● 高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について 平成27年10月29日 27文科初第933号



27文科初第933号 平成27年10月29日
各都道府県教育委員会、各指定都市教育委員会、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学法人学長、高等学校を設置する学校設置会社を所轄する構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた各地方公共団体の長 宛
文部科学省初等中等教育局長(小松親次郎)


  高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)


 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第75号)により、施行後4年を経過した日(平成30年6月21日)以後にその期日がある国民投票から、国民投票の期日の翌日以前に18歳の誕生日を迎える者は、投票権を有することになりました。また、公職選挙法等の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)(以下「改正法」という。)により、施行日(平成28年6月19日)後に初めて行われる国政選挙(衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙)の公示日以後にその期日を公示され又は告示される選挙から改正法が適用されることとなり、適用される選挙期日の翌日以前に18歳の誕生日を迎える等の公職選挙法(昭和25年法律第100号)第9条の各項に規定する要件を満たす者は、国政選挙及び地方選挙において選挙権を有し、同法第137条の2により、選挙運動を行うことが認められることとなりました。
 これらの法改正に伴い、今後は、高等学校、中等教育学校及び高等部を置く特別支援学校(以下「高等学校等」という。)にも、国民投票の投票権や選挙権を有する生徒が在籍することとなります。
 高等学校等においては、教育基本法(平成18年法律第120号)第14条第1項を踏まえ、これまでも平和で民主的な国家・社会の形成者を育成することを目的として政治的教養を育む教育(以下「政治的教養の教育」という。)を行ってきたところですが、改正法により選挙権年齢の引下げが行われたことなどを契機に、習得した知識を活用し、主体的な選択・判断を行い、他者と協働しながら様々な課題を解決していくという国家・社会の形成者としての資質や能力を育むことが、より一層求められます。このため、議会制民主主義など民主主義の意義、政策形成の仕組みや選挙の仕組みなどの政治や選挙の理解に加えて現実の具体的な政治的事象も取り扱い、生徒が国民投票の投票権や選挙権を有する者(以下「有権者」という。)として自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことが重要です。その際、法律にのっとった適切な選挙運動が行われるよう公職選挙法等に関する正しい知識についての指導も重要です。
 他方で、学校は、教育基本法第14条第2項に基づき、政治的中立性を確保することが求められるとともに、教員については、学校教育に対する国民の信頼を確保するため公正中立な立場が求められており、教員の言動が生徒に与える影響が極めて大きいことなどから法令に基づく制限などがあることに留意することが必要です。
 また、現実の具体的な政治的事象を扱いながら政治的教養の教育を行うことと、高等学校等の生徒が、実際に、特定の政党等に対する援助、助長や圧迫等になるような具体的な活動を行うことは、区別して考える必要があります。
 こうしたことを踏まえ、高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等についての留意事項等を、下記のとおり取りまとめましたので、通知します。
 また、このことについて、各都道府県教育委員会におかれては、所管の高等学校等及び域内の市区町村教育委員会に対して、各指定都市教育委員会におかれては、所管の高等学校等に対して、各都道府県知事及び構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた地方公共団体の長におかれては、所轄の高等学校等及び学校法人等に対して、附属学校を置く各国立大学法人学長におかれては、設置する附属高等学校等に対して、御周知くださるようお願いします。
 なお、この通知の発出に伴い、昭和44年10月31日付け文初高第483号「高等学校における政治的教養と政治的活動について」は廃止します。


                    記


第1 高等学校等における政治的教養の教育

 教育基本法第14条第1項には「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。」とある。このことは、国家・社会の形成者として必要な資質を養うことを目標とする学校教育においては、当然要請されていることであり、日本国憲法の下における議会制民主主義など民主主義を尊重し、推進しようとする国民を育成するに当たって欠くことのできないものであること。
また、この高等学校等における政治的教養の教育を行うに当たっては、教育基本法第14条第2項において、「特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動」は禁止されていることに留意することが必要であること。

第2 政治的教養の教育に関する指導上の留意事項

1.政治的教養の教育は、学習指導要領に基づいて、校長を中心に学校として指導のねらいを明確にし、系統的、計画的な指導計画を立てて実施すること。また、教科においては公民科での指導が中心となるが、総合的な学習の時間や特別活動におけるホームルーム活動、生徒会活動、学校行事なども活用して適切な指導を行うこと。
 指導に当たっては、教員は個人的な主義主張を述べることは避け、公正かつ中立な立場で生徒を指導すること。

2.政治的教養の教育においては、議会制民主主義など民主主義の意義とともに、選挙や投票が政策に及ぼす影響などの政策形成の仕組みや選挙の具体的な投票方法など、政治や選挙についての理解を重視すること。あわせて、学校教育全体を通じて育むことが求められる、論理的思考力、現実社会の諸課題について多面的・多角的に考察し、公正に判断する力、現実社会の諸課題を見いだし、協働的に追究し解決する力、公共的な事柄に自ら参画しようとする意欲や態度を身に付けさせること。

3.指導に当たっては、学校が政治的中立性を確保しつつ、現実の具体的な政治的事象も取り扱い、生徒が有権者として自らの判断で権利を行使することができるよう、より一層具体的かつ実践的な指導を行うこと。
 また、現実の具体的な政治的事象については、種々の見解があり、一つの見解が絶対的に正しく、他のものは誤りであると断定することは困難である。加えて、一般に政治は意見や信念、利害の対立状況から発生するものである。そのため、生徒が自分の意見を持ちながら、異なる意見や対立する意見を理解し、議論を交わすことを通して、自分の意見を批判的に検討し、吟味していくことが重要である。したがって、学校における政治的事象の指導においては、一つの結論を出すよりも結論に至るまでの冷静で理性的な議論の過程が重要であることを理解させること。
 さらに、多様な見方や考え方のできる事柄、未確定な事柄、現実の利害等の対立のある事柄等を取り上げる場合には、生徒の考えや議論が深まるよう様々な見解を提示することなどが重要であること。
 その際、特定の事柄を強調しすぎたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど、特定の見方や考え方に偏った取扱いにより、生徒が主体的に考え、判断することを妨げることのないよう留意すること。また、補助教材の適切な取扱いに関し、同様の観点から発出された平成27年3月4日付け26文科初第1257号「学校における補助教材の適正な取扱いについて」にも留意すること。

4.生徒が有権者としての権利を円滑に行使することができるよう、選挙管理委員会との連携などにより、具体的な投票方法など実際の選挙の際に必要となる知識を得たり、模擬選挙や模擬議会など現実の政治を素材とした実践的な教育活動を通して理解を深めたりすることができるよう指導すること。
 なお、多様な見解があることを生徒に理解させることなどにより、指導が全体として特定の政治上の主義若しくは施策又は特定の政党や政治的団体等を支持し、又は反対することとならないよう留意すること。

5.教員は、公職選挙法第137条及び日本国憲法の改正手続に関する法律(平成19年法律第51号)第103条第2項においてその地位を利用した選挙運動及び国民投票運動が禁止されており、また、その言動が生徒の人格形成に与える影響が極めて大きいことに留意し、学校の内外を問わずその地位を利用して特定の政治的立場に立って生徒に接することのないよう、また不用意に地位を利用した結果とならないようにすること。

第3 高等学校等の生徒の政治的活動等

 今回の法改正により、18歳以上の高等学校等の生徒は、有権者として選挙権を有し、また、選挙運動を行うことなどが認められることとなる。このような法改正は、未来の我が国を担っていく世代である若い人々の意見を、現在と未来の我が国の在り方を決める政治に反映させていくことが望ましいという意図に基づくものであり、今後は、高等学校等の生徒が、国家・社会の形成に主体的に参画していくことがより一層期待される。
 他方で、1)学校は、教育基本法第14条第2項に基づき、政治的中立性を確保することが求められていること、2)高等学校等は、学校教育法(昭和22年法律第26号)第50条及び第51条並びに学習指導要領に定める目的・目標等を達成するべく生徒を教育する公的な施設であること、3)高等学校等の校長は、各学校の設置目的を達成するために必要な事項について、必要かつ合理的な範囲内で、在学する生徒を規律する包括的な権能を有するとされていることなどに鑑みると、高等学校等の生徒による政治的活動等は、無制限に認められるものではなく、必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものと解される。
 これらを踏まえ、高等学校等は、生徒による選挙運動及び政治的活動について、以下の事項に十分留意する必要がある。
 なお、地方自治法(昭和22年法律第67号)等の法律に基づき、公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定が準用される住民投票において、投票運動を高等学校等の生徒が行う場合は、選挙運動に準じて指導等を行うこととし、日本国憲法の改正手続に関する法律第100条の2に規定する国民投票運動を高等学校等の生徒が行う場合は、政治的活動に準じて指導等を行うこととする。

【この通知の第3以下における用語の定義について】
 「選挙運動」とは、特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為をすることをいい、有権者である生徒が行うものをいう。
 「政治的活動」とは、特定の政治上の主義若しくは施策又は特定の政党や政治的団体等を支持し、又はこれに反対することを目的として行われる行為であって、その効果が特定の政治上の主義等の実現又は特定の政党等の活動に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉になるような行為をすることをいい、選挙運動を除く。
 「投票運動」とは、特定の住民投票について、特定の投票結果となることを目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為をすることをいう。

1.教科・科目等の授業のみならず、生徒会活動、部活動等の授業以外の教育活動も学校の教育活動の一環であり、生徒がその本来の目的を逸脱し、教育活動の場を利用して選挙運動や政治的活動を行うことについて、教育基本法第14条第2項に基づき政治的中立性が確保されるよう、高等学校等は、これを禁止することが必要であること。

2.放課後や休日等であっても、学校の構内での選挙運動や政治的活動については、学校施設の物的管理の上での支障、他の生徒の日常の学習活動等への支障、その他学校の政治的中立性の確保等の観点から教育を円滑に実施する上での支障が生じないよう、高等学校等は、これを制限又は禁止することが必要であること。

3.放課後や休日等に学校の構外で行われる生徒の選挙運動や政治的活動については、以下の点に留意すること。
(1)放課後や休日等に学校の構外で生徒が行う選挙運動や政治的活動については、違法なもの、暴力的なもの、違法若しくは暴力的な政治的活動等になるおそれが高いものと認められる場合には、高等学校等は、これを制限又は禁止することが必要であること。また、生徒が政治的活動等に熱中する余り、学業や生活などに支障があると認められる場合、他の生徒の学業や生活などに支障があると認められる場合、又は生徒間における政治的対立が生じるなどして学校教育の円滑な実施に支障があると認められる場合には、高等学校等は、生徒の政治的活動等について、これによる当該生徒や他の生徒の学業等への支障の状況に応じ、必要かつ合理的な範囲内で制限又は禁止することを含め、適切に指導を行うことが求められること。
(2)改正法により選挙権年齢の引下げが行われ、満18歳以上の生徒が選挙運動をできるようになったことに伴い、高等学校等は、これを尊重することとなること。
 その際、生徒が公職選挙法等の法令に違反することがないよう、高等学校等は、生徒に対し、選挙運動は18歳の誕生日の前日以降可能となることなど公職選挙法上特に気を付けるべき事項などについて周知すること。
(3)放課後や休日等に学校の構外で行われる選挙運動や政治的活動は、家庭の理解の下、生徒が判断し、行うものであること。
 その際、生徒の政治的教養が適切に育まれるよう、学校・家庭・地域が十分連携することが望ましいこと。

第4 インターネットを利用した政治的活動等

 インターネットを利用した選挙運動や政治的活動については、様々な意見・考え方についての情報発信や情報共有などの観点から利便性、有用性が認められる一方で、送られてきた選挙運動用の電子メールを他人に転送するなどの公職選挙法上認められていない選挙運動を生徒が行ってしまうといった問題が生じ得ることから、政治的教養の教育や高等学校等の生徒による政治的活動等に係る指導を行うに当たっては、こうしたインターネットの特性についても十分留意すること。

第5 家庭や地域の関係団体等との連携・協力

 本通知の趣旨にのっとり、現実の政治を素材とした実践的な教育活動をより一層充実させるとともに、高等学校等の生徒による政治的活動等に関して指導するに当たっては、学校としての方針を保護者やPTA等に十分説明し、共有すること等を通じ、家庭や地域の関係団体等との連携・協力を図ること。




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● 学校における補助教材の適切な取扱いについて 平成27年3月4日 26文科初第1257号


26文科初第1257号 平成27年3月4日
各都道府県教育委員会、各指定都市教育委員会、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学法人学長、構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた地方公共団体の長 宛
文部科学省初等中等教育局長(小松親次郎)


    学校における補助教材の適正な取扱いについて(通知)


 学校における補助教材については,昭和49年9月3日文初小第404号「学校における補助教材の適正な取扱いについて」等を踏まえ,適正な取扱いに努めていただいていると存じますが,最近一部の学校における適切とは言えない補助教材の使用の事例も指摘されています。
 このため,その取扱いについての留意事項等を,改めて下記のとおり通知しますので,十分に御了知の上,適切に取り扱われるようお願いします。
 また,各都道府県教育委員会におかれては,所管の学校及び域内の市町村教育委員会に対して,各指定都市教育委員会におかれては,所管の学校に対して,各都道府県知事及び構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた地方公共団体の長におかれては,所轄の学校及び学校法人等に対して,附属学校を置く各国立大学法人学長におかれては,その管下の学校に対して,本通知の内容についての周知と必要な指導等について適切にお取り計らいくださいますようお願いします。


                    記

1.補助教材の使用について

(1)学校においては,文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならないが,教科用図書以外の図書その他の教材(補助教材)で,有益適切なものは,これを使用することができること(学校教育法第34条第2項,第49条,第62条,第70条,第82条)。
 なお,補助教材には,一般に,市販,自作等を問わず,例えば,副読本,解説書,資料集,学習帳,問題集等のほか,プリント類,視聴覚教材,掛図,新聞等も含まれること。

(2)各学校においては,指導の効果を高めるため,地域や学校及び児童生徒の実態等に応じ,校長の責任の下,教育的見地からみて有益適切な補助教材を有効に活用することが重要であること。

2.補助教材の内容及び取扱いに関する留意事項について

(1)学校における補助教材の使用の検討に当たっては,その内容及び取扱いに関し,特に以下の点に十分留意すること。
 ・ 教育基本法,学校教育法,学習指導要領等の趣旨に従っていること。
 ・ その使用される学年の児童生徒の心身の発達の段階に即していること。
 ・ 多様な見方や考え方のできる事柄,未確定な事柄を取り上げる場合には,特定の事柄を強調し過ぎたり,一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど,特定の見方や考え方に偏った取扱いとならないこと。

(2)補助教材の購入に関して保護者等に経済的負担が生じる場合は,その負担が過重なものとならないよう留意すること。

(3)教育委員会は,所管の学校における補助教材の使用について,あらかじめ,教育委員会に届け出させ,又は教育委員会の承認を受けさせることとする定を設けるものとされており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第33条第2項),この規定を適確に履行するとともに,必要に応じて補助教材の内容を確認するなど,各学校において補助教材が不適切に使用されないよう管理を行うこと。
 ただし,上記の地方教育行政の組織及び運営に関する法律第33条第2項の趣旨は,補助教材の使用を全て事前の届出や承認にかからしめようとするものではなく,教育委員会において関与すべきものと判断したものについて,適切な措置をとるべきことを示したものであり,各学校における有益適切な補助教材の効果的使用を抑制することとならないよう,留意すること。
 なお,教育委員会が届出,承認にかからしめていない補助教材についても,所管の学校において不適切に使用されている事実を確認した場合には,当該教育委員会は適切な措置をとること。






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