● 保護者の転勤に伴う高等学校生徒の転入学の許可等の取り扱いについて 昭和59年3月1日 国初第8号


国初第八号 昭和五九年三月一日
各都道府県教育委員会・各都道府県知事あて
文部省初等中等教育局長通知


保護者の転勤に伴う高等学校生徒の転入学の許可等の取り扱いについて


 保護者の転勤に伴う高等学校生徒の転入学の許可等については、各地域の実情に応じて対応頂いていると思いますが、特に最近、公立高等学校への転入学等に諸々の困難な問題があり、必ずしも円滑な転学が行えず、教育の機会均等及び生徒の健全育成等の見地からも問題がある等の指摘がなされております。
 このことについては、特に関係の深い都道府県教育委員会に対しては、従来から、善処をお願いしてきたところでありますが、なお改善の余地があると考えられ、また、これは全国的な問題でもあると考えられます。
 ついては、保護者の転勤に伴う高等学校生徒の転入学の許可等に関しては、左記事項に御配慮の上、可能な限り弾力的な取り扱いをされるようお願いします。
 なお、このことに関し、去る二月六日付けで行政管理庁事務次官から文部省事務次官宛に、別添の通り改善意見の通知がありましたので申し添えます。

                    記

一 転入学試験の実施回数について

(一) 保護者の転勤が年間を通じてみられることから、転入学試験の実施回数を可能な限り多くすることが望ましいこと。
 年三回程度は実施することを原則とすること。
(二) 四月当初に転勤する者が多く、その転勤の内示時期との関係で転居予定地の高等学校の入学者選抜試験を受験出来ない例も多いことに照らし、可能な限り四月当初にも転入学試験を実施することが望ましいこと。

二 転入学者のための定員枠について

 転入学の許可は、欠員がある場合に行うことができるとされているが、転入学希望者の側に保護者の転勤というやむをえない事情がある場合には、その転入学希望に可能な限り応じられるよう、例えば、これらの者に係る転入学許可の特別定員枠を設定するなど、適切な配慮を行うことが望ましいこと。

三 転勤者の子弟に係わる公立高等学校入学者選抜受験手続きについて

 転居予定地において公立高等学校入学者選抜試験を受験しようとする者があるときは、その者に係わる受験手続きについては保護者の転勤というやむをえない事情があることに照らし、可能な限り弾力的に取り扱うことが望ましく、例えば、提出書類は必要最小限とし、願書提出期限は少なくとも一般の受験者に係わる出願変更期限(出願変更を認めない県にあつては、願書提出期限)とすることが望ましいこと。

四 転入学試験に係わる情報の提供について
 都道府県立及び市町村立の高等学校については都道府県教育委員会が、私立高等学校については都道府県が、それぞれ、これらの学校における転入学試験に関する基本的な次項(募集時期、募集定員、試験時期、試験科目、必要書類等)についての情報を十分に把握し、転入学希望者等からの照会に対し的確に対応できるようにするとともに、適宜、マスコミ等に情報を提供する等により関係者に対する広報に努めること。
 なお、公・私立高等学校の転入学試験の実施予定等に関する情報は、可能な限り一箇所(例えば、都道府県や同教育委員会の広報担当課等)に集中するなど、転学希望者等の照会に応じ得る体制を整備することが望ましいこと。



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別添

転居者の子弟に対する高等学校の受入措置に関する地方監察結果に基づく改善意見
(昭和五九年二月)(行政管理庁)

目次
前書き
一 転学予定高校生に対する受入措置の改善
(一) 公立高等学校における転学希望者の受入れ
(二) 転学に関する情報の収集及び提供
二 転居予定中学生に対する公立高等学校入学試験受験機会の確保



前書き

 近年、社会経済活動の広域化等に伴い、全国的規模で転勤する者が増加しているが、高校生及び高等学校(以下「高校」という。)入学試験の受験時期にある中学生を有する者にとつては、家庭内の諸事情のほか、転学、高校入試受験等教育上の問題などもあつて、これら子弟を残して転居する者が少なくないと言われており、世帯分離による経済的負担の増大等の問題のほか、子弟の教育機会の充実が社会的にも大きな問題となつている。
 本監察(調査)は、転入学希望者の受入措置等の改善に資することを目的として、当庁の七管区行政監察局及び三地方行政監察局計一〇局が、高校における転入学希望者の受入措置等の実態について、一〇都道府県及び同教育委員会等を調査するとともに、当該地域内の事業所等の協力を得て実施した「転勤に伴う転居者の子弟の高等学校転入学等に関するアンケート調査」(以下「アンケート調査」という。)によつて、転勤者及びその子弟の実態等を把握したものである。
 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三一年法律第一六二号)等の規定によつて、文部大臣は、都道府県等に対し教育に関する指導・助言を行うものとされている。
 また、学校教育法(昭和二二年法律第二六号)の規定によつて、文部大臣は、高校における転学・入学等に関し必要な事項を定めるものとされ、同法施行規則(昭和二二年文部省令第一一号)によつて、転学の許可は校長が行うものとされてきたところであるが、本監察(調査)の結果、高校進学率の著しい上昇と全国的規模の人口移動が多くみられる現況を踏まえ、全国的な視点に立つて改善措置を検討することが望ましいとみられる事項が、次のとおり認められる。

一 転学予定高校生に対する受入措置の改善

(一) 公立高等学校における転学希望者の受入れ
 高校の入学・転学の許可は、学校教育法施行規則第六一条の規定によつて校長が行うものとされており、また、教育委員会は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第二三条の規定によつて、転学に関すること等を管理し執行するものとされている。
 今回、一〇都道府県(以下「県」という。)が設置している六〇高校を抽出して、転学試験の実施状況及びこれに対する都道府県教育委員会(以下「県教委」という。)の指導状況を調査した結果は、次のとおりである。

ア 転学希望者の受入時期
 今回、実施したアンケート調査の結果によると、転勤は二月から四月にかけて及び七月に多く行われているが、これ以外の月の場合も各月ほぼ均等に行われている。しかし、調査実施県の中には、教育効果の確保が困難であること等を理由に、抽出高校のすべてが特定の学期については転学希望者を受け入れないこととしているものが、次のとおりみられる。
 @ 第一及び第二学年の第三学期には受け入れないこととしているものが、調査対象一〇県のうち、五県みられる。
 A 第三学年の第二学期には受け入れないこととしているものが、五県みられる。
 B 第一学年の第一学期期首には受け入れないこととしているものが、六県みられる。

イ 都道府県教育委員会の高校に対する指導
 公立高校に対する県教委の指導状況をみると、調査対象とした県教委のうち、転学試験の実施対象学年及び学期等について具体的な指導を行つているものは五県教委で、このうち二県教委では、特定の学年又は学期における実施に限定して指導しており、他の五県教委では特段の指導を行つていない。
 また、転学試験の出願期限に関して指導している県教委の指導内容は、希望者にできるだけ受験機会を与えることを基本としているが、高校の中にはこの趣旨が十分徹底しておらず、試験日の二週間前に出願期限を設定しているものもみられる。
 一方、当庁が実施したアンケート調査の結果をみても、転勤に伴い転学した高校生一五九人のうち、転学に際し困つたことがあつたとする者が一二一人(七六・一パーセント)みられ、その四七・一パーセント(五七人)が「転勤時と転学試験の実施時期とにずれがあつた。」ことを挙げており、転学しなかつた高校生四五八人についてみてもその一二・七パーセント(五八人)が前記事項を理由に挙げている。
 なお、第一学年第一学期期首に転学希望者を受け入れることについては、受入側にとつて他の学期以上に制約があるものとみられるが、他方、転学を必要とする者にとつては、高校生活の第一歩であるだけに、特に切実な問題と考えられる。
 したがつて、文部省は、県教委に対し、公立高校における転学ができ得る限り円滑、適切に実施されるようにするため、転学試験の実施時期等転学希望者の受入れに関する基本的な事項について指導する必要がある。

(二) 転学に関する情報の収集及び提供
 各高校における学年・学期別の転学希望者受入れの有無、募集人員、出願期限、試験日、試験科目等については、高校生の子弟を持つ転勤者にとつて、その同伴の可否や転学先を選択する上で必要不可欠なものであり、これらの情報は、転勤の内示から赴任までの限られた期間内に、的確に入手する必要がある。
 しかし、調査対象一〇県教委における公立高校のこれらの事項の把握状況をみると、前記各事項すべてについて把握しているものは半数の五県教委となつており、このうち、二県教委では積極的に周知策をも講じているが、他の五県教委では、一部事項しか把握しておらず、転学希望者の照会に対し十分に役立つものとはなつていない。
 また、私立高校に係るこれらの事項の把握状況をみると、調査対象一〇県の知事部局のうち、把握しているものは四県となつているが、うち、三県では部分的な把握にとどまつており、他の六県では、これらの事項を全く把握していない。
 一方、当庁が実施したアンケート調査の結果をみても、転勤に伴つて転学した高校生のうち、転学に際して困つたことがあつたとする者一二一人の五五・四パーセント(六七人)が「転居の際、情報が十分得られず不安があつた。」と回答している。
 したがつて、文部省は、県教委及び県に対し、各高校における転学希望者の受入れに関する基本的事項を迅速に把握し、転学希望者の照会に対し的確に対応するよう指導する必要がある。

二 転居予定中学生に対する公立高等学校入学試験受験機会の確保

 調査対象県教委が、昭和五八年度の公立高校入試の実施に当たつて他県から転居する中学生に対して講じた措置をみると、転居という特別な事情を考慮し、出願期限について弾力的措置を講じているものは二県となつており、その他の八県における状況は次のとおりである。
 @ 転居予定中学生について、出願資格を審査する制度を設け、その申請期限を出願期限より前に設定しているものが六県みられる。これらの中には、やむを得ない事情があると認められる場合は、期限経過後であつても申請を受理している県もあるが、資格審査申請期限は、最も早いものは一月八日、遅いものでも二月一〇日となつていることから、試験日の二四日ないし五二日も前に申請手続きをとることが必要となつている。このため、これらの県に転居する者の子弟は、早い県の場合は一二月中に、遅い県の場合であつても一月中に転居が内定しない限り、転居予定地における公立高校の入試の受験機会は得られないものとなつている。
 A 入試出願期限より前に資格審査申請期限を設けていない二県では、出願者が多いなどの事情はあるものの、試験日の二〜三週間前に出願期限を設定している。このため、出願期限を弾力的に取り扱つている県に比べ、転居予定者に対する出願機会の制約は、より大きいものとなつている。
 一方、当庁が実施したアンケート調査の結果をみても、転勤時に中学生であつた別居子弟八八人のうち、一四・八パーセント(一三人)が転居先の公立高校の入試を受験できなかつたことを別居の理由としている。
 したがつて、文部省は、県教委に対し、入試時期に転居する者が、できるだけ転居予定地において公立高校を受験できるようにするため、転居という特別な事情を十分配慮して出願資格審査申請期限等の設定に当たるよう指導する必要がある。






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