● 高等学校学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について(通知) 平成30年3月30日 29文科初第1784号



29文科初第1784号 平成30年3月30日
各都道府県教育委員会教育長、各指定都市教育委員会教育長、各都道府県知事、附属学校を置く各国立大学法人学長、構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた各地方公共団体の長 宛
文部科学事務次官(戸谷一夫)


    高等学校学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について(通知)


 この度,平成30年文部科学省令第13号をもって,学校教育法施行規則の一部を改正する省令が制定され,また,平成30年文部科学省告示第68号をもって,高等学校学習指導要領の全部を改正する告示(以下「新高等学校学習指導要領」という。)が公示されました。
 今回の改正は,平成28年12月21日の中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(以下「答申」という。)を踏まえ,高等学校の教育課程の基準の改善を図ったものです。本改正の概要及び留意事項は下記のとおりですので,十分に御了知いただき,これらに基づく適切な教育課程の編成・実施及びこれらに伴い必要となる教育条件の整備を行うようお願いします。
 また,都道府県教育委員会におかれては,所管の高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。以下同じ。),域内の高等学校を所管する指定都市を除く市町村教育委員会及びその他の教育機関に対して,指定都市教育委員会におかれては,所管の高等学校に対して,各都道府県知事及び構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)第12条第1項の認定を受けた地方公共団体の長におかれては,所轄の高等学校及び学校法人等に対して,附属学校を置く国立大学法人学長におかれては,その管下の高等学校に対して,本改正の内容について周知を図るとともに,必要な指導等をお願いします。
 なお,本通知については,関係資料と併せて文部科学省のホームページに掲載していますので,御参照ください。
 別途,国公私立大学長及び独立行政法人大学入試センター理事長に対し,大学入学者選抜について新高等学校学習指導要領の趣旨を踏まえ適切に実施されるよう,別添1のとおり通知をしていますので御了知ください。


                    記


1.改正の概要

(1)高等学校の教育課程の基準の改善の基本的な考え方
・教育基本法,学校教育法などを踏まえ,我が国のこれまでの教育実践の蓄積を活かし,豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手となることが期待される子供たちが急速に変化し予測不可能な未来社会において自立的に生き,社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成することとしたこと。その際,子供たちに求められる資質・能力とは何かを社会と共有し,連携する「社会に開かれた教育課程」を重視したこと。
・知識及び技能の習得と思考力,判断力,表現力等の育成のバランスを重視する現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で,知識の理解の質をさらに高め,確かな学力を育成することとしたこと。
 道徳教育推進教師を中心とした道徳教育の推進や体験活動の重視,体育・健康に関する指導の充実により,豊かな心や健やかな体を育成することとしたこと。
・新たに「前文」を設け,新高等学校学習指導要領を定めるに当たっての考え方を,明確に示したこと。

(2)知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」の実現
○「何ができるようになるか」を明確化
・子供たちに育む「生きる力」を資質・能力として具体化し,「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら,授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう,各教科等の目標及び内容を,@知識及び技能,A思考力,判断力,表現力等,B学びに向かう力,人間性等の三つの柱で再整理したこと。

○主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
・選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ,生徒にとって政治や社会が一層身近なものとなっており,高等学校においては,社会で求められる資質・能力を全ての生徒に育み,生涯にわたって探究を深める未来の創り手として送り出していくことがこれまで以上に求められること。また,特に高等学校教育においては,大学入学者選抜に向けた対策が動機付けとなり,小・中学校に比べ知識伝達型の授業にとどまりがちであることや,卒業後の学習や社会生活に必要な力の育成につながっていないことが課題となっていることから,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善が必要とされていること。
・上記の資質・能力の三つの柱が,偏りなく実現されるよう,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を図ることしたこと。その際,特に,生徒が各教科・科目等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を各教科等の特質に応じて図ることが重要であること。

(3)各学校におけるカリキュラム・マネジメントの確立
・教科等の目標や内容を見渡し,特に学習の基盤となる資質・能力(言語能力,情報活用能力,問題発見・解決能力等)や豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成のためには,教科等横断的な学習を充実する必要があること。
 また,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善については,1単位時間の授業の中で全てが実現できるものではなく,単元など内容や時間のまとまりの中で,習得・活用・探究のバランスを工夫することが重要であるとしたこと。
・そのため,学校全体として,子供たちや学校,地域の実態を適切に把握し,教育内容や時間の適切な配分,必要な人的・物的体制の確保,実施状況に基づく改善などを通して,教育課程に基づく教育活動の質を向上させ,学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントに努めるものとしたこと。

(4)教科・科目構成の見直し
・高等学校において育成を目指す資質・能力を踏まえつつ,別添2のとおり教科・科目の構成を改善したこと。

(5)教育内容の主な改善事項
@ 言語能力の確実な育成
・科目の特性に応じた語彙の確実な習得,主張と論拠の関係や推論の仕方など,情報を的確に理解し効果的に表現する力の育成を図ることとしたこと。
・学習の基盤としての各教科等における言語活動を充実したこと。
A 理数教育の充実
・理数を学ぶことの有用性の実感や理数への関心を高める観点から,日常生活や社会との関連を重視するとともに,見通しをもった観察,実験を行うことなどの科学的に探究する学習活動を充実させたこと。
・必要なデータを収集・分析し,その傾向を踏まえて課題を解決するための統計教育を充実したこと。
・将来,学術研究を通じた知の創出をもたらすことができる創造性豊かな人材の育成を目指し,新たな探究的科目として,「理数探究基礎」及び「理数探究」を新設したこと。
B 伝統や文化に関する教育の充実
・我が国の言語文化に対する理解を深める学習を充実させたこと。
・政治や経済,社会の変化との関係に着目した我が国の文化の特色,我が国の先人の取組や知恵,武道に関する内容の充実,和食,和服及び和室など,日本の伝統的な生活文化の継承・創造に関する内容を充実したこと。
C 道徳教育の充実
・各学校において,校長のリーダーシップの下,道徳教育推進教師を中心に,全ての教師が協力して道徳教育を展開することを新たに規定したこと。
・道徳教育の展開に当たっては,公民の「公共」,「倫理」,特別活動が,人間としての在り方生き方に関する中核的な指導の場面であることに配慮することを明記したこと。
D 外国語教育の充実
・複数の領域を結び付けた統合的な言語活動を通して「聞くこと」「読むこと」「話すこと[やりとり・発表]」「書くこと」の力を総合的に育成するための科目(「英語コミュニケーションT,U,V」)や発信力の強化に特化した科目(「論理・表現T,U,V」)を新設したこと。
・小・中・高等学校一貫した学びを重視して,外国語能力の向上を図る目標を設定し,目的や場面,状況などに応じて外国語でコミュニケーションを図る力の着実な育成を図ることとしたこと。
E 情報教育の充実
・情報科の科目を再編し、全ての生徒が履修する「情報T」を新設することにより,プログラミング、ネットワーク(情報セキュリティを含む。)やデータベース(データ活用)の基礎等の内容を必修としたこと。また、データサイエンス等に関する内容を充実したこと。
・各教科におけるコンピュータ等を活用した学習活動を充実したこと。
F 職業教育の充実
・就業体験等を通じた望ましい勤労観,職業観の育成,職業人に求められる倫理観に関する指導を充実したこと。
・地域や社会の発展を担う職業人を育成するため,社会や産業の変化の状況等を踏まえ,持続可能な社会の構築,情報化の一層の進展,グローバル化などへの対応の視点から各教科の教育内容を改善したこと。
・産業界で求められる人材を育成するため,「船舶工学」,「観光ビジネス」,「総合調理実習」,「情報セキュリティ」,「メディアとサービス」の科目を新設したこと。

(6)その他の改善事項
・初等中等教育の一貫した学びを充実させるため,中学校との円滑な接続や,高等学校卒業以降の教育や職業との円滑な接続について明記したこと。
・生徒一人一人の発達を支える観点から,ホームルーム経営や生徒指導,キャリア教育の充実と教育課程の関係について明記したこと。
・日本語の習得に困難のある生徒や不登校の生徒への教育課程について定めたこと。
・部活動については,教育課程外の学校教育活動として教育課程との関連を留意し,社会教育関係団体等との連携による持続可能な運営体制について定めたこと。
・障害のある生徒に対する通級による指導における個別の指導計画等の全員作成や単位修得の認定の際の配慮事項,各教科等における学習上の困難に応じた指導の工夫について定めたこと。

(7)施行及び適用の時期
・新高等学校学習指導要領は,平成34年4月1日に施行する。ただし,同日以降高等学校の第1学年に入学した生徒(単位制による課程にあっては,同日以降入学した生徒(学校教育法施行規則第91条の規定により入学した生徒に係る教育課程により履修するものを除く。))に係る教育課程及び全課程の修了の認定から適用すること。

2.留意事項

(1)移行措置期間の特例
 平成31年4月1日から平成34年3月31日までの間における現行の高等学校学習指導要領(平成21年文部科学省告示第34号)の必要な特例については,追ってこれを告示し,別途通知する予定であること。

(2)新高等学校学習指導要領の実施に必要な諸条件の整備
 答申において指摘されているとおり,新高等学校学習指導要領の実現のためには,これからの学校教育の在り方に関わる諸改革との連携を図るとともに,教師の授業改善や子供と向き合う時間を確保し,教師一人一人が力を発揮できるようにする必要があること。
 具体的には,平成29年4月から施行されている教育公務員特例法等の改正を踏まえ,教員養成・採用・研修を一体として,教師の資質・能力の向上を図ること。教職員の業務の見直しや部活動の運営の適正化などによる業務の適正化を図ること。学校図書館の充実や指導体制,学校施設・設備,ICT環境の整備など教材や教育環境の整備・充実を図ること。

(3)新高等学校学習指導要領の周知・徹底
 新高等学校学習指導要領の理念を各学校において実現するためには,各学校の教職員が新高等学校学習指導要領の理念や内容についての理解を深める必要がある。また,今回の改訂は,高大接続改革という,高等学校教育を含む初等中等教育改革と,大学教育改革,そして両者をつなぐ大学入学者選抜の一体的改革の実施の中で実施する改訂であり,高等学校関係者のみならず大学関係者をはじめ多くの者にその周知を図ることも大切である。このため,文部科学省としては平成30年度に集中的に新高等学校学習指導要領に関する説明会を開催するとともに,一人一人の教職員が直接利用できる各種の広報媒体を通じて,周知・徹底を図ることとしており,各教育委員会等においても,新高等学校学習指導要領等に関する研修会を開催し,教職員への周知・徹底を図ると共に,例えば,地域の教員養成大学と意見交換を行う際に,その概要を共有するなど,各教育委員会等の実態に応じて高等教育関係者への情報共有や周知の取組を工夫されたいこと。
 また,新高等学校学習指導要領は大綱的な基準であることから,その記述の意味や解釈などの詳細については,文部科学省が作成・公表する新高等学校学習指導要領解説において説明することを予定している。このため,新高等学校学習指導要領解説を活用して,教職員が新高等学校学習指導要領についての理解を深められるよう周知・徹底を図ること。

(4)家庭・地域との連携・協働の推進
 学校がその目的を達成するため,学校や地域の実態等に応じ,教育活動の実施に必要な人的又は物的な体制を家庭や地域の企業や団体等の協力を得ながら整えるなど,家庭や地域社会との連携及び協働を深めること。

〔参考〕文部科学省ホームページアドレス
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/






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