● 人間力戦略ビジョン:新しい時代を切り拓くたくましい日本人の育成〜画一から自立と創造へ〜 平成14年8月30日 文部科学大臣

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人間力戦略ビジョン

新しい時代を切り拓くたくましい日本人の育成
〜画一から自立と創造へ〜


平成14年8月30日
文部科学大臣


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は じ め に

 教育は、国家の基本であり、一人一人の国民にとっては未来を生きる力を学ぶ不可欠の機能をもっています。この大切な教育は、まさに国家百年の大計に立って進めていかなければならないものです。
 今、私たちは、小泉内閣総理大臣が掲げる「米百俵」の精神に立ち、教育の構造改革を推進しています。
 これまでの教育改革の取組は、小学校、中学校、高等学校、大学の各学校段階ごとに目標を掲げて進められてきました。
 しかし、今や、これら各学校段階を通じ、新世紀を生きるたくましい日本人の育成をめざすという大きな視点に立って、それぞれの立場で努力することが大切ではないでしょうか。
 それには、義務教育においてしっかりした「確かな学力」と「豊かな心」を身に付けるとともに、国際社会を生き抜く教養ある日本人を育てるため、初等中等教育の成果の上に、大学で質の高い教育や研究を実現することが期待されます。
 加えて、家庭や地域社会の教育力を高め、ともに高い目標に向けて歩むことが大切な時代です。さらには、生涯学習を含めたマクロな視点に立って一貫した教育施策を展開することが必要です。そうした中で、学校は、教育の専門機関として、それぞれの学校段階において、人の人生にとって知的にも人格的にもまさに成長の基盤づくりの役割を担うとの自覚のもとに、最大限力を傾注することが求められています。教育行政は、そうした取組をしっかり支えなくてはなりません。
 このような戦略的な観点に立ち、これに伴う具体的施策を充実していくことが大切だと考え、今回、別紙のような「人間力戦略」ビジョンを作成しました。これらは、既に着手しているものも含め重要な施策を体系化したものです。
 国民の皆さんが、我が国教育のあり方に信頼を寄せていただき、夢を持って新しい時代に臨んでいくこと、そして、時代を切り拓いていくたくましい人材を育てるため、共に手を携えていただけることを願っています。

                                 文部科学大臣
                               遠 山  敦 子

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人間力戦略:新しい時代を切り拓くたくましい日本人の育成
       〜画一から自立と創造へ〜

 目 標
1.自ら考え行動するたくましい日本人
2.「知」の世紀をリードするトップレベルの人材の育成
3.心豊かな文化と社会を継承・創造する日本人
4.国際社会を生きる教養ある日本人

 上記の4つの目標を達成するため、以下の6つの施策を推進


1.確かな学力の育成〜国民の教育水準は競争力の基盤〜
    ・基礎・基本を徹底し、自ら考える力の育成を図る学力向上アクションプラン
    ・教えるプロとしての優れた教師の育成・確保
    ・優秀な外部人材の活用
    ・特色ある学校、安心して学べる環境づくり
2.豊かな心の育成〜倫理観、公共心と思いやりの心〜
    ・家庭の教育力向上(子育て支援)
    ・地域の教育力向上(異年齢交流)
    ・道徳教育の充実(ルールを守り、責任感・正義感を持つ)
    ・伝統・文化の尊重
    ・奉仕・体験活動や読書活動の推進
3.トップレベルの頭脳、多様な人材の育成〜世界をリードする人材〜
    ・科学技術創造立国の実現
    ・優れた研究教育拠点の形成
    ・専門職大学院(プロフェッショナル・スクール)の創設
4.「知」の世紀をリードする大学改革〜競争的環境の中で個性輝く大学づくり〜
    ・国立大学の法人化など大学の構造改革の推進
    ・大学の質の保証と向上のための制度改革
    ・大学の教育機能の強化
5.感動と充実
    ・文化芸術立国の実現
    ・生涯学習社会の実現
    ・子供の体力向上の推進と世界で活躍するトップレベルの競技者の育成
6.新しい時代を生きる日本人
    ・世界から信頼される日本と日本人
    ・英語が使える日本人」の育成
    ・「日本人の心」が見える協力と留学生交流の推進
    ・IT、環境教育、男女共同参画社会を担う人材の育成


(図)人間力戦略:新しい時代を切り拓くたくましい日本人の育成 − 略

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「人間力戦略」実現のための主要施策の例

1.確かな学力の育成〜国民の教育水準は競争力の基盤〜

▼基礎・基本を徹底し、自ら考える力の育成を図る学力向上アクションプラン
 ○個に応じた指導の充実、先進的取組みの推進
  ・学力向上フロンティア事業等
  ・スーパーサイエンスハイスクール(「科学技術・理科大好きプラン」の一部として実施),スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール
 ○少人数授業や習熟度別指導のための教職員定数改善計画の推進
 ○全国的な学力調査の実施等による学力や教育課程の基準の評価システムの確立
 ○障害のある児童生徒、一人一人の教育的ニーズに応じた教育の推進
 ○キャリア教育の充実
 ○教科書において、学習指導要領に示されていない「発展的な学習内容」の記述を可能とする検定制度の改善

▼教えるプロとしての優れた教師の育成・確保
 ○教員養成機能の強化(教員養成学部等の抜本的な再編統合等)
 ○10年経験者研修の義務化
 ○新たな教員評価システムの導入の促進
 ○児童生徒への指導が不適切な教員の転職措置の創設

▼優秀な外部人材の活用
 ○学校いきいきプランの推進
 ○特別免許状や特別非常勤講師制度による社会人活用の促進
 ○大学、研究機関等と教育現場とが連携して実施する、先進的な科学技術
  ・理科教育を支援(「科学技術・理科大好きプラン」の一部として実施)

▼特色ある学校、安心して学べる環境づくり
 ○学校運営についての自己点検評価の実施、結果の公表の推進
 ○地域が運営に参画する新しいタイプの公立学校(コミュニティ・スクール等)の実践研究の推進
 ○学校施設の耐震化・老朽対策の推進
 ○新たな課題に対応した施設整備
  ・バリアフリー化/最先端の情報環境/エコスクール、空調等
 ○学校の安全管理の徹底、心のケアの充実
 ○出席停止制度の改善やサポートチームの組織化などによる問題を起こす子どもへの適切な対応


2.豊かな心の育成〜倫理観、公共心と思いやりの心〜

▼家庭の教育力の向上(子育て支援)
 ○家庭教育に対する支援の充実
  ・親を対象とした家庭教育に関する学習機会の提供の充実、新家庭教育手帳の作成
  ・地域における子育て支援のためのネットワークの形成に対する支援の充実
  ・家庭教育の向上のための社会教育行政の体制を整備(平成13年社会教育法改正)
 ○幼稚園における「預かり保育」等子育て支援の充実

▼地域の教育力の向上
 ○週末等の子どもの多様な活動を支援(異年齢交流)
 ○不登校児童生徒に対する地域ぐるみのサポートネットワークの整備

▼道徳教育の充実(ルールを守り、責任感・正義感を持つ)
 ○幼稚園から高等学校までの道徳教育の充実
  ・「心のノート」の配布等
 ○児童生徒の心の相談に対応するためのスクールカウンセラーの充実

▼伝統・文化の尊重
 ○伝統文化に関する教育の充実

▼奉仕・体験活動や読書活動の推進
 ○学校教育法・社会教育法の改正による体験活動の促進
  ・奉仕・体験活動を推進する体制整備の充実
  ・小・中・高等学校等において他校のモデルとなる豊かな体験活動の推進
 ○子どもの読書活動の推進に関する施策の充実


3.トップレベルの頭脳、多様な人材の育成
  〜世界をリードする人材〜

▼科学技術創造立国の実現
 ●「知の拠点」を支える教育研究環境の改善
  ○科学研究費補助金等の競争的資金の充実
  ○奨学金の充実
  ○博士課程学生、ポスドク支援の充実など優れた若手研究者の育成
  ○産学官連携を活用した研究人材育成、バイオインフォマティクス等新興分野の機動的な研究人材育成
  ○世界水準の教育研究成果の確保を目指した「国立大学等施設緊急整備5か年計画」の着実な推進

 ●産学官連携の推進
  ○大学発ベンチャー創出の推進
  ○知的財産の創出・取得・管理・活用体制の強化に向けた「大学知的財産本部」の整備
  ○大学等を核とする知的クラスターの創出
   ・地方自治体と大学との連携、協力の強化

▼優れた研究教育拠点の形成
 ○研究教育拠点形成等の重点的支援
  ・21世紀COEプログラムの推進
  ・特色ある大学教育支援プログラムの実施
 ○私学助成による重点的支援
 ○学生・若手研究者の海外武者修行の推進
 ○任期制・公募制の推進による研究者の流動化
 ○博士課程学生、ポスドク支援の充実など優れた若手研究者の育成【再掲】
 ○産学官連携を活用した研究人材育成、バイオインフォマティクス等新興分野の機動的な研究人材育成【再掲】

▼専門職大学院(プロフェッショナル・スクール)の創設
 ○法科大学院などの専門職大学院(プロフェッショナル・スクール)制度の創設
 ○社会のニーズに対応した高度専門職業人の養成


4.「知」の世紀をリードする大学改革
  〜競争的環境の中で個性輝く大学づくり〜

▼国立大学の法人化など大学の構造改革の推進
 ○非公務員型による弾力的な人事システムへの移行
 ○民間的発想のマネジメント手法の導入
 ○教育研究のパワーアップを図るための国立大学の再編・統合の推進
 ○競争的環境の強化(第三者評価による競争原理の導入)

▼大学の質の保証と向上のための制度改革
 ○大学の設置認可の抜本的改善
 ○新たな第三者評価制度の導入
 ○法令違反状態の大学に対する是正措置の導入

▼大学の教育機能の強化
 ○研究教育拠点形成等の重点的支援【再掲】
  ・21世紀COEプログラムの推進
  ・特色ある大学教育支援プログラムの実施
 ○私学助成による重点的支援【再掲】
 ○厳格な成績評価の導入の推進
 ○ファカルティ・ディベロップメント(授業内容・方法の改善に向けた組織的な取組)などの一層の推進


5.感動と充実

▼文化芸術立国の実現
 ○文化芸術振興基本法に基づき、心豊かな社会の形成、地域の活性化に向けて施策を推進
  ・文化芸術創造プラン(新世紀アーツプラン)の推進
  ・「日本文化の魅力」発見・発信プラン
  ・文化財の活用と次世代への継承
  ・文化振興のための基盤整備

▼生涯学習社会の実現
 ○社会教育施設、文化施設等の活性化・高機能化
 ○社会人キャリアアップのための多様な学習機会の充実
 ○専修学校教育の振興
 ○社会経済の変化に対応した放送大学の教育機能の充実

▼子どもの体力向上の推進と世界で活躍するトップレベル競技者の育成
 ○子ども体力向上プラン(子どもの体力を向上させるための、学校・地域
  ・家庭等による総合的な方策を展開)の推進
 ○ニッポン復活プロジェクト(仮称)による世界で活躍するトップレベル競技者の育成

6.新しい時代を生きる日本人

▼世界から信頼される日本と日本人

▼「英語が使える日本人」の育成
 ○「英語が使える日本人」の育成のための行動計画のとりまとめ
  ・優秀なALTの正規教員への採用等、ネイティブスピーカーの活用促進
  ・中学校・高等学校の全英語教員6万人を対象とした計画研修の実施
  ・高校生留学の推進

▼「日本人の心」の見える協力と留学生交流の推進
 ○我が国の知的資源を全面的に活用した、「日本人の心」の見える国際開発協力を推進するための知的インフラの構築
  ・初等中等教育分野等の協力強化のための「拠点システム」の構築
  ・大学における国際開発協力を促進するための「サポートセンター」の整備
  ・国際開発戦略研究センターの設置
 ○留学生交流の推進
  ・留学生相互交流の推進
  ・ポスト留学生受入れ10万人計画を含めた新たな留学生交流充実策の策定等

▼IT・環境・男女共同参画社会を担う人材の育成
 ○ITを活用した教育及び学習の振興、人材の育成
  ・コンピューター、校内LAN等のIT環境の整備、教育用コンテンツの充実、教員のIT活用指導力の向上などによる教育の情報化の推進
  ・公民館、図書館等の社会教育施設、専修学校等におけるITの積極的活用による生涯学習機能の強化
  ・IT分野における人材の戦略的育成
 ○環境教育の充実
  ・学校における環境教育の推進(「環境教育推進グリーンプラン」)
  ・青少年や成人を対象として、地域における環境教育を含め様々な課題に関する学習活動を支援
 ○学校、家庭、地域における男女平等を推進する教育、学習の充実


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