● 児童生徒の規範意識の醸成に向けた生徒指導の充実について 平成18年6月5日 18初児生第12号



18初児生12 平成18年6月5日
各都道府県教育委員会担当課長、
各指定都市教育委員会担当課長、
各都道府県私立学校主管課長、
附属学校を置く各国立大学法人学長あて
文部科学省初等中等教育局児童生徒課長通知


    児童生徒の規範意識の醸成に向けた生徒指導の充実について(通知)


 児童生徒の問題行動等の現状をみると、暴力行為、いじめ、不登校等が相当の規模で推移するとともに、社会の耳目を集めるような重大な問題行動もあとを絶たないところです。
 このような状況の中で、国立教育政策研究所生徒指導研究センターにおいては、文部科学省の「新・児童生徒の問題行動対策重点プログラム( 中間まとめ) 」( 平成17年9月)を受け、「生徒指導体制の在り方についての調査研究」(別紙1)を行い、今般、別添のとおり、「生徒指導体制の在り方についての調査研究報告書( 規範意識の醸成を目指して)」
(以下、「本報告書」という。)をとりまとめたところです。
 ついては、貴職におかれては、本報告書の内容(別紙2)及び下記の点を踏まえ、所管の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対し、生徒指導の一層の充実を図るようお願いします。

                   記

1.本報告書の趣旨について:
 本報告書は、従来からの生徒指導の理念に立った上で、児童生徒の規範意識の醸成に重点を置きつつ、学校及び教育委員会における生徒指導の取組みの在り方に検討を加え、その改善・充実のための方策等を提示したものであり、各学校及び教育委員会等においては、本報告書の成果を活かしつつ、それぞれの実情を踏まえ、生徒指導上の取組みの一層の充実を図るよう努めること。

2.各学校における生徒指導の充実について
 各学校における生徒指導については、それぞれの実態に応じ、本報告書の内容を踏まえつつ、次の点に留意して、その一層の充実を図ること。

(1)生徒指導上の対応に係る学校内のきまり及びこれに対する指導の基準をあらかじめ明確化しておくこと。
 その際、各学校の実態に応じ、米国で実践されている「ゼロ・トレランス方式」にも取り入れられている「段階的指導」等の方法を参考とするなどして、体系的で一貫した指導方法の確立に努めること。

(2)生徒指導に係る指導基準については、あらかじめ児童生徒又は保護者等に対して明示的に周知徹底することとし、もって、児童生徒の自己指導能力の育成を期するとともに、家庭や地域レベルにおける児童生徒の規律ある態度や規範意識の育成に向けての指導(しつけ)との連携の確保にも配意すること。

(3)学校や社会のきまり・ルールを守ることの意義・重要性について、学級活動・ホームルーム活動や道徳、さらに別途通知する「非行防止教室」等における指導の場を積極的に活用しながら、繰り返し指導を行うことにより、児童生徒の規範に対する認識と理解の向上を図ること。

(4)指導基準の適用及び具体的指導に当たっては、全ての教職員間の共通理解を図った上で、一貫性のある、かつ、粘り強い指導が行われることが重要であること。その際、児童生徒が自ら責任ある行動をとることができる自己指導能力の育成を身に付けることを目標とすること。

(5)学校内の決まり等を守れない児童生徒の問題行動や非行等に対しては、あらかじめ定められている指導基準に基づき、「してはいけない事はしてはいけない」と、毅然とした粘り強い指導を行っていくこと。

(6)問題行動等への対応に当たっては、児童生徒の規範意識の向上を図るための取組みと併せて、個々の児童生徒の状況に応じて、教育相談等を通じて、問題行動等の背景やそれぞれの児童生徒が抱える問題等をきめ細かく把握して対応することが必要であり、このような観点からの教育相談・カウンセリング機能の一層の充実に努めること。

3.教育委員会による生徒指導上の対応の充実について
 各学校における児童生徒の規範意識向上のための取組みが効果的に展開されるためには、各教育委員会において、学校における生徒指導に対する取組みを効果的に指導し、支援することが求められる。各教育委員会においては、本報告書の内容を踏まえ、次の点に留意しながら、各学校における生徒指導の一層の充実を図ること。

(1)積極的な学校訪問の機会等を通じて、学校の生徒指導の状況の的確な把握に努めること。
(2)学校・家庭・関係機関等の連携を促進するため、連絡調整を行うこと。
(3)生徒指導に求められる生徒指導に係る教員研修の一層の充実を図ること。
(4)出席停止や懲戒についての規定の周知・ガイドラインの策定を行うなど、学校における生徒指導の運用面の支援を図ること。


別紙1(略)

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(別紙2)

    「生徒指導体制の在り方について」調査研究報告書(概要)
           −規範意識の醸成を目指して−


T 社会の変化と生徒指導

○本調査研究の目的
 本調査研究は、児童生徒の規範意識の醸成に焦点を当て、そのための学校全体としての意識の共有化、そして生徒指導体制の在り方について調査研究したものである。

1 生徒指導をめぐる状況
 生徒指導をめぐる状況は時代とともに変化しているが、現在、社会環境等の変化とともに、生徒指導上の問題は、極めて多岐にわたるものとなっている。
 ※<「戦後の問題行動等の推移や背景とその対応」参照>

2 生徒指導体制の再構築
(1)規範意識の醸成と生徒指導体制
 規範意識の醸成のためには、学校内のすべての教職員が共通認識のもと、組織的に一貫性をもって対応するよう、校内の生徒指導体制を整備することが重要である。

(2)生徒指導体制の確立に当たって配慮すべき事項
@ 近年の法改正等について
 生徒指導においても、その基盤となるのは社会のルール(法)やマナーであり、その理解に基づく指導が求められる。
A 子どもの発達段階への配慮
 生徒指導に当たっては、児童生徒の発達段階や個々の子どもたちの成長に合わせた指導が大切である。
B 個別の配慮が必要な児童生徒について
 児童生徒の個別の事情や、特別な背景等に対する考慮も必要であり、その場合には、児童生徒又はその家庭に対する特別な配慮が必要である。
C 個々の児童生徒及び教職員の人権に対する配慮
 「自分の大切さとともに他の人の大切さを認める」という人権感覚を育成することを通じて、生徒指導上の諸問題の未然防止に努めることが重要である。

U これからの生徒指導体制の在り方

1 生徒指導体制の見直し
(1)生徒指導体制の充実と強化
 生徒指導体制の充実・強化にあたっては、児童生徒の健全育成と問題行動の予防や解決に向け、学校全体で一致協力して取り組むことが基本である。
 ※<「組織的な生徒指導の実施のための各教職員の役割分担例」参照>

(2)教職員の専門性と協働性の発揮
 しっかりとした生徒指導体制を構築するには、教職員がお互いの役割や業務分担(専門性など)を十分に理解し、助け合い、創意工夫する協働性が大切である。

(3)家庭・地域への生徒指導体制に関する情報提供の重要性
 家庭や地域の協力を得るには、学校が積極的に自校や校区における生徒指導の実態や指導体制に関する不断の情報提供を行うことが重要である。

2 生徒指導の運営方針の見直し
(1)生徒指導の対応に関する基準の明確化と周知
 「毅然とした対応」、「共通理解に基づく対応」を進めるためには、生徒指導の対応に関する基準を明確にし、また、積極的に外部に公開することが必要である。

(2)指導方針に基づく毅然とした粘り強い指導
 成長過程の子どもには、間違っていることは間違っていると指摘し、毅然として粘り強く指導することが大切であり、それが、規範意識の内面化につながる。

(3)規範意識の醸成と自律
 児童生徒の規範意識の醸成については、学校教育だけで展開されるだけでなく、地域社会の青少年の健全育成の観点から問い直すことが必要である。

(4)懲戒処分及び回復措置について
 指導を通じても事態が改善されない場合には、あらかじめ定められた罰則に基づき、懲戒を与えることを通じて、学校の秩序の維持を図るとともに、子ども自身の自己指導力を育成することは、教育上有意義なことである。
 ※<コラム「段階的指導(プログレッシブディシプリン)の事例」参照>

(5)出席停止制度について
 出席停止制度は、日頃の生徒指導の延長として、日頃の指導では統制しきれなくなった場合に行われる生徒指導上の有効な手段の一つであることを、各学校及び教育委員会は改めて認識する必要がある。
 ※<「出席停止制度の運用の在り方について(通知)」参照>

3 教育委員会の役割
(1)学校の生徒指導の状況についての的確な把握
 教育委員会がその役割を十分に発揮するためには、各学校の生徒指導に関する様々な情報を多面的に情報収集・分析し、的確にその課題を把握することが基本であり、学校訪問の明確な位置づけと計画・実施が大切である。

(2)教育委員会におけるコーデイネーター機能の充実
 関係機関等との連携に当たって、学校と関係機関をつなぐコーディネーターとして教育委員会の果たす役割は重要であり、日頃からそうしたネットワークづくりの形成に取り組むことが求められる。

(3)教員研修の見直し
 社会の急激な変化に伴う様々な状況に適切に対応できるよう、生徒指導に関する研修についても不断の見直しを図ることが課題である。

(4)出席停止、懲戒処分の適切な運用
 @ 義務教育における出席停止制度の適切な運用
 「出席停止の措置」を効果的に運用していくためには、「措置までの手順」「措置する場合の支援」「措置後の対応」などに関する教育委員会規則等での提示、保護者・住民等への周知について、具体的な手だてを講じる必要がある。
 A 高等学校における懲戒処分の適切な運用
 高等学校においては、退学・停学等の懲戒処分は、各学校の校長が行うことになっているが、教育委員会とも密接な連携をとり適確な執行ができるよう支援することが必要である。
 ※<「生徒指導に関する取組について(調査結果データ)」参照>

V 各学校段階における生徒指導体制の在り方

1 小学校の生徒指導体制
(1)学級運営と生徒指導の相互支持・促進による生徒指導体制の充実
 学級担任の思い込みや抱え込みに陥ることなく、学級運営と生徒指導が相互に補完し合って学校全体としての生徒指導の充実・強化を図ることが必要である。

(2)児童理解の深化と規範意識の育成
 規範意識の育成のためには、社会的ルールやマナーの意味や大切さを子ども自身が実感していく学校の生徒指導体制を進めていくことが大切である。
 ※<コラム「学校や地域で、規律ある態度や規範意識の醸成に努めている事例」参照>

2 中学校の生徒指導体制
(1)コーディネーター機能を生かした生徒指導体制の充実学校内において課題解決に向けた協働的な取り組みを行うためには、生徒指導主事が協働体制の中核となり、コーディネーターとしての役割を果たすことが重要である。

(2)生徒個々に対するきめ細かな指導と社会的ルールや責任感の習得
@ 生徒個々に対するきめ細かな指導
 個々の教師が個人で判断し対応するのではなく、学校間の連携などにも留意して多面的な視点から情報を収集し、協働的に指導・援助することが大切である。
A 社会的ルールや責任感の習得
 学校生活は、規律や社会的ルールを学ぶ場であるという認識に立ち、学習環境の整備や学校内規律の維持に、家庭教育とも連携をとって取り組むことが大切である。
 ※<コラム「自己責任と少年法の改正のポイント」参照>

3 高等学校の生徒指導体制
(1)教職員の共通理解・共通実践の深化と生徒指導体制の充実
 客観的資料やデータを基に教職員の共通理解を図り、その上で、各学校の教育目標と生徒指導の関連性を明らかにし、全体構想を立て実践することが大切である。

(2)規範意識の向上と懲戒処分の効果的運用
 法的効果を伴う懲戒処分が学校長に認められていることは、高等学校の生徒指導の大きな特質であるが、これまでの生徒指導措置状況について、その方法・内容面や効果面等から評価・点検し、懲戒処分の適切で効果的な運用を検討すべきである。
 ※<コラム「問題行動に対する指導方針の明確化の具体例」参照>

4 生徒指導体制に対する不断の評価と改善
(1)学校評価と生徒指導
 学校が保護者や地域住民の信頼に応えて説明責任を果たしていくためには、学校評価( 自己評価・外部評価)を実施し結果を公表することが必要であり、それが相互の連携協力を深めていくことにつながる。

(2)生徒指導の組織マネジメント
 生徒指導体制の確立に当たっては、校長のリーダーシップ、教職員の意欲、保護者との信頼関係、関係機関等との連携協力など、学校運営における組織マネジメントの視点からの見直しも求められている。








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