● 授業料免除の取扱いに係る会計検査院の意見表示について 昭和60年12月21日 60高学第25号



60高学第二五号 昭和六〇年一二月二一日
各国立大学学生部長・各国立高等専門学校事務部長あて
文部省高等教育局学生課長通知


    授業料免除の取扱いに係る会計検査院の意見表示について


 国立学校における授業料免除制度は、経済的な理由によって授業料の納付が困難で、かつ、学業優秀と認められる者、その他やむを得ない事情があると認められる者にその納付を免除することにより、修学継続を容易にするもので、学生に対する奨学援護の一環として重要な役割を果たしているものであります。
 授業料免除の取扱いについては、国立学校設置法、同法施行令及び「国立学校の授業料免除及び徴収猶予取扱要領」(昭和三五年九月二六日文部大臣裁定)に基づき、各学校において実施されているところでありますが、このたび授業料免除の選考基準の在り方について会計検査院から別紙のとおり意見表示がなされましたので、お知らせします。
 ついては、文部省において会計検査院の指摘の趣旨を踏まえ授業料免除の在り方について検討を行うこととしておりますが、各国立学校においても、この制度の一層適切な運用を図るよう特段の御配慮を願います。


別紙

六〇検第四七一号
昭和六〇年一二月九日

文部大臣 殿
会計検査院長

国立大学における授業料免除の取扱いについて

 国立学校では、国立学校設置法(昭和二四年法律第一五〇号。以下「法」という。)等に基づき、経済的理由によって授業料の納付が困難であり、かつ、学業優秀と認められるときなどの場合は授業料の全部又は一部を免除することができることとされていて、その額は昭和五九年度で一〇、六八七、〇六八千円(授業料の徴収決定済額九五、八七〇、五二〇千円の一一・一%)に上っている。
 しかして、北海道大学ほか五二大学における五九年度の授業料免除総額六、三九四、四〇四千円のうち、学部学生及び大学院生に係る六、二五五、四六八千円についてその実施状況を調査したところ、法において免除の要件として定めている経済的困窮度及び学業優秀の判定の取扱いについて、次のような事態が見受けられた。

一 経済的困窮度の判定について

 前記の五三大学における経済的困窮度の判定方法をみると、いずれも授業料免除と同様の目的で奨学金の貸与事業を行つている
 日本育英会の推薦基準で定めている修学困難の判定方法(以下「育英会家計基準」という。)に準じて次の算式により計算した認定総所得金額と収入基準額との対比によつている。

・学生の属する世帯の年間収入金額?必要経費(給与所得者にあつては、所定の控除額)=総所得金額
・総所得金額?特別控除額=認定総所得金額

 しかしながら、その判定の実態をみると、次のような取扱いとなつている。

(一) 収入基準額の取扱いについて

 収入基準額の設定等についてみると、日本育英会が奨学生のうち第一種奨学生(特に優れた学生等であつて経済的理由により著しく修学が困難であると認定され、無利子の奨学金を貸与される者)に適用している収入基準額(以下「第一種収入基準額」という。)を収入基準額としているものが二八大学あり、また、その他の二五大学においては、うち六大学では第二種奨学生(有利子の奨学金を貸与される者)に適用している収入基準額(第一種収入基準額より高い水準で定められている。)を収入基準額としており、一九大学では第一種収入基準額を収入基準額としているものの、認定総所得金額がこれを超えている者についても特段の理由もなく免除の対象としている状況である。

(二) 総所得金額等の算定について

 総所得金額の算定についてみると、次のような事態がみられる。

ア 奨学金及び免除される授業料の取扱いについて

 総所得金額の算定に当たつては、日本育英会等の奨学金を貸与されている場合には、これを総所得金額に加算し、免除を受けた場合に学生本人の必要経費とはならないこととなる授業料相当額は特別控除の対象にしないこととするのが合理的であると認められ、そのような取扱いをしているものが三三大学あるが、その他の二〇大学では次のようにこれと異なる取扱いをしている。

(ア) 奨学金を総所得金額に加算せず、また、本人の授業料を総所得金額から減額しているもの 四大学

(イ) 奨学金を総所得金額に加算してはいるものの、本人の授業料や総所得金額から減額しているもの 一〇大学

(ウ) 本人の授業料は総所得金額から減額していないが、奨学金を総所得金額に加算していないもの 六大学

イ 所得の調整について

 総所得金額の算定に当たつて、給与所得者以外の者について申請者の申出額をそのまま総所得金額としているものが二七大学あるが、他の二六大学では、給与所得者と給与所有者以外の者との間に所得の補そくに不公平が存在するとして、

(ア) 給与所得者以外の者について、総所得金額に独自の調整率(一・二〜二・〇)を乗じて得た額を総所得金額とみなしているものが二五大学

(イ) 給与所得者について所定の総所得金額の計算をした後、更に調整率(〇・八)を乗じて得た額を総所得金額とみなしているものが一大学

ある。

 このように、所得金額の計算を各大学において任意の方針によつて行つていて、合理的と認められない取扱いとなつているものが多数あり、また、この結果、経済的困窮度が同等の者であつても在学する大学によつて免除の対象となつたり、免除の対象から除外されたりしている状況である。
 ちなみに、@日本育英会における第一種収入基準額は、国公私立大学の全学生の世帯の所得額を基にして、その平均以下の所得水準の者を対象とすることとして設定しているが、本件授業料の免除については、これにならい国立大学に在学する学生の世帯の所得額を基にして収入基準額を試みに設定し、A認定総所得金額については、奨学金を総所得金額に算入し、授業料相当額を特別控除の対象としないこととし、@Aにより本件五三大学の五九年度の免除対象者について収入基準額と認定総所得金額とを対比して、免除の対象を試算してみると、認定総所得金額が収入基準額を超えているものが延べ九、一〇〇人、五四八、〇四三千円ある計算となる。

二 学業優秀の判定について

 学業優秀の判定についてみると、日本育英会においては、推薦基準に定めている学力に関する基準(以下「育英会学力基準」という。)で、第一種奨学生については、一年次に在学する者にあつては高等学校における学習成績(以下「高校成績」という。)が三・五以上の者、二年次以上に在学する者にあつてはその成績が本人の属する学部(科)において上位三分の一以内(修得単位数が各年次における標準修得単位数を満たしており、かつ、学業成績をおよそ上・中・下の三段階に分けて上の成績を修めている者を標準)の者とすること、留年中の者は貸付けを停止又は廃止することとしているが、調査した五三大学における学業優秀の判定基準についてみると、次のようになつている。

(一) 一年次に在学する者の場合

 一年次に在学する者のいない一大学を除く五二大学のうち、育英会学力基準と同様の基準を設定しているものが二大学あるが、その他の五〇大学においては、その基準において、高校成績が三・五未満であつても学業優秀として取り扱つていたり(二五大学)、入学を許可された者や履修中の者を学業優秀として取り扱つたり(一一大学)などしている。

(二) 二年次以上に在学する者の場合

 二年次以上に在学する者のいない二大学を除く五一大学では、育英会学力基準と同様の基準を設定しているものは皆無であり、なかには、その基準において、標準修得単位数を満たしていれば学業優秀として取り扱つたり、標準修得単位数を満たしていない者も学業優秀として取り扱つたりしているものなど、学業成績の程度を考慮していないと認められるものが相当数見受けられる状況である。

(三) 留年している者の取扱い

 留年している者については、日本育英会では推薦の対象から除外することとしているが、一八大学では、特別の理由もなく留年している者も免除の対象としていて、学業優秀として取り扱つた結果となつている。
 このように、各大学において設定している学業優秀の判定基準は、学業成績について考慮することとなつていないものが多々あるほか、考慮している場合でもその大部分が育英会学力基準を下回つており、また、実際の取扱いをみると、更にこれらの適切とは認められない基準を下回つて運用しているものもみられる状況である。ちなみに、前記五三大学において五九年度に特別の理由がなく留年している者について免除しているものをみると延べ一、五八一人、一二〇、五九八千円となつている。
 各大学における授業料免除の取扱いの実態は前記一、二のとおりであるが、各国立大学ごとの授業料免除の総額については、二五年度以降五〇年度までは当該大学における在学生に係る授業料収入予定額の五%に相当する額の範囲内とされていたものが、五一年度以降はこれが一〇%に、更に、五七年度以降は一二・五%に相当する額の範囲内とされている。そして、大学が独自に免除することができる範囲については、貴省が毎年度当初に各大学に通知する額(五九年度においては、大学の学部及び大学院の学生の場合、五七年度以降に入学した者にあつては授業料収入予定額の一〇%相当額、五六年度以前に入学した者にあつては同八%相当額。以下「免除枠」という。)とされていて、この免除枠を超えて免除を行う必要が生じたときは各大学が貴省の承認を得て免除すること(以下「超過免除」という。)ができることとされている。
 そして、前記の免除枠は、各大学において授業料の免除ができる上限値を示したものであると認められるのに、前記一、二のような合理的とは認められない基準を用いている結果、ごく一部の大学を除き、この免除枠の限度まで消化しているばかりでなく、その基準を用いて超過免除をしているものもみられる(一六大学)状況である。
 以上の、各大学における授業料免除の取扱いの実態にみられるように、本来、統一的かつ合理的な基準によつて実施すべき国の授業料債権の免除が、各大学における任意の基準によつて行われ、その結果、日本育英会が第一種奨学生に対して奨学金を貸与する場合の経済的困窮度及び学業優秀の判定基準より緩やかな基準で免除している者が多数見受けられるが、日本育英会の奨学金が、将来の返還を条件として貸し付けられるものであるのに対し、本件授業料免除は、国が徴収する債権を免除するものであることからみても、このような取扱いは適切とは認められない。
 このような事態を生じているのは、法において免除の要件として定めている経済的困窮度及び学業優秀の判定基準について、貴省では、超過免除に係る経済的困窮度の判定について高等教育局長通知において育英会家計基準に準じた基準を設けて各国立学校長に示しているだけで、学業優秀の判定及び免除枠の範囲内の免除に係る経済的困窮度の判定について、統一的かつ合理的な基準を示さないまま、各大学に免除枠だけを一律に示していること、各大学ではこのようなことから、独自の基準を設定するなどして免除枠の限度まで免除を実施していることによると認められる。
 したがつて、前記のような実情にかんがみ、貴省において、速やかに合理的な基準を設定して、各大学に示すとともに、各大学に対して指導を十分に行つて、適切な授業料免除の実施を期する要があると認められる。
 よつて、会計検査院法第三六条の規定により、前記の意見を表示する。

(注) 北海道大学ほか五二大学 北海道、北海道教育、室蘭工業、帯広畜産、旭川医科、北見工業、東北、秋田、福島、千葉、東京、東京医科歯科、東京学芸、東京農工、東京工業、東京水産、お茶の水女子、電気通信、一橋、新潟、上越教育、富山、富山医科薬科、金沢、福井医科、山梨、山梨医科、岐阜、名古屋、愛知教育、豊橋技術科学、滋賀、滋賀医科、京都、大阪、兵庫教育、神戸、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、鳴門教育、香川医科、高知、高知医科、九州、佐賀、熊本、大分、宮崎医科、鹿屋体育、琉球各大学




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