● 早期に警察へ相談・通報すべきいじめ事案について 平成25年5月16日 25文科初第246号
25文科初第246号 平成25年5月16日
各都道府県教育委員会教育長、各指定都市教育委員会教育長、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学法人学長、小中高等学校を設置する学校設置会社を所轄する構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた各地方公共団体の長 宛
文部科学省初等中等教育局長(布村幸彦)
早期に警察へ相談・通報すべきいじめ事案について(通知)
標記の件については、平成24年11月2日付初等中等教育局長通知「犯罪行為として取り扱われるべきと認められるいじめ事案に関する警察への相談・通報について(通知)」において、犯罪行為として取り扱われるべきと認められる事案については、早期に警察に相談し、警察と連携した対応を取ることが重要であること、また、いじめられている児童生徒の生命又は身体の安全が脅かされているような場合には、直ちに警察に通報することが必要であることを周知いたしました。
いじめの認知に当たっては、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を、いじめられた児童生徒の立場に立って行い、認知したいじめには、迅速に対応することが必要ですが、このいじめの中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められるものが含まれます。このいじめの対応に当たっては、早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要です。
このため、別紙1のとおり、どのような行為が犯罪行為に該当するかについての理解が促されるよう、学校において生じる可能性がある犯罪行為等について、いじめの態様別に、取りまとめました。
ついては、下記の事項に留意の上、都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して、都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して、国立大学法人学長にあっては設置する附属学校に対し、構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた各地方公共団体の長にあっては認可した学校に対し、本通知及び別紙1について周知を図り、早期に警察に相談・通報すべきいじめ事案について、学校現場の適切な理解が促されるよう御指導をお願いします。
また、平成24年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(平成25年5月16日付初等中等教育局児童生徒課長通知において依頼)より、当該調査におけるいじめの定義において、いじめの中には早期に警察に相談・通報することが必要なものが含まれること等を明記しました。別紙2として添付した、平成24年度からの当該調査のいじめの定義について併せて確認の上、この趣旨が当該調査の担当教職員のみならず、広く周知されるよう御指導をお願いします。
なお、本通知の内容については、警察庁生活安全局と調整済みであることを申し添えます。
記
1.いじめの認知に当たっては、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を、いじめられた児童生徒の立場に立って行い、認知したいじめには、迅速に対応することが必要であるが、このいじめの中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められるものが含まれる。
このため、このいじめの対応に当たっては、早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要であること。
2.個々のいじめ事案が、「犯罪行為として取り扱われるべきと認められるもの」に当たるか否かについては、いじめの態様や加害児童生徒の状況等によって、的確に判断することが必要であり、平素より、どのような行為が刑罰法規に該当するかについて、教職員の理解を深めておくことが必要であること。
このため、各学校や教育委員会等においては、別紙1も参考に、指導資料の作成や研修の充実等を図ることが必要であること。
3.上記1の判断に迷う場合も含め、積極的に警察に相談できるよう、学校及び教育委員会等においては、学校と警察との緊密な連携体制を構築しておくことが必要であること。
以上
(別紙1)学校において生じる可能性がある犯罪行為等について
(別紙2)いじめの定義
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(別紙1)学校において生じる可能性がある犯罪行為等について
1.警察への通報・相談に係る基本的な考え方
(1) 学校や教育委員会においていじめる児童生徒に対して必要な教育上の指導を行っているにもかかわらず、その指導により十分な効果を上げることが困難である場合において、その生徒の行為が犯罪行為として取り扱われるべきと認められるときは、被害児童生徒を徹底して守り通すという観点から、学校においてはためらうことなく早期に警察に相談し、警察と連携した対応を取ることが重要。
(2) いじめられている児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるような場合には、直ちに警察に通報することが必要。
2.学校において生じる可能性がある犯罪行為等
以下の「事例」は過去にあった事案を踏まえたものであり、刑罰法規に対応した具体例を示すことで理解を深めるためのものである。個々の事案について、警察へ相談・通報すべきか否かは、記載されている事例を参考にして、上記1.の考え方に基づいて判断することが必要である。
いじめの態様(※) 刑罰法規及び事例
○ひどくぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりする。
暴行(刑法第208条)
第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
事例:同級生の腹を繰り返し殴ったり蹴ったりする。
傷害(刑法第204条)
第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
事例:顔面を殴打しあごの骨を折るケガを負わせる。
○軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする。
暴行(刑法第208条)
第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
事例:プロレスと称して同級生を押さえつけたり投げたりする。
○嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする。
強要(刑法第223条)
第223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。
事例:断れば危害を加えると脅し、汚物を口にいれさせる。
強制わいせつ(刑法第176条)
第176条 13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
事例:断れば危害を加えると脅し、性器を触る。
○金品をたかられる。
恐喝(刑法第249条)
第249条 人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
事例:断れば危害を加えると脅し、現金等を巻き上げる。
○金品を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたりする。
窃盗(刑法第235条)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
事例:教科書等の所持品を盗む。
器物損壊等(刑法第261条)
第261条 前3条に規定するもの(公用文書等毀棄、私用文書等毀棄、建造物等損壊及び同致死傷)のほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
事例:自転車を故意に破損させる。
○冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる
脅迫(刑法第222条)
第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
事例:学校に来たら危害を加えると脅す。
名誉毀損、侮辱(刑法第230条、231条)
第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
事例:校内や地域の壁や掲示板に実名を挙げて、「万引きをしていた」、気持ち悪い、うざい、などと悪口を書く。
○パソコンや携帯電話等で、誹謗中傷や嫌なことをされる。
脅迫(刑法第222条)
第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
事例:学校に来たら危害を加えると脅すメールを送る。
名誉毀損、侮辱(刑法第230条、231条)
第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
事例:特定の人物を誹謗中傷するため、インターネット上のサイトに実名を挙げて「万引きをしていた」、気持ち悪い、うざい、などと悪口を書く。
○パソコンや携帯電話等で、誹謗中傷や嫌なことをされる。
児童ポルノ提供等(児童買春、児童 ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第7条)
第7条 (略)
2〜3 (略)
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(略)
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。(略)
6 (略)
事例:携帯電話で児童生徒の性器の写真を撮り、インターネット上のサイトに掲載する。
(※)いじめの態様:「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」における「いじめ」の調査項目の「いじめの態様」
以上
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(別紙2)
いじめの定義
(「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」における定義)
・平成24年度調査より破線部を追記。(破線略)
本調査において、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。
「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。
この「いじめ」の中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められ、早期に警察に相談することが重要なものや、児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるような、直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる。これらについては早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要である。
(注1)「いじめられた児童生徒の立場に立って」とは、いじめられたとする児童生徒の気持ちを重視することである。
(注2)「一定の人間関係のある者」とは、学校の内外を問わず、例えば、同じ学校・学級や部活動の者、当該児童生徒が関わっている仲間や集団(グループ)など、当該児童生徒と何らかの人間関係のある者を指す。
(注3)「攻撃」とは、「仲間はずれ」や「集団による無視」など直接的にかかわるものではないが、心理的な圧迫などで相手に苦痛を与えるものも含む。
(注4)「物理的な攻撃」とは、身体的な攻撃のほか、金品をたかられたり、隠されたりすることなどを意味する。
(注5)けんか等を除く。ただし、外見的にはけんかのように見えることでも、よく状況を確認すること。
【参考】平成17年度以前の定義は以下の通り。
この調査において、「いじめ」とは、「@自分より弱い者に対して一方的に、A身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、B相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」とする。
なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。
以上
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