● 教育実習等におけるハラスメントの防止及びその適切な対応等について(通知) 令和5年3月29日 4教教人第48号
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4教教人第48号 令和5年3月29日
教職課程を置く各国公私立大学長、各指定教員養成機関の長、各都道府県教育委員会教育長、各指定都市・中核市教育委員会教育長、各都道府県知事、構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた各地方公共団体の長、各指定都市・中核市市長 宛
文部科学省総合教育政策局教育人材政策課長(後藤教至)
教育実習等におけるハラスメントの防止及びその適切な対応等について(通知)
教育職員免許法施行規則(昭和29年文部省令第26号)(以下、「施行規則」という。)に定める教育実習、心身に障害のある幼児、児童又は生徒についての教育実習、養護実習及び栄養教育実習(以下、「教育実習等」という。)の実施に当たっては、施行規則第22条の5に基づき、認定課程を有する大学は、教育実習等の受入先の協力を得て、その円滑な実施に努めなければならないこととされています。
令和4年12 月の中央教育審議会答申(『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について〜「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成〜)(以下、「令和4年答申」という。)において、「令和の日本型学校教育」の実現に向け、学部段階での養成においても、理論と実践を往還させた省察力による学びを実現することで、学生の「授業観・学習観」の転換を図ることが重要とされています。これを踏まえ、従来の教育実習等の実施の在り方の見直しや学校体験活動の積極的な活用などにより、教師を目指す学生が早い段階から複数回に渡り学校現場に入っていくことが想定されることから、大学等、学校を設置する教育委員会及び教育実習等を受け入れる学校等は、ますますその円滑な実施への対応等に向け、連携が求められることになります。
特に、学校現場における教育実習等の実施の際のハラスメントについては、各都道府県教育委員会教育長及び各指定都市教育委員会教育長に対し、「『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』の制定等について(通知)」(令和2年3月19日付け元初財務第37号)(別添1)(以下、「ハラスメント指針通知」という。)において、教職員からの教育実習生に対するパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントに類する言動への適切な対応等を求めています。
また、これを踏まえ、教職課程を置く大学の長及び各指定教員養成機関の長に対し、「『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』の制定等について(通知)を踏まえた対応について(通知)」(令和2年3月27日付け元教教人第48 号)(別添2)において、教育委員会等との協力の上、教育実習等の実施に当たって起こりうるハラスメントに関し大学等としての主体性と責任を持った対応を行うことを求めています。
既にこれらのことについては、各教育委員会や大学等で承知されているものと存じますが、引き続き、ハラスメントの防止や、ハラスメントの事例やその対応等の周知徹底に努めてくださるようお願いします。また、教師を目指す学生が安心して教育実習等を行い、その経験をもとに未来の学校教育を担う教師となっていくことを見据え、教育実習等の在り方や適切な環境を確保していくことは重要であることから、改めて下記の点について御留意くださるよう、お願いします。
なお、各都道府県教育委員会におかれては、所管の学校(高等専門学校を除く。)及び域内の市区町村教育委員会(指定都市・中核市教育委員会を除く。)に対して、各指定都市・中核市教育委員会におかれては、所管の学校(高等専門学校を除く。)に対して、各都道府県知事におかれては、所轄の学校並びに所管の認定こども園及び域内の市区町村(指定都市及び中核市を除く。)認定こども園主管課に対して、各指定都市・中核市市長におかれては、所管の認定こども園に対して、構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)第12条第1項の認定を受けた地方公共団体の長におかれては、所轄の学校設置会社に対して、周知をお願いします。
記
1.教職課程を置く大学等に係る事項
(1)全般的事項
1.教育実習等は大学等が実施する授業科目であることから、その実施に当たっては、一義的には大学等が責任を持って行うこと。このため、大学等は教育実習等の計画、教育委員会や学校等への受入れ調整、評価方法の設定、学生への事前事後指導、実習期間中の学生や学校等との連絡体制の整備等について、引き続き努めるとともに、万一の場合の学生からの相談窓口の整備やその周知、さらに、相談内容の状況に応じて学校等との再調整を含め、大学等が主体性を持ってその機能を万全に果たす必要があること。
2.令和3年の施行規則の改正により、複数の認定課程を置く大学については、当該大学が有するそれぞれの認定課程の円滑かつ効果的な実施を通じて当該大学が定める教員の養成の目標を達成することができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えることとされている(施行規則第22 条の7)。教育実習等の実施に当たっても、実習担当の大学教員のみに学生の指導や学校への連絡・調整を一任するのではなく、全学的に教職課程を実施する組織体制を中心として、大学全体として取り組むことが期待されること。
3.同改正により、認定課程を有する大学は、当該大学における認定課程の教育課程、教育研究実施組織、教育実習並びに施設及び設備の状況について自ら点検及び評価を行い、その結果を公表することとされている(施行規則第22 条の8)。これを踏まえ策定された「教職課程の自己点検・評価及び全学的に教職課程を実施する組織に関するガイドライン」(令和3年5月7日教職課程の質保証のためのガイドライン検討会議)においても、教育実習等に関し、「教育実習等を実施する学校との連携・協力の状況」等の観点が例示されていることから、大学の教職課程の自己点検・評価のプロセスも活用し、教育実習等の適切な在り方について、不断の見直しを図っていくことが期待されること。また、その際は、教職員や教職課程の学生等へのアンケートの結果等、定量的なデータの収集等を通じて、その状況を正確に把握することが考えられること。
(2)性暴力、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント等の防止について
1.教職課程に限らず、大学等におけるセクシャルハラスメントを含む性暴力等の防止については、「セクシャルハラスメントを含む性暴力等の防止に向けた取組の推進について(通知)」(令和4年11月22日付け4文科高第1246号)(別添3)において、その包括的な対策等が提示されているが、教育実習等の実施においても、大学等は原則これを踏まえ適切な対応を行うことが必要なこと。
2.「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(令和3年法律第57号)及びこれに基づく「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」(令和4年3月18日文部科学大臣決定)において、教育職員の養成課程を有する大学においては、学生が児童生徒性暴力等の防止等に関する理解を深めるための措置を講ずるものとされていること(第13 条第3項)から、大学は教職課程の授業科目の内外を通じ、その取組を推進すること。特に、教育実習等の事前指導等においては、学生は絶対に加害者にならないこと、被害の相談を受けた場合は傍観者にならないこと等について、十分に指導を行うこと。
3.万一、実習期間中に学生が、性暴力やセクシャルハラスメント、パワーハラスメント等の被害を受けるなど、学校現場において不適切な事案等が発生した場合のため、大学等は学生が直ちに相談できる窓口や連絡体制があることについて事前に周知を図ること。また、相談内容や状況に応じ大学等として適切な対応を行うことについても、学生に周知すること。
4.学生が上記の相談を行うことを躊躇することのないよう、大学等は相談に係る関係者のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、学生に対し、プライバシーが保護されることについての周知も行うこと。
5.教育実習等の授業科目の単位認定は、最終的には大学等の責任において行われるものであるが、実習受入れを行う学校で指導に当たる教員がその評価の一部を行う立場にあることから、学生がハラスメント等の被害を受けても、評価時における不利益な取扱いを受けることを危惧し、相談をためらうケースが想定されるため、大学等はこのような不利益な取扱いを禁止する旨を学内の規則等で明示的に定め、学生・大学教職員等関係者や、実習受入れ学校関係者に対し、十分に周知を行うこと。
(3)教育実習等の適切な時間の管理等について
1.教育実習等は大学等が実施する授業科目であることや、教員免許状を取得するための認定科目であることから、大学設置基準等や施行規則等に基づき、適切な時間の設定・確保を行うことはもとより、緊急時等を除き、所定の時間数を上回るような実習が行われることのないよう、大学等は教育委員会や学校等と調整を行うこと。
2.学校における教員の働き方改革については、「学校における働き方改革に関する取組の徹底について(通知)」(平成31年3月18日付け30文科初第1497号)(別添4)(以下、「働き方改革通知」という。)に示すとおり、文部科学省、教育委員会等においてその取組を進めているところである。本通知の趣旨も踏まえ、大学等における教職課程の授業科目のうち、例えば、「教職の意義及び教員の役割・職務内容(チーム学校運営への対応を含む。)」に関する科目において、教員の働き方改革に関する内容等を取り扱うことが考えられること。
3.上記の教員の働き方改革を推進する趣旨から、大学等においても、実習受入れを行う学校に過度な負担がかからないことへ十分な配慮が必要であること。例えば、教育実習等の学生個人の評価票やその他の報告事項等の提出に当たり、学校や実習を指導する教員の通常業務に支障が及ぶような詳細な書類作成を求めること等がないよう十分留意すること。また、その方法においては、ICT を積極的に活用するなど、大学等と学校が互いに負担を軽減できる方法を積極的に検討すること。
(4)その他
1.障害のある学生が教師を目指す場合の教育実習等の実施においては、その学生の障害の状況等に応じ、合理的配慮の在り方に十分な留意が必要であるとともに、特に、障害の状況等への無理解から生じる差別的な言動やハラスメントを防止するため、大学等は受入れ学校に対し、学生の障害の状況や困難さについてより丁寧な説明を行い、受入れ学校関係者の理解を図ること。また、実習期間中における学生の困りごと等に迅速な対応ができるよう連絡体制を整えること。なお、「障がいのある学生の教育実習における合理的配慮に関する対応マニュアルとチェックリスト」(大阪教育大学:令和3年度「教師の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」委託調査研究)も参考にすること。
「障がいのある学生の教育実習における合理的配慮に関する対応マニュアルと チェックリスト」について
2.いわゆる母校実習に関し、学生が自ら教職に就くことを希望する出身地の母校等の学校で教育実習等を行うことは、早い段階から地域の教育を知る上で有意義である。一方、大学等から比較的遠隔地の学校で行われることが多く、ハラスメントの問題が生じた場合の緊急の対応への課題もあることから、大学等と学校とが十分に連携して指導・相談を行う体制の構築等が必要であることに留意すること。
2.各教育委員会や学校等に係る事項
(1)全般的事項
1.学校におけるハラスメントは、教職員間のみならず、児童生徒や保護者等との関係においても起こりうるものである。特に、教育実習中の学生は実習中に教員から指導を受ける弱い立場にあることから、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントに類する言動を行うことは決して許されるものではない。このことについて、教育委員会や学校等は、改めて関係者に周知徹底を行うこと。
2.「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)及び「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針等の一部を改正する告示」(令和2年厚生労働省告示第6号)においては、教育実習生等の「自らの雇用する労働者以外の者に対する言動」についても取り組むことが望ましいと規定されていることを踏まえ、教育委員会等は、職場におけるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントに関する方針の策定等を行う際に、教職員による教育実習生への言動についても同様の方針を併せて示し、関係者に周知を図ること。
3. 教育実習等に受け入れる大学等や学生が決定した場合、教育委員会等は当該大学等や学生に対し、実習期間中におけるハラスメント等の事案が発生した場合の学生が相談できる窓口の周知を徹底すること。また、その相談があった場合には適切な対応を行うとともに、学生が安心して教育実習等を実施・継続することができる環境の確保に努めること。
4. 平成30年の施行規則改正により、文部科学大臣が認定した在外教育施設も教育実習を行う施設とすることが可能とされたため、当該施設において教育実習等を行う学生を受け入れる場合は、本通知を参考に適切な対応を行うこと。
(2)教育実習等の適切な時間の管理等について
1.教育実習等は大学等が実施する授業科目であることから、大学等は大学設置基準等や施行規則等に基づき適切な時間の設定で実習計画を行っているため、学校は設定された時間数での実施を徹底する必要があること。また、教育実習等は学校の所定の勤務時間の範囲内で行うことが原則であることから、緊急時や真に必要な場合を除き、設定された時間数を上回る実施のないよう、努めること。
2.令和4年答申を踏まえ、今後教育実習等の実施の在り方が多様化することが想定されることから、教育委員会はその受入れの調整にあたって、域内の学校に一任するのではなく、例えば、教育委員会が中心となって調整を行うことや、自治体ごとに受入れの一定のルール化を検討することにより、学校が大学等や学生と事前調整を行う工程の負担を軽減することが期待できること。
3. 「働き方改革通知」を踏まえ、教育委員会や学校等においてその取組を進めているところと承知しているが、受入れ学校の教員の勤務時間の状況等によって、教育実習等の実施においても、設定された時間数を上回る長時間の実習が行われる可能性があると考えられることから、教育実習等の適切な実施の在り方については、教員の働き方改革や職場環境の改善と併せて検討することが望ましいこと。
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