● 公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン 平成31年1月25日 文部科学省
公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン
平成31年1月25日
文部科学省
1.趣旨
社会の変化に伴い学校が抱える課題が複雑化・多様化する中,教師の長時間勤務の
看過できない実態が明らかになっている。特に所定の勤務時間外においては,いわゆ
る「超勤4項目」以外の業務について,教師が対応している時間が長時間化している
実態が生じている。
現在,我が国の学校教育が挙げてきた大きな蓄積と高い効果を持続可能なものとし,
新学習指導要領を円滑に実施していくため,「学校における働き方改革」が進められ
ている。
教師の業務負担の軽減を図り,限られた時間の中で,教師の専門性を生かしつつ,
授業改善のための時間や児童生徒等に接する時間を十分確保し,教師が我が国の学校
教育の蓄積と向かい合って自らの授業を磨くとともに日々の生活の質や教職人生を
豊かにすることで,教師の人間性や創造性を高め,児童生徒等に対して効果的な教育
活動を持続的に行うことをできる状況を作り出す。これが「学校における働き方改革」
の目指すところであり,文部科学省では,業務の明確化・適正化,必要な環境整備等,
教師の長時間勤務是正に向けた取組を着実に実施していくこととしている。
また,政府全体でも関連する取り組みが進められる中,平成30年7月に公布され
た働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(以下,「働き方改革推
進法」という。)において,労働基準法第36条における時間外労働に関する協定(い
わゆる「36協定」)を結ぶにあたり,法定の労働時間を超える時間外労働の規制が新
たに規定されたところである。
今回,こうした政府全体の動向も踏まえつつ,現在進められている「学校における
働き方改革」の総合的な方策の一環として,いわゆる「超勤4項目」以外の業務への
対応も視野に入れ,公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインを制定す
るものである。
なお,本ガイドラインについては,中央教育審議会「新しい時代の教育に向けた持
続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的
な方策について」(答申)において,本ガイドラインの実効性を高めるため,「文部科
学省は,その根拠を法令上規定するなどの工夫を図り,学校現場で確実に遵守される
よう」取り組むべきであるとされていることを踏まえ,文部科学省として更に検討を
続けていくものである。
2.本ガイドラインの対象者
本ガイドラインは,「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措
置法」(以下,「給特法」という。)第2条に規定する義務教育諸学校等の教育職員を
対象とする。
なお,給特法の対象となっていない事務職員,学校栄養職員等については,法定
労働時間を超えて勤務させる場合には,いわゆる「36協定」を締結する中で働き
方改革推進法に定める時間外労働の規制が適用されるものである。
3.勤務時間の上限の目安時間
(1)本ガイドラインにおいて対象となる「勤務時間」の考え方
教師は,社会の変化に伴い子供たちがますます多様化する中で,語彙,知識,概
念がそれぞれに異なる一人一人の子供たちの発達の段階に応じて,指導の内容を理
解させ,考えさせ,表現させるために,言語や指導方法をその場面ごとに選択しな
がら,学習意欲を高める授業や適切なコミュニケーションをとって教育活動に当た
ることが期待されている。このような教師の専門職としての専門性や職務の特徴を
十分に考慮しつつ,「超勤4項目」以外の業務が長時間化している実態も踏まえ,こ
うした業務を行う時間も含めて「勤務時間」を適切に把握するために,今回のガイ
ドラインにおいては,在校時間等,外形的に把握することができる時間を対象とす
る。
具体的には,教師等が校内に在校している在校時間を対象とすることを基本とす
る。なお,所定の勤務時間外に校内において自らの判断に基づいて自らの力量を高
めるために行う自己研鑽の時間その他業務外の時間については,自己申告に基づき
除くものとする。
これに加えて,校外での勤務についても,職務として行う研修への参加や児童生
徒等の引率等の職務に従事している時間については,時間外勤務命令に基づくもの
以外も含めて外形的に把握し,対象として合算する。また,各地方公共団体で定め
る方法によるテレワーク等によるものについても合算する。
ただし,これらの時間からは,休憩時間を除くものとする。
これらを総称して「在校等時間」とし,本ガイドラインにおいて対象となる「勤
務時間」とする。
(2)上限の目安時間
@ 1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減
じた時間が,45時間を超えないようにすること。
A 1年間の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減
じた時間が,360時間を超えないようにすること。
(3)特例的な扱い
@ 上記(2)を原則としつつ,児童生徒等に係る臨時的な特別の事情により勤務
せざるを得ない場合についても,1年間の在校等時間の総時間から条例等で定め
られた勤務時間の総時間を減じた時間が,720時間を超えないようにすること。
この場合においては,1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務
時間の総時間を減じた時間が45時間を超える月は,1年間に6月までとするこ
と。
A また,1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間
を減じた時間が100時間未満であるとともに,連続する複数月(2か月,3か
月,4か月,5か月,6か月)のそれぞれの期間について,各月の在校等時間の
総時間から条例等で定められた各月の勤務時間の総時間を減じた時間の1か月
当たりの平均が,80時間を超えないようにすること。
4.実効性の担保
(1)本ガイドラインの実効性を担保するために,服務監督権者である教育委員会は
以下の取組を進めること。
@教育委員会は,本ガイドラインを参考にしながら,それぞれにおいて,所管内の
公立学校の教師の勤務時間の上限に関する方針等(以下「方針等」という。)を策
定すること。
A教育委員会は,方針等の実施状況を把握した上で,その状況を踏まえ,勤務時間
の長時間化を防ぐための業務の役割分担や適正化,必要な環境整備等の取組を実
施すること。特に,方針等で定める上限の目安時間を超えた場合には,教育委員
会は,所管内の公立学校における業務や環境整備等の状況について事後的に検証
を行うこと。
B教育委員会は,人事委員会と方針等について認識を共有し,専門的な助言等を受
けるなど連携を強化すること。人事委員会を置かない地方公共団体については,
当該団体の長と方針等について認識を共有し,当該団体の長の求めに応じて必要
な報告を行うなど連携して取り組むこと。
(2)文部科学省及び教育委員会は,保護者も含めて社会全体が本ガイドラインや方
針等の内容を理解できるよう,教育関係者はもちろん,保護者や地域住民等に対
して広く周知を図るものとすること。
(3)文部科学省は,「教育委員会における学校の業務改善のための取組状況調査」を
はじめとした既存の調査等を活用しつつ,適宜,各教育委員会の取組の状況を把
握し,公表するものとすること。
5.留意事項
(1)関係者は,本ガイドラインが,上限の目安時間まで教師等が在校等したうえで
勤務することを推奨する趣旨ではなく,「学校における働き方改革」の総合的な
方策の一環として策定されるものであり,他の長時間勤務の削減方策と併せて取
り組まれるべきものであることを十分に認識すること。決して,学校や教師等に
上限の目安時間の遵守を求めるのみであってはならないこと。
(2)本ガイドラインの実施に当たっては,働き方改革推進法による改正後の労働安
全衛生法体系において,タイムカードによる記録,電子計算機の使用時間の記録
等の客観的な方法その他の適切な方法による勤務時間の把握が事業者の義務と
して明確化されたことを踏まえ,在校時間は,ICT の活用やタイムカード等によ
り客観的に計測し,校外の時間についても,本人の報告等を踏まえてできる限り
客観的な方法により計測すること。
(3)本ガイドラインの実施に当たっては,教育委員会は,休憩時間や休日の確保等
労働法制を遵守すること。また,教師等の健康及び福祉を確保するため,在校等
時間が一定時間を超えた教師等への医師による面接指導や健康診断を実施する
こと,退庁から登庁までに一定時間を確保すること,年次有給休暇等の休日につ
いてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること,心
身の健康問題についての相談窓口を設置すること,必要に応じ産業医等による助
言・指導を受け,また教師等に産業医等による保健指導を受けさせること等に留
意しなければならないこと。
(4)上限の目安時間の遵守を形式的に行うことが目的化し,真に必要な教育活動を
おろそかにしたり,実際より短い虚偽の時間を記録に残す,又は残させたりする
ことがあってはならないこと。さらに,上限の目安時間を守るためだけに自宅等
に持ち帰って業務を行う時間が増加してしまうことは,本ガイドラインのそもそ
もの趣旨に反するものであり,厳に避けること。
(5)冒頭で述べた通り,本ガイドラインについては,中央教育審議会「新しい時代
の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き
方改革に関する総合的な方策について」(答申)において,本ガイドラインの実効
性を高めるため,「文部科学省は,その根拠を法令上規定するなどの工夫を図り,
学校現場で確実に遵守されるよう」取り組むべきであるとされていることを踏ま
え,文部科学省として更に検討を続けていくこととしており,各教育委員会にお
いては,この点にも留意して取組を進められたい。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会