● こども基本法の施行について(通知) 令和5年4月1日 こ総政第2号


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こ総政第2号 令和5年4月1日
各都道府県知事、各指定都市市長 殿
こども家庭庁長官(公印省略)


こども基本法の施行について(通知)


 こども基本法(令和4年法律第77号。以下「法」という。については、昨年6月22日に公布され、令和5年4月1日から施行されます。
 貴職におかれては、下記事項に御留意の上、その円滑な施行に向け、格別の配慮をお願いするとともに、各都道府県におかれては、貴都道府県内の指定都市を除く市町村に対してもこの旨周知願います。また、参考資料として、質疑応答集(Q&A)(別紙)をとりまとめたので、併せて周知をお願いします。


          記


第1 法制定の目的(第1条関係)
 これまで、こどもに関する各般の施策の充実に取り組んできたが、少子化の進行、人口減少に歯止めがかかっていない。また、児童虐待相談や不登校の件数が過去最多になるなど、こどもを取り巻く状況は深刻で、コロナ禍がそうした状況に拍車をかけている。
 常にこどもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組や政策を我が国社会の真ん中に据えて、強力に進めていくことが急務となっている。
 このため、こども家庭庁の設置と相まって、従来、諸法律に基づいて、国の関係省庁、地方自治体において進められてきた、こどもに関する様々な取組を講ずるに当たっての共通の基盤となるものとして、こども施策の基本理念や基本となる事項を明らかにすることにより、こども施策を社会全体で総合的かつ強力に実施していくための包括的な基本法として、制定された。


第2 定義(第2条関係)
1 こども
 本法における「こども」は、心身の発達の過程にある者をいい、一定の年齢で上限を画しているものではない。
2 こども施策
 本法における「こども施策」は、(1)こどもに関する施策と(2)一体的に講ずべき施策からなる。
(1)こどもに関する施策とは、こどもの健やかな成長や、結婚・妊娠・出産・子育てに対する支援を主たる目的とする施策を指すものと解され、その具体的な例が、第2項各号に列記されている。
(2)一体的に講ずべき施策とは、
例えば、
・主たる目的はこどもの健やかな成長に対する支援等ではないが、こどもや子育て家庭に関係する施策(例:国民全体の教育の振興、仕事と子育ての両立等の雇用環境の整備、小児医療を含む医療の確保・提供)
・「こどもに関する施策」と連続性を持って行われるべき若者に係る施策(例:若者の社会参画支援、就労支援、社会生活を営む上で困難を抱える若者支援)
といった施策が含まれると解される。

 このように、(1)こどもに関する施策と(2)一体的に講ずべき施策からなる「こども施策」には、こどもの健やかな成長に対する支援等を主たる目的とする施策に加え、教育施策、雇用施策、医療施策など幅広い施策が含まれる。
 なお、国民全体の教育の振興については、日本国憲法の精神に則り、教育基本法を頂点とする教育法体系の下で行われるものである。こども基本法の目的・基本理念は、教育基本法第1条に定める「心身ともに健康な国民の育成」という「教育の目的」と通ずるものである。
 なお、教育に係る個別作用法の運用に当たっては、これまでも日本国憲法、児童の権利に関する条約の趣旨が考慮されてきたところ、こども基本法の制定を機に、これらと合わせて基本法の趣旨が考慮されるべき旨を徹底していくことが求められる。第3


第3 基本理念(第3条関係)
 こども施策を行うに当たっての基本理念を規定している。
 第1号は、日本国憲法第11条の基本的人権の保障、同第13条の個人の尊重、同第14条の法の下の平等、さらには、児童の権利に関する条約第2条の差別の禁止の趣旨を踏まえて、規定されている。
 第2号は、児童の権利に関する条約第6条の「生命に対する権利」の趣旨を踏まえて、こどもの成長を支えることを定めている。
 第3号は、児童の権利に関する条約第12条の「児童の意見の表明の権利の確保」の趣旨を踏まえ、こども自身に直接関係する全ての事項に関して、年齢や発達の程度に応じて、こどもの意見を表明する機会と多様な社会的活動に参画する機会が確保されることを規定した。「自己に直接関係する全ての事項」とは、児童の権利に関する条約第12条と同様、どのような学校を選ぶか、どのような職業に就くかなど、個々のこどもに直接影響を及ぼす事項と解される。また、「多様な社会的活動に参画する機会」には、ボランティアなどの活動のほか、本法第11条で規定されているこども施策の策定等に当たってのこどもの意見反映の機会などが想定されている。
 第4号は、こども自身に直接関係する事項以外の事項であっても、こどもの意見が、その年齢及び発達の程度に応じて尊重され、その最善の利益が優先して考慮されることを規定したものである。国では、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(令和3年12月21日閣議決定)において、こどもの最善の利益を実現する観点から、こどもの意見が年齢や発達段階に応じて積極的かつ適切にこども政策に反映されるように取り組むことを、政府全体の方針としており、この「基本方針」でいう「こども政策」には、こども自身に直接関係する事項以外の事項が当然に含まれている。「児童の最善の利益」の考慮とは、「こどもにとって最も善いことは何か」を考慮することであり、「こどもの意見がその年齢及び発達の程度に応じて尊重すべきものと認められる場合であっても、別の考慮要素と比較衡量して合理的に判断した結果、こどもにとって最善とは言い難いと認められる場合には、こどもの意見とは異なる結論が導かれることはあり得る。
 第5号は、児童の権利に関する条約の前文及び第18条の趣旨を踏まえ、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識の下、子育てに対して社会全体として十分な支援を行うことを定めたものである。また、家庭での養育が困難なこどもに対して、その健やかな成長のために同様の養育環境を確保することを定めたものである。
 第6号は、子育てをする者、しようとする者が、家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できるよう、社会環境を整備することを示したものである。


第4 責務等(第4〜7条関係)
 国・地方公共団体に対し、基本理念にのっとり、こども施策を策定・実施する責務をし
ている。事業主に対しては、仕事と家庭の両立等の雇用環境の整備に係る努力義務を課している。また、国民に対して、こども施策について関心と理解を深めるよう努力義務を課している。


第5 年次報告(第8条関係)
 こどもをめぐる状況及び政府が講じたこども施策の実施の状況に関する報告(こども白書)を、毎年、国会に提出することを規定している(いわゆる法定白書)。
 こども白書は、従来の「少子化社会対策白書」、「子供・若者白書」、「子どもの貧困の状況及び子どもの貧困対策の実施の状況」(本基本法により改正され法定白書化)の内容が盛り込まれ、1つの白書として、国会に提出されることとなる。


第6 こども大綱(第9条関係)
 こども大綱は、こども施策を総合的に推進するために、こども施策に関する基本的な方針、重要事項を定めるものであり、これまで別々に作られてきた「少子化社会対策大綱」・「子供・若者育成支援推進大綱」・「子供の貧困対策に関する大綱」が束ねられ、こども大綱に一元化されることとなる。
 こども大綱により、従来の3つの大綱が1つになることから、政府全体として、統一性のある大綱の下で、これまで以上に総合的かつ一体的にこども施策を進めていく。


第7 都道府県こども計画、市町村こども計画(第10条関係)
 都道府県は、国の大綱を勘案して、都道府県こども計画を作成するよう、また、市町村は、国の大綱と都道府県こども計画を勘案して、市町村こども計画を作成するよう、それぞれ、努力義務が課せられている。
 都道府県こども計画・市町村こども計画は、既存の各法令に基づく以下の都道府県計画・市町村計画と一体のものとして作成することができる。

・子ども・若者育成支援推進法第9条に規定する、都道府県子ども・若者計画・市町村子ども・若者計画
・子どもの貧困対策の推進に関する法律第9条に規定する、都道府県計画・市町村計画
・その他の法令の規定により地方公共団体が作成する計画であってこども施策に関する
事項を定めるものの例
・次世代育成支援対策推進法に基づく都道府県行動計画・市町村行動計画
・子ども・子育て支援法に基づく子ども・子育て支援事業計画

 地方公共団体が、本条の規定を活用し、こども施策に関する事項を定める計画を一体として策定した場合には、区域内のこども施策に全体として統一的に横串を刺すこと、住民にとって一層わかりやすいものとすること、事務負担の軽減を図ることなどが期待される。


第8 こどもの意見の反映(第11条関係)
 国・地方公共団体において、こども施策を策定・実施・評価するに当たり、施策の対象となるこどもや子育て当事者等の意見を幅広く聴取して反映させるために必要な措置を講ずることを定めている。
 ここでいう「国」とは、行政府だけではなく、立法府や司法府も含まれるものと解される。また、ここでいう「地方公共団体」とは、地方自治法に基づく普通地方公共団体及び特別地方公共団体を指し、議会や執行機関のほか、法律の定めるところにより置かれる委員会(例:教育委員会)や、法律又は条例の定めるところにより置かれる附属機関が含まれるものと解される。
 児童の権利に関する条約第12条では、個々のこどもに直接影響を及ぼす司法上・行政上の決定・措置に関する手続において当該こどもに対して意見を聴取する機会が与えられることが定められている。この趣旨を踏まえ、本法第3条第3号が規定されている。
 一方、本法第11条は、「こどもに関する施策」と「一体的に講ずべき施策」からなる「こども施策」、つまり、こどもの成長に対する支援等を主たる目的とする施策に加え、教育施策、雇用施策、医療施策など幅広い施策に対し、施策の対象となるこどもや子育て当事者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずることを求めている。
 こどもの意見を反映させるために必要な措置については、当該施策の目的等によって様々であると考えられるが、例えば、以下のような手法が想定される。

・こどもや若者を対象としたパブリックコメントの実施。
・審議会・懇談会等の委員等へのこどもや若者の参画の促進。
・こどもや若者にとって身近なSNSを活用した意見聴取などこどもや若者から直接意見を聴く仕組みや場づくり。

 こどもから意見を聴くための様々な手法を組み合わせ、脆弱な立場に置かれたこどもをはじめ様々な状況にあるこどもや低年齢のこどもを含めて、多様なこどもの声を聴くように努めることが重要である。具体的にどのような措置を講ずるのか、どのような頻度で意見を聴くのか、また、こどもの意見をどの程度反映すべきなのかなどについては、個々の施策の目的等に応じて、様々であると考えられる。
 また、当該施策が、(1)こどもの成長に対する支援等を主たる目的とする「こどもに関する施策」であるのか、(2)主たる目的はこどもの成長に対する支援等ではないがこどもや子育て家庭に関係する施策等である「一体的に講ずべき施策」であるのか、一律に判断することは難しいが、(1)「こどもに関する施策」は、(2)「一体的に講ずべき施策」と比較すると、相応のプロセスが求められるものと考えられる。
 こども施策を決定する主体(各省各庁の長、地方公共団体の長等)が、当該施策の目的等を踏まえ、こどもの年齢や発達の段階、実現可能性などもしっかり考慮しつつ、こどもの最善の利益を実現する観点から、施策への反映について判断することとなる。
 こどもの最善の利益を実現する観点から、当該施策の主たる目的等の考慮要素と比較衡量して合理的に判断した結果、こどもの意見とは異なる結論が導かれることはあり得る。
 こどもからの意見聴取に当たっては、こどもが意見を言いやすい環境づくりや、こどもの意見を聴く職員の姿勢、さらに、こどもと近い目線でこどもを支え、こどもの声を引き出す、ファシリテーターやサポーターのような役割も重要である。
 また、聴取した意見が施策に反映されたかどうかについて、こどもにフィードバックすることや広く社会に発信していくことが望まれる。
 こども家庭庁において、今後、国や地方公共団体の取組を促進していく。


第9 総合的かつ一体的な提供のための体制整備(第12条関係)
 こども施策において長年の課題とされてきた、年齢の壁、こどもが必要とする施策ごとの制度の壁、施策を講ずる関係省庁の縦割りの壁、これら3つの壁を打破し、統合的、一体的に支援を提供していくために規定された。


第10 関係者相互の有機的な連携の確保等(第13条・第14条関係)
 こども施策の適正かつ円滑な実施において、関係機関や民間団体等の連携を確保することが重要であり、第13条においては、国・地方公共団体に対し、関係機関・団体等の有機的な連携の確保に係る努力義務が、第14条においては、有機的な連携の確保に資するための情報通信技術の活用について、それぞれ定められている。
 地方公共団体における連携の確保のための手段として、協議会を組織することができることとされている。協議会の構成員としては、当該地方公共団体で医療、保健、福祉、教育、療育等に関する業務を行う行政機関、地域においてこどもに関する支援を行う民間団体等が想定されている。
 本法における「協議会」とは、例えば、個別法に基づき置かれる以下のような協議会等(※)を含むものとして、包括的に規定されており、これらとは別の新たな協議会の設置を求めているものではないと解される。
・地方青少年問題協議会法に基づき、重要事項の調査審議や関係行政機関相互の連絡調整を図る、都道府県青少年問題協議会・市町村青少年問題協議会。
・子ども・子育て支援法に基づき、施策の総合的かつ計画的な推進に関し必要な事項等の調査審議等を行う合議制の機関(地方版子ども・子育て会議)。
・子ども・若者育成支援推進法に基づき、関係機関等が行う支援を適切に組み合わせることによりその効果的かつ円滑な実施を図るため、関係機関等により構成される子ども・若者支援地域協議会。
・児童福祉法に基づき、要保護児童の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るため、関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者により構成される要保護児童対策地域協議会。
    ※上記と類似する機能を持つ条例等に基づく合議制の機関を含む。


第11 本法及び児童の権利に関する条約の趣旨及び内容についての周知(第15条関係)
 こども基本法と児童の権利に関する条約の内容や考え方を、こどもをはじめ、広く国民に周知するために規定された。今後、こども家庭庁を中心に、関係省庁が連携して、あらゆる機会を通じて、当事者であるこども、保護者や教職員などのこどもと関わる大人のほか、広く社会に対して、こども基本法や児童の権利に関する条約の趣旨・内容を周知していく。


第12 こども施策の充実及び財政上の措置等(第16条関係)
 政府に対し、こども大綱の定めるところにより、こども施策の一層の充実を図るとともに、それに必要な予算の確保を図るための財政上の措置等を講ずる努力義務を課したものであり、閣議決定するこども大綱に基づき、一定の期間の中で、目標の達成に向け、財政的な見通しも持ちながら、施策を充実させていくことが求められている。


第13 こども政策推進会議(第17条〜第20条関係)
 従来の少子化社会対策会議、子ども・若者育成支援推進本部、子どもの貧困対策会議等を統合する形で、こども家庭庁に、内閣総理大臣を長とする閣僚会議である「こども政策推進会議」が置かれることとなった。こども政策推進会議は、こども大綱の案を作成し、こども施策の実施を推進する政府全体の司令塔の役割を果たしていく。また、こども大綱の案の作成に当たり、こども、子育て当事者、学識経験者、地域においてこどもに関する支援を行う民間団体等の幅広い関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずることが規定されている。


以上


(別紙)
こども基本法の概要(地方公共団体関係部分)(略)
こども基本法に 関するQ&A【第 1版(令和5 年 4 月版)】(略)





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