● 「児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律」の施行について 平成16年8月13日 16文科生313



16文科生第313号 平成16年8月13日
各国公私立大学長、各国公私立高等専門学校長
国立教育政策研究所長、各都道府県知事
各都道府県・指定都市教育委員会、各独立行政法人の長あて
文部科学省生涯学習政策局長、文部科学省初等中等教育局長通知


   「児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律」の施行について(通知)



 児童虐待の防止については、平成12年11月に「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年法律第82号。以下「現行法」という。)が施行された後、広く国民一般の理解の向上や関係者の意識の高まりが見られる中で、様々な施策の推進が図られてきました。しかしながら、子どもの尊い生命が奪われるなどの痛ましい児童虐待事件は後を絶たず、児童相談所への児童虐待相談件数も平成15年度には2万6千件を超えるなど、児童虐待問題は依然として、早急に取り組むべき社会全体の課題となっております。
 このため、「児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律」(平成16年法律第30号。以下「改正法」という。別紙1、2、3参照。)が先の通常国会で成立し、平成16年4月14日に公布され、一部の規定を除き、同年10月1日より施行されることとなったところです。
 ついては、各都道府県知事及び各都道府県・指定都市教育委員会におかれては、児童虐待の防止に向けて、下記の主な改正法の内容等にご留意の上、その施行に関して、域内の市町村教育委員会、所管又は所轄の学校及び社会教育施設その他の教育機関及び学校法人に十分了知いただくとともに、教職員をはじめ学校教育及び社会教育の関係者に対して周知が図られるようご連絡願います。
 なお、本件については、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長より各都道府県知事及び指定都市市長あてに通知されており、これを添付(別紙4)しますので、ご参考としてください。

          記

1. 目的(改正法施行後の児童虐待の防止等に関する法律(以下「法」という。)第1条関係)
 法の目的について、次の3点が規定されたこと。
@ 児童虐待が児童の人権を著しく侵害するものであり、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすこと
A 児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務を定めること
B 児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置を定めること

2. 児童虐待の定義(法第2条関係)
 児童虐待の定義について、次の2点が明確にされたこと。
@ 保護者以外の同居人による児童に対する身体的虐待、性的虐待及び心理的虐待を保護者が放置することも、保護者としての監護を著しく怠る行為(いわゆるネグレクト)として児童虐待に含まれること
A 児童の目前で配偶者に対する暴力が行われること等、直接児童に対して向けられた行為ではなくても、児童に著しい心理的外傷を与えるものであれば児童虐待に含まれること

3. 国及び地方公共団体の責務等(法第4条関係)
(1) 児童虐待の防止等のために必要な体制の整備(第1項関係)
 国及び地方公共団体は、児童虐待の予防及び早期発見、迅速かつ適切な児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援(児童虐待を受けた後18歳となった者に対する支援を含む。)並びに児童虐待を行った保護者に対する親子の再統合の促進への配慮その他の児童虐待を受けた児童が良好な家庭的環境で生活するために必要な配慮をした適切な指導及び支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他児童虐待の防止等のために必要な体制の整備に努めなければならないとされたこと。
 なお、「関係機関」の例として教育関係では、幼稚園、小学校等の学校、教育委員会、教育相談センター、社会教育施設などが想定されており、児童相談所、福祉事務所、保健所、児童福祉施設、警察などの関係機関との連携はもとより、個人情報の保護に十分配慮しつつも、社会福祉法人、NPO等、幅広い民間団体との連携にも配慮すべきであること。

(2) 研修等の必要な措置(第2項及び第3項関係)
 国及び地方公共団体は、学校の教職員その他児童の福祉に職務上関係のある者が児童虐待を早期に発見し、児童虐待の防止に寄与することができるよう、研修等必要な措置を講ずるものとされたこと。
 また、国及び地方公共団体は、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援を専門的な知識に基づき適切に行うことができるよう、学校の教職員その他児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援の職務に携わる者の人材確保と資質向上を図るため、研修等の必要な措置を講ずるものとされたこと。

(3) 広報その他の啓発活動(第4項関係)
 国及び地方公共団体は、児童虐待の防止に資するため、児童の人権についても必要な広報その他の啓発活動に努めなければならないとされたこと。

(4) 調査研究及び検証(第5項関係)
 国及び地方公共団体は、児童虐待の予防及び早期発見のための方策、児童虐待を受けた児童のケア並びに児童虐待を行った保護者の指導及び支援のあり方、学校の教職員及び児童福祉施設の職員が児童虐待の防止に果たすべき役割その他児童虐待の防止等のために必要な事項についての調査研究及び検証を行うものとされたこと。

4. 児童虐待の早期発見等(法第5条関係)
 現行法において児童虐待の早期発見に関する努力義務が課されている学校の教職員その他児童の福祉に職務上関係のある者だけでなく、学校その他児童の福祉に業務上関係のある団体も児童虐待の早期発見に責任を負うことが明確にされたこと。
 なお、学校及び学校の教職員等については、児童虐待の早期発見に努めるだけでなく、児童虐待の予防その他の児童虐待の防止並びに児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援に関する国及び地方公共団体の施策に協力するよう努めなければならないとされたこと。
 また、幼稚園、小学校等の学校や児童福祉施設は、児童や保護者に接する機会が多いことを踏まえ、児童及び保護者に対して、児童虐待の防止のための教育又は啓発に努めなければならないとされたこと。

5. 児童虐待に係る通告(法第6条関係)
 児童虐待の早期発見を図るため、通告の対象が「児童虐待を受けた児童」から「児童虐待を受けたと思われる児童」に拡大されたこと。
 これにより虐待の事実が必ずしも明らかでなくても、一般の人の目から見れば主観的に児童虐待があったと思うであろうという場合であれば、通告義務が生じることとなり、児童虐待の防止に資することが期待されるところである。

6. 通告又は送致を受けた場合の措置(法第8条関係)
 児童相談所が通告等を受けたときは、児童相談所長は、必要に応じ近隣住民、学校の教職員、児童福祉施設の職員その他の者の協力を得つつ、当該児童との面会その他の手段により当該児童の安全の確認を行うよう努めることとされたこと。

7. 児童虐待を受けた児童等に対する支援(法第13条の2関係)
 国及び地方公共団体は、虐待を受けたために学校での学習が遅れてしまった児童についても、その年齢及び能力に応じ充分な教育が受けられるようにするため、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならないとされたこと。
 また、虐待を受けた児童のケアや児童福祉施設への入所等の措置自体、児童の保護であると同時にその自立支援としての側面も有しているが、自立のための支援が最も切実に必要とされるのは、虐待を受けて後に保護者との関係が絶たれた児童が児童福祉施設を退所等する場合であり、住居の賃貸契約や高等教育を受けるための資金の確保、就職に際しての保証人の確保や住み込み形式の職業に就職先が偏りがちであること等、多くの困難に直面している。
 こうしたことを踏まえ、国及び地方公共団体は、居住の場所の確保、進学又は就業の支援その他の児童虐待を受けた者の自立の支援のための施策を講じなければならないとされたこと。

8. 施行期日(改正法附則第1条関係)
 改正法の施行期日は、一部の規定を除き平成16年10月1日であること。
 なお、改正法により、現行法第6条及び第8条について、児童相談所及び福祉事務所に加え、新たに市町村を児童虐待に係る通告先として規定するとともに、こうした通告を市町村が受けた場合における児童の安全確認等の対応を規定する改正が行われています。これらの改正については、先の通常国会に提出された児童福祉法の一部を改正する法律(未成立)の施行の日から施行することとされています。このため、これらの改正の施行に際し必要な事項については、同法の成立を待って厚生労働省から各都道府県知事及び指定都市市長あてに改めて連絡することとされていますので、あらかじめご了知願います。






Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会