、問題のある児童個々について迅速かつ適正に対応するため、「学校問題行動対策会議(SPAC)」を開催することとしている。


(4) 開催場所

 開催場所については、従来から、警察・学校のいずれかの施設を使用する例が多いところ、学校・警察間の率直かつ具体的な意見交換の実現のためには、必ずしも適切とは言えない場合もある。

【見直しのポイント】

○ 第三者的な場所の利用

 今後の学警連等の開催場所の選定に当たっては、第三者的な場所、例えば、公民館等の外部の場所を利用することも考えられる。


3 学校と警察が連携する活動の強化に向けて

 非行防止対策を推進するためには、学警連等を単なる協議の場にとどめるのではなく、警察と学校が協力して非行防止活動を推進したり、具体的なケースに応じて連携・協力体制を構築するなど、具体的活動の場としていくことが大切である。

(1) 共同での街頭補導活動等の実施

 街頭補導活動は、不良行為少年、非行少年又は被害少年を発見する契機となるとともに、少年が被害に遭う犯罪の端緒把握の機会ともなるものであり、その意味で極めて重要な活動である。また、警察が、学校関係者を始めとする関係機関・団体や少年警察ボランティアとの合同で行うことのできる活動であることからも、今後、より積極的に取り組んでいくべき活動であるが、ともすると形式的に流れることにもなりかねない。
 そこで、共同での街頭補導活動の実施に当たっては、適宜、主体・時機・方法等を見直し、より効果的なものとすることが必要である。例えば、学校での文化祭や体育祭等の行事終了後に、グループで飲酒したりするケースも散見されることから、こうした飲酒防止等を図るための街頭補導活動も有効であろう。
 また、警察で犯罪少年等を取り扱った場合、当該少年の立ち直りを支援するために、少年の性格、行状、環境、家庭の状況、交友関係等を踏まえて、学校、児童相談所、保護司等の関係機関と連携して、当該少年やその保護者等に対する指導や助言を行うことが効果的な場合もある。

【事例】 青森県における少年非行防止「JUMPチーム」による街頭補導活動等の実施
〜学校関係者・生徒と警察との連携による街頭補導の実施〜

 青森県警察では、中・高校生の規範意識の高揚とその波及効果を図るため、学校等との協力の下、県下の中・高校生を「少年非行防止JUMPチーム員」として委嘱し、県下全域において「少年非行防止JUMPチーム」を結成している。同チームでは、随時、生徒、学校関係者及び警察の合同による街頭補導活動を実施しているほか、「いじめ撲滅キャンペーン」、「朝の声かけ運動」、「薬物乱用防止キャンペーン」等の各種施策を積極的に展開している。

(2) 少年担当警察官による犯罪防止教室等の開催

 少年自身に、罪を犯すことの社会的意味を理解させるとともに、犯罪被害に遭わないためのノウハウを教える観点からは、学校での教育や指導に加えて、学校側からの要望や依頼に基づき、あるいは、警察側から積極的に、警察官や少年補導職員等が学校に直接出向いて児童生徒に語り掛ける非行・被害防止教室の開催が効果的である。
 また、警察職員が各学校に赴いて行っている薬物乱用防止についても、より積極的に実施していくことが望ましい。
 なお、こうした場は、学校の教職員と警察職員が直接顔を合わせる機会としても有益である。
 完全学校週5日制の実施を踏まえ、地域に開かれた学校づくりを推進する上でも、こうした活動の充実が望まれる。
 さらに、学校や教育委員会により開催される教員研修会等において、少年担当警察官や少年補導職員による講演の機会を設定するなどにより、少年警察活動のシステムに対する理解を深めることも有効であると考えられる。

【事例1】 大阪府警察による犯罪防止教室の開催

 大阪府警察では、大阪府内で発生する中学生の犯罪(触法少年を含む。)が凶悪・粗暴化傾向を強めており、中学生の規範意識の低下や自制心の欠如がその一因であると考えられるものが多いことから、中学生の規範意識の醸成と自立心の涵養を図ることを目的として、警察官(生活安全課長等の幹部警察官)が中学校に出向いて「犯罪防止教室」を開催している。

【事例2】 福岡県警察による暴走族加入阻止教室の開催

 福岡県警察では、暴走族根絶を目的とした交通教室や、中学生間で暴走族について意見を交換し合うシンポジウムを開催して、中学校在校時から暴走族の真の実態を理解させ、暴走族を拒否する意志を強固に形成させるよう努めている。

【事例3】 奈良県警察による小学生に対する喫煙・薬物乱用防止教室の開催

 奈良県警察では、喫煙経験のある中学生の約6割が小学校時代に初喫煙をしたとのデータに基づき、喫煙や薬物乱用に興味を持ち始める小学校高学年を対象に、少年サポートセンターが中心となって、喫煙・薬物乱用防止教室を開催している。

【事例4】 警察庁少年課担当官による生徒指導総合研修講座における講話実施

 文部科学省が毎年実施している生徒指導総合研修講座(全国の小・中・高校の生徒指導担当教員約140名を対象に実施。)においては、警察庁少年課の担当官が出向き、少年非行の現状、少年非行防止対策及び少年サポートセンター等を通じての学校と警察との具体的連携の在り方等に関する講義を行っている。

(3) 少年の社会参加活動等の機会の共同設定・実施

 最近の深刻な少年非行情勢の背景の一つとして、中高生の居場所の欠如が指摘されることが少なくない。このことは、次代を担う青少年について考える有識者会議から平成10年4月に報告された「次代を担う青少年のために〜いま、求められているもの〜」においても述べられているところである。こうした少年の居場所作りについても、学校と警察がその他の関係機関と連携し、社会参加活動等の機会を設定することが効果的である。
 社会参加活動は、非行を犯した少年の再非行防止のためのみならず、少年を非行に陥らせないために予防的観点からも極めて重要であり、少年が自らの社会における存在意義を感じる契機となるようにするとともに、少年の参加意欲を促すよう少年の立場に立って内容を検討することが重要である。そのため、少年の意見を拾い上げ、それを反映させることも一策であろう。

【事例1】 広島県警察による暴走族等非行少年グループの脱会支援活動の推進

 広島県警察では、暴走族等集団非行グループ加入者の脱会サポート活動を展開しており、脱会対策の一環として、学校を始めとする関係機関・団体、ボランティアなどと連携の上、暴走族等による公園、公衆便所の清掃等の社会参加活動、女子暴走族の老人ホームの慰問活動等立ち直りのための支援活動を推進している。

(4) 学校・警察間の相互交流の機会の設定

 学校と警察との連携の強化のためには、少年警察活動のシステムや、学校における生徒指導のシステムについて、学校と警察が相互理解を深めることが不可欠であるが、そのための方法としては、学警連等を始めとする会合の場を利用するほか、教員研修や、警察における各種教養等の場において、相互のシステムについての講義の場を設けることも考えられる。
 また、各種活動の機会を通じての相互交流の場を設けることも効果的である。

【事例1】 教員の「社会貢献活動体験研修」の警察署での受け入れ

 三重県警察では、教育委員会からの協力依頼に基づき、県下の各警察署生活安全課において、教職経験11年目の教員を対象とする「社会貢献活動体験研修」を実施した。

【事例2】 香川県における学警連携アクションプラン

 香川県では、少年サポートチームによる連携システムづくりを進めるための第一歩として、校長、教頭、生徒指導主事が校区内の交番や駐在所を訪問し、学校の受持ち警察官と情報交換を行うなど、より積極的な情報交換を行う「学警連携アクションプラン」を実施している。

(5) 保護者や地域の関係機関・団体との共同による活動の実施

 少年非行防止活動等を効果的に行うためには、保護者や地域の関係機関・団体の理解と協力が不可欠であることから、学校、警察のみならず、児童相談所、民生・児童委員、保護司等の関係機関・団体を含めた懇話会形式による会合を開催したり、そうした会合を基盤とする少年サポートチームによる積極的な連携も視野に入れておく必要がある。

【事例1】 山形県長井市における長井地区少年健全育成懇談会の開催

 山形県長井市においては、平成12年7月、長井市教育委員会、長井市まちづくり青少年育成市民会議及び長井警察署の主催により、長井地区少年健全育成懇談会を開催。PTA関係者、市内の小・中・高校等の生徒指導担当教員等教育関係者、児童相談所担当者、書籍販売者、コンビニ業界代表者等計85名の参加により、「少年非行と地域の関わり」と題して、フリートーキングを実施。地域における少年非行情勢や家庭・学校・警察等の役割分担の在り方から、万引を発見した際の警察への連絡の在り方等、具体的な事項についても協議が行われ、参加者の協力の下、密度の濃い懇談会となった。

【事例2】 福島県郡山市の「少年サポートチーム」による取組み

 福島県郡山市では、非行防止サポート計画として、学校だけでは解決が困難な問題行動(広域にわたる場合、異年齢集団とつながっている場合、凶悪化している場合、非行が深刻化している場合など)について、市教育委員会等からの要請に基づき、関係機関(警察署、児童相談所、少年補導センター、保健所、医師会など)の実務担当者からなる少年サポートチームを設け、具体的な役割分担により連携して対応している。


4 少年相談に関する共通認識の促進

(1) 学校における問題のある児童・生徒に対する対応の基本的考え方

 学校において、児童生徒の抱える悩みや不安に耳を傾け、親身になって相談に応じることは、児童生徒の問題行動を防止するためにも極めて重要である。こうした学校における教育相談体制の充実を図るためには、学級担任や生徒指導の担当教員、養護教諭など学校の教員が、それぞれの役割に応じて相談に当たるとともに、「心の専門家」であるスクールカウンセラーなどの学校外の専門家とチームを組み、相談や指導に当たることにより問題解決を図る必要がある。このように、学級担任等とスクールカウンセラーがそれぞれの役割を十分に果たし、連携して教育相談に当たることにより、児童生徒への指導・援助が一層の効果を発揮するものと考えられる。

(2) 学校における少年相談等の対応窓口

ア 生徒指導担当教諭

 生徒指導主事等の生徒指導担当教諭は、校長の監督の下、生徒指導に関する事項を司り、これに関して連絡調整及び指導、助言に当たる者である。児童生徒から直接相談を受けるほか、相談を受けた学級担任等に対する指導・助言や、相談内容に応じた関係職員間の連絡調整を行うこととなる。

イ 養護教諭

 養護教諭は、身体的不調として現れる児童生徒の心の健康問題を日常的な健康管理等の中でとらえ、児童生徒への指導及び健康相談活動等を行っており、また、必要に応じて他の専門的な機関に紹介したりする役割を担っている。

ウ スクールカウンセラー

 スクールカウンセラーは、児童生徒の臨床心理に関し高度な専門性を備えた者であり、児童生徒の悩みや不安を受け止めて相談に当たるため学校に配置されている。
 職務としては、児童生徒へのカウンセリング、教職員に対する援助・指導、保護者に対する助言・援助等を行っている。
 なお、学校と警察双方が、お互いの連絡先や窓口となる担当者を把握していないとの指摘があること等を踏まえ、学校と警察相互の連絡担当窓口を明らかにし、各組織内の連絡体制を明らかにしておくことが重要である。
 その際、学校と警察相互の機能、組織、担当者名、所在地、連絡先等の一覧を全教職員に配布するなどにより、組織内の共通理解を図っておくことが求められる。

(3) 警察における相談対応の基本

 警察における少年相談とは、「少年又はその保護者等から少年の非行防止その他少年の健全育成に係る事項に関し、悩みごと、困りごと等の相談があったときに、当該事案の内容に応じ、必要な指導、助言その他の援助を行うこと」をいい、警察職員は、少年相談を受けた場合においては、これを懇切丁寧に受理した上、適切に処理することとされている。また、少年相談の実施に当たっては、相談者の心情を十分に考慮して行うとともに、関係者の秘密の保持に特に配意することとされている。

(4) 警察における少年相談窓口の種類

ア 少年相談専門電話

 全国の都道府県警察では、「ヤングテレホン」、「少年相談110番」等の名称による電話による少年相談の窓口を開設しており、少年の非行や被害その他少年に係る相談を広く受け付けている。

イ 警察署の少年担当係

 全国の警察署の「生活安全課」、「刑事生活安全課」等の少年担当係においては、各警察署の管轄区域内における少年非行事案を取り扱うとともに、少年に係る相談も受け付けている。したがって、速やかな対応を要する少年の非行や被害に係る事案、学校内における重大な非行の前兆的事案、その他緊急・即時的な対応を要する事案に係る相談については、第一次的には、警察署の少年担当係において対応することが適当である。

ウ 少年サポートセンター

 少年非行防止活動を効果的に推進するために、全国の都道府県警察本部の少年担当課及び主要警察署に少年サポートセンターを設置している。少年サポートセンターでは、少年問題に係る専門職員である少年補導職員が中心となって、少年警察ボランティアや学校その他の関係機関・団体との連携の下、少年相談や街頭補導活動を通じて把握した不良行為少年や被害少年に対する継続的な指導や支援のほか、広報啓発活動等を行っている。
 少年に係る相談の中でも、特に、継続的な指導を必要とする不良行為少年や、継続的なカウンセリング等の支援を必要とする被害少年に係る事案については、少年サポートセンターにおいて対応することが適当である。

5 学校・警察間の連携・協力による好事例

(1) 少年の非行再発防止又は早期の被害回復に結びついた事例

事例1 事案ごとに結成する少年サポートチームによる活動事例

 北海道警察では、少年による犯罪や少年を被害者とする犯罪が発生した場合に、必要に応じ、個別の事案ごとに、学校、教育委員会、児童相談所、市保健福祉部等に呼びかけ、少年サポートチームを結成し、少年の再発非行防止に向けた継続的補導や、被害少年の精神的ダメージからの回復に向けた継続的支援等を行い、事件等の最終的な解決に至るまでサポートチームを継続することとしている。
 個々の事案に応じて、必要な関係団体・機関により結成するシステムであるため、形式に流れることなく、実質的なネットワークの構築に成功している。

資例2 学校、警察、地域社会が一体となって少年非行防止活動を推進した事例

 中学生が無職少年と結びついて恐喝やバイク盗などの問題行動を起こしたので、学校は教育委員会に報告するとともに所轄警察署に相談した。警察署においては無職少年を補導し、教育委員会においては地域教育懇談会等で地域社会に現状を訴えた。これにより、公民館単位で子育てについての話し合いが行われ、青少年への声かけ運動や地域の行事への中高生の積極的な参加などの取組みが行われた。こうした健全育成活動により、中学生や無職少年の問題行動は減少していった。

事例3 非行の前兆段階で学校と警察が連携し、問題を解決した事例

 中学3年生A子は、2年生の頃から怠学や遅刻・早退が目立ちはじめ、3年生になると無断外泊等の問題行動を起こすようになり、2学期に家出をした。両親は、A子から電話連絡があったので捜索願は出さなかった。学校側は、深刻な事態に発展することも考えられるので捜索願を出すように両親を説得したが、聞き入れられなかったため所轄警察署に相談をした。警察署では、捜索願はないものの職員を派遣してA子の状況を確認したところ、深刻な状況には至っていないことが分かった。その後、学校関係者等の説得もあって、A子は無事帰宅した。

(2) PTA、特に父親を対象とする活動事例

 PTAや地域住民を巻き込んだ少年非行防止についての研修会等を警察と学校が中心となって開催することは、地域社会が一体となった少年非行防止の気運を高める意味において、高い効果が期待できる。特に、最近の深刻な非行情勢の一因として指摘されることの多い「父親不在」の状況への対策として、父親を対象とする「親父の会」などを結成することは、地域全体の意識喚起のためにも有意義なものと考えられる。

事例1 「少年をまもる父親学級」の開催

 大分県警察では、悪質・凶悪化する少年非行を抑止する施策の一環として、父親に対して子どもに一層関心を持ってもらい、家庭における非行抑止機能の再構築を図るため、県教育委員会、PTA等へ理解と協力を求め、各種会合等あらゆる機会を通じて、中学生、高校生等の父親を中心とした「少年をまもる父親学級」を開催している。

事例2 沖縄県警察の少年の深夜はいかい防止対策における「親父の会」の結成

 沖縄県警察では、少年非行が少年の深夜はいかいと深く係わって発生しているとの認識のもと、警察が中心となって、学校、市町村、PTA、少年補導員協議会等関係機関・団体等との合同補導を積極的に実施しているほか、小・中学校の父親を中心に「親父の会」を結成し、各校区毎に定期的に夜間パトロールを実施している。

(3) 少年非行・被害事件の解決に結びついた事例

事例1 生徒指導担当教員からの早期の相談により傷害事件の解決に結びついた事例

 平素から学校と警察との良好な関係の構築に努めていたところ、高校の生徒指導担当教員から、「最近、うちの生徒で恐喝の被害になっている者がいるようだ」との相談を受けた警察が所要の捜査を行い、高校生男子の同級生に対する恐喝、暴行及び傷害事件の解決につながった。その迅速・的確な対応に被害少年及び家族、学校関係者から感謝された。

事例2 警察からの協力依頼の働き掛けにより恐喝事件の解決に結びついた事例

 警察では、少年サポートセンターをキーステーションとした関係機関・団体とのネットワークを構築して事案の対応に当たっているが、管内の小学生を被害者とする路上恐喝事案が続発したことから、学校や保護者等に対して積極的に当該事件の情報を提供するとともに被疑者に関する情報の提供を求め、事件を早期に解決した。

事例3 学校教諭からの相談により連続ひったくり事件の解決に結びついた事例

 中学校の教諭から「高級ブランドの財布等を見せびらかしている生徒がおり、不審に思って尋ねてもはぐらかされるばかりである」との相談を受けたため、警察が所要の捜査を行い、中学生のひったくりグループ8人による約60件のひったくりやオートバイ盗事件の解決に結びついた。





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